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この町の路地にあの光の門が現れたのは半年前の事だった。
その光の門が確認されたのは、夜の十二時過ぎだった。
仕事帰りのサラリーマン二人が、町の路地から異様な光が発せられているのを発見した。二人が不思議に思い路地に入ると、そこには謎の光の門が現れていたと言う。
この事をブログに書き込んだ所、たちまちネットで話題となった。
また、この門と共に現れた立て札には、この様な文字が記されていた。
『この世界で生き残った者、願いを一つ叶えられる。この世界で死する者、本当の死を味わう』と。
人々はこの立て札に記されている事を信じ込み、光の門の先にある世界を、『願いの世界』と呼んだ。
実際に、その世界に挑み、願いを叶えて帰還した者もいたが、それはごく少数。ほとんどの者は帰って来なかった。
この半年で、少なくとも千人以上の人がその世界へと旅立ったが、帰って来たのはほんの数人だった。残りの九百人以上もの人は、死んだか、未だにその世界をさまよっているか。真相を知る者はいないのだ。
俺の学校でも、光の門出現時から話題になっていた。金や成績目的で挑もうとする生徒も出たが、願いの世界に入って以来、帰って来ない者が多すぎる事から、挑む生徒は一人もいなかった。
学校が終わり、俺は家に帰った。リビングに学校指定のバッグを置き、ソファーに座り込む。すると、一人の女性がやって来る。
「優!学校から帰ったら、すぐに着替えなさいよ!弁当箱も早く出して!」
俺は今高校二年の十六歳で、この女性の名前は明里(あかり)。俺より五歳年上で、大学生だ。
俺の両親は、俺が五歳の頃に車の事故で亡くなってしまった。明里とは昔からの知り合いで、彼女もまた、両親を失っていた。明里は祖母と二人で暮らしていたが、俺と同じ両親のいない立場でもあり、俺を放っておけなかった。
明里は一人になった俺を何のためらいも無く引き取ってくれた。それからは三人で生活していたが、五年前、明里の祖母も亡くなってしまった。その後は、女手一つで俺を育ててくれている。まさに、俺の母親代わりだった。
その週の土曜日、俺と明里は買い物に出かけた。家から歩いて行ける距離にショッピングモールがある。俺もよく一人で行く行きつけの店である。
二人で歩いていると、目の前に信号機があり、歩行者信号の青が点滅している。
「明里姉ちゃん、走るぞ!ここの信号、次青になるまで結構待つからな!急いで!」
俺はそう言い、無理矢理信号を渡ろうと走り出す。
「優!走ると危ないよ!次青になるまで待とうよ!」
「早く飯も食いたいんだ!走れば間に合うって!」
明里の警告を無視して、俺は走り続ける。しかし、そこに信号無視をしてきた軽自動車が走って来た。だが、俺は全く気付いていない。
「優、危ない!戻って‼︎」
その声を聞き、ハッとした。俺は横を向く。しかし、もうすぐそこまで軽自動車が迫っていた。手遅れだった。
「優ー‼︎」
その時、俺は明里に後ろから押された。俺は前に倒れ込む。倒れた時にぶつけた所を手で押さえながら後ろを向く。そこには、信じたくない光景が広がっていた。俺をかばって、軽自動車と衝突した明里が倒れていたのだ。
「……!あ、明里姉ちゃん‼︎」
俺は叫び、明里の傍に寄る。名前を叫ぶが、目を開かない。うそだろ……そんなの。俺は頬をつねる。痛い。夢ではなかった。俺は、何もできなかった。
明里はすぐに病院に搬送された。命に別条はなく、明里はすぐに目を覚ました。しかしーー。
「安田 明里さん。あなたの足は、もう動かないかもしれません。」
医者から、こんな宣告をされた。明里はしばらく入院する事になった。俺もショックだったが、一番ショックなのは明里に決まっている。もう、自分の足で歩く事ができないのだから……。
「優は、悪くないからね。信号無視をして来た方が悪いんだから」
明里は俺にそう言ってくれた。確かに信号無視をしたのは悪い。だが、元はと言えば、点滅していた青信号を無理に渡ろうとした俺の責任だ。
明里は、この役十一年間、俺に愛情の全てを注いでくれた。友達と遊びたい気持ちも抑えて、俺のために自由な時間を犠牲にしてくれた。なのに俺は、何の恩返しもできないまま、逆にその恩人から足を奪ってしまった。
何とかしたい。明里の足を治してほしい。また、明里と一緒に歩きたい。でも、そんな事、できるわけーー。いや、できる。できるぞ!あそこに行けば、できるかもしれない!
「……明里姉ちゃん」
俺は呟く。
「どうしたの?」
明里は俺に聞き返す。俺は続けた。
「俺、明里姉ちゃんには、また元気に歩いてほしい。明里姉ちゃんと一緒にお出かけもしたい。本当にごめん……」
「だから、優は悪くないよ!そんなに自分を責め……」
明里が言い終えない内に、俺は宣言した。
「……俺、今から願いの世界に行くよ!そこで生き残って、明里姉ちゃんの足を治してもらう様にお願いするよ!」
明里は初め、俺が何を言っているのか分からなかった。しかし、やがてその言葉の意味を理解すると、必死に言った。
「優!何言ってるの‼︎バカ言わないで!あそこに千人もの人が行って、帰って来たのはほんの数人だけなのよ!私、今のままでいいから!ただ優がいてくれたら、それで幸せだから!」
「俺が嫌なんだ!今まで育ててもらったのに、何も恩返しできないなんて!だから、せめてもの恩返しとして、明里姉ちゃんの足を取り戻して来る!」
俺の覚悟は揺るがない。やがて明里は下を向く。
「だって……もし優が帰って来なかったら、私……」
明里は目に涙を浮かべ、呟く。だが俺は、胸に拳を当てた。
「心配すんな!俺は死なねぇ!絶対に生きて帰って来る!」
そう言った。すると、明里は座ったまま、俺を優しく抱きしめた。
「分かった。でも、約束だからね。」
俺も明里を抱きしめる。
「あぁ。約束だ。」
約束を交わし、俺は病院を出た。そして、例の路地へとまっすぐに走る。
「遂に来た……よし、行くか‼︎」
俺はゆっくりと、光の門へと歩いて行く。家族との約束を胸に、俺は最初の一歩を踏み出す。
最後まで読んでくださり、ありがとうございます!