23
ドラゴンが立っていた場所には、俺が横たわっている。
「優君‼︎」
里奈が俺の傍に寄って来る。里奈につられて、敦と大平も寄って来る。
「優君!大丈夫⁉︎しっかりして‼︎」
俺は目を開く。意識がだんだん遠のいていくのが分かる。
「ねぇ!どうして私を庇ったりしたの⁉︎今だけじゃない!私と再会した時も、あの殺人鬼と戦った時も!どうして?どうしてなの⁉︎」
里奈は目に涙を浮かべ、叫ぶ。
「俺も、なぜかは分からない……ただ、里奈さんって、明里姉ちゃんにどこか似た所があるんだよ。だからかな……。」
俺はそう呟き、咳き込んだ。
「優君‼︎」
里奈は俺の名前を叫ぶ。すると俺は、里奈に拳を向ける。
「やったな……。」
里奈も拳を差し出す。敦も、大平も。そして、四人で拳を合わせる。
「えぇ、やったわね!」
里奈が言う。その直後、俺の手は力なく落ちていく。見ると、俺は目を閉じている。
「え?優君?どうしたの?」
里奈が呼びかけるが、反応はない。
「ねぇ、ちょっと!起きてよ!ねぇったら!」
俺の体を揺さぶるが、やはり反応はない。
「……嘘でしょ。お願い優君!目を開けて!ここで死んだら、明里さんとの約束はどうなるのよ⁉︎……嫌……そんなの嫌ー‼︎‼︎」
里奈が泣き叫ぶ。俺の服を握り締め、下を向いて泣いている。
「くっそ……何でだ!ドラゴンを倒したってのに‼︎」
「優が!優が死んじまう‼︎」
敦と大平も悔し涙を流す。その時、遠くから眩い光が見える。
三人はそちらを振り向く。見ると、あの扉が光を発していた。
「もしかして、あそこに行けば優君助かるかも‼︎」
そう言い、里奈は俺を抱える。
「里奈!いいよ、俺が抱える」
敦はそう言い、里奈が抱えていた俺を自分に移す。敦達は急いで、扉へと向かう。
扉の前に到着し、俺を寝かせる。しかし、何も起こらない。
「……やっぱりダメだったのか?」
大平が呟く。その時、扉から光が発せられる。その光は次第に形を変え、人形へと変化した。
『ゴール地点到達おめでとう。私は、この世界の番人を務めている者だ。さて、願いを聞こうーーと言いたいところだが、君達は酷いケガをしている様だな。まずは、そのケガを治してあげるとしよう。』
そう言うと、人形の光ーーこの世界の番人は、手から更に光を発する。その光は俺達を包み込む。すると、次第に傷が癒えていく。
「す、凄い!って事はもしかして、優君も‼︎」
里奈は俺の方を向く。俺の体からも傷はなくなっていた。
「よかった!優の傷も治ったな!」
敦が言う。
『あー、誠に残念だが……』
番人は、里奈達が喜ぶ様子を見て、口を開く。
『ドラゴンを倒した後に死亡した者は、ごく稀に消滅しない事があるんだ。その少年も傷が治ってはいるが、生きているという保証はない。むしろ、死んでいる可能性の方が高いだろう。』
「そ、そんな……」
里奈は、俺の傍へ駆け寄る。
「優君!お願い、起きて!せっかくここまで来たのに、死ぬなんてもったいないよ‼︎早く起きて‼︎」
俺の体を揺さぶる。だが、俺は目を覚まさない。
「そんな……」
三人が諦めかける。しかし、奇跡は起きた。
「う……うぅ……」
俺は何の変哲もなく起き上がる。
「痛っ!あれ、ぶつけたのかな?」
頭を押さえ、俺はそう呟く。ふと横を見ると、里奈が俺を見つめている。里奈だけではない。敦も大平も、驚いた様な表情で俺を見ている。
「三人共、どうした?……ってか俺、何してたんだっけ?」
すると突然、里奈が俺に抱き付いてくる。俺は後ろに倒れ込むが、里奈は構わずに俺を抱き締める。
「優君のバカ‼︎どれだけ心配したと思ってるのよ!でも、生きててよかったー‼︎」
里奈の目から、安堵の涙が滝の様に流れ出てくる。
「この野郎!心配させやがって!」
「だが、無事で何よりだな!」
二人も言う。
「ごめん……そう言えば俺、気絶してたんだっけ。って、あれ⁉︎俺大ケガしてたはずじゃ……」
俺が驚いていると、番人が口を開く。
『私が治した。クリアした者には、元の状態で帰ってほしいからな。』
少しの間を置き、遂にその時が来る。
『さぁ、挑戦者よ!願いを言え!』
敦から順番に言っていく。俺はこの時のために、様々な冒険をしてきた。普通では味わえない、スリル満点の冒険を。
そして、あっという間に最後、俺の番がやってくる。
「よし!言うぞ。俺の姉ちゃんの……明里姉ちゃんの動かなくなった足を、治してくれ‼︎」
俺の目は真剣そのものだ。俺はずっと、番人を見続ける。すると、番人は突然笑い出した。
『ハハハッ!少年よ、いい目だ!よかろう!君達の願い、確かに聞き受けた!現実世界に戻った時には、その願いが叶えられている事を約束しよう。』
その言葉を聞いた時、突然心の底から喜びが込み上げてくる。今まで実感がなかったが、やったのだ。千人もの人が挑み、生還者が十人もいない様なこの世界を、俺はクリアしたのだ。
「よっしゃー‼︎」
俺はガッツポーズをして、思い切り飛び上がった。
番人は、間もなく俺達を現実世界に転送すると言う。その時を待っていると、俺は里奈に引っ張られる。
「優君、ちょっといい?」
「ん?里奈さん、どうした?」
手を引かれ、俺は部屋の隅へと連れて行かれる。すると突然、里奈は俺にこんな事を聞いた。
「優君、私の事好き?」
「へ?」
俺は初め、聞かれた言葉の意味を理解できなかった。だが、少し照れる里奈の顔を見て確信する。あー、そっち系の事を聞いてるのか。
「え、えーと……その、何て言うか、里奈さんの事は普通に好きだよ。あー、何て言えば……」
俺は頭の中であれこれ考えるが、正しい言葉が見つからない。女性にこんな事を言われるのは初めてで、どう言えばいいのか分からないのだ。
「私は好き。大好きよ!」
里奈は何のためらいもなく、俺に向かってそう言う。これ、俺に言ってるんだよな?俺は念のために後ろを振り向く。見ると、里奈の目の前には俺しか立っていない。俺に言っているという事は明白だ。
「確かに優君は、ちょっと頼りないし、身長も低いし、お世辞にもイケメンとは言えないけど。」
な、何を!何かと思えば、里奈は突然そんな事を言い出す。
「なっ……!里奈さん!身長の事はともかく、顔のことまで言うな」
「でも……」
俺が言い終えない内に、里奈は続ける。
「でもね、優君って時々かわいいし、優君と一緒にいたら、何か安心するし、楽しくて、幸せな気持ちになる。それにね……」
里奈は下を向く。先程までいたずらっぽかった表情が、真剣な表情へと変わる。
「私、優君に何度も助けられた。優君がいなかったら、私きっと、ここにいないよ。本当にありがとう。」
俺に向かってそう言う。
「……俺も」
俺は優しく里奈を抱き締める。
「俺も、里奈さんが大好きだよ。」
気付けば俺は、そう言っていた。里奈も俺を抱き締める。そこに、敦と大平がやって来る。
「お前ら、抱き合って何やってんだ?」
二人が聞いてきた。
「べっ!別に抱き合ってないよ!な?里奈さん!」
「そ、そうよ!私達、何もしてないわよ!」
俺と里奈は、そう言ってごまかす。実は、敦も大平も分かっていた。だが、二人の気持ちを考慮して、敢えて何も言わなかった。
「現実世界に戻っても、またいつか、絶対に会おうな!」
俺が言う。
「あぁ!また会おう!」
「えぇ!」
「必ずな!」
三人も笑顔で言う。
『よし!そろそろ現実世界に帰すが、準備はいいか?』
「あぁ、もちろん!」
俺達は頷く。
『ならば行くぞ!』
番人は扉の中に戻る。すると、扉から光が発せられる。俺達は、その光に包まれる。
絶対にまた会おうーー。その約束を胸に、俺達は現実世界へと帰る。 やがて、目の前は真っ暗になる。
次で最終回です!