これからもノンビリやっていきますので、よろしくお願いします。
試しに三人称視点書いてみました。
キマリとの対面から幾度か太陽が廻った夜、自宅前に組んだ簡素な
曰く、ガード就任祝いをしようぜってことらしい。
あの後は、召喚士本人の承諾を得るためにユウナに頭を下げたくらいで、その他諸々の対応については結果報告を受けただけだったテッセにとって、チャップの誘いは素直に喜ばしいものだった。
と、言うのもガードにはなったものの、彼の扱いが変わったでもなく些か悶々とした日々を送っていたのだ。
「うわ、何だその目…… 覇気って言うか、生気が無い。獲られた魚かよ」
「誰がだ、誰が! これはアレだ。寝不足で瞼が落ちてるだけだ」
「最近は狩りもなかったし、そんなに忙しくなかっただろ?」
「心境の変化ってやつだ。鈍った体を鍛えなおしてるんだよ。一応とは言え、"ガード"になったんだからな」
「なるほど」
未だ椅子扱いされる机にチャップが腰を下ろす光景にもいい加減慣れてきた。何度言っても止めないので、最近ではいっそのこと新しい机を作ってしまおうかともテッセは考えていた。
「んで、何の用だ?」
「祝いだ。どんな理由だろうとガードになったんだ。一発、景気付けとかないとな。つー訳で、日が暮れたら来るから寝ずに待っててくれ」
こう言っておかないと目の前の男は日没と同時に夢の世界に旅立ってしまうことをチャップはよく知っていた。
本人曰く、寝ることくらいしかすることがないとか。そして予定がない日は昼過ぎまで寝ているのだ。太陽が昇れば眠かろうと暑さで寝ていられなくなるチャップからすると、この謎の図太さがちょっと羨ましかった。
「うまい飯持ってきてやるから、期待していいぜ」
そうして時は過ぎ、気がつけばとうに太陽は西の水平線に沈み、テッセのぼんやりとした視線はユラリと燃える火に注がれていた。
薪の燃える静かな響きに耳を澄ませて、赤熱する木々だけに集中する。火から伝わる熱がどうしようもなく眠気を誘った。
時折、新しい薪をくべながら三十分ほど経つ頃には、テッセは椅子代わりの切り株の上でこっくりこっくりと舟をこいでいた。
チャップが現れたのは、薪の継ぎ足しが途絶えた焚火が消え掛けた頃だ。
「起きろ、起きろテッセ」
「うん……」
「……おい、寝んなって言ったろ」
「……あぁ、やっと来たのか。遅えよ、寝ないもんも寝ちまうわ。何でこんなに遅くなったんだ」
もはや蝋燭の火ほどの頼りなさになった焚き火を一瞥してテッセは問う。チャップはバツが悪そうに頭を掻いた。
「ん、あぁ……ちょっとな」
「そうか」
いつも快活な彼の珍しく歯切れの悪い答えが一瞬気になったが、未だ眠気眼のテッセはそれ以上追求しなかった。
「んなことより、遅くなったけど始めようぜ!」
そう言ってチャップは左手に持っていた鉄鍋をテーブル―――いつも椅子扱いしている―――に置いた。ここに来て約一ヶ月、少し歪な、手作り感溢れる調理器具にももう慣れた。
この鉄鍋に魚と香草を入れて蒸す、焼く、煮る、または木串に刺した魚を焚火で炙る。ビサイドに来てからのテッセの食生活は常にこれの繰り返しだ。向こうでは外食や弁当など安易な選択をして、「煩わしい」と料理から逃げていたツケがここに来て回ってきていた。
いい加減、別の味を食べたい。そうは思うものの、食材も技術も足りていなかったのだ。
だが、チャップが持参したこの鍋からは「魚」以外の匂いが漂っていた。僅かな臭気を感じるが、この芳ばしい眠気を吹き飛ばし食欲を駆り立てる匂い。
まさか、と思う。魚と魔物、あと僅かに獣が生息するばかりのビサイドでどうやって手に入れると言うのか。
「苦労したんだぜ。渋るルーを沖まで連れ出すのがどれだけ大変だったか。その後も時間が許す限り海を行ったり来たりして、そうして漸く手に入れた……コレをな!」
蓋を取ると、そこから一気に湯気が溢れ出した。夜とは言え温暖なビサイドで
ジュウジュウと油の跳ねる音を鳴らしながら、鍋の底でその身を踊らせているのは紛れもなく
「お、おぉ〜!!」
「カモメの肉だ。ルーが雷の魔法で落としたんで、ちょっと焦げてるけど気にすんな」
「凄え凄え! 鶏肉なんて久々だ。最近は魚と草しか食ってなかったからなぁ……!」
「あー……お前、獣肉の分配貰ってないのか」
「そうだよ……捕まえるのは手伝っても、そこまでだな。骨すら貰ったことない」
「骨はスープになるからな。結構旨いぜ」
「知ってる」
向こうで何度も飲んだことがある。栄養価も高く、風を引いた時なんかに良く食べたものだ。……ラーメンを。
材料が一部同じってだけだけど、まぁ嘘は言ってなかった。
自宅の中から木皿と箸を持ってくる。ナイフ一本を用いて自力で削り出したハンドメイドだ。
香草焼きが盛り付けられた皿をチャップから受け取る。顔を近づけて思いっきり息を吸うと、豪快な肉の匂いが鼻孔を突き抜けた。
「ほら」
不意に差し出された杯を受け取る。中には薄く黄色かかった液体が並々と注がれている。確か、パイナップルっぽい果物から作られる酒だった筈。しかし酒気は極めて弱く、味としては甘みの強い葡萄ジュースの様なもので、ビサイド島では嗜好品として子供も飲むことがある。祝の席の必需品だったか、とそこまで思い出してテッセはまた少し嬉しく思った。
この酒だって、家から自由に持ち出せる品ではない。兄弟二人暮しのチャップなら親と暮らす人と比べたら融通が利くのだろうが、それでも、こんな"罪人"に対して振る舞われるものではない。
実際、テッセが酒を飲んだのは島の新しい子供の誕生を祝う席だけだ。その時だって小さな杯に申し分程度に注がれていただけだった。
当時はどうしようもなく嫌な気分になったものだが、やはり、持つべきものは友だ。その他大多数に嫌われ、理解されずとも、自分自身を認めてくれる人が一人でも居ればこんなにも楽しい。
それが今のテッセにとってのチャップなのだ。ユウナとルールーも理解者ではあるが、気軽に話せる"友だち"じゃない。
うっうん! とチャップが喉を鳴らした。
「それでは、テッセのガード就任を祝して! 乾杯!!」
「乾杯!」
ぐっと杯を
久々の酒だからか、決して強くない酒なのに喉がカッと熱くなった気がした。
鍋の中も空っぽになり。二人は火の前てチビチビと酒を啜っていた。
片方がとりとめの無いことを話せば、もう片方が適当に話に乗っかって、くだらないことで大笑いする。互いに酌をし合いながら。赤ら顔の男達の舌はよく滑り、夜が更けても話題は尽きない。
またチャップの杯が空になった。テッセが注ぎ足そうと瓶を傾けるが、ぽとりと雫が垂れる。
「あー……終わっちまったな。残念」
まぁ、飲みまくったし十分だろ、とテッセは笑ってチャップの背中を叩く。
ははは、とこちらも愉快に笑うチャップの視線は手元の杯底に注がれていた。
笑い声が収まると、ふ、と空気が変わったような気がした。
「おれ、『シン』と戦うよ」
「………あん? 何、お前もガードになんのか?」
「いや、討伐隊に入る。討伐隊で『シン』と戦う」
――――討伐隊。
スウ、と一気に酔いが醒めた。
「お前、何言ってんだよ」
「何度も言わせるなよ。討伐隊に入るんだよ」
「だから! 何で討伐隊に……ルールーはどうするんだ? 今度のブリッツで勝ったら結婚申し込むんだろう?」
「別に、死ぬつもりは無い。結婚だって『シン』を倒したらずっと平和に暮らせるんだ。"ナギ節"が永遠に続くんだぜ。そうなってから告白する」
小さい声で呟くチャップの言葉は、しかし微塵の揺らぎもない。
あまりにも唐突、今の今までそんな気配はまるで無かったのに。死ぬつもりは無いとか、そう言う問題ではない。
『シン』と戦うことがどう言う意味を持つのか、この世界での日が浅いテッセでさえ実感は無くとも理解している。いわんやスピラの人間なら。
討伐隊に入った者の行く末は"死"しかないと、公言はせずとも、皆なんとなく理解しているのだ。近隣で『シン』が出現しなければその限りではないかもしれないが。それだって永遠じゃない。
「何も言うなよ。ただ、祝って、祈ってくれ」
「てめぇ……!」
「もう決めたんだ。ユウナちゃん、ルー、キマリ……そんでお前。皆、理由はどうあれ『シン』と戦う覚悟がある。お前に会ってから、ずっと考えてたんだ」
僅かに残る酒を飲み干す。焚火に照らされた白い杯がまあるい月のようだった。
チャップは空を見上げると、指で作った輪っかを宵闇に浮かぶ白円に重ねる。そしてぼうっと言葉を続ける横顔をテッセは睨む様に見つめていた。
「エボンの教えってつまり何なのか、機械が禁忌なのはどうしてだ。『シン』は1000年前に生まれた。『シン』が機械を壊すから、機械が『シン』を呼び出すから禁じられてる。でもよ、機械ってのはどこからが機械なんだ?
船は、スフィアは、ルカにあるクレーンや飯屋の冷蔵室は? ブリッツのスフィアプール、試合を中継するモニターは機械じゃないのか。……違う、あれだって機械だ。ただ使って良い機械と悪い機械を"エボン"が決めてるってだけさ」
何かに急かされるかの様に一息で言い切ると、チャップは視線を再び手元に落とした。
「機械は罪。エボンの教えに従って生きていれば、いつか罪は許され罰である『シン』は消える。――――おかしいだろ。本当に『シン』を消したいなら、もう罪を重ねるべきじゃない。なのに、エボンの認めた機械なら問題ないなんて………納得いかねえだろ」
淡々とした口調は意識したものだったのだろう。堪え切れずにチャップは怒号を吐き出した。
「……きっと兄貴なら、それでも"教え"だって言うと思う。だけどさ、どうやらよ、分かんなくなっちまったんだ。ずっと教えを信じて生きてきた。生まれた時からそれが普通だったし、疑ったことすら無かったんだ。――――お前に会うまでは」
「………」
「……俺はもう、心からエボンを信じることが出来ない。でも、それでも『シン』は現実としてそこにある。……なら『シン』を消すには、俺たちがこの手で倒すしかないんじゃないか? 召喚士に頼るんじゃない。究極召喚なんかに縋るんじゃない! スピラに生きる人間が、自分たちの手で戦わなきゃいけないんだよ。……きっと討伐隊ってのは、それに気が付いた奴らの集まりなんだ」
言い切るとチャップは大きく息を吐いた。そして未だ僅かに赤い顔で、平生の彼とは似つかない熱い琥珀の双眸を隣の男に向けた。
テッセの脳裏に
「……死ぬなよ」
「勿論だ! ……それにさ。本当の所、愛する人を守るために戦うって格好良くね?」
「このバカ」
「はっは! よく言われるよ」
そうして、チャップははにかんで恥ずかしそうに頭を掻いた。
その後の話は、細かく語る必要はないだろう。
予想していた通りだったが、チャップはワッカの説得にも、ルールーの涙にも意思を変えなかった。
兄に自身の覚悟を認めさせ、恋人には涙を飲み込ませた。平手打ちをもらっても気に留めずに笑っていた姿は皆を呆れさせた。
それから一年も経たない頃『シン』がジョゼ近海に現れ、討伐隊が召集された。
ユウナは最後の最後までチャップを引き留めていたが、彼はいつもと変わらない快活な笑顔のまま島を出た。肩から掛けるのは、機械の武器だった。
兄が彼の為に用意した剣を受け取らなかったのも、最後に祈りを捧げて行かなかったのも、チャップなりの決意の現れだったに違いない。
テッセが己の持論を彼に語ったからかもしれないが、それは無粋な考えだろう。
彼の人は勇敢に戦い、誰よりも明日を夢見て『シン』に立ち向かった。その身は幻光へと姿を変えたが、魔物を生み出すことはないだろう。少々頭は弱く、人よりも強い体躯に恵まれた訳でも無い。だが、その意思は過去の英雄達に劣らなかった筈だ。
――――彼は
辺り一面、紅い花を咲かせた者達で埋め尽くされていた中で彼を彼だと判別できたのは、せめてもの慰めだったのかもしれない。下は無かったが、上は驚く程綺麗だった。
ルールーに請われたテッセが傷を修復し、汚れを拭き取ったその体を布団に横たえれば、ただ眠っているのだと勘違いしてしまうほど穏やかな顔で彼は逝っていた。
口もとに薄く笑みすら浮かべて、最後に何を思ったのか。
ビサイド島のとある丘には一つの大きな石碑が残されている。そこには言葉が刻まれているが、石碑の製作者を除いて意味を解する人は居なかった。
読んで頂きありがとうございます。
気になる点・良かった箇所や悪かった箇所・誤字・感想など頂けると嬉しいです。
プロットはあっても、筆がのらないと文章量は減るし、何だか筆舌し難い気持ちになりますよね。……なんか大切な回なのにあっさり締めてしまったことの、自分への言い訳です。
※途中のチャップの台詞の「おれ」は「俺」の誤字ではありません。仕様です。
追記:
チャップの台詞中におけるユウナの呼び方を訂正。
ユウナ→ユウナちゃん
終盤における一部の表現、助詞を変更。
チャップの台詞を一部追加。
追追記:後半でのチャップのセリフ表現をビミョーに変更。内容は変わりません。