少女少年 ~シンデレラガールズ~   作:黒ウサギ

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居酒屋の方の番外編に載せる予定でしたが、番外編多すぎてこれもうわかんねぇなってことで新しく投稿させていただきます。タグにもありますが、ご都合主義、原作微改変などありますので苦手な方は戻る推奨です


少女少年は星になる

 

 

 小さなステージに立つ彼女を初めて見たのは、中学の三年、桜が散り夏に向けて気温が高まるころだった。

 

 あばら家と比喩されるこの舞台に、何故彼女ほどの女性が歌っているのかと不思議で仕方なかった。そんな風に思わせるほど、彼女は綺麗で、空に輝く一番星の様に眩しかった。

 永遠に続くかと思っていた舞台は、終わりを告げて、ライブに参加した少数のファンと彼女は撮影をするみたいだった。私もそれに参加するため集まり、運が良かったのか彼女の隣に立つことができた。

 目を奪われるとはまさにこのことだろう。ふんわりと広がるようなボブカット、左目にある泣き黒子、左右で色の違う透き通るような瞳。私と並ぶような女性としては長身な彼女と、肩を並べ写真に写るという現実がとても嬉しかった。

 

 楽しい時間はあっという間に過ぎ去って、気が付けば私は現像された写真片手に外に立っていた。素晴らしく、忘れられない、一生の思い出になったと言える今回のライブ。

 

--私も、あんな風に輝いてみたい・・・

 

 そんな気持ちが生まれたのは、不思議な事ではないのかもしれない。スターになりたい、彼女のように輝きたい。

 居ても立っても居られず、その場から走り出し帰路につく。

 

(歌いたい!)

 

 初ライブを乗り越えた彼女のように歌いたい

 

(伝えたい!)

 

 初ライブで完璧なまでに人を惹き付けた彼女のように

 

「やるぞー!!!」

 

 叫びながら走り続け、頭の中では歌詞を考えながら、10分程。家に着く

 

 

 

「ただいま」

 

 帰宅の言葉を告げるが、返事は帰ってこない。当然であるが少し寂しかった。リビングの照明を付けて、放り出されていたノートに文章を書き綴る。

 カリカリと集中して書いているうちにふと気が付いてしまった。歌詞が出来ても、音源が無い

 

「アカペラ・・・だったかな、それでもいいや!」

 

 音は自分の声だけでも十分!希望的観測に過ぎないが、だからと言って音源を誰かに作ってもらう宛もない。幸いなのかわからないが、声変りはまだ来ない。中性的な声、ハスキーボイスと例えられた声で勝負するのも楽しいじゃないか。

 

「ダンスは・・・無理だろうなぁ・・・。」

 

 運動神経が悪いわけではないが、いかんせん振付を考えれるほど多才ではない。

 

「何処で歌うのが良いんだろ・・・」

 

 だいぶ昔の話になるが、現在は路上ライブも認められており、業界にデビューを夢見る少年少女が昼夜問わずに歌い続けているのをよく見る。だから自分も何処かの路上で、尚且つ人通りの多い場所で歌いたい。となると場所は一つしかない。学校に近いのが少し問題であるが、何処かの事務所が近くにあると聞いたこともあるしそこにしようと思う。ただ、そこでまた別の問題が浮上する。同級生にこの事を知られる事である。虐められている訳では無いが、もしも知られでもしたらからかわれることは避けられないだろう

 

「そうだ、着ぐるみ作ろう」

 

 着ぐるみを着て顔まですっぽりと隠せばばれることは無いだろう。念のためにどこかのトイレとかで着替えてから歌えば完璧である。

 

「いいぞいいぞ、楽しくなってきたぞ!」

 

 その日は、ライブの興奮も冷めなかったからなのか、夜が明けるまでひたすらペンを走らせていた

 

 

 

 

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 高垣楓という、憧れの存在に出会ってから一年ほど経過した。最近では彼女はTVに出るようにもなり、多くの雑誌にも特集として掲載されることが増えていった。それによりクラスメイトや世間が高垣楓について当然のように語りだすのが少しだけムッと来た。子供っぽいかもしれないけど、彼女のスタートに立ち会ってないのによく知ったように口が利けるものだと。そんな風に考えもしたが、そもそも自身もあのライブ以来彼女の舞台を見る事すら叶っていないのだから何も言えない。

 

 そんな事はさておき、私が路上で歌い始めて2週間が経過した。『ぴにゃこら太』が歌っていると話題になったらしく、私が路上にその姿で現れるたびに人が立ち止まっていく。歌を聴いているのかこの姿を見ているのか、どちらなのかわからないが一先ずは歌を聴くためだと思って自信を付けたいと思う

 

「あのぴにゃの中身って男なのか、女なのかどっちだと思う?」

 

「声からして女じゃないの?そもそも着ぐるみ着てるから判別要素が声しかないしな・・・」

 

 同級生がそんな会話をしている時に、心の中では私ですよ!と叫んでいる。だけどあまり目立ちたくも無いので、黙ったままその会話を聞き続ける。こうした身近な評価が、私の成長に繋がるからだ

 

「音楽は無いけど、歌は上手いから見かけると立ち止まっちゃうんだよな・・・」

 

「わかる。無性に人を引き付ける感じがするんだよな、あの声」

 

 ありがとうございます!嬉しさのあまり立ち上がってそのまま手を取りに行くところだったが、立ち上がった所で固まる。そんな事をしたら向こうは何も知らないのだから、行動だけ見たらただの変態である。立ち上がった事でクラスメイトの視線を集めてしまい、無性に恥ずかしくなり少し駆け足で教室を出る。

 

 向かった先は屋上、私が入学した高校では屋上が解放されており、昼食時には景色の良いベンチを巡って場所取りが行われたりする。放課後となった今ではそんな事も無く、現在は私一人だけ屋上にいる

 

(今なら、少しだけ声出しても良いよね・・・)

 

 もう一度、周囲に人がいないのを確認してから歌いだす。今歌っているのは既存の曲である。765プロから発表された『Ready!』という曲を、高らかに歌いだす。

 最後まで歌い切り、達成感と充実した気持ちを味わっていると拍手が鳴り響いた。

 

「あ、ごめん。盗み聞きとかするつもりじゃなかったんだけど、綺麗な歌声が聞こえてきたから遂拍手しちゃって・・・」

 

 屋上に続く扉に立っていたのは、クラスメイトの一人だった。名前は聞いたはずなのだが、思い出せない。

 歌を聞かれた事に、何故か血の気が引いていく。基本的には着ぐるみ越しに歌を伝えていたために、こうして素顔を見られた状況で歌うことには慣れていないのだ。

 扉の前に立つ彼女から逃れるように立ち去る。去り際に見えた彼女の顔は、隣の席の人だった。

 

 

 

 

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 今日も今日とて路上でぴにゃこら太でライブである。ここ最近、段々と立ち止まる人が増えてきており、握手を求められたり写真を求められたりとてんやわんやしていた。まるで何処かのゆるキャラみたいだと少し苦笑してしまう。 

 しかし最近の小さな子供は危険である。ぴにゃこら太は割と有名なキャラクターであるため、こうして子供たちが「ぐさーっ!」とか「短剣、短剣!」とか言いながら襲い掛かってくる。見た目で一目惚れしてこの着ぐるみを作って今まで使用してきたのだが、控えた方が良いのかもしれない・・・。

 

「疲れたけど、楽しかった~・・・」

 

 また、そんな事が起きるようになってからは自宅まで着ぐるみのまま帰る事にしている。以前トイレで着替えて出てきたところを子供たちに待ち伏せされて、その日はひたすら遊び相手になってしまったからだ。変な噂が立たないように、一応は周囲を確認してから家に入っているので大丈夫だと思う。

 ただ、こうして路上ライブに充実感を得ている自分に、少しだけ危機感を感じてしまう。そもそもこうして歌いだしたのは自分も光り輝く存在になりたいと思ったからだ。だからこそ着ぐるみを着て歌うことで、声を掛けられるのを待っているのだが、一向にそんな事が起きる気配はない。何処か悪いところでもあるのだろうか・・・。そう思いながら、PCの電源を付けてネットで『ぴにゃこら太 路上』で検索を掛けてみる。誹謗中傷色々書かれていることがあるが、自身を見直すには持って来いなのでたまに検索しては、評価を確認したりしている

 

『25:名前のないアイドル ○月○日

   ぴにゃ今日もいたな

 

 26:名前のないアイドル ○月○日

   あの歌って飛び跳ねるぶちゃいくか

 

 27:名前のないアイドル ○月○日

   なぁお前ぴにゃこら太だろ!?短剣置いてけ!!

 

 28:名前のないアイドル ○月○日

   >>27 きくうしさまはお空に帰りましょうねー

 

 29:名前のないアイドル ○月○日

   と言うか、いつまで路上にいるんだろ。スカウト受けてないのが不思議でならない

 

 30:名前のないアイドル ○月○日

   冷静に考えろ、スカウトしたくても着ぐるみだぞ。中身が分からなければどうしようもない

 

 31:名前のないアイドル ○月○日

   何が出るかわからないガチャとか回したい?

 

 32:名前のないアイドル ○月○日

   青天井、ぶる村・・・うっ頭が・・・

 

 33:名前のないアイドル ○月○日

   まぁ正直に顔出ししてもう一回歌いだせば、直ぐにでも声掛るんじゃね?既存の曲もオリジナルの曲もレベル高いし』

 

 私はそっとそのブラウザを閉じて、項垂れた。

 考えればわかる事である。そりゃ顔出ししてないんだから声かけるのも躊躇われるよね。しかし今更顔出しなんてして人が集まらなかったらどうしようかと不安になる。自身の顔の造形は自己判断だが可もなく不可もなくだと思う。要するに中の中。

 

「明日からぴにゃは封印しないとダメかなぁ・・・」

 

 そんな憂鬱な考えを持ったまま、その日は布団に入った

 

 

 

 

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 勇気を出して、顔を晒してライブを行ってみた。

 最初は新しい子が歌いに来てると思われていたのか、興味本位で立ち止まる人がちらほらと。殆どの人は見向きもしないで立ち去っていく。

 この路上ライブをする場所にも暗黙のルールみたいなものが存在したりする。簡単なのをいえば、他人が歌っていた場所を奪わないことだ。それさえ守ればここで文句を言われることもないし、歌い続ける事が出来る。なので今回は、お別れする予定だった着ぐるみを持ってきている。もしものために持ってきたぴにゃこら太だったが、かなり役立ってくれた。ぴにゃを見て立ち止まる人も増えたし、自分にここはぴにゃこら太が歌う場所だと注意してきた人も、着ぐるみを見て去っていったりした

 

「えっと、顔出して歌うのは初めてなので緊張しますが、頑張って歌いたいとおもいます!」

 

 そう告げると拍手に包まれる。暖かく迎えられた事に嬉しく思い気持ちが高ぶってしまう。際限なく上昇するテンションに身を任せて、憧れの、私の始まりの曲と言っても良い『こいかぜ』を歌う。

 

 

 

「ありがとうございました!」

 

 暖かな拍手が身を包み、充実感に酔いしれる。今までは着ぐるみを着ていたために、音の波が良くわからなかったが、脱いだことによりより鮮明に、波が体を伝わる。

 

「気持ちいいな・・・」

 

 楓さんも、あの時同じ気持ちだったのだろうか。そう考えると、少しだけ彼女に近づけた気がした。飽く迄気がするだけであって、彼女は遥か遠くの存在である。

 

「皆さん、ありがとうございます!」

 

 もう一度お礼を述べて、満足したので帰宅の準備を始める。と言ってもやることは着ぐるみを畳んで鞄に詰めて、せめてもの雰囲気として持ってきている壊れたマイクをしまうだけである。

 

「すみません、少しお話しよろしいでしょうか」

 

 そう声を掛けられたのは、荷物を詰め終えてぴにゃこら太の時から応援していると言ってくれて人たちに握手を求められて応じている時だった。

 ファンが出来たことに涙して喜び、声を掛けてくれたもきっと私のファンなんだ!と振り向いたところで、固まった

 

「先程の歌、とても素晴らしいものでした。もし宜しければ、この後場所を移してお話をさせてもらいたいのですが・・・」

 

 絶対この人前科ある。そう思えてしまう程に強面の青年が立っていた。これはもしかして逃げなければそのまま何処か遠くの地に連れていかれて現世とサヨナラ売買する事になるのでは・・・?

 そんな考えが頭を過り、冷たい汗が滝のように流れ出す。

 

「生きねば!」

 

 まだ青春も謳歌していないと言うのにここで人生をログアウトするわけにはいかない!そう強く思うと同時に駆けだそうとするが、向こうの方が一手上手だったのか腕を掴まれししまう。

 

(先立つ不孝を許してください叔母さん・・・)

 

 今は仕事で海外に行っている、育ての親である叔母の顔が頭に浮かびそっと涙を流す

 

「ちょっと、そこの怯えてるから。手、離したらどう?」

 

 天の助けである。ありがとう声を掛けてきた少女!

 

「ん?アンタ確か・・・隣の席の子だよね・・・?プロデューサー、この子知り合いだからちょっと話させてもらえないかな?」

 

 えっと、どちら様でしょうか・・・

 

 

 

 

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 目の前に座る少女、改めて自己紹介されて分かった事なのだが渋谷凛と言うらしい。名は体を表すとは良く言ったもので、確かにその佇まいは凛ッ!としている。そんな少女の隣に座り、圧倒的威圧感を放っているのが、なんと彼女のプロデューサーらしい武内さん。と言うか、初めて聞きましたけど渋谷さんアイドルだったんですね。

 

「あーうん、一応ね。と言っても最近メンバーが集まって、やっとデビューしたんだけど・・・」

 

 成程、だから名前を聞いたことが無かったのか。一人納得して首をウンウンと動かしていると武内さんが話しかけてきた。ちなみに今いるのは歌っていた場所に近いファミレスである。

 

「まずこちらをお渡ししておきます」

 

 そう言いながら渡されたのは一枚の名刺。そこには『シンデレラプロジェクト 企画担当』と言った肩書が示されていた。

 

「この度は私の願いを聞き入れていただきありがとうございます。現在私が担当しているシンデレラプロジェクトに、参加していただけないかと声を掛けさせて頂きました」

 

 そう言われて、驚いたのは私だけではなく渋谷さんもである。何故彼女まで驚いているんだろう・・・

 

「プロデューサー、メンバーは全員集まったって言って無かった?」

 

「はい、確かに集まりました。が、私は前々からこの方に興味を持っていたので・・・」

 

 ゾクリと背筋が震える。もしかしてこの人は巷で噂のホモォなるものなのか・・・。そんな考えはさておき、ここで一つ謎がある

 

「シンデレラプロジェクトって言ってましたけど、私男ですけど大丈夫ですか?」

 

 シンデレラ、つまり灰被り()である。姫である、ここ大事。

 

「「えっ?」」

 

 えっ?

 

「その、失礼ですが、女性の方では・・・?」

 

「私もずっと女の子だと思ってたんだけど・・・」

 

 武内さんは兎も角、渋谷さんまで性別を間違っているのが納得いかない。そもそも隣の席なのだから自分がちゃんと男性だと分かると思うのだが・・・

 

「いや、でも結構有名だよ?男装して学校に通ってるって・・・」

 

「えっ?」

 

 今度は私が驚く番だった。何その意外な新事実。と言うかそんな噂今初めて聞いたんだけど・・・

 

「本当に男性なのでしょうか・・・」

 

 武内さんがそんな事を聞いて来るが、誰がどう見ても男だろうに。少しだけ不機嫌になってしまう

 

「誰がどこからどう見たって男じゃないですかっ」

 

「いえ、髪も長いですし、声も高いものですから・・・」

 

 そう言われて、そっと自分の髪を撫でる。確かに他の人と比べれば長いかもしれないが、それでも肩に届く程度である。声に関しては声変りしないので仕方がない

 

「え、その声って地声だったの・・・?」

 

 そう渋谷さんに言われて、また何か変な噂でもあるのかと落ち込んでしまう。ただ、今考えると勘違いされていたというのも何故か納得してしまう。だって、クラスメイトで話しかけてくるのは異性ばっかりだし、同姓なんてこちらが声を掛けないと会話すら出来ない始末。酷いものなら声を掛けたら先程まで賑やかだった会話が萎んでいき、皆が目を逸らすレベル。成程、あれは異性に話しかけられたと思って照れていたのか・・・。じゃないから、冷静に判断してる場合じゃないから。ってことはもしかして下駄箱に入ってた手紙は本物・・・?差出人に男の人の名前が書いてあったから悪戯だと思ってたのが本物・・・。やだ、私に変な趣味は無い!

 このままでは埒が空かないと、武内さんの手を取ってお手洗いに向かう。あぁ、トイレに行く度に先に入っていた人たちが出て行ったのは勘違いゆえの・・・。

 

 お手洗いに入って数分、私と武内さんは渋谷さんが待つ席に戻っていった。

 

「その・・・どうだった・・・?」

 

 恐る恐る訪ねてきた渋谷さんに、武内さんが「ついてました」と返す。その言葉を聞いて渋谷さんは理解したのか、顔を赤らめてそっぽを向いてしまう。そもそも私も恥ずかしいのだが・・・。手っ取り早く男だと証明するために服の上から触らせたのだが、もっといい方法が無かったのかと少し後悔。

 

「しかし、男性となるとこの企画には参加は・・・」

 

 席について飲み物を一口飲んで、落ち着いた様子で武内さんが声を出す。その言葉を聞いて私はひどく落胆した。やっとちゃんとした人に認められて、憧れに、星に近づいたと思ったのだが・・・。

 

「いや、しかし、これはこれで・・・?」

 

「プロデューサー・・・?」

 

 あぁ、また一からやり直しかぁ・・・。でも多分今まで聞いていた人も私の事を女だと思ってたんだろうな・・・。そう思うと、方向性を変えないといけないのか・・・?

 

「いえ、彼の素性を知っているのは自分と渋谷さんだけですし。渋谷さんさえ内緒にしていただければ彼をスカウトする事も可能になりますし・・・」

 

「スカウトしてくれるんですか!?」

 

 どうしようかと考えている時に聞こえてきた『スカウト』の言葉に、思わず身を乗り出して聞いてしまう。これで正式にデビュー出来るとしたら大きな一歩である、前身である!

 

「いや、でもっ!この子男なんだよ!?私達全員女なのに、何考えてるのさ!」

 

「しかし、彼の才能を他に渡すのは勿体ないですし・・・」

 

 やー遂にデビュー!念願かなってデビュー!

 

「渋谷さん!」

 

 感極まって思わず渋谷さんの手を握って上下に激しく揺すってしまう。

 

「これからは渋谷さんが先輩になるんですね!上も下もさっぱりわかりませんが、どうぞご指導ご鞭撻お願いしますね!」

 

 同級生が先輩と言うのも少し変かもしれないが、この際どうだっていい!

 

「彼の熱意を前にして、無かった話にするのも・・・」

 

「いや、わかるけどさ・・・。あーもうっ!」

 

 突然渋谷さんが立ち上がったと思ったら、こちらを思いっきり睨みつけてきた。な、何故・・・?

 

「確かに、あんたは歌も上手いしルックスも整ってるけど!男なの!変な事したら許さないからね!」

 

「う、うん・・・。あ、はいっ!」

 

 慌てて敬語に戻し頷く。

 そのまま去っていった渋谷さんを見送り、武内さんに視線を戻すと彼は首に手を当てて何かを考えるようにしていた

 

「・・・もし、宜しければですが。明日の、そうですね・・・学校が終わりましたら事務所までご足労願えますか?」

 

「はいっ!!」

 

 その言葉を聞いて、私は満面の笑みで頷いた。

 

 

 

 

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 翌日。学校にいる間、ずっと渋谷さんに睨まれ続けて居心地の悪い時間を過ごした。私が何をしたというのだ・・・。

 そんな時間も、放課後の事を考えるとあっという間に過ぎていった。

 そして放課後になり、学校を出て少し歩くと指定された事務所に辿り着く。

 

「わぁ・・・でっかい所・・・」

 

 見上げなければ最上階が見えない程の高さのビルに圧倒されて、思わず門前で立ち止まってしまう。

 

「立ち止まってると邪魔になるから。ほら、入るよ・・・」

 

 そう声を掛けてきたのは渋谷さん。学校でひたすら睨んできたのだが、今は何処か諦めたかのようにしており、ここまで私を案内してくれた。そんな渋谷さんが中に入っていくのが見え、私もその後を慌てて付いていく。

 受付に渋谷さんが何か話している間に、周りをきょろきょろと見渡す。田舎から上京してきたお上りさんみたいに見えるかもしれないが、許してほしい。だって見渡す限りに所属アイドルのポスターだったり写真だったり本人だったりと、ここは楽園か!

 

「ほら、これ首からかけて・・・。何にやにやしてんの?」

 

「いえ、私もやっと同じ舞台に上がれると思ったら・・・嬉しくて嬉しくて・・・」

 

 堪えていなければこの場で泣いてしまいそうなほどに感極まっている。そんな私を渋谷さんがどう捉えたのかわからないが、学校の時とは違い優しく微笑んでくれた。

 そんな渋谷さんに再び先導される形で武内さんがいるという場所に向かう。

 エレベーターに乗り込んで、到着した階で降りて少しだけ歩く。その歩いた通路にもアイドルのポスターが貼られており、わぁわぁ言いながら歩いていく。

 

「ここ、プロデューサーがいる場所」

 

 そう言って彼女は部屋の前で立ち止まり、慣れた様子で扉を開けた

 

「おはようございまーす」

 

「お、おはようございます・・・」

 

 堂々とした渋谷さんとは対照的に、私はおどおどして部屋に入っていく。部屋の中には多種多様なし女性がいた。笑顔が印象に残る人、元気はつらつと言った感じの人、私も昔は患った病気に罹っている人、小さな三人、大きな人、ふくよかな人に委縮している人、外国の人に猫娘にロックな人、それと一番大人っぽい人

 

「ほわぁ・・・」

 

 個性豊かな面々に出迎えられて、思わずそんな声が漏れてしまう。

 

「すみません渋谷さん。わざわざここまでありがとうございます」

 

 先日聞いた声に振り向けば、武内さんがおり、歩いてきて私の隣に立つ。そうして言われるがままに私は自己紹介をした

 

「ほ、本日からお世話になりますっ、鳳神楽(おおとりかぐら)です、よろしくお願いします!」

 

「本日から、鳳さんもシンデレラプロジェクトのメンバーとして参加します。皆さん、仲良くやってください」

 

 自己紹介も終わり、武内さんのその言葉に「んっ?」と固まってしまう。待って、私シンデレラプロジェクトに参加するの?武内さんが普通にプロデュースしてくれるんじゃないの?

 そんな私の疑問を余所に、辺りは喧噪に包まれる。

 

「小さくて可愛い子だ!」

 

 小っちゃい言うな!

 と言うか待ってほしい、私は姫にはなれんぞ!どういうことですか武内さん!と視線で問いかけるが逸らされる。助けて渋谷さんと視線を移すと、彼女は溜息とともに近づいてきてそっと耳打ちした

 

「鳳には、女の子としてデビューしてもらう事になったの・・・。私も出来るだけ手助けするから、ばれないように頑張ってね・・・」

 

 え、え、え?

 嘘ですよね?嘘だと言ってよ渋谷さん!

 

「頑張れ・・・」

 

 神は死んだ。あまり興味の無い事だが、ニーチェの言葉も今なら信じれると思う・・・・・・。

 

 

 

 

 

 

 




お話の舞台としては宣材写真撮って直ぐのころ。なのでまだ姉ヶ崎のバックダンサーは決まっておりませぬ
感想お待ちしております。

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