とある魔術と恋姫†無双   作:近衛龍一

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浜面、パシリ癖が抜けないのこと

夕飯は董卓の提案で親睦会を兼ねて皆で一緒に食べようということになった。

少し時間がかかるということだったので先に水浴びを済ませたのだが、これが意外とキツかった。

日が落ちてないというのに寒いのだ。

今の季節が冬という程でもないところがまた怖い。

浴びるのは当然水であるから、冬場は確実に死ぬだろ、これ。

とまぁそんな感じにこの先の問題やら何やらが浮上してきた水浴びだったわけだが、それ以上の問題が俺に発生していた。

 

「こ、これお前の分だ……っ」

「………」

「そっちに回してくれ……っ」

「………」

「ほい大将……っ……ぶはっ!やっぱ無理!我慢できねぇ!」

「こ、こらあかんで! そんな笑うのは失礼やて……ぷっ!」

「………………クフッ!」

「テメェら笑うならさっさと笑えよ! そうだよ! ワックスないから髪ペチャンコだよ!悪いか!?」

「わ、わっくすがどんなものか知らんけど、上条はん髪は地やなかったんやな!」

 

そう。

水を浴びればワックスが落ちる。

ワックスが落ちれば俺の自慢のツンツンヘアも崩れてしまう。

上がった後に部屋にやって来たら、皆俺の頭を見た瞬間に笑いを堪えやがった。

そして今、浜面が笑ったのを起爆剤に皆が一斉に笑い始めたのだ。

大きくではないが、あの一方通行でさえクククと笑っているのである。

そんなに可笑しいか……?

 

「大体張遼の貸してくれた馬油がいけないんだぞ!?めちゃくちゃ髪がさらさらになったじゃねぇかよ!」

「いいことやないの。うちはそのツンツンのままでさらさらになると思ってたんやけど」

「なるかよ!」

 

目尻に涙を浮かべた張遼が悪びれる様子なく言う。

そりゃあワックス知らないから俺も悪いかもしれないけどよ。

はぁ……。

当分の間髪はペチャンコのままか……。

上条さんの数少ないアイデンティティが……。

不幸だ……。

どこにいっても絶好調な右手が次々に力を発揮している。

 

「まァすぐに慣れンだろ。どうせそのままなンだろォし」

「慣れるの待ちか〜。何回笑えばいいんだろ」

「出来れば我慢しろよ!」

「無理無理。お前は一方通行の金髪見て笑いを我慢出来るか?」

「そんなに変なの俺!?」

「分かった。テメェらよっぽど愉快なオブジェになりてェンだな。そこに正座しやがれ」

「なんで俺まで!?」

 

不幸だ……。

 

 

 

〜ただいま正座&お仕置き中〜

 

 

 

 

「痛〜……。ベクトルデコピン痛すぎるだろ……」

「なんか脳に響く……。頭蓋骨割れてるんじゃないのかこれ……?」

 

お仕置きはベクトルデコピンということで刑を執行されたわけだが、尋常ではない痛さだ。

多分自分に帰ってくる痛みの反射だけじゃなくプラスα力を付加してデコピンしたはずだ。

音が普通のデコピンの音じゃなかったし。

まぁとりあえずその人外デコピンを引き換えにお許しを得た(俺としては何故お許しを乞う必要があったのか理解不明だが)ので、董卓達が用意してくれた晩御飯にありつくことにした。

めのまえに広がる料理はとても手の込んだものが目に見えて分かり、ガスレンジやらオーブンやらないこの時代には作るのが大変そうなものばかりだ。

しかもそれ以前に俺はこんなにもたくさんのご馳走が並んでいることに感動しているわけで。

ここにくる前ーーとはいえ昨日までのことだが、俺の食生活は酷かったからな……。

大食いシスターインデックスの底なし腹を満たすためには上条家の財政力じゃ足りなくて。

それでもあれこれ工夫して財布が火車になりながらもインデックスを養っていたのが二週間ほど前までのことだ。

表面上かもしれないが世界平和が訪れたためか、インデックスが必要悪の協会が一時引き取ると言い出したことでイギリスに帰っていってから一見余裕が出来たと思いきや大間違い。

次の支給まで日が空いていて、圧迫されたままだった俺は相変わらずのひもじい生活を送っていた。

そんな上条さんにしてみれば魚や肉の料理は久々のまともな食事なのです。

 

「今回は私達と一方通行さんたちの協定締結にあたってーー」

 

今は前で杯を持った董卓が祝辞を並べ、戦に向けての心意気を語っているところだ。

集まっている軍の武将、及び各部隊の統括リーダーが集まっている中で、頭領の言葉を皆真面目に聞いているのかといえばそうではない。

真面目に聞いているのはおそらく賈詡だけ。

呂布や陳宮、浜面は料理に釘付け。

華雄も酒に目がいっているのが分かる。

一方通行は面倒くさそうにアクビしているが。

各部隊のやつらは目を董卓に向けてはいるものの、話を聞いているというよりは董卓に見惚れていると言った方が正しいだろう。

董卓は保護欲をかきたてるような可愛さだからきっと軍のアイドルなんだろうな。

 

「腹減った〜」

「もう少し待ちーな。気持ちは分からんでもないけど」

「つか、こんなに話を真面目に聞かなくていいのか?」

「いいよ。董卓ちゃんも分かっとる。これは形式上や。毎回言っとることは変わらん。せやけどやらな仕方ないんや」

「一応王室だからか。大変だな」

「いいんちゃう? あんな風に董卓ちゃんの話すところ見て癒されとるやつもおるわけやし」

「不思議だよな。あんな子が軍を纏めてるのにどこか統率力が凄いなんて」

「あの子やからや。噂ではこの軍のやつらは戦で董卓ちゃんにいいとこ見せようと奮闘しているやつが多いらしいで。それにあの子、戦が終わる度に兵士皆に声かけて癒して、そしたら皆また次も頑張ろうってなるんや」

「へぇ。それはそれで凄いな」

 

わざわざ皆に声を掛けるのか。

兵士の人数なんて半端じゃない数であろうというのに。

そりゃ、やる気出るよな。

 

「ーーというわけで皆さん、食事を思う存分楽しんで下さい」

「「「いただきます!!!!」」」

 

なんて、張遼から董卓の話を聞いている内に董卓の話が終わり、食事が始まった。

大きな声を合図に皆一斉に目の前のご馳走に飛びつく。

 

「美味っ! この煮付け最高だ!」

「……………(ガツガツ)」

「ふむ、やはり練習後の酒は最高だ」

 

「始まったな〜」

「せやな。上条はんも食べーな」

「おう。じゃあ早速野菜炒めでも……」

「お酒、注ぎましょうか?」

 

野菜炒めが乗った大皿に手を伸ばしていると、後ろから酒瓶が現れた。

振り返ると、董卓が酒瓶を持って立っていた。

 

「あ〜俺、酒飲めないんだ」

「そうですか……」

「悪いな」

 

せっかく持ってきてくれたのに申し訳なくなって、董卓の頭をクシャクシャと撫でてやると嬉しそうに目を細める。

 

「ではお茶をお持ちしますね」

「あぁ、それじゃ頼もうかごふっ!?」

「ちょっと月! なんであんたがそんなことやってるの!?そういうのは侍女に任せなさいっていつも言ってるでしょ!」

「あぅ…。でも私にできる事は自分でしようって……」

「それは月のすることじゃないの! まったく……。あんたもあんたで普通軍の頭にお茶なんて頼む?」

「い、いや……だってせっかくのご厚意を無駄にするわけにはいかないかと……」

「それに月の頭撫でてた」

「ダメだったか?」

「男が気軽に月に触らないで」

「す、すまん……」

「い、いいよ詠ちゃん。私が悪かったんだから……」

「月がそんなのだからダメなんでしょ? 領主なんだからもっとビシッとして」

「そうは言っても慣れないし……」

「はぁ……一日二日の話じゃないのに……」

 

この既視感。

エリザードの時に似ている。

側近が主にトップとして相応しい行動を望んでいる点だ。

だけどエリザードの時は付きの人に同情したのに、こっちだと董卓に同情するんだよな。

 

「とりあえずあんたにはお茶を運ぶようにボクが侍女に言っておくから」

「お、おう。悪いな」

「ほら、月は玉座に戻って」

「あぅ……」

 

はは……。

董卓も苦労すんな……。

何かしていないと落ち着かない性分なのか、董卓は残念そうにトボトボと玉座に戻って行った。

その様子に張遼も苦笑する。

 

「しゃーないなぁ……。領主がお茶注ぎはちょっと頂けんし……」

 

これは浜面と逆だな。

あいつはアイテムの集まりでドリンクバー往復係って言ってたし。

きっとあいつからしてみればそんな董卓の望みは相当羨ましいはずーー

 

『え? ここドリンクバー的なものないの? いやいや! お茶注いできてもらうなんて出来るかよ! 落ち着かないっての! 自分でやる! あ、呂布と陳宮は何か飲みてーもんあるか?』

『……酒』

『ねねも同じものをお願いしますぞ』

『呂布は分かんねーけど陳宮って未成年だよな……?』

 

ーーでもないのか。

人間、慣れとは恐ろしい。

 

「浜面、俺にもお茶、よろしくな」

「俺もだァ」

「お前らは自分でいけよ!?」

 

 

 

 

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