迷宮の奥に潜むもの   作:無ーさん

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導入

あなたは一人、

暗い、暗い階段を降りていく。

 

視界は悪く、周囲はこの上ない暗闇に包まれている。

しかし不思議なことに、階段の次の段だけがあなたの視界にはっきりと映っていた。

 

音のない洞窟内に、階段を降りる足音だけが一定のリズムを刻み、響き渡る。

 

どうしてこんな所にきてしまったのか、あなたの頭の中に宿るのは後悔。そしてやり場のない怒り。色々な感情が合わさって、混ざり合い、溶ける。あの時、こうしていたらーーーそんな、あったかもしれない過去ばかりのことばかりを考えてしまう。

 

降りた先に

何があるかはあなたにも、きっとこの世の誰にもわからない。

 

あなたがわかるのは、

この階段の先にはきっといいことなんてないんだろうということ。ただ、それだけ。

しかし仮にこの先に何があるとわかっていても、あなたは戻れない。あなたには〝戻る″という選択肢は許されてはいない。あなたの体は、今、あなたのものではないのだから。

降りていく、降りていく。

暗き闇の底へと。

 

 

ーーー降り始めてどのくらい経ったのだろうか。

 

1分?1時間?1日?

わからない、わからない。あなたの頭の中はぼんやりとした黒い霞の様なものに覆われていて、普段通りに物事を考えることができない。時間という感覚を忘れそうになる。視界が、回る。歪む。揺れる。

しかしあなたの足だけは、あなたの意志を無視してしっかりとした足取りで、ひたすら長い階段を踏みしめていく。まるでそれが自分の足ではないかのように。

 

ーーーそしてあなたは、辿り着いてしまう。

 

そこに辿り着いたのと同時に、急に靄がかっていたあなたの意識がはっきりとしたものとなる。

 

そこは洞窟の最深部。

 

先程までとは違い、

青白い光が周りを照らしている。

あなたは無意識の内に、その間の中心から目を逸らす。中心にいるものは 〝見てはいけないもの″だとあなたの本能がひっきりなしに叫ぶ。

 

しかし、それは許されない。

まるで吸い込まれるように、あなたの目は、あなたの意志に反して中央へと視界を向ける。

 

そして、〝それ″を見てしまったあなたの顔が、恐怖に染まる。

 

そこにあったのは、巨大な、邪悪。この世のものとは思えない、吐き気を催すその姿。

 

精神が蝕まれていく音が確かにあなたの中に響き渡る。道徳、倫理感、あなたを積み上げてきた経験全てが目の前の存在を否定しようとしてーーーしかし目の前の圧倒的な邪悪を前に自らが今迄得た経験の方が、まやかしだったのではないか、そうすら考えてしまいそうになる。

 

上書きされる感情。

震えは、止まらない。

 

そんな混乱と狂気の最中にあるあなたの頭の中に、重く、深い、あるいは軽い、高い。どちらともとれるし、どちらともどれないような形容し難い〝声″が響く。

 

ーーーワレヲウケイレヨ。

 

有無を言わせない様な、その声。

 

あなたはたったそれだけで何故かその言葉の意味を正しく理解してしまう。突きつけられた選択肢。しかしその選択肢には答えなど、ない。どちらを選ぼうとも、最終的に到達する結果は同じ。過程が変わるだけ。

しかし、それでも尚あなたは恐怖に己の意志を折られる。目の前に座する異形の存在が、先程と全く同じ2度目となる〝声″を送ってくる。

 

ーーーワレヲウケイレヨ。

 

突きつけられた理不尽な選択肢を前に、あなたはーーーーー

 

 

■ □ ■ □ ■ □ ■

 

 

 

「うーん...」

 

エイナ・チュールは悩んでいた。

 

彼女を悩ましているのは目の前の彼女の手に握られた、1枚の紙。それはオラリオのダンジョンにおいて活躍する冒険者の最近の死者数と死因を簡単にまとめたものである。そういった情報をまとめることによってよく冒険者が死んでしまう場所や原因を知ることができ、それはこれからの冒険者の生存率にも繋げることができる。

 

エイナは、ギルド職員だ。

 

ギルド職員には、冒険者と肩を並べて彼らの冒険を手伝う力はない。冒険者が死のうが、死ぬまいが、ギルド職員に直接損害が出るわけではない。ギルド職員がどう動いたとして冒険者の死亡者数を0にすることはできない。

 

それでも、送りだした冒険者が、自らと少しでも話した冒険者が、死んでしまうのは悲しい。それでも、その数を0にはできなくとも、減らすことはできるかもしれない。

 

ならば、それはきっと無駄にはならない。

 

そんな風に冒険者の安全を献身的に考えるエイナだからこそ、目の前の資料の内容はあっさりと見過ごすことはできないものだった。

 

「なんで、こんなに...」

 

死者数が増えているのか。

 

冒険者の最近の死亡者数を記した資料。その資料が最近の死亡者数が前回まとめられたものの1.5倍に増加していることを単なる事実として、エイナに示していた。

 

最近のダンジョンに、

何が変化があったのだろうか。

そう思い、冒険者達に聞いてみるがどの冒険者も別段ダンジョンに変わったことは、ないという。

 

増えている死者の死因は皆確認できておらず、謎は深まるばかりだ。

 

「ほーんと、なんでなのかしら...」

 

エイナは目を伏せながらはぁ、と溜息をつく。

そんなエイナにかけられる声が1つあった。

 

「エイナさん、どうかしたんですか?溜息なんてついて。」

 

エイナが顔を上げると、そこには良く知った顔である冒険者のベル・クラネルがいた。白兎を思わせる容姿をしたベルは、心配そうにエイナを覗き込んでいた。

 

「ああ、なんでもないわ。

心配してくれてありがとう。」

 

「そうですか?

ならいいんですけど...」

 

エイナはなんでもない、

といったふうに笑顔を作り、ベルに心配させまいとなんでもないふうを装う。ベルもそんなエイナの様子見に少しの違和感を感じつつも、そういう時もたまにはあるだろう、そう考えて自分を納得させる。

 

「そんなことよりベルくん、

最近ダンジョンで何か変わったことはないかしら?」

 

エイナはそう、尋ねる。

 

「僕が見る限りはあまり変化はないように思います。といっても、僕がいっているのはまだ二階までなので、それより上の階のことはわからないですけど...ああ、そう言えば!」

 

「何?」

 

「最近神様が、ダンジョンから嫌な気配を感じるって言ってました!」

 

神がいう〝嫌な気配″

もしかすると、それがこの死者数増加の原因なのだろうか。調べなければならないことが、たくさんある。

 

(今日も帰りが遅くなりそうだなあ...)

 

そう思ってもそうしているのは私で、そんな風に誰かのために働くのも、私が好きでやっていることではあるんだけどね。)

 

エイナは自分が損をする性格だと自覚しつつも、そんな自分の性格が嫌いではなかった。

 

「そう...ありがとう、ベルくん。じゃあ怪我、あまりしない程度の範囲で頑張ってきてね!」

 

「はい、行ってきます、エイナさん!」

 

駆け出していくベルに、

見送るエイナ。

そのベルの背中を見ながら、エイナは、どうかベルくんが無事に帰って来ますように。と束の間の間、祈っていた。

 

ーーーーオラリオに住む人々は、この地に顕現した異形の存在をまだ、知らない。

 

 




登場させる神性は今の所1つだけの予定でいます。
冒険者を探求者に見立てて、
徐々に全貌を明らかにしていく、
そんな感じにできたらいいなあ。

いあ!いあ!クトゥルフ!
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