少女少年 ~シンデレラガールズ~   作:黒ウサギ

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ランキングにこっそり入るのが私の小説。
寒暖差が凄いことになりましたね。風邪ひきましたし、みなさまもお気を付けて。




少女少年は悩み出す

楓さんを目の当たりにして、私は思わず涙して、その場に崩れ落ちました。

 

「ッ!鳳さん!」

 

その様子を見て、楓さんと武内さんが走りよってきて私を支えてくれるように隣に座り込みます。

 

「私、何か知らない間にしたかな?ごめんなさいね…」

 

違うんです、貴方に、私の憧れの貴方に逢えた事が嬉しくて嬉しくて…。

泣きながらそう告げると、楓さんは嬉しそうに微笑んでくれました。その笑顔も、困ったように頬に手を当てる仕草も全部が綺麗で眩しくて

 

「あらあら」

 

「鳳さん…?」

 

私は思わず抱き着いてしまいました

 

「私っ、楓さんを初めて見てから、ずっとずっと、憧れて、追い掛けてっ!こんな所で逢えるなんて、思ってもなくて!」

 

泣きながらいきなり話し始める私を彼女はどう思ったでしょうか。

抱きつかれて、最初は驚いていた楓さんですが、私が声を漏らし始めると優しく抱き返してくれ、背中を摩ってくれました。その優しさが嬉しくて、泣き止むことは出来ません

 

「小さなライブだったけど、楓さんは星みたいに眩しくて、そんな楓さんみたいに、なりたくて…」

 

「あのライブに来てくれたのね、凄く嬉しいわ…」

 

---応援してくれてありがとう。ファンでいてくれてありがとう。追い続けてくれて、憧れてくれてありがとう。

そう告げられた言葉が、私の心に深く染み渡りました。

 

 

 

 

-----

 

 

 

 

結局、あの後泣き止むまで楓さんは私を抱きしめていました。

結果、泣き止んだ事で当然冷静になった私は慌てて距離を取ります。

 

「すすすすみません!いきなりこんな真似をしてしまい!」

 

「良いのよ減るものでも無いですし。それに姉妹がいたらこんな感じなのかなって私も楽しんでいましたし」

 

姉妹ですか…。

その言葉に、やはり私は男性にはみえないのでしょうかと落ち込みます。まともに男性扱いしてくれるのは武内さんと凛と叔母さんだけですし…。

叔母さんいつ帰って来るんでしょうか、仕事で海外とは聞いていましたがいつ帰って来るのか分からないんですよね…。

おっと、今はそれよりも楓さんの事に集中しましょう。

 

「それで、武内さん。神楽ちゃんを直々にスカウトして来たと聞きましたけど…」

 

それにしても、やはり楓さんは美人ですね…。こうして目の前にいるのが信じられない程美しいですよ。世紀末歌姫とか物凄い呼び名が付いていますが、そう呼ばれるのに相応しいですね。歌声だけでなく普通に喋っているだけでも耳に残ります、いつまでも聞いていたいですよこれは…

 

「路上ライブで、たまたま歌声を聞く機会があったのですが、あれは今でも思い出せます。とても素晴らしいものでした」

 

武内さんちょっと黙ってください!楓さんの声が聞こえないじゃないですか!

と言うか何を話しているのでしょうか。何か私の歌声がどうとか、歌っている所を見るとか何とか色々聞こえます。

 

「神楽ちゃん」

 

おぉ、楓さんがこちらを振り向いてくれてます!感無量です!もうこのまま時が止まってしまえば良いのに…

 

「少しだけ、お姉さんに歌声聞かせて貰えないかしら」

 

…なんと?

どういう事ですかと武内さんに聞いてみますと、どうも楓さん私に興味を持ってくれたご様子。何でしょうか、嬉しくてまた泣き出しそうです!

それで、歌声でしたっけ?それぐらいなら何度でも歌いましょう!

 

「行きましょう武内さん、楓さん!」

 

そうと決まれば即行動です。二人の手を握りしめ、レッスンルーム目指して歩きだします

 

「あらあら、こうして手を引かれるなんて子供の時以来かしら」

 

「鳳さん、私は大丈夫ですので、手を離して頂けませんか」

 

何やら武内さんが仰っていますが、気持ちが昂っている私には聞こえません。そのまま連れていきます。道順は一度皆さんと歩いていますので、迷わずに辿り着く事が出来ました。

 

「ん、鳳か。今日はレッスンは終わりと言ったが…。武内さんに高垣さんまで…、どうしたんだいったい…」

 

レッスンルームには聖さんが残っており、いきなり入ってきた私達に驚いたご様子。

武内さんが二三言葉を伝え、聖さんも興味が出たのかノリノリで準備を始めました。

改めて、楓さんに聴いて貰えることに緊張してきます。今までは路上で歌っていましたが、こうして本職の方に聴かれる機会なんて無かったですしね。

何を歌うべきか、どう歌うべきかと考えていたら準備が出来たみたいです。

 

「プロデューサーさん、皆連れてきましたけど…。神楽ちゃん?」

 

ん、なぜ皆様がこの場に?

 

「折角ですから、皆さんにも一度鳳さんの歌を聴いてもらおうと思いまして」

 

「私が呼んだんだ」

 

少し自慢したような顔をした聖さんに苦笑を返します。いや、少し前も武内さんに言いましたが、何かする場合は私にも一言掛けてもらえませんかね…。しかしもう呼んでしまったので今回は素直に諦めます。

始めてもいいのでしょうかと、楓さんを見ますが何やら囲まれてそれどころじゃないご様子。

わかりますよその気持ち、本物が目の前に来たらテンション上がりますよね本田さん。でも、楓さんの事を一番想っているのはわたしですからね!と意味の無い敵対心を抱きながら本田さんを睨みつけます。

その時に、丁度楓さんと目が会いました。彼女は小さく笑うと手を叩いて視線を集めます。

 

「皆さん、私もお会いできて嬉しいですけど、今回の主役は神楽ちゃんです。私とはまた何時かお会いした時にお話するのとして、今は神楽ちゃんの歌に集中しましょうねー」

 

『はいっ!』

 

楓さんがそう言ったことで、皆さんの視線が私に集中します。興味津々だったり、値踏みするようだったりと色々な思惑が混ざったその視線を一身に受け、これはもしかして引き受けたのは早まったのかと思ってしまいます。

しかし、そんな私の気持ちは関係無いと言わんばかりに曲が流れてきます。

と言うか何で『こいかぜ』何ですか!本人の前で歌わせるとか何という所業!睨むように聖さんを見たらいい笑顔で親指を立てられました。

もうどうにでもなれ!そんな気持ちで、本人の前で歌い始めます

 

 

 

歌い出すと同時に、周囲も静まり私の耳には音楽しか聞こえなくなります。

今この場には私だけ、誰も聴いておらず、誰も見ていない。そう思いながら、緊張を忘れて歌い続けます。

ですが、それはサビに入ると同時に起こりました。音楽の中に、誰かの肉声が混ざってきています。その声が聴こえた方向を見ると、楓さんが隣で歌っていました。

何故?そう思いましたが、今は歌に集中することにします。

最後まで歌詞を間違えること無く歌いきり、ほっと一息つきます。

途中で楓さんが入って来た時は音を外しそうになりましたが、それ以外は順調に歌えました。

はっ…、そういえば楓さんの前で歌っていましたね。どうでしたかと恐る恐る見てみると、楓さんだけでなく殆どの方が口を開けて固まっています。

お気に召さなかったでしょうかとビクビクしていると、一転して喧騒に包まれます。

 

「凄い、凄いよ神楽ちゃん!」

 

「本田さん、待って体を揺すらないでっ」

 

突然近づいてきた本田さんに肩を掴まれブンブンと体を揺らされます。

見れば本田さんだけでなく、ほかの皆さんも私を取り囲むように集まっていました。

 

「神楽、ここまで上手かったんだね」

 

「何処かで教えてもらったわけでもないのに、こんなに上手に歌えるなんて凄いです!」

 

皆さんからお褒めの言葉を頂いて、少し照れてしまいます。そんな私達を楓さんは微笑ましく見つめていて

 

「楓さん、どうだったでしょうか…」

 

私は感想を聞いてみることにしました。何を言われても、糧とするつもりで。でも出来たらアドバイス欲しいですけど…

 

「私からは、特に何も。注意する所なんて無かったし、寧ろ完璧だったと思うわ」

 

そう言われて、少しだけ涙ぐんでしまいます。

それをバッチリと凛に見られてしまい、彼女はそっとハンカチを差し出してくれました。

仕方が無いじゃないですか、憧れの人に褒めてもらえたんですよ。ここまで頑張ってきた甲斐があったというものです。

 

「私、もう引退してもいいです。満足です…」

 

「杏も引退したい…」

 

そんな事を思わず言ってしまうほどに満足です。双葉さん、一緒に引退宣言しますか?

凛にデコピンされました。痛い…。

そんなやり取りをしていると、何やら楓さんと武内さんが話をしています。話の最中に、二人してこちらを見ているので少しだけ居心地が悪いです。

 

「ごめんなさい皆、少しだけ神楽ちゃんお借りしてもいいかしら」

 

二人の話が終わると、楓さんが近づいてきてそんな事を言い出します。やはり何処か指摘される場所があったのですか…

 

「どうぞどうぞご自由に!」

 

本田さんがズイッと私の背中を押し出して、楓さんと向かい合います。と言うか本田さん、ご自由にって勝手に決めないで下さいっ

 

「ここだと少し話し難いから、少し外に出ましょうか」

 

そう言われ、先ほどとは違って今度は私が楓さんに手を握られて歩きだします。

 

「あ、お、お疲れ様でした!」

 

去り際にお疲れ様と皆様に声を頂き部屋を出ます。少しだけ、凛の心配そうな顔が見えたので、私は笑顔で大丈夫と口パクで伝えます。

それから少しだけ楓さんと歩きました。その間に会話は無く、あぁこれはもしや出る杭は打たれるという事なのでは?と考えてしまいます。調子に乗るなよ小僧、なんて事になるのかとビクビクします。楓さんだって人間ですし、一人のアイドルです。こういったこともやるのですね…。

辿りついたのは、小さな噴水がある花に囲まれた庭園でした。恐るべし346事務所、こんな場所まであるなんて…

 

「さて、ここなら誰もいないでしょう」

 

全く別の、それこそどうでもいい事を考えていた私に、楓さんは向き直ります。

その左右で色が違う瞳に見つめられて、思わず見惚れてしまいます。待て待て落ち着きなさい私、今からもしかしたら失意のどん底に落とされるかもしれないのだから…。

さぁ何を言われる!そう身構えていた私に、楓さんは爆弾を投げ掛けました

 

「神楽ちゃん、私とユニットを組んでみない?」

 

「…………へ?」

 

たっぷりと、それはもうたっぷりと時間を開けて返した言葉はこれでした。

ユニット、ユニット?誰と誰が?楓さんと私が?まさかですよねー、私の脳がきっと都合よく聞き間違えたんでしょう。

ですが、現実だったみたいです。態度には出しませんが、心中では慌てふためく私に楓さんは言葉を続けます

 

「少し嫌味になるかも知れないけど、私がこれまでユニットを組む事をしなかったのは、私についてこれる人がいなかったからなの」

 

嫌味なんてとんでもない。それはファンの皆が理解する事実です。実際楓さんの声が恐ろしい程に透き通り、聞くもの全てを魅了する程だと思っています。彼女のライブでは泣き出す人もいますし、感激のあまり倒れる人もいます。

これは楓さんだからとしか言いようがありません。彼女の醸し出す神秘的な雰囲気も合わさっているからこそ、その結果になるのです。

では、何故楓さんは私なんかを誘ったのでしょうか…。正直私は何処にでもいる人間です。それこそ路端の石のようなものです。

 

「貴女には、他の人には感じられない秘密…、ミステリアスな雰囲気を感じたの。」

 

それ多分ミステリアスとかじゃなくて、単に男である事を隠しているだけです…。くそぅ…褒められたと思っていたのに台無しだよ!……楓さんは真実を知らないのですから当然ですよね。

 

「それに、歌唱力も素晴らしかった。こいかぜを聴いた時なんて、私がもう一人いるように思えた」

 

それは、とても嬉しい評価ですが、私なんてまだまだです。

 

「だから、貴女となら私はまた一歩前に進む事が出来る。そう思ったの、貴女と二人なら、どこまでも行ける…」

 

過剰な評価を受けて、戸惑います。そんな私の心中など知らない楓さんは、私に向かって手を差し伸べて来ました

 

「だから、もし良かったらこの手を取って。私と一緒にこれから進んで行ってくれないかしら」

 

そうして差し伸べられた手を、私はじっと見つめます。仮にこのまま手を取れば、私の念願は叶ったと言っても良いでしょう。何せ彼女と同じように輝きたいと願っていましたし。

しかし、このまま手を取れば私は何も苦労せずに進む事になります。この先、ユニットを組む事で例え名前が売れたとしても、それはきっと『高垣楓』の付属品としてでしょう。

だから、私はその手を取りませんでした。

 

「すみません楓さん、お誘いは凄く、物凄く嬉しいです。出来るなら手を取って喜びで叫びたいです。でもここで手を取ったら私は自分を許せません。何も知らない、実績の無い私が貴女と並ぶには、まだ早すぎます」

 

「そう…」

 

私の言葉に、楓さんは悲しそうに手を下ろします。ですが、まだ私は全てを伝えていません

 

「でも、もし私が貴女の隣に立てるようになったら。その時は胸を張って貴女の所に向かいます。だからそれまで私を信じて待ってもらえませんか…?」

 

正直、他の人が聞いたら何を言っているんだと罵倒されても可笑しく無いでしょう。彼女の隣に並ぶという事は並大抵の努力では務まりません。それを何も知らない私が言うのです、待っていて欲しいと。

ですが、楓さんはそんな私の言葉に優しく笑って、頷いてくれました。

 

「神楽ちゃんの気持ち、よく分かったわ。確かに少しこの話は早かったかもしれない。でも、神楽ちゃんが言ったように、貴女が隣に来るまで待っているわね」

 

高垣楓は孤高の存在なんて言った人がいる。でもそれは間違いだとはっきりと言える。だって楓さん、私の事を待つと言った時に、少しだけ楽しそうに声を上擦らせていましたし

 

「それにしても、何だかプロポーズ見たいな言葉だったわね。同性なのにお姉さん少しドキッとしちゃった」

 

そう言って彼女は可笑しそうに口元を抑えて笑いました。ですが私は楽しくありません。えぇ、忘れてました。私今は女の子ですもんね、楓さんは照れさせたヤッターとか思っても男性に照れてるとかそんなんじゃ無いですもんね。

結局、その後はユニットの話はせずに。お互いを知るために色々話し合ったり、何と連絡先まで教えて貰って、至福の時を過ごしました。

ですが当然時間というものは有限です。

 

「そろそろ日も暮れてきたことだし、お開きにしましょうか。またね、神楽ちゃん」

 

「楓さん、今日はありがとうございました!」

 

そうして、楓さんは手をひらひらと振りながら去っていきます。去り際まで綺麗なんて非の打ち所無いですね…。

こうして、思いもよらぬ形ですが楓さんと接する事になった私ですが

 

(どうするどうする、楓さん帰ったし今がチャンスかもよ!)

 

(でも、何か大事なお話だとしたら。私達が聞くのは良くないんじゃ…)

 

(でもでも!楓さんと何話したのかみりあは凄い気になるよ?)

 

一先ず、こっそりと覗き見てた方達をどうにかする事から始めましょうか…

 

 

 

 




次回あたりからやっとアニメ本編の話に入る予定です。
感想お待ちしております。

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