「ん、んんっ………?」
段々と意識がはっきりとしてきて視界が広がっていく。
目には光が、そして耳には美少女の声ーー
「おォ、起きたか三下ァ」
ーーではなく、一方通行の声が入ってくる。
理想と聞こえてきた声が大きくかけ離れていたからだろうか。
頭が痛い。
自慢のウニ頭を摩りながらゆっくりと起き上がった。
手をつけばジャリっとした感触と音。
………ジャリっ?
「こ、ここはどこだ!? インデックスは!?」
「気がつくのが遅せェンだよ」
呆れる声は一方通行のもの。
少し眉を釣り上げて、睨んでいるのかバカにしているのか分からない目でこちらを見ている。
そんな一方通行越しに先見える景色は一面荒地の広い広い大地だった。
確か俺、一方通行や浜面達とウチで飯食ってて……。
「しかしまァ、開口一番ガキの心配をする辺り三下らしいぜ。残念だがあのガキは見当たらねェ。が、バカならそこにいンぞ」
一方通行の指す通り反対側を見るとそこには浜面が横に倒れてのびていた。
一緒にウチに来ていて浜面の上に乗っているはずのフレメアもインデックス同様姿が見えない。
そして浜面の頬に乱入してきた麦野さんの飛び蹴りの跡がまだあるところを見ると今が夢じゃないことが分かる。
だとするとここは一体……?
「どこまで理解したのか知らねェが、とりあえずここは俺達がさっきまでいた場所じゃねェ。そこら辺を適当に歩いたりもしたけどな。ガキ達はいねェし、建物すら見当たらなかったよ」
「どういうことだよそれ……」
「俺が知るか。ンなことよりバカを起こせ。移動すンぞ」
「ここから動くのか?」
「当たり前だろォが。何もない以上移動しないことには何も分からないンだからよォ」
「それもそうだな……」
一方通行に促され、寝ている浜面の頬をぺちぺちと軽く叩く。
「…………zzz」
だけど起きる気配がない。
未だ規則良く寝息を立てる。
今度は少し強めに。
「………っ…zzz」
これでもダメだ。
若干反応したかと思ったが、まだまだらしい。
少し体を揺すってみるか。
「…………ん」
今度こそ反応あり。
起きたか?
「…………バニー…最高……zzz」
……………ふんっ!
ドスっ!
「痛っっっ!? 今の衝撃はなんだ!?また麦野か!? ってあれ?」
浜面の寝言がムカついたので思いっきり殴ってやった。
この野郎……!
どうせあのスタイル抜群のお姉さんか電波系彼女さんのバニー姿でも想像していたのだろう。
羨ましいやつだ。
スタイル抜群ののお姉さんの方は着てくれるか分からないが彼女さんの方だったら浜面はいつでも見れるのか。
殴られて起きた浜面はガバッと勢いよく起きると、まだ半分寝ぼけているのか四方八方をグルグルと見渡す。
「こここ、ここは何処だ!? つか、フレメアは!?」
「起きたかバカ面」
「どうでもいいけどフレメアをすぐに呼ぶのはどうかと思うぞ? 彼女さん可哀想だぞバカ面」
「起きたら呼び方が変わってる!?お前らまでバカ面呼びかよ!」
おおっ、弄ったら寝ぼけが治った。
寝ぼけがすっ飛ぶくらいにツッコミを入れるとは余程普段からバカ面と言われ続けているんだろうな。
「黙ってろ。不細工が移ンだろォが」
「そうですよ! どうせ俺なんて主人公補正かかってるあんたら2人に比べたら不細工ですよ!ま、俺は彼女いるけどな!」
「……一方通行。浜面をオブジェに出来るか?」
「余裕だ。俺を誰だと思ってるンだ?」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!謝るからチョーカーにかけた手を降ろして……?」
「お、おまっ……一方通行!お前チョーカーがないじゃないか!」
いつも首に付けているはずのチョーカーがない。
詳しいことは知らないがとある事件がきっかけで能力どころか自立で言葉すら話せなくなったらしく、その分の知能を御坂妹の力を借りて補っているとか。
そんな中継役を担うチョーカーは一方通行の生命線と言っても過言ではないはず、なのに。
「ン……? あァ、そうだな。テメェらが寝てる間に気づいたがねェんだよ」
「マジで!?これって来たんじゃない!?元スキルアウトの俺でも今の第一位になら楽勝じゃね!?」
『モヤシだし!』と歓喜しながら一方通行に殴りかかる浜面。
流石に俺も一方通行が危ないと思ったが、間に合いそうじゃない。
その辺の運動神経は流石スキルアウトにいただけのことはある。
がーー
「痛ぇぇ!?なんで!?なんで反射されてんの!?」
「おいおい浜面ァ? チョーカーがねェとは言ったが誰が能力まで使えねェなんて言った?」
「…………………」
後ろからでも浜面がとんでもない量の冷や汗をかいているのが分かる。
蛇に睨まれた蛙より立場関係酷いんじゃないか、これ?
ってことは一方通行のやつ……
「やっぱ制限なしで能力使えるってのは便利だよなァ?」
「…………ははは。そうですね一方通行様…」
「ンで?さっきテメェはなンて言ったよ? 俺にはモヤシって聞こえたンだが?」
「すいませんでしたぁぁ! 自分調子こいてまし!いや、マジで!許してください!ちょっとした出来心なんです!」
「ッチ。今回だけだぞ」
綺麗にスライディング土下座を決めた浜面に一方通行は面倒くらそすに頭を掻いて許した。
本当、こいつも丸くなったもんだ。
……それにしても今の浜面の土下座、綺麗だったな。
経験の差というやつだろうか。
俺もそういう機会は多いから今度是非とも教えてもらいたいものだ。
「ンじゃァ行くとするか」
「そうだな。ここが何処なのかはまだ分かってないんだし」
「なんだよ。分かってないのかよ」
「「黙ってろバカ面」」
「確かに俺が怒らせたけどさ、扱い酷くね……?」
特に問題はないはずだ。
絹旗さんの言葉を使わせてもらうのなら超浜面なのだから。
「おいおいあんたら!こんなところで何してんだ!」
「ここは俺達の縄張りってことを知ってんだろうな!?」
「勝手に歩いてんじゃねぇぞ!」
突然聞こえた声の先にいたのは無精髭を生やした男達。
手には刀のような物を持っている。
いつも路地裏でみかける絵に描いたような不良だ。
ただ絡まれてるのは女の子じゃなく俺達だけども。
「って刀!?あれ本物みたいにみえますけど!?」
「はしゃぐな三下。ちょっと黙ってろ」
よく見たらいつもの不良じゃねぇじゃん!
素手じゃねぇ!
いつもなら能力使えるやつが一人くらいいるからそれ打ち消してそげぶすればいいのに!
なんか皆武器持ってるし!
つか一方通行かっこいい!
ビビる俺を手で制して一方通行は前に出る。
キレている、というよりは面白そうな玩具を見つけたという感じがするが……。
「何を言うかと思えば、この俺様に命令か?」
「けっ! ひょろなが男が何を言う!女でもそんな華奢なやつおらんぞ!」
ガハハと豪快に笑い飛ばす男。
あ〜……これ地雷踏んだな……。
一方通行からドス黒いオーラが滲み出てる。
最近学園都市の方も魔術サイドも平和になったし、こんな一方通行も久々だ。
あいつらこそ相手を見極めるべきだったのに。
まぁそれ以前に言ってること典型的雑魚キャラ発言だけど。
「女より……か。お前、相当愉快なオブジェになりてェようだ」
「おぶじぇ……?何だそれは。まぁいい。お前達!あのガキ共を捕らえろ!」
「「「おうっ!」」」
「どどど、どうする大将!」
「どうするもこうするも上条さんは刀や銃には何も出来ませんよ!?消せるのは異能の力だけだし!」
えぇ、そうですよ。
どれだけ冷静な言葉並べててもいざ武器を持った輩が向かってきたら誰だってテンパるわ!
「俺だって無理だ!麦野倒したことはあるけどあれって正直一か八かの賭けだったし!」
だけどその辺は浜面も同じらしく俺より喧嘩は強い割りに戦う気ゼロだ。
「黙れって言っただろ無能力者共が。俺に任せとけ」
「「おお〜っ!!」」
そんな中で一方通行だけは違った。
学園都市第一位が盾になってくれるなんてこれほど頼もしいことがあるだろうか。
俺と浜面はささっと後ろに掃けて木の陰に隠れた。
「な、何だこいつ!?斬れないぞ!」
「それどころか跳ね返してくるぞ!?」
斬っても斬ってもただ立っているだけの一方通行に男達は慌てている。
そりゃ焦るよな。
普通に考えて斬れないなんてありえないもの。
未知の経験にも程がある。
けど相手が拳銃じゃなくてつくづくよかった。
拳銃だったら確実に反射で一発で脳にズドーンだろうから。
一方通行は暫く黙って立っていたが、その内一つの刀を掴んで口を開いた。
「ここってお前らの管轄って言ったか?だったら俺に喧嘩売ってきたんだ。多少破壊しちまっても問題ねェってことだよなァ?」
手に力を込めると握っている刀が押しつぶされて変形した。
エグい……!
あれはエグいぞ!?
どんな圧力かけたらそんな変形の仕方するんだよ!?
潰された刀の持ち主も見たことないような刀の姿に怖気づいて腰抜かしてるし。
「ちょっと破壊って能力使うってことか?」
「じゃないか?攻撃仕掛けていくって意味だろ」
浜面の質問に答える。
うわぁ……。
そうだ……。
まだ一方通行は攻撃してないじゃないか……。
一方通行の腕力は浜面の二分の一らしいからベクトルパンチくらいなら相手も死なないだろうが……圧縮空気砲だと死ぬぞ……確実に。
「なら大将、こっちに影響きたらその右手でよろしくな」
「はいはい。というか俺だって向こうには死んで欲しくないし、ベクトルパンチ以外を出そうもんなら助けに行きますよ」
「その辺はどこまでいっても大将なんだな」
「上条さんのアイデンティティですから」
「君達何してるの?」
「一方通行の戦い見守ってるんだ」
「相手は多分盗賊だろうな。なんか柄悪いし」
「それ、君が言えることじゃないと思うけど」
「ははっ!浜面女の子に言われてやんの!」
「「…………女の子?」」
途中見知らぬ声と会話していることに気がつき、声の主を見る。
赤メガネを掛け、キリッとした目つき。
知的お姉さんを思わせるが背は低くどちらかと言うと子供っぽい。
更に目をひくのはその格好だろう。
何やら見たことのない変わった帽子をかぶっていて、スカートはこれでもかというほど短い。
ビリビリは中に短パンを履いていたが、この子はそうじゃないらしく、黒のニーソを履いている。
それらを際立たせる黒のロングブーツがどことなくエロく感じるのは俺だけだろうか。
「うおっ!?こんなところに女の子!?」
「マジ!?危なくない!?どこか避難させるか!?」
目の前の子がどれだけ可愛かろうが、エロかろうが今は気にしている場合ではない。
もしかすると一方通行がこっちにまで影響を出すかもしれないほどの能力を使わんとしているのだ。
おどおどする俺と浜面を他所に女の子はきょとんと首を傾げて何を言ってるんだといった目で俺達に告げた。
「君達を不審者と認定し連行するよ。連れていって」
「「「はっ!」」」
「え、ちょっと!?不審者ってどういうことですか!?」
「なんか気がついたらゴツイのが周りにいたし!ヤバいって!これ逃げられないぜ!?」
別に女の子が可愛かったら気をとられていたわけではないが(本当に、断じてだ)、気づいた時には男達に腕を抑えられていた。
脱走を試みようともがいてみるものの、その効果は全くない。
ギャーギャー喚くだけ喚き、その声に一方通行が反応した。
「何やってンだお前ら?遊ンでる暇はねェンだぞ?」
「これのどこが遊んでるように見えるんだよ!捕まったんだよ!助けてくれ!」
「一方通行だけが頼りだ!早くこっちにきて……痛ぃぃぃ!? 腕を捻るなって!これ以上はマズ……い……!」
「城の人間だ!お前達逃げるぞ!」
蜘蛛の巣を散らすようにして男達が逃げ去る。
あ、あいつら……!
自分達だけ逃げやがった!
つかおかしい!
俺たちが襲われてたはずなのに俺たちが捕まってるなんて!
「チッ……。折角久しぶりに本気出せるチャンスだったってのによォ。逃したじゃねェか」
「一方通行さ〜ん!? 能力使っていいですよ!?だから俺達助けましょうよ!?」
「あァ? 何言ってンだ三下。ここは大人しくついていくに決まってンだろォが」
「抵抗しないということだな」
「当たり前だっての。面倒ごとは極力したくない主義なンでな」
「ならばついてこい」
俺達の願い虚しく一方通行は自分からついていくと言う。
どういった意図なのか分からない。
もしかすると隙を狙って俺達の休出を……?
「安心しろ三下、浜面。俺に今のお前らを助ける気はサラサラねェ。大人しく引きずられていけ」
「そんな殺生な!」
「俺たちを見捨てるのか!?」
「違ェよ。あぁ、だけど三下」
「な、なんだ!?」
「俺の腕力は浜面の二分の一なンかじゃねェよ」
「地文へのツッコミ!?というか遅っ!! もしかしてそれで怒ってたすけないんですか!?」
「……ノーコメントだ」
「お前達!余計な話をしないでこい!」
「「ふ、不幸だぁぁぁぁーーー!!」」
阿鼻叫喚。
広い荒地に俺と浜面の叫び声が響き渡った。