少年、彼の地にて斯く暮らしたり   作:長財布

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オタク自衛官

「あの、伊丹さん」

 

「ん?」

 

「伊丹さんはオタクですか?」

 

帆斗は難民達の居る居住区へ向かう途中、第3偵察隊隊長の伊丹耀司2等陸尉に思い切った質問をした。

 

「あ~わかっちゃう?」

 

「えぇ、まぁ雰囲気とかが周りの人と違いましたから」

 

それと友人に似ているというのも理由の一つだった。

 

「オタクでも自衛隊に入れるもんなんですか?」

 

「ていうか、自衛隊ってオタク結構多いよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

てっきり筋肉ムキムキのゴツイ男の人ばかりだと思っていたのだが・・・

 

言われてみると確かにそのような人はあまり少ないように思える。

 

「自衛隊っていうのはあんまり外に出れないでしょ?だから室内で済ませられる趣味の方がいいのさ。部屋のベッドでポスター貼ってる人とかもいたし」

 

「あぁ、なるほど」

 

伊丹の言葉に帆斗は納得した。てっきり彼の父親のような人ばかりだと思っていたのだ。

 

外に出ると先の現地住民が集められていた。

 

「さて、ちゃっちゃとリスト作ってゆっくりしようかねぇ」

 

伊丹はそう言って部下達と一緒に難民の身元確認を始めた。

 

帆斗の仕事は自衛官と現地住民の通訳だった。

 

「リュウ・ローレ・サイード、ワカ村で魔術を研究していた。日本から来たカイトを保護したのも私だ」

 

まずはリュウを紹介する。彼女のことは4偵の坂出隊長が報告していたらしく詳しく話す必要はなかった。

 

「儂の名前はカトー・エル・アルテスタン。こっちは弟子のレレイ・ラ・レレーナじゃ」

 

続いて魔導師の老人と弟子の少女。レレイは少し話しただけで俺が元は日本人であることを見抜いた。言動などから察するにとても頭がいいのだろう。その彼女を教える立場のカトー老師もまた然りだ。

 

「私はコアンの森出身でホドリューの娘、テュカ・ルナ・マルソー」

 

次にTシャツにジーンズ姿のエルフ、彼女は保護した際に意識を失っており、脈拍やバイタルをチェックする際にやむを得ず着ていた衣服を切ったのだという。

 

そして最後に・・・

 

「暗黒の神エムロイに仕えるロゥリィ・マーキュリー」

 

真っ黒なゴスロリ衣装はこっちの世界の神官服、簡単に言えば巫女さんの巫女服、シスターの修道着みたいなものだ。

 

「ロゥリィ・マーキュリー!?」

 

思わず大声を上げてしまった。自衛官が何事かと俺を見た。

 

「彼女がどうしたの?」

 

伊丹が帆斗に尋ねた。

 

「あ、いやぁ、なんでもないです」

 

死神ロゥリィ、名前は聞いたことがある。でもなんで彼女が自衛隊に保護されたのだろうか・・・

 

「どうしたの?私の顔に何かついてるぅ?」

 

「い、いえ。何もついてないです」

 

取り敢えず敵対してないっぽいのでスルーしておく。もっとも、帆斗自身彼女に目をつけられるようなことは何もしていないのだが。

 

その後も老人から子供まで出身や年齢を聞いて隊員に伝えた。

 

「さっきの子で最後みたいです」

 

黒川二曹が最後の少女を送って仕事は終わりとなった。通訳って意外と大変な作業なんだな。と帆斗は呟く。

 

「お疲れ、しばらく自由にしてていいよ」

 

「あ、ありがとうございます」

 

帆斗は伊丹から冷たい缶コーヒーを受け取る。一口飲むと懐かしい味だった。

 

「失礼するよ」

 

伊丹が帆斗の横に座る。

 

「倉田さんから聞きましたよ。あの人達、伊丹さんの独断で連れて帰って来たらしいですね」

 

「倉田のヤツ・・・余計なこと言いやがって」

 

なんて呟く伊丹であったが表情は柔らかいものだった。

 

彼は人の命を第一に考える。例えそれが命令に背くものであっても。

 

帆斗はこの伊丹耀司が銀座事件での英雄と謳われる理由がすこし分かった気がした。

 

 

 

 

「カイトよ、彼らは一体何者なのじゃ?」

 

ある晩帆斗はカトー達が行う会合に呼ばれていた。

 

「儂らはあの人達に何から何まで世話になっているのに向こうは何一つ見返りを要求しない。長い間生きてきたがそんな軍隊は聞いたことがない」

 

彼らは自衛隊の手厚い保護に若干戸惑っているのだ。たしかに保護してもらってなんでも支援してもらえるのは有り難いことだ。しかし同時に不安にもなる。

 

ある日突然手のひらを返したかのように大きな対価を要求し来るのではないかと思ってしまうのだ。これはある意味正しい感性なのかもしれない。

 

「やっぱりあの人達に体を売るしか無いのかなぁ」

 

テュカが呟くと回りにいた女性達が一斉に怯えた表情を見せる。

 

此方の軍隊は一言で言えば野蛮そのものだ。そして冷酷である。

 

確かに盗賊達を追い払ってくれる。しかしその後は彼らの好き勝手に自分のテリトリーを引っ掻き回されてしまう。

 

女はレイプされ金目の物は奪われる。さらに戦争で劣勢になってくると焦土作戦に強制労働。ぶっちゃけて言えばどう転んでもいい方には向かないのだ。

 

「そんなことしたら大問題ですよ。そういうことをしてはいけないって向こうの世界では決められているんです」

 

「本当に?」

 

テュカがこちらを向いて尋ねる。

 

「えぇ、それに彼らは軍隊ではありません」

 

「そうなのぉ?あの人達、帝国の軍隊よりも規律がしっかりしてるように見えるけど」

 

ロゥリィも興味津々の様子で聞いてきた。

 

「ジエイタイ、私達の住む日本の文字でこうやって書きます」

 

俺はノートを取り出し、シャーペンで「自衛隊」と書いた。

 

「凄く綺麗な紙ねぇ」

 

ノートを見てテュカが驚嘆の声を上げた。

 

「自、この文字は己、自分達という意味です。そして衛、これは守るという意味、そして隊、これは統一された集合体という意味です」

 

「1文字1文字の意味がある、私達の文字とはぜんぜん違う」

 

ノートを覗き込むレレイ。彼女は好奇心旺盛だなぁ・・・と思いながら帆斗は続ける。

 

「つまり自衛隊は自分の国が危うくなった時にしか出動しません。他国に攻めることが絶対無いのがこっちの軍隊とは違うところでしょうか」

 

「なるほど・・・しかしそれが彼らが儂らに対価を求めない理由になるのかのう?」

 

カトーの疑問に帆斗は補足した。

 

「日本は海に囲まれた島国で長い間戦争に巻き込まれずにずっと平和でした。その間にこんなに平和なのだから自衛隊はいらないんじゃないかって思う人達が出てきたのです」

 

「なるほどのぅ。愚かな考えじゃが、ずっと争いがないと危機感が麻痺してしまうのじゃな・・・」

 

「そういった自衛隊の存在を喜ばしく思わない人達からすると自衛隊の不祥事は格好のネタになるのです」

 

ここまで言うと彼らは理解してくれたようだ。

 

「カイトよ、お主の言いたい事はよく分かった。しかしこの先ずっとジエイタイの世話になるわけにもいくまい、なんとかして糧を得る方法を探さねば・・・」

 

「その事なんですけど、翼竜の鱗とかっていくら位で売れるんですか?」

 

帆斗はそう言いながら翼竜の鱗を3枚テーブルに置いた。すると回りの眼の色が変わる。

 

「カイト、これを何処で手に入れたんだ!?」

 

ずっと黙っていたリュウも身を乗り出して俺に聞いてくる。そんなに貴重なのか、これ・・・

 

「ここに来る途中に翼竜の死骸が沢山あったんですよ、多分帝国軍のものだと思うんですけど。噂通り、本当に帝国軍を撃退していたみたいですね・・・」

 

「これは中々の代物じゃぞ、あれをなんとか分けてもらえればいいのじゃが・・・」

 

立派な顎髭を弄りながら悩むカトーに帆斗が提案する。

 

「なんとか掛けあってみましょう、自立する為って言えば悪い顔はしないでしょう」

 

午後に見た時はその翼竜を射撃の的にしたり戦車の障害物にしていた。それくらいしか使っていないなら問題無いだろう。

 

「本当か?手間を掛けさせて済まぬのう・・・」

 

帆斗が「いいんですよ」と言いながら席を立ったところで会議はお開きとなった。

 

「もうこんな時間、お父さん部屋で待ってるだろうから早く帰らなきゃ」

 

テュカが窓の外を見ながら呟く。

 

「え?」

 

帆斗は疑問に思った。

 

 

 

 

 

 

 

テュカの父親ってここに来てたっけ?

 

 

 

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