地面を力強く蹴り、優雅に地を駆け回る馬。
天才ジョッキーの如く腰を低く落とし、手綱両手にしっかりとその馬を操るのは浜面。
ビシビシと手綱で鞭を入れながら馬の速度はグングン上昇しながらも、バランスを崩すことなく安定させて走っている。
そんな浜面にいつものレベル0の面影はなく、一人の男としての顔だった。
その一方で俺はーー
「ほら! しっかり腰いれな扱いきらんで!」
「その程度じゃ戦場に出ても何もできないぞ!」
「そんなこと言われても上条さんは乗馬なんてしたことないんです! ちょ、待って!おわっ!?」
「おいおい大将。これくらい出来るだろ」
「逆になんでお前はそんなに乗りこなせてるんだ!?」
まぁ無残なほどの罵声を浴びていた。
軍議の直後、俺と浜面再び外に連れられて乗馬の練習を張遼と華雄が指導の元、行った。
なんでも、俺達にも前線で戦ってもらう以上最低限必要らしい。
しかしこれか相当難しくて。
歩く程度ならギリギリ出来るんだが、少し走り始めるとバランスか取れなくてもう既に何回か落馬している。
しかし浜面は、だ。
華雄曰く『まだまだ合格点はやれないものの、初めてにしてはかなり上手い』と言われるほどに馬を乗りこなしていた。
いや、あれで合格点もらえないなんてどれだけ厳しいんですか華雄さん……。
「スキルアウトの時からピッキングした車は車種問わず乗ってるからな。馬は機械じゃない分乗りにくいけど、慣れると1500ccバイクみたいなもんだ」
「なんで犯罪絡んだ答えなんだよ!それ以前に1500ccって大型でもかなりデカイじゃないかよ!」
確か原付で50ccだから1500ccとなると………ダメだ。
デカすぎる。
確実に五和と二人乗りした時のバイクよりデカい。
あれだってサイドカーつけれるサイズだったってのに……。
少なくともレンタルにはない大きさだろ……。
アメリカ産とかのじゃないとないんじゃないのか?
「だいたい浜面って免許持ってたっけ?」
「大将、必要なのはカードじゃない、技術だ」
「かっこいいこと言った風にするな! 大型なんて初乗りじゃどうにもならないだろ!?」
「いや〜、スキルアウトの時とかアイテム時代はあーだこーだ言ってる間に殺されるからな。大型どころかクレーン車やらダンプやらとにかくあれば乗ってたし」
コア過ぎるだろ。
なんで工事現場でしか使えないような、しかも別で特殊免許必要な車種まで運転してんだよ。
あれって車知ってる人でも運転が大変で出来ない人が多いんじゃなかったか?
エンジンだって大きくなればなるほどキー使ってもかかりにくいだろうし、それをピッキングでやってんだよな?
一般的な高校生が出来るようなことじゃねぇぞそれ。
過去を思い出すかのようにうんうんと頷きながらしみじみと語る浜面を見てそう思う。
「浜面。その『ばいく』というのは何だ?」
「簡単に言えば生きてない馬みたいなもんだ」
「生きてない馬? それだと動けないだろ」
「動くんだよ、それが。自動でな」
「お前達の元いた場所は不思議なところだな」
「まぁな」
おい浜面。
華雄に嘘教えてんじゃねぇぞ。
絶対にバイクと馬は違うだろ。
そりゃどう説明するかって言われたら何とも言えないが、同じなのは跨るってことろだけじゃないかよ。
自慢気にしている浜面見てそう言いたかったが、実際バイクを運転したことがないので堂々と言えない。
それに今の俺は馬にも乗りこなせてないから実質両方乗った感覚が分からないからな……。
五和が来ていた時にバイクの乗り方くらいは習っていればよかった……。
「せやけど意外やな〜。浜面、筋は相当いいで。こんなに才能あるやつもあんまおらんわ」
「へへっ。俺だってやる時はやるんだよ。あ〜あ、これ一方通行にも見せてやりたいぜ」
「あいつは今賈詡や陳宮と作戦会議だからな。というかあいつの場合ベクトル使えば馬より速く移動出来るから自慢できないだろ」
「くっ……。このありふれた才能も第一位の目の前には敵わないのか……!」
「あ〜、なんか無償に右手を使いたくなった」
「冗談だ大将」
くそっ……。
今に見てろよ……。
俺だってすぐに乗りこなしてやるんだからな!
絶対浜面には負けない!
このままだと俺の有用性ゼロじゃねぇか。
あれだけ協力するなんて言った手前ただのお荷物はゴメンだ。
迷惑かけない程度に最低限のことは出来るようにならなければ……。
「ほな、日が落ちる前に終わりにしよか。練習はまた明日な」
「そうだな。そうしよう」
「もうそんな時間か……。せっかく意気込んだのに……」
不幸だ……。
普通なら日が沈むまで練習しよう!となってもおかしくないのだが、ここはあくまで三国志のーー過去の世界だ。
日が沈めばもう寝るくらいしかすることがなく、それまでにご飯や水浴びを済ませなくてはいけない。
と、さっき一方通行に言われたのだが、まさかここまで早いとは……。
まだ練習はしたいが、ささっと片付けを済ませて馬小屋に戻る準備をし、先程まで俺を背に乗せて暴れまわっていた馬の手綱を引いて渋々張遼達についていく。
「はぁ……なんでこいつは歩いてりゃ穏やかなのに俺が乗ると暴れ出すんだ……?」
「動物って人間よりも第六感が敏感って言うからな。大将から不幸オーラを感じとってるのかもしれないぜ?」
「不幸だ……」
割とマジな意見を告げてくれた浜面だがいいありがた迷惑だ。
こっちはその可能性を考えまいとしてたのに……。
やはり異空間を飛び越えてもこの右手は俺から幸福を吸い取っているのか……。
考えてみれば魔術に関わり始めてからはこの右手が最大限に力を発揮したわけだが、過去同様にその力を使う場面なく、ただ俺に不幸をもたらすだけとなると厄介以外の何物でもない。
まぁ普段から慣れている分耐性はあるものの、遭っていい気分になるものではないよな、不幸って。
……戦でこの不幸が発揮されなければいいけど。
「どうしたん、そんなに自分の右手ばっかりみて」
「色々思うことがあってな……」
「何を落ち込んどんねん。そないしよったら幸福が抜けていくで」
「……………」
「おうっ!?なんか知らんけど上条が更に落ち込んだ!?」
「あまり触れないでやってくれ張遼。今の言葉は大将の胸に深く突き刺さったよ。かなりの追い討ちだった」
「ええっ!?今ウチなんか悪いこと言った!?」
「ハハハ……。ドウセカミジョウサンナンテタダノフコウノカタマリデスヨ……」
そうか……。
もはや今の俺には幸福が残る要素がないってことだな……。
あぁ……鬱だ、死のう。
「何で虚ろな目で馬に乗りよんねん!? どこ行くつもりや!」
「やめろ張遼。ここは大将の思うままに逝かせてやれ」
「字がおかしないか!? そうやったら尚更止めなアカンやろ!?」
「分かってるよ。冗談言ってみただけだ。お〜い大将〜。早く降りろ。それ以上やっても面白くないぞ」
「浜面が気づいてるなんて……。少しくらい騙されろっての」
演技力ないのかな、俺って。
悪ノリが過ぎたが、浜面のいう通りバレた以上やっても意味がないので馬から降りた。
走る気満々だった馬の荒ぶる鼻息を抑えるため軽く背中を撫でると少しずつ落ち着いていく。
乗ってる時もこれくらい楽に扱えたらいいのによ。
「なんや嘘かいな……。焦らせんといて……。というか華雄ちんはようそんな冷静になっとられるなぁ……」
「戯言につきあう暇はないんだ。上条が一人勝手にどこに行こうが好きにさせろ。私達が頼りたいのは一方通行の妖術だけだ」
「うわぁ……凄く冷静な意見……」
「実際そんなもんだろ。俺達がすぐに活躍出来るような場所じゃないって」
「当たり前だ。戦を甘く見るな。馬術があの程度なら剣術も底が知れている。賈詡や陳宮のように智謀が長けているようでもないみたいだしな」
それはまた的確なご意見を。
まぁ特別扱いされて戦場に放り出されるよりいいけど。
俺たちだってそう簡単に参加させてもらえるものじゃないことくらい重々承知の上である。
ぽっと出の素人が何千何万もの数の人を扱える訳がない。
とはいえ、少しくらいは役に立ちたいって想いはあるけどな。
「そうか? うちはむしろこの二人に期待してるで」
「お世話はいいって張遼。今回そんな余裕はないんだろ?」
「お世話やないって。一方通行も言ってたで。あいつらは仲間を裏切るようなことはせぇへん。それどころか絶対に自分より仲間を優先するやつやって言いよった。このご時世そんな風に言われるなんて凄いことやで。珍しいわ」
日頃からあいつに言われてることだ。
いつもは皮肉でしか言われないが、こう言われるとなんだか照れくさいな……。
って、考えたらそういうあいつも自分より他人の方を優先してんじゃねぇか。
基本的に今の一方通行は打ち止めを中心に回ってる。
打ち止めがいなかったら第三次世界大戦に混じったりしてないだろうし。
打ち止めの前では最強で居続けないといけない、とか言ってたくせによ。
よく言うぜ。
「ふん。本当にそうなら認めよう」
「ほら、意地張るのはよくないで華雄ちん。華雄ちんはいざ戦となると我のことで突っ走ることろを直さなあかんのやから」
「別に私は一人で突っ走るようなことはしていない!」
「しとる。この間かてあの武将と手合わせしたい!とか言って陣放りだして行ったやろ」
「武将として強き者と闘いたくなるのは当然のことだ」
「その気持ちは分からんでもないけど困るんやて。指揮官が突然おらんことなって部隊の皆あわあわしよったで。華雄ちんはうちの陣で頼りにされとる分、抜けたら穴はデカいんや」
「うっ……。以後気をつける……」
張遼よりも身長の高い華雄ではあるが、なんだか張遼の方が妹想いの姉に見える。
張遼のやつ、人を扱うのが上手いな。
きっちり指摘しながら尚且つ相手が落ち込まないようにフォローもいれて。
俺達へのフォローも本心かどうか分からないが、タイミングがいい分、そんなの気にせずについていきたくなる人徳だ。
「ん?どないしたん? うちの顔になんかついとる?」
「いやいや。ただお前って凄いやつだなって思っただけだよ」
「うちが? ないない。ここにはうちなんかより凄い人たくさんおるって」
「謙遜するなって。ほんと、尊敬するよ」
「な、なんや……。こそばゆいな……。あんまうちってそういうの言われんから恥ずかしいやないの……」
さっきまでの笑顔とは一変、いつか見たビリビリのように顔を赤くして顔を背ける。
ははっ。
天下の有名武将も褒められるのには慣れてないってか。
「は、はよ帰るで! 腹減ったわ!飯や飯!」
「おう、 そうだな!」
照れ隠しからか誤魔化すように声を張って前を言った張遼の後ろ姿は、武将というよりも元気な、普通の女の子のようだった。