翠色の炎色反応   作:水風浪漫

4 / 10
今更ですが、この作品には独自設定や独自解釈が登場します。


04/愛銃奪還計画(廃案)

 アイツはアイツで、俺は俺だ。間違っても俺はアイツの"下"じゃない。

 

 誰か、誰でもいい。

 俺を見てくれ。俺自身を見てくれ。

 

 絶叫したくなる衝動を胸に押し留めて、いつもヘラヘラと作り笑いを浮かべていた。

 

 それで勝手な期待を抱いていた連中に失望されようがどうだっていい、少しでも、アイツの光から逃げたかった。影になりたくなかった。自分だけの自分でありたかった。

 

 けれど、人間の根底はそう簡単に変えられるものじゃあない。

 

 どれだけ目を背けても、距離を取ったつもりになって己を際立たせようとも。一度認めてしまった敗北は簡単に拭い去れはしない。

 

 "光"はその周囲に無数の"影たち"を作り出す。

 

 抗いはすべて無駄なのだと、アイツを超えられはしないと悟ったときから、俺は、俺たちはどれだけ前に進めたのだろう。

 

 でもきっと、俺はまだ立ち止まったままだ。

 

 

 

 04/愛銃奪還計画(廃案)

 

 

 

 

 最近、ふと気が付くと手を懐に回している。

 

 別に脇腹が痒くてその痒みにに耐えているとかそういうのでは無いのだが、本当にちょっとした瞬間、チャップに請われて元の世界の話をしている時だったり、少々魔法の心得があるのでユウナちゃんの魔法の練習に付き合っている時だったり、ルールーと親交を深めようとお茶している時だったり、執拗に付きまとってくるワッカの監視から逃げている時だったり……そんな日常の一場面で、無意識のうちに懐手を伸ばしている。

 

 そこにある得物を確かめようとして空を掴み、僅かな気恥ずかしさと違和感を手を開閉することで紛らわす。

 

 最初は一日に一回程度だったそれは日に日に頻度を増していき、今では十数分に一回の間隔で無い筈の愛銃を求めて手が空を彷徨っている。そして虚空に向かって引き金を引いてみたりなんかして、虚像の魔物の眉間に弾丸を叩き込むのだ。

 

 スピラに落ちて生活環境が激変したことも原因の一つだが、島には普通に魔物が出現する状況下で武器一つないのは、正直かなりキツイ。精神的にも現実的にも。

 

 結局、銃はワッカではなくルールーが保管していたので、彼女の立会のもとで数回の整備点検はしているが、その度にルールーの説得に失敗しているせいで、もう一週間近く懐のホルスターは空っぽのままだった。

 

 トリガーハッピーよろしく弾丸をぶっ放したい訳ではないが、手元に無いだけでこれほど精神不安定に陥るとは……気がついていなかったが、俺も対魔課での戦闘漬けの生活に染まってしまっていたようだ。今の精神病じみた状態を鑑みれば、汚染されたとも言えるかもしれない。

 

 

 とにかく、このままじゃあ近いうちに限界が訪れるのは明らかだ。何としてでもルールーから銃を取り返さなければならない。

 手荒な真似はしたくない……と言うかかなり高確率で返り討ちにされそうなので他の方法を考える必要がある。

 

 

 当然説得は除外だ。同じことを繰り返しても成果が出るとは思えないし、出るにしても当分先になるだろう。その時まで耐える自信はない。

 

 チャップを唆して持ち出してもらうか?

 アイツはルールーと付き合ってるから、甘言でも呟いた隙を狙えばいくらルールーと言えど気付かれずに銃を取り戻せるだろう。

 しかしこの作戦には2つの大きな問題点がある。

 

 1つは、そもそもルールーの家の何処に銃が隠してあるのか俺もチャップも知らないということ。整備するときはルールーが呼ぶまで家の外で待機しているので、一度も彼女が銃を取り出した場面を見たことがないのだ。

 

 2つめは、これが主の問題である。

 友人になれたばかりのチャップを利用して、恋人の信頼関係を崩壊させかねない様な作戦を実行した日には、作戦が成功したとしてもルールーは勿論、短い間だったがコツコツ積み上げてきた俺の信頼は崩れ去るだろう。そして二度と元に戻らない。これは大きな痛手だ。

 やっとユウナちゃんに近付いて雑談するくらいなら見逃される様になって、今はそれだけが俺の心の癒やしだと言うのに、これを奪われた日にはもう立ち直れる自信がない。その時はビサイドを出てスピラの何処かで野垂れ死ぬ未来すらあり得る。

 故に、この作戦も却下である。

 

 ……となるとしかし、浅学非才の我が身ではこれ以上新たな案は思いつかない。

 

 いっその事、そこそこ強力な魔物でも出てきてくれたら簡単なのだが。生憎、ビサイドではその気風と同じくそれ程凶悪な魔物も出ないのだ。

 

‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 

 行き詰まってしまったので、気晴らしに寺院近くの石に腰掛けて遠くの空を眺めていると、背後から声をかけられた。

 

「何か見えます?」

 

 そう言って横に立つユウナをちらりと横目で見る。

 

「空が見える。やっぱり、ここの空は綺麗だなあ」

「テッセさんの故郷では違ったんですか?」

「そりゃあもう。空気は汚れているし、夜中でも昼間みたいに明るいから夜空を見上げても星なんか1つも見えなかったよ。駅前は常に人で溢れてるし、眠らない街、なんて呼ばれるくらい騒がしい街だった。それに比べて、ビサイドは穏やかで良い。確かに便利だったけど高いビルに囲まれて生きてると、たまにここは牢獄なんじゃないかって思うこともあった」

「……辛い所だったんですか?」

「いや、そんなことも無いよ? 街の外なら此処みたいにのんびりした場所もあったし、住めば都って言うからね。……ただ、少し複雑だった。暮らし方も人間関係もね」

 

 

 こんな風に何をするでもなく空を見上げてのんびり過ごすことも、向こうでは滅多に無かった。

 人手不足を盾に取られて連日連夜街中を駆けずり回っていたし、夜勤明けにそのまま通常業務に突入したり、休日返上は当たり前。時には有休取って羽を伸ばしに行った旅行先で現地の事件に駆り出されることもあった。

 スピラに来る原因になった『奴』の件もそんな勤務時間外でのことだ。もはや、最後の休日が何時だったのか思い出せないほど働き詰めだった。

 

 

「―――まぁ、そこが良かったんだけど」

「え?」

 

 ぽつりと呟く。

 

 そう考えれば、現状のスピラでの生活は一概に悪いとも言えない。確かに不便だが、それを補って余りある平穏と自由がある。……それで生活リズムが狂っていると感じるのだから、やはり向こうの生活は極限だった。

 

 同僚にも常時笑い続けてる奴とかも居たし、歓喜して魔物との戦いに赴くのも珍しくなかった……ビサイドにはそんな狂人はいないので、少しだけ懐かしい。

 

 スピラに来てまだ1ヶ月も経っていないが、もう随分と昔のことの様に感じる。それだけ此処の生活が、ビサイドの時間の流れがゆったりしていて心地良いということなのだろうか。

 

 

「ところで、修行の調子はどう?」

 

 露骨だっただろうか。唐突な話題転換に、しかしユウナは気にする様子も無く浮かない顔で首を振った。

 

「まだまだです……。魔力はしっかり操れる様になったんですけど、魔法が上手に発動出来なくて……ルールーが言うには、私の魔力が大きいからまだ完璧に制御出来てないらしいんですけど……」

「魔力ねぇ……」

 

 自分は魔法は使えど本職ほど特化してはいない。精々ちょっとした傷を直したり、ヘイスト等の補助魔法を使うくらいで、自分自身の魔力こそ感知できるが他人の魔力はぼんやりとしか分からない。

 ルールーはそれでもハッキリ分かる程の魔力があったが……集中して探ってみるも、ユウナの魔力は一切感知出来なかった。

 これがプロとアマチュアの差である。恐らくルールーはユウナの潜在能力を測ったのだと思うが、魔法発動に苦労する程の魔力とは一体どれ程のものなのか……。

 

 

 魔法は、ファイアやサンダー以外の戦闘系でない生活魔法に限って言えば、発動だけなら魔力があれば誰にでも出来る。

 難易度は高い方だがファイア、ブリザド、ウォータ、サンダー等の黒魔法も充分な訓練は必要だが、それさえ積めば誰もが扱えるようになる。それは白魔法も同様だ。

 

 話に聞く限り、ユウナは修行を始めて既に半年程経つらしい。だと言うのにケアルの1つも満足に扱えないとは、初めて聞いた時はそんな人間が居るのかと心底驚いたものだ。

 

「確かユウナちゃんは白魔導士だったよね?」

「はい。私には召喚獣がいる……予定なので、癒やしの魔法を覚えたいんです。ルールーは白魔法は使いませんけど、心得はあるらしいので」

「なるほど……。それじゃあ、少しだけどご覧あれ」

 

 護身用に持っていた動物の骨から削り出したナイフを取り出す。後ろポケットから弾くようにナイフを飛ばし、頭上を通過させて、回転しながら目の前に落ちてきたナイフの刀身をパシッと二本の指で掴み取る。

 そんなちょっとした曲芸の真似事を披露すると、ユウナは目を丸くした。

 

「……す、スゴイです!」

「そ、そう? まぁ、これくらいは、ねえ?」

 

 向こうでは何の役にも立たなかった一発芸だったが、こうして純粋な賞賛を向けられるとむず痒くなってしまう。

 

 軽くナイフを振って気を紛らわすと、一息吐いてからナイフを左腕に当てる。石から削り出したナイフはあまり切れ味がよろしくないので、思い切りが重要だ。

 

 大きく息を吸い込んで――――

 

 

 ――――躊躇わずに一息でナイフを滑らせ、腕を裂いた。

 

 

「ッ! テッセさん!?」

「いいからいいから、良く見ててくれ」

 

 突然の自傷行為に混乱するユウナを宥めて、血の流れる左腕をユウナに見やすいように伸ばす。

 僅かな痛みと共に更に血管が切れたのか血が溢れたが、無視して左腕に意識を集中させ、癒しの呪文を一音一音、丁寧に詠唱した。

 

 

「ケアル……ケアル」

 

 白魔法の第一歩。基本の回復魔法は、詠唱と同時に翠色の淡い光を放ちながら傷口を包み込む。

 まるで逆再生しているかの様に肉と皮膚が再生し、傷口が覆われていく。ものの数秒で光が収まった。

 そして、近くの井戸から水を組み上げて腕の血を洗い流すと、そこには傷一つ無い元通りの腕があった。

 

 再生した皮膚が突っ張ったり、ケロイド化している様な様子もなく、文字通り元通りに回復された腕を軽く振るう。ヒュンッとナイフが風を切った。腕には痛みもなく、完全復活である。

 

 

「俺はケアル以外の回復魔法は使えないけど、少しでも参考にしてくれたら嬉しい」

「は、はい! ありがとうございました! ……あの、腕は大丈夫ですか?」

「大丈夫大丈夫。あの位かすり傷みたいな物だから」

 

 よほど目の前で腕を切られたのが衝撃的だったのか、それでも! と言い募るユウナを宥めていると、ユウナの背後からこちらに近づいてくる一人の女性が目に入った。

 

 ルールーはユウナの隣に立つと、どうした訳か以前にも増して警戒した様子ででこちらに半眼を向けた。

 

「やぁ、ルールー」

「……アンタ、教えるにしてももう少し方法に配慮出来ないの?」

「見てたのか……。確かに、切るのはユウナちゃんに一言告げてからにした方が良かったかもな。あの芸がうけたのが初めてだったんで、少し調子に乗ってたかも」

「……真面目に言っているの?」

「何が?」

「いえ……もういいわ」

 

 ルールーは話を切り上げると、おもむろにユウナを背後に回した。未だ目は細められ、しかしどこか疑惑を払えていない様だった。

 

 

 ―――何だ。何がどうしてこうなっている?

 

 

 表情は穏やかなまま。心の中でルールーの態度に対する疑問を浮かべる。

 

 ここに来てからほぼ毎日続けていたお茶会的な交流やチャップの説得のお陰でルールーから僅かながら信用を得ていた筈なのだが、ここに来てルールーの警戒レベルが元に……否、それ以上に強まっている。

 

「ユウナ。休憩時間は終わり、そろそろ修行を再開するわよ」

「え……?」

「ほら、行くわよ」

「あっ、う、うん。またねテッセさん!」

「それじゃあね。アンタも油売ってないで、やるべき事をしなさいよ」

 

 そう言い残してルールーはユウナの手を引いて去って行った。

 

 ……どうやら、愛銃が手元に戻ってくるのはもう少し遅くなりそうだ。

 

 

 




ここまで読んで頂きありがとうございます。
気になった点・良かったor悪かった所・誤字・感想など戴けると幸いです。

「ケアル……ケアル」は仕様です。二度唱えています。

―――話がぜんぜん進んでないぜ!

追記:改行しました。

重要追記:本編前の短文は内容を変更しました。また本編中にも微妙な変更を入れました。話の大筋は変わっていません。
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