お師匠様が直接関わる予定は、最初はありませんでした。
でも、出しちゃいました。このひと、いろいろと便利です。設定とか。
箱は開いた。
かかっていた暗示は、箱を開く一言のみを忘れさせる、至極シンプルなものだった。
おそらく僕以外の人間が解呪しても意味がないのだろう。僕が僕の意思で「開けたい」と思うことこそが、解呪の鍵だった。
開いた木箱は真っ二つになり、そして木くずになった。その中に入っていたのは、一本のカセットテープのみ。ずっと木箱の中に入っていたせいか、特に劣化は見当たらない。ラベルにも何も書かれていない。
特に魔力も感じない、至って普通のカセットテープ。しかし、既に内容は想像できた。
ごった返したままの部屋の中から、CDラジカセを引っ張りだす。いまどき、カセットテープを再生できるものを持っているのは珍しいかもしれない。実際、この機能を使うのは初めてだった。ラジカセを開き、テープを挿入する。再生ボタンを押すと、キュルキュルとテープを巻く音がして、スピーカーからは、ざざざ、とノイズが走った。
そして前触れ無く。
【あなた「なら」思い出す】
今は亡き、父の声が流れた。
ピンポーン、と、夜のアパートにチャイムの音が響く。
「……」
目を真っ赤にしたひかりが扉を開き、僕を出迎える。
「ひかり」
声をかけた、その瞬間、異常に、気づいた。
血の臭いが、する。
部屋の空気が、淀んでいる。
魔力が、満ちて、いる。
ひかりの、顔、が、違う。
「……」
部屋に満ちた魔力が、彼女の右手、人差し指の先、その一点に集中する。
そちらに目をやると、その手首から、血が流れていた。
彼女が僕を指差す。赤黒い、魔力の塊。何度も見た。でも、ここまで強力ではなかった。放たれる前から、それは呪いを撒き散らしていた。
「……っ」
ここで撃たれたらまずい。幸いここは地上二階。飛び降りられないこともない。頭を切り替え、両足に強化の魔術をかけ、思いっきり空中へ身を投げた。
浮いた体をかすめるように、その呪いが飛びかかる。ガンドじゃない。フィンの一撃だ。
「ぐっ」
驚きと呪いの余波で受け身を取りそこねた。背中を打ち、肺から空気が排出される。
追撃の呪いが来る。立ち上がり、あの日赤井さんと戦った道路まで、強化した両足で駆け抜けた。
「ひかり」
追いついてきた彼女へ話しかける。
「……」
答えはない。
まさか。
まさか。まさか。
まさか彼女は、自分で自分を呪ったのか。
呪術を使った自分を。他人を呪った自分を。
そこまで、僕は
魔力がまた、彼女の右手指に集まる。
まだ、あれを上手く使う自信は無い。しかしそれ以外、今取れる手段はない。
目的を決める。
彼女を元に戻す。彼女に謝る。そのために。
僕も彼女も、今死ぬ訳にはいかない。
「……やってみよう」
息を吸い込み、呼吸を整える。頭のなかで、発する言葉を復習する。大丈夫。さっきのカセットテープで、言葉はすべて思い出している。
彼女へではなく。
彼女を律する世界へ、語りかける。
【先を見失う】
あらぬ方向へ
効果はあった。
「やだよう、どこっ、どこにいったのっ」
彼女が叫ぶ。その合間に、言葉を重ねる。
【あなた「には」見えない】
これで彼女の視界から完全に僕は消えたはず。この隙に魔術回路を整え、次の魔術行使の準備をする。手持ちの練習用の
技術が足りないのなら力で。力が足りないのなら数で。あらゆる手段で、彼女が彼女にかけた呪いを解呪する。それこそが僕に出来る贖罪であり、恩返しだと思った。
意識を彼女へ戻す。
様子が、変わっていた。
「居たっ」
彼女の視線が僕を捉える。
そんな、ばかな。
「いっしょに、わたしと、いっしょに」
呪いの照準が僕に向けられる。まずい、言霊の効果が切れている。
僕が使うには早すぎた? 呪われた対象には効果が薄い? 考えても答えは出ない。何より、目の前の彼女はもう、いつでも指先の
「違う……」
ガンドじゃない。フィンの一撃。当たれば、死ぬ。言霊をかけるには遅い。間に合わない。
「
唯一の防御、トゥールのルーンを刻もうとした手を止める。眼前の少女が放とうとした呪いは、別の方向から飛んできたルーンによって砕かれていた。
「だれっ」
ひかりがルーンの飛んできた方向を見る。その瞬間、ぴたりと彼女の動きが止まった。
「か…は……」
「ひかりっ」
この状況は僕の理解を超えている。しかし、それでも僕がやることは一つだけ。
目的を忘れるな。何を為すべきかを見失うな。
何者かによってひかりは動きを止められている。ならば、解呪するには今しかない。
「
全力の、デタラメな退去のルーン。ただ、ただ、彼女が自身にかけた呪いにのみ焦点をあて、そこだけに
「あ、ふ、う……」
ひかりの首がだらりと下がる。呪いの気配が消えた。それと同時に彼女の硬直も解け、どさりと体が崩れ落ちる。
「ひかり」
慌てて駆け寄る。あちこち怪我をしているが、呼吸も脈拍も正常のようだ。気絶してるのか眠っているのか判別はつかないが、とりあえず生きている。
「良かった……」
体中の力が抜ける。横槍はあったが、無事彼女は元に戻った。
……横槍?
「っ」
そうだ。ひかりのフィンの一撃を発動前に打ち消し、その上で行動を封じた何者か。あいつはまだ近くにいるのか。
魔力を探る。
「……誰、ですか」
真後ろに、人一人分の魔力の塊があった。
「ふむ、どう答えればいいかな。ひとまず君たちの敵ではないよ」
女の声。その言葉通り敵意もない。しかし、警戒するに越したことはない。
言葉を紡ぐ。
【ここ「では」見えない】
僕とひかりの姿をくらませる。
「やはり、厄介だな、それは」
落ち着いた声。この人物は、僕のこの言葉を知っている。
ゆっくりと振り向く。そこには、いつか、見た、顔が。
「おや、もう解けたか。はじめまして、
「……蒼崎、橙子」
封印指定の人形師が、そこにいた。
「やれやれ、随分と荒れたみたいだな、その子は」
ひかりを背負って、彼女の部屋に戻る。部屋は随分散らかっていた。そして後ろには、蒼崎橙子が居る。
「どうして」
ひかりをベッドに寝かせて、人形師に問いかける。
「その「どうして」は、何に対しての疑問だ?」
強い口調。それに少し怯むと、
「ああ、すまない。敵ではないといったばかりなのにな。君にはこっちのほうがいいか」
そういって、懐から眼鏡を取り出し、顔にかけた。
「じゃ、お話、しましょうか」
突然、声色が変わった。コールセンターのスタッフのような、会社の受付嬢のような、愛想の良い声が響く。
「え、あ、はい」
戸惑いながら返事をする。
「じゃあさっきの質問。どうしてっていうのは、何に対してかな?」
「……どうして、僕らを助けてくれたのか、です」
さしあたっての疑問を問う。
「それは簡単なことだね。ちょっと詳しく言えば、私が助けたのは君たちではなく君だけなんだけど。私は、君に興味があったの」
そう言って、まるで自分の部屋のように、台所でインスタントコーヒーを作り始めた。
「君はさっき自分が使った言語のことを、知っているかな?」
「……神代の、統一言語、ですよね」
「そのとおり。神の時代に、すべてのモノが話していた言葉。その言葉は世界そのものに語りかけ、働きかけ、その意思を伝える。世界に存在する以上、有機無機の区別なく、あらゆるモノはその意思には抗えない。現代において、それを使えるヒトはこの世にただひとりだけのはずだった。だからこそ、その人物は封印指定を受けた。魔術師、ゴドーワード・メイデイ。玄霧皐月と呼ばれるその男だけが、その言語を話せたんだ」
玄霧皐月? それは僕の名だ。もちろん、封印指定なんて受けた記憶はない。
「ああ、君のことではないよ。同姓同名というやつだね。でも、君の場合は偶然の同姓同名じゃない」
そういって、コーヒーを啜る。
「君のお父さんの記憶はある?」
「……はい、おぼろげですが」
「どんな人だった?」
記憶をたどる。思い出せたのは、僕に統一言語を覚えさせる男の姿と、そしてそれを封印させた同じ男の姿だけだった。
「……わかりません。父は、僕にこの言葉を受け継がせた後、わざわざ封印して、どこかへ行ってしまいました」
「そっか、残念」
大して落ち込んだふうもなく、コーヒーを啜る蒼崎橙子。
「封印指定を逃れるためにそうしたのか、あるいは単純に、君にその素質があったから教えたのか」
ひとりごとのようだった。ふむ、と考えたあと、こちらに向き直る。
「お母さんのことは?」
「全く憶えていません。一度失った記憶は取り戻しましたが、母に関することは、何も」
「そうか……」
というと、彼女は僕の後ろに目をやった。
「お目覚めかな?」
後ろを振り向く。横たわったままだが、ひかりが目を開けていた。その目からは、また、涙が流れていた。
「ひかり」
そばに寄る。
「……ごめん、なさい」
「いいんだ。大丈夫?」
こくり、とうなずき、ひかりはコーヒーを啜る侵入者を見た。
「蒼崎、橙子さんですね」
「いかにも。あなたは堀田ひかりさんだったね」
「そうです。この町には、どういったご用件でいらしたんですか」
かちゃり、とコーヒーを置き、蒼崎橙子が僕に近寄ってきた。
「この子に用があったんだ」
そういって、いつかのひかりのように、ずい、とこちらに顔を寄せてじっと僕を見つめた。
「……なるほど。そういうことか」
得心がいったのか、またコーヒーカップへ戻る。
「なにが、ですか?」
「皐月くん、君の父親は封印指定の魔術師だった。ところが、彼が使えたのは神代の統一言語だけで、魔術はほぼ使えなかったらしい。その息子である君が魔術を使えるのなら、それは母親の魔術回路を受け継いだからのはずなんだ」
「母親……」
全く記憶に無い母親。遺品も、顔写真のようなものもなく、名前も知らない。
「本当に憶えていないようだね。うん、仕方ないな。だけど、君の回路を見る限り、とても優れた魔術師だったみたい。…良ければ、君の起源や属性を、教えてもらえないかな」
ひかりに目を向ける。彼女が軽く頷いたので、包み隠さず教えることにした。隠したところで、この魔術師の前では意味はないだろう。
「属性は火、特性は攻撃、起源は記憶です」
そういうと、彼女は興味深そうに頷いた。
「攻撃、か。それはきっと、君の父親の仕業だな。自分にできなかったことをさせたかったか、あるいは護身のためか。起源も、やはり父親の影響があるね」
「父の、起源?」
「そう。君の父、ゴドーワード・メイデイの起源は、「望郷」なんだよ」
望郷。
それは、ひかりが最初に、僕の起源だと思ったもの。
懐かしさ。暖かさ。ふるさと。
うまく言葉に表すことが出来ず、結局なんなのかわからなかった言葉。
「ひかり、半分当たってたんだね」
振り向き、彼女に話すと、はにかんだ笑顔が帰ってきた。
橙子さんが、コーヒーを飲みながら長々と話したことをまとめると。
彼女がこの町に来た最初の理由は、知人から玄霧皐月がこの町に潜伏しているらしいという情報をもらったから。でも、それだけでなぜ、封印指定を受けあちこちを転々としている彼女が、わざわざこの地を訪れたのか。それは、その男が既に他界していることを知っていたからだった。
他界したはずの魔術師が、日本で生きている。どうやら彼女の好奇心は、そのことだけで国を渡るほどの力があるらしい。
そうして、僕を見つけた。
橙子さんは、偽の情報を掴まされたと思ったらしい。なぜなら、彼女の見つけた玄霧皐月はまだ子供で、彼女の求める玄霧皐月はとっくにオジサンと呼べる年齢になっているはずだったからだ。珍しい名前ではあるが、単なる同姓同名であると思って、一度この地を去った。宿を借りた赤井家を気に入って、数年に一度恩返しを兼ねて魔術を教える約束をし、それ以外の目的でこの地を訪れることはなかった。
だが、今年に入って事態は変化した。
赤井家の一人娘、赤井美幸が、もっと高度な魔術を教えてくれと連絡を寄越したのだ。何故かと問うと、想い人の為だという。若い娘らしい理由でうんざりしたのだが、その想い人の名を聞き、気が変わった。
「それが君だったってわけだ、皐月くん」
五杯目のコーヒーを飲み干し、橙子さんが語りかける。
「それなら、赤井さんを止めてくれれば楽だったんですけど」
はあ、と溜息をつく。この一時間ちょっとで彼女の人となりがなんとなくわかった。
「だってあの子、ぎりぎりまで君の名前言わなかったのよ。仕掛ける前夜に「皐月くんを明日取り戻します」って、そこで初めて名前言ったの。で、超特急でココに来て、あの闘いを見届けたってワケ」
「じゃあ、なんであのとき、僕と会おうとはしなかったんですか」
「きみとひかりちゃん、仲良さそうだったからね。話聞くなら、ケンカしたときがチャンスかなって」
どうも彼女の根っこは性悪らしい。
「ま、それとあと、あのときはまだ統一言語使えてなかったから。これじゃ意味ないなーって」
「……それにしても、今日来るのは、反応とかフットワークが早すぎませんか」
「うちの弟子に、なんていうかな、発信機みたいなの持たせててね。あの子に何かあればここに来ようと思ってたの」
あのルーンか。弟子にひどいことをするものだ。師匠とはこんなものなのだろうか。
「ちなみにあの子なら無事だから、安心してね。ここに来る前にちょちょいっと解呪しといた」
「……ありがとう、ございます。でも、そんなに簡単でしたか、私の呪術」
ひかりが嬉しさ八割、悔しさ二割といった顔で尋ねる。
「あなたのあれ、気が乱れすぎだわ。もうちょっと集中してれば手こずったかもね」
へらへらと笑いながら言うが、ひかりの全力の呪術を、まるで子供のいたずらのような扱いをしている。
「……すごい、ですね」
つい、言葉が漏れる。
「あら、私としてはあなたのほうがすごいけどね、皐月くん。統一言語はてっきり一代限りの神秘かと思ってたのに、まさか継承者がいるなんて。でも、能力は落ちてるのかな?」
その言葉に頷きを返す。僕の言葉は父より劣っているようだった。言霊の効果は本当に一時的で、あまり強力な働きかけもできない。
「きっと魔術と平行して身につけた代償かな。推測だけど、君のお父さんは、魔術を使わないからこそ、統一言語の力を完全に引き出せた。君自身は、汎用性を高めるべく魔術を身に宿したからこそ、統一言語の力を落としてしまった。どっちがいいかは、まああなた次第ね」
六杯目のコーヒーを飲み干す。次を淹れる様子がない。橙子さんの話は終わりのようだ。
「しっかし、式と鮮花の話は本当ね。よく似てる」
ふと、変なことをいう。
「なんです?」
「ううん、こっちの話。気にしないで」
それだけ言って、腰を浮かせた。
「さて、それじゃ私は帰るとするかな」
それを。
「橙子さん。彼を、どうするんですか」
ひかりが、妙な言葉で止めた。
「……どうって?」
「彼の父親は、統一言語っていうのが話せるから、封印指定になったんでしょう。なら彼も」
そこまで言って、ひかりは言葉を止めた。橙子さんの雰囲気が変わっている。
「封印指定のこと、しっかり理解しているか? アレは一代限りの稀有な神秘に対してのものだ。皐月クンは父親の
口調が変わっていた。顔を見ると、さっきまでかけていた眼鏡を外している。
「もっとも、こちらから話す気もないが。そんなことをすれば私が捕まってしまうだろう」
「そう、ですか」
ひかりがほっと息を吐く。
「堀田の家は、魔術協会には入っていないんだろう。ならば隠しておいても文句を言われる筋合いはないはずだ」
「はい、ありがとうございます」
体を起こし、橙子さんに向かっておじぎをする。僕もそれに倣って礼をした。
「よせ、堅苦しい。日本人の悪い癖だな」
いつの間にかくわえていた煙草の煙を僕達にふっ、とかけながら言う。やっぱり性悪だ、このひとは。
「橙子さん」
「なんだ、皐月」
完全に変わってしまった口調。とても不思議だけれど、それは。
「今度この街に来る時は、僕達にも知らせてくれませんか」
それを訊くのは、又の機会に持ち越そう。
「いいだろう、君達が喧嘩別れしてなければな」
それだけ言って、魔法使いの姉は颯爽と去っていった。
「まさか、あんな人に会えるなんてね」
「うん、わたしもびっくり。……あ、その本は向こうの棚にお願い」
橙子さんが去った後、部屋を片付けようとするひかりを押しとどめ、代わりに僕が片付けることにした。ひかりは怪我をしているし、魔術回路もぼろぼろだった。
「見た感じだと、回路の数はひかりよりちょっと上くらいだったんだけど」
そういうと、ひかりも同意した。
「そうだね。でも、回路の質はとんでもなかった。すごく綺麗だった。きっと、魔力の扱いとか、わたしたちとは別次元なんだろうね」
「なるほど」
一冊一冊、本を確認しながら棚へ戻す。その作業を黙々と繰り返していると。
「ごめんね、わたし、めちゃくちゃだったね」
ぽつり、と彼女が言葉を漏らした。
「僕こそ。ちゃんと謝るべきだったんだ。ごめん」
数秒、空気が止まる。気まずさが澱のように、散らかった部屋に満ちる。
それを振り払うように、片付けを再開する。
「……それにしても、あなたはやっぱり凄かったんだね。お父さんが封印指定だなんて」
「そうらしいね」
まるで他人事である。実際、血のつながり以外は他人みたいなものだ。
「
「あ、今テキトーなこと言ったね」
「あはは」
明るく笑う。
心はもう、大丈夫らしい。
「…わたしが言えたことじゃないけど、これからも、赤井さんと、仲良くしてあげてね」
いつかの赤井さんと、同じ言葉。
「ありがとう」
同じように、感謝を返す。
「でも、わざわざこんな日にお食事してる皐月くんもわるいよ」
「うん?」
拗ねた彼女の声を聞き、日付を思い出す。時刻は既に零時を回っているが、さっきまでは。
「十二月二十三日。まだセーフだ」
「それがだめなのっ。ぎりぎりにそんなことしてほしくないっ」
ぷい、と顔を背ける恋する乙女。
「わかったよ、来年からは気をつけるから」
本を棚に戻していく。ひかりは顔をそむけたままだ。
「…………、あ」
ぼそり、と声が漏れる。
「皐月くん、外」
彼女が顔を背けた方向は窓だった。
「……雪?」
「うん、雪」
最近では珍しく、もう雪が降っている。
街の灯に照らされたその白は、天真爛漫に揺れ動き、ゆるやかに地面へ降りて行く。
「ひかり」
「うん?」
彼女が振り向く。
呪いが解け、元通りになった
僕の、愛するひと。
「……メリークリスマス」
少しでも
今はそれだけを心に、夜空を仰ぐ。
「うん、メリークリスマス」
彼女も同じ空を眺める。
それはまるで魔法のように。
ひとすじのひかりが、雲の合間を駆け抜けた。