18
爽やかな風が窓を通り抜ける。時刻は午前八時十一分。光田(みつだ)中央病院は、換気の時間だ。今日は土曜日。窓からはさすらう枯葉が見える。もう十月も下旬。もうすぐ冬が到来する頃だ。
病室で明里は、腰まで伸びた長い髪を触りながら、一枚の絵を眺めている。一人の女性と男の子の絵。その絵に描かれているのは、優と明里。優は幼稚園の母の日イベントで、母の絵を描くことになり、この絵を描いたという。
明里は、
『私はお母さんじゃないよ、まだ十歳だし!』
と笑った。しかし優は、自分にとって一番大好きな人だから。そういう理由でこの絵を描いたのだ。両親を亡くした直後だった優にとって、自分を引き取ってくれた明里の事が本当に大好きだったのだ。
「……優が『願いの世界』に行って、もう三ヶ月も経つのね。夏休みに入る前だったのに、もう二学期の半分が終わったよ。早くしないと、冬休みになっちゃうよ……。」
明里はそう呟き、優の描いた絵を見つめる。あんなに幼かった優が、命を懸けて冒険しているという事を考えるだけで、胸が締め付けられそうになる。
「……死んでないよね?嫌よ、そんなの!早く帰って来てよ……!元気な顔を私に見せてよ‼︎」
明里は俯き、拳を握り締める。明里の目から涙が流れ出る。優が死ぬ事が、とても耐えられないのだ。
「優君は絶対に帰って来る!」
一人の女性が病室に入って来る。亜美だ。
「聞いてたの?もぉ……盗み聞きは良くないよ?」
明里は涙を拭う。
「泣く程、優君の事が好きなのね。」
亜美は優しい表情で明里を見る。
「当たり前でしょ!おばあちゃんが亡くなって辛かった時、優は支えになってくれた。その他にも、優に何度も元気付けられた。本当に、大好きなの‼︎」
明里はそう言い、ふと横を向く。見ると、亜美が少しニヤついている。
「あっ……べ、別に変な意味じゃないからね!優が大好きっていうのは本心だけど、そんな意味じゃ……」
「もー、分かってるわよ!照れちゃって、可愛いな〜!」
亜美はいたずらっぽく言う。明里は照れた表情のまま頬杖をつき、窓の外を見る。亜美は立ち上がり、部屋を出ようとする。
「優君の事、信じてやんなさいよ。絶対に大丈夫だから!ね?」
明里は少し不安な表情になりながらも、頷く。
「じゃ、私これから講義があるから。時間があったらまた来るからね!」
亜美はそう言い、病室を後にする。
「優……私との約束、絶対に守ってよね。」
明里はそう呟いた。
*
一郎は、切り裂かれた所を押さえている。俺達は、必死に亡霊騎士を探す。しかし、どこにもいない。
「くそっ‼︎どこえ消えやがった⁉︎影も姿も見えんぞ‼︎」
大平は悔しそうに喚く。一体どこだ?俺が血眼になっめ探していると、突然里奈が叫んだ。見ると、亡霊騎士が里奈の目の前に現れている。
「この‼︎」
俺は剣を抜き、亡霊騎士に向かっていく。つばぜり合いになる。強い。こいつ、強さも今までの奴らと格段に違う。俺は一旦離れ、亡霊騎士に剣を突き立てる。
「うぉぉぉ‼︎」
すると、亡霊騎士は再び消えた。
「くそっ!また消えやがった‼︎」
俺は喚く。
「いや、違う!消えたんじゃない‼︎」
ノアが叫ぶ。
「今見たんだ!あいつ、地面に入り込んでいったんだ!だから、現れる時も下から出てくるはず!そこさえ確認できたら倒せるかもしれないぜ‼︎」
俺達は地面に目をやる。だが、何も現れない。その数秒後。突然敦は剣を突き立てた。
「優、そこをどけぇ‼︎」
俺は言われるままに後ろに下がる。そして、敦が地面に剣を突き刺す。すると、地面の中から唸り声が聞こえた。
「よっしゃ!いける!倒せるぞ‼︎」
一同は期待を持ち始める。奴の行動パターンさえ読みきれば、案外楽に倒せる。
再び現れる。だが、既に行動パターンを読み取っている俺達の敵ではない。奴が姿を現わす度に、最低二回は攻撃を与えられる。勝てる、勝てるぞ‼︎と、その時だった。
「うわっと‼︎」
直樹がつまずき、転んでしまった。
「な、直樹‼︎」
直樹の後ろから亡霊騎士が現れる。大平は助けに行こうとするが、亡霊騎士の横からの攻撃に阻まれてしまう。
「直樹ー‼︎」
大平が叫ぶ。その時。
「ぐっ……はっ……‼︎」
別の声が聞こえる。見ると、一郎が血だらけで倒れている。
「い、一郎‼︎お前、どうして⁉︎」
「俺はもう、ろくに戦えねぇ……。なんならいっそ、体を張って誰かを助けようとおもってよ……。」
「だからって、俺の身代わりになる事ねぇだろ‼︎」
直樹が、一郎を抱き上げて叫ぶ。一郎の体は、透明になっていく。
「ヘヘッ……皆、絶対に生き抜けよ!」
そう言い残し、直樹の手の中で一郎は消えていった。
「一郎……うわぁぁー‼︎‼︎」
直樹は立ち上がり、剣を構える。
「てめぇだけは、絶対にぶっ倒してやるぜ‼︎」
現実世界での状況も必要かな?と思い少し入れました。