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願いの世界。それは、クリアした者の願いを、一つだけ叶えてくれる世界。それ故に、クリアする事は容易ではない。ほとんどの確率で死が訪れる。
俺は、そんな世界に来てしまったのだ。最初はクリアする気満々だった。すぐにゴール地点に辿り着いてやる!そう思った。しかしーー。
「うわー‼︎死ぬー‼︎」
俺は、この世界に来て早速、死の危険に直面してしまった。俺は全力で走る。その後ろには、数十体という犬の様なモンスターが俺に向かって突進して来ていた。
この世界に足を踏み入れた時点で、挑戦者全員に武器が与えられるらしく、俺も鞘に収められた一本の剣を持っていた。だが、戦う勇気など俺にはなかった。
「クソ!こんな犬に怯えてる様じゃ、クリアなんてまず無理だ‼︎たかが犬!ちょっと剣を振り回せば、すぐに倒せるはず!」
ただ逃げていても意味がないと理解した俺は、腰に刺している剣を抜く。そして、犬の大群に向かって力任せに剣を振り回す。
学校の剣道の授業は苦手だが、これは授業ではない。どんな持ち方をしても、どんな使い方をしても、怒られる事はない。その束縛のない状況が、俺のテンションを上げさせる。
「喰らえ‼︎」
俺の剣が、一匹の犬を切り裂いた。犬は力なく倒れ、透明になり消えていく。よっしゃ!俺は拳を握り締め、ガッツポーズをした。
だが、その一瞬の隙が俺の状況を一転させた。犬が大群だという事をすっかり忘れてしまっていたのだ。何十体という犬が、俺を襲う。痛い。……⁉︎痛い⁉︎
「え、何でだ⁉︎メチャクチャ痛いぞ⁉︎」
俺は一瞬、何が何だか分からなくなった。なぜ痛いのだと。しかし、その思い込みは、俺の自分に対する甘えであったと理解した。
俺はただ、この世界にいるだけ。現実と同じなのだ。痛いのは当たり前ではないか。なのに、俺はこの世界がゲームやアニメの世界だと思い込み、痛みは感じない物だと思ってしまっていた。
血も出るし、骨折だってする。それを理解した瞬間、俺は怖ろしくなった。死ぬ。このままだと、本当に死んでしまう。今までこの世界で死んでいった人と同じ様に。
「や、やめろ……」
俺は剣を持ったまま、後退りする。犬の大群は、ゆっくりと俺に近づいて来る。
「やめろ……来るな!」
俺は逃げようと、前を向き走り出す。しかし、そこにある石につまずき、前に転けてしまった。俺は剣を持ったまま、地面を這う様に後ろに下がる。犬の大群は、今にも俺を襲いかねない。
俺はクリアどころか、こんなスタートの地点で死んでしまうのか?もしそうなったら、明里との約束はどうなる?
「明里姉ちゃん……クソー‼︎」
俺はただ叫び、悔しがる。何もできない自分がとても情けなかった。明里から足を奪うきっかけを作り、挙げ句の果てにこんな所で死ぬのか。するとーー。
「……え?」
俺は目の前の光景を、目を丸くして見た。犬の大群がどこかに去って行く。俺は上を見る。空は鮮やかな夕日に染められている。もうすぐ夜。犬の大群は、夜に備えて自らの住み家へと帰って行ったのだ。
「た、助かった〜!」
俺はその場にへたりと座り込む。安堵のため息を吐き、寝転ぶ。
「ははっ……俺、こんなんでクリアできんのかな?」
独り言の様に呟いた。
数分後。俺は寝床を探しに辺りを歩き回る。だが、これと言っていい場所がない。しばらく歩くと、一つの洞窟を見つけた。
中に入り、モンスターがいない事を確かめると、俺はこの洞窟を、今晩の寝床に決めた。俺は寝転がり、目を閉じる。気がつくと、俺は浅い眠りに落ちた。
音がする。俺は咄嗟に目を開け、音のした方を向く。見ると、一人の男性が立っていた。俺はすかさず身構えた。すると男性は両手を上に上げた。
「あ、待て待て!俺は別に、あんたを襲おうって気はねぇよ!ただ、たまには街じゃなく、外で野宿ってのもいいかなと思って、ここに来ただけだよ!」
俺は体の力を緩める。
「あ、ごめん!いきなり身構えたりして。」
俺は頭を下げて謝る。
「別に謝らなくてもいいって!あんたもここで夜を過ごすんだろ?一晩の友だ!仲良くしようぜ!」
男性は俺の隣に座り、そう言った。
お互いに自己紹介をした。男性の名前は、敦(あつし)で、年齢は二十一歳。俺も名前と年齢を明かす。すると敦は、
「え、優って高校二年⁉︎俺、てっきり中学一、二年かと思ってた!ごめん!」
そう言った。
「ちょっ!敦、俺の身長で決めつけてただろ!もう!」
俺は文句を言うが、否定もできない。俺は十六歳でありながら、身長は百五十五センチしかなかった。それ故に、今までも様々な人に年齢以下の学年と間違われる事があった。
俺は少しイラつきながらも、仕方ない間違いだとまとめ、敦を許した。
「そういやさ、優って街に泊まったりしないの?それとも、俺と同じ様に気分転換とか?」
「いや、実はさ……」
俺は先程の出来事を、恥ずかしながらも仕方なく説明した。
「なるほど、犬の大群にね。さてはお前、この世界に来たばっかだな?」
「え⁉︎敦、分かるのか?」
俺は敦に聞き返す。
「あぁ。俺は二ヶ月前からこの世界に来てるから、大体の事なら分かる。あの犬、正式名称は、『グラー・ロッガー』だけど、そいつにやられる奴は、大抵がここに来たばかりの奴なんだ。」
敦は自慢気に言う。こんな人なら、願いの世界をクリアする事も夢ではない。それに比べて俺は……。自分の無力さを情けなく思い、下を向く。そんな俺の心を読んだかの様に、敦は口を開く。
「グラー・ロッガーに困ってるんなら、明日そいつを倒すの、手伝ってやろうか?コツさえ掴めば案外簡単だし、この世界で生き残れる可能性もグンと上がると思うぜ!」
今の俺にとって、この言葉はとても嬉しかった。敦が、とても大きい神の様に見えた。
「……ぜ、ぜひ!ぜひ頼む‼︎」
俺は尊敬の眼差しで敦を見た。敦は、俺に任せろ!とでも言う様に、手の平で胸を叩く。
出発は明日の早朝。俺にとっては、最初の試練だ。
願いの世界の二話目を読んでくださり!ありがとうございました!
これからも頑張りたいと思います!