少年、彼の地にて斯く暮らしたり   作:長財布

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ワルキューレの騎行と共に

「おいカイト、こんなところで寝ては風邪を引くぞ」

 

「え、あぁ・・・大丈夫です」

 

リュウに起こされると帆斗はゆっくりと立ち上がった。

 

「無理しなくてもいいんだよ?眠かったら車の中で休んでいても・・・」

 

「あんな板張りの椅子で寝れませんよ、大丈夫ですから」

 

伊丹の提案を帆斗は丁重に断った。

 

彼らは現在、盗賊や諸王国軍の敗残兵からイタリカを守るという重大な任務の真っ最中だ。

 

イタリカは今、盗賊や諸王国の敗残兵によって構成された部隊から襲撃を受けていた。その真っ最中に帆斗を始めとする3偵の人達が到着し、紆余曲折を経て帝国の皇太女ピニャ・コ・ラーダに協力する形になってしまったのだ。

 

自衛隊員を始めとするこの部隊は重武装な火器を有し、一番攻め込まれる可能性の高い南門を守ることになった。

 

「隊長、全く来る気配が無いのですが・・・」

 

帆斗が双眼鏡を覗きながら尋ねる。

 

「うーん・・・斥候も居たからこっちの南門から奇襲してくると思ったんだけどなぁ」

 

伊丹が頬を掻きながら呟いた時、別方向の東門が騒がしくなっていることに気付いた。

 

「敵は東門の方から来たっぽいですね・・・」

 

「東門からの応援要請は?」

 

「まだ何も・・・」

 

この戦闘も国連の平和維持活動のようなものなのだろうか、相手方からの救援要請がなければ現段階では動くことが出来ないらしい。

 

「どうしてぇ!こっちに来るんじゃぁ無かったのぉ!?」

 

急にロゥリィが艶めいた声を上げる。

 

「おいおいどうした、大丈夫か?」

 

ロゥリィの急変に伊丹が駆け寄ろうとするのをテュカとレレイが止める。

 

いまの俺達には彼女をどうしてあげることも出来ない。

 

「んっ、くぅっ!」

 

「隊長、若干名此方に人を残して俺たちは向こうに行くっていうのはどうですか?」

 

押し寄せる衝動に身悶えするロゥリィを見て帆斗は伊丹に意見を具申することにした。

 

「だめぇ!おかしくなっちゃうのぉ!」

 

伊丹はゆっくりと頷いた。

 

「栗林はロウリィについてやってくれ。俺と倉田で東門に向かう」

 

「了解しました!」

 

栗林と倉田が返事する。73式小型トラックに向かう彼らを帆斗とリュウは追いかけた。

 

「はいちょっと、詰めてくださいね~」

 

3人が乗り込み終わる寸前、飛び乗ってきた帆斗達に皆は驚愕した。

 

「君らはダメだ。前線に民間人を連れていく訳にはいかない」

 

伊丹が厳しい口調で言った。

 

「矢の方向が不自然に変化していた。風か重力を操る魔法を操る魔法が使われた可能性がある。護衛はカイトに頼んでいる、足は引っ張らない。」

 

リュウの言葉の意図を伊丹は理解したようだ。渋々と言った表情で発進を指示した。

 

主戦場である東門は文字通り死屍累々だった。装備を見ると鎧や剣を持った者よりも身軽で質素な服装の者の方が多い、敵のほうが優勢だろう。

 

屋根伝いに走るロゥリィを73式小型トラックで必死に追いかける。入り組んだ狭い道で全速力というわけにはいかないが彼女は車と同じ速さで走っている。

 

「絶対に前に出てはダメですよ!」

 

伊丹はそう言い残して栗林や倉田と共に73式を降りた。

 

「高い所に向かうぞ、この辺りに城壁へと登るハシゴがあった筈だ」

 

リュウと帆斗は城壁へと上り広場が見渡せる場所へ移動した。

 

「コイツはひでぇな」

 

広場は阿鼻叫喚の嵐であった。身包みを剥がされたイタリカの住人と思われる死体を馬車で繋ぎ引き回る者。

 

体の一部を柵の向こう側に投げ込み挑発する者。

 

激怒した住民たちが柵を超え混沌とした戦場を作り出していた。

 

「まだ居たぞ!」

 

此方に弓を向ける兵士達、リュウは咄嗟に火炎魔法を展開し真下に向かって火炎を放射した。

 

火は木製の盾や衣服に燃え移り兵士たちが地面にのたうち回る。

 

「真下は頼みます!」

 

ライフルのボルトを後退させ薬室に弾薬を装填した。

 

狙いは敵の指揮官、馬に跨がり豪華な装飾を施しているため判別は容易い。

 

「クソッタレ盗賊どもが・・・」

 

引き金に力を込める。兜に風穴が空き馬から落ちた。

 

2人目、3人目と上官を排除していく。

 

「畜生、平民が調子にのるな!」

 

「クソッ・・・カイトよ頼む!」

 

城壁に登っていた生き残りの兵士がリュウに斬りかかる。とっさに帆斗が目視で撃つ。

 

彼の放った弾丸が脇腹に命中、そのまま兵士は地面に落下した。

 

「ありがとう、お陰で助かった」

 

「もう少し前に行きましょう、ロゥリィさんや栗林さんが接敵しています!」

 

城壁を伝って前へ移動する。帆斗は死神ロゥリィたる所以をこの目で目撃した。

 

「嘘だろ、あれが死神ロゥリィ・・・」

 

小さい体が飛んだり跳ねたり、その際に回りにいた兵士が切り裂かれていく。

 

一定の距離を置ける槍も無意味だった。彼女の身長を超える大きなハルバードの方が攻撃射程共に勝っているのだ。

 

轟く銃声。

 

栗林の持つ64式小銃の物だった。7.62ミリ弾の前では鎧も盾も無意味、何をされたか解らないまま兵士たちは事切れていった。

 

ズドォォォォォン!

 

突如爆音が響いた。見れば城壁に大きな穴が開いている。

 

「何か来るぞ!」

 

リュウが空を指差す。その視線の先には・・・

 

「ヘリだ・・・」

 

微かにローターの回転音が聞こえてきた。それも1機や2機ではない、コブラやヒューイ、ニンジャやOH-6で構成された大編隊が此方に向かってきていた。

 

「何だあれは!?」

 

「バケモノだ!」

 

逃げ惑う兵士たちに容赦なく降り注ぐ弾丸、突如現れた空飛ぶ物体に兵士たちは震え上がる。

 

「ワルキューレの騎行」とともに盾を貫き剣を折る銃弾しかし此方からは何も出来ないという屈辱と恐怖。隠れられる場所は無い。

 

壁際に展開していた兵士達の前に1機のコブラがホバリングする。

 

そして・・・

 

ヴォォォォォォォォォォォォン!

 

途切れることのない銃声、コブラが装備しているガトリング砲が火を吹いた。その音はまるで怪獣の咆哮だった。

 

「これが・・・カイトの居た世界の兵器なのか」

 

リュウも目の前に広がる光景を見て立ち竦んでいた。

 

「航空支援が来ました。もう大丈夫です」

 

帆斗の声にリュウは我に返る。

 

「そ、そうか・・・ならば下に降りるとしよう」

 

ヒューイからロープが垂らされ隊員が次々と降下してくる。残存兵の処理、投降した者の拘束が行われる。

 

「ちょっとお前さん」

 

下に降りると家に隠れて見ていた老婆が話しかけて来た。

 

「何でしょうか?」

 

「あの大きな翼竜みたいなのを連れてきたのは何処の軍隊なんだい?私はこれまで生きてきた中であんな物は見たことが無いよ」

 

老婆の問いに帆斗は答えた。

 

 

 

 

「彼らは自衛隊、日本という国を守る最強の人達です」

 

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