願いの世界   作:坂田 信長

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続きです。ぜひ読んでください!


儚いもの

9

    翌朝。恵美と悟は俺を叩き起こす。

「優兄ちゃん!早く行こうよ!アミスの街を出よう!」

    二人は口々にそう言う。

「え?まだ朝だぞ?もう少しゆっくりして行かないか?」

    俺は横になったままそう呟く。だが恵美は、そんな俺の言葉を遮る。

「今ならどんなモンスターにも負ける気がしないの!だって、優兄ちゃんがいるんだもん!」

    俺はまだ寝ようとするが、二人がずっと叩き起こしてくる。

「……ったく、しょうがない。行くか!」

    俺は諦めて起きる事にした。

    軽く朝食を済ませ、俺達はすぐに街を出る。恵美と悟は、すっかり俺を尊敬しきっているが、俺はそういう器ではない。むしろ、俺は昔から人を頼ってきた人間だ。

    三日前にこの世界に来た時もそうだったが、俺は敦に頼り切っていた。俺はただ、この二人を救おうと思ってあのグラー・ロッガーの群れを倒しただけなのだが、まさかこんなに頼りにされるとは思ってもいなかった。正直、これから先が少し不安だった。この二人をちゃんと守れるのかが。そんな俺の心を読み取った様に、悟が口を開く。

「優兄ちゃんって、本当に強いよね!僕、あの時もうダメかと思ってたけど、優兄ちゃんが助けてくれて、本当に嬉しかったんだ。優兄ちゃんは、僕達のヒーローだよ!」

    悟のその言葉は、俺をたちまち笑顔にさせる。こんな事、今まで一度も言われた事がなかったからだ。

「悟……よっしゃ!このままガンガン行こうぜ!クリアなんて楽勝だ!俺達ならできる‼︎」

「おー‼︎」

    俺はテンションが上がり、そう叫ぶ。二人も俺に合わせて拳を上げる。俺達のやる気は今、ピークに達している。

    その後俺達は、ゴールを目指してまっすぐに突っ走って行く。何体ものグラー・ロッガーに遭遇したが、二人を守りながら順調に倒す事ができた。

    その時だった。四方向から突然、モンスターの大群が迫って来た。グラー・ロッガーか?いや、違う。犬型のモンスターではなく、猿型のモンスターだ。見た事のないモンスターだった。一旦後ろに下がろうとする。だが、後ろからも横からも、猿型モンスターは迫って来る。

「く……囲まれた‼︎」

    俺は額から出る冷や汗を拭う。二人はとても不安な表情だ。

「優兄ちゃん……逃げ道がないよ?」

    恵美が言う。その声は震えている。悟は恵美にしがみ付いている。どうする?戦うにしても、数が多すぎる。だが、逃げ道がどこにもない。俺が悩んでいると、突然猿型モンスター達が俺達に向かって走って来た。俺はすぐさま剣を抜く。

「恵美!悟!俺の傍から離れるなよ!」

    そう叫び、俺は猿型モンスターと戦う。力はそこまで強くはない。五秒に一体は倒せる程度のモンスターだ。これなら多少時間がかかってもいつかは全滅させられる。

    しかし、その中の数体が悟を掴んで群れの中に引っ張り出した。

「優兄ちゃーん‼︎」

    悟は泣き叫ぶ。

「悟!悟ー‼︎」

    俺は悟を助けに行こうとするが、猿型モンスターが邪魔をして、群れの中に入る事ができない。悟は何の抵抗もできず、その場に倒れ込む。その体は血だらけだった。

「さ……悟!」

    恵美が叫ぶ。悟の体は次第に透明になっていく。

「う……お姉ちゃん、ごめん。僕、一緒に帰れないや……。迷惑ばかりかけて、ごめんね。」

    そう言い、悟は消えていく。

「悟……嫌ー‼︎」

    恵美はその場に座り込み、泣き叫ぶ。

「くっそー‼︎」

    俺は猿型モンスターを次々と倒していく。やがて数も減ってきた。すると突然、恵美はモンスターの方へと歩いて行く。

「……悟がいない世界なんて、私、耐えられない。優兄ちゃん、今までありがとう。」

    猿型モンスターは剣を構えるが、恵美はただ、佇んでいるだけだ。

「恵美!よせ!」

    俺は叫ぶ。しかし、恵美はその場を離れようとしない。

「やめろー‼︎」

    俺の叫び声と同時に、モンスターの剣は恵美の腹部を貫いた。一瞬の後に、恵美は消え去った。

「くそ……くそー‼︎」

    俺は叫び、怒りに任せて剣を振り回す。猿型モンスターは次々と消えていく。

「うおー‼︎この!この!このー‼︎」

    数分後、数十体いた猿型モンスターの群れを、全て倒してしまった。多少の傷は負ったが、そこまで害はない。それよりも、精神的ダメージの方が大きい。

「絶対に、もとの世界に帰してやるって言ったのに、死なせてしまった……!」

    俺は地面に座り込む。目からは悔し涙が流れ出る。

「恵美……悟……!くそ……くそー‼︎」

    俺は拳で思い切り地面を殴り付ける。だが、状況は何一つ変わらない。結局、俺は何一つ守る事ができたかった。絶対に死なせてはならない二人を死なせてしまったのだ。

    俺はしばらく、立ち直れそうになかった。




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