陰険性悪二十代後半年上インテリ系女子(ゲス)はヒロインになれるか?   作:水風浪漫

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第七関門:自己紹介、顔合わせ

 

 

 

 

 

 フェンリル本部に入隊して、早一ヶ月。

 ついに、正式に実戦部隊に配属されるときが来た。

 教官の横に立ち、先輩ゴッドイーターへ紹介されているジャスティンの心境は複雑だ。これから始まるゴッドイーターとしての日々への高揚感と緊張、そして恐怖。自分が本当にやっていけるのかと、今になって不安がこみ上げてくる。

 バクバクと並打つ心臓を抑えつけて顔を上げたジャスティンの前には、4人のゴッドイーターの姿が在った。

 

 その内二人は彼も良く知るテディとロイスだったが、残りの二人とは初対面だった。

 

 一人は青年……だろう。160センチ後半ほどの身長はここ北欧の男性としては珍しい低身長だ。プラチナブロンドの髪は大きなバンダナで纏められている。緋色の袖無し革製ジャケットを羽織り、下半身は空間に余裕のある白い綿製のパンツに足元は革製シューズに包まれている―――たしか『コザネ』と言う名前だった覚えがある。

 

 彼は何の敵愾心があるのか、こちらを睨みつけていた。すると、それに気がついたもう一人の女性が青年の頭を叩いて止めさせた。

 

 綺麗な黒髪の女性だ。うなじの辺で切り揃えられた黒髪は艶があり、光を反射して綺麗に天使の輪をつくっている。モスグリーンのブルゾンで全身を覆っていて、肌の露出は全くと言っていいほど無い。一番上まで閉じられた首元のチャックが、彼女の几帳面そうな性格を表していた。

 

「痛っ……おい、いきなりなにすんだよ?」

「初対面の相手を睨むな」

「……別に睨んでねえんだけど」

「……あぁ、下から見上げてるせいでそう見えるのか」

「言外にチビって言ってるよな?!」

「そこっ! 私語は慎まないか!」

 

 言い争いは小声だったのだが、耳聡く気がついた教官から激が飛んだ。すると女性は何事も無かったかのように正面に向き直り、青年も不満げながらも姿勢を正す。

 

「―――と言うことで、彼は本日より諸君らの新たな仲間となる。……おい」

 

 一通り口上が済んだところで、教官がジャスティンに目で合図を送る。それに応じてジャスティンは歩を一歩進めた。

 

「ただ今ご紹介に預かりました、ジャスティン・ブラッドギアです! 早く先輩方に追いつき一人前のゴッドイーターとなれるよう精進していきますので、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします!」

 

 ジャスティンが言い終えたのを確認すると、続けて前に並んでいたテディが口を開いた。

 

「もう知ってるだろうが、改めて第二遊撃部隊隊長のテディ・ホープだ。仲良くやろうぜ! そんでこっちが……」

「副隊長のロイス・コナーだ。まさか同じ部隊になるとは思わなかった。よろしく頼む」

 

 ロイスが差し出した手をジャスティンも握り返す。そのゴツゴツした掌には硬いマメが感じれる。握力も並じゃない、長い月日をゴッドイーターとして生きてきた手だ。

 

「ロイスの事もよく知ってるだろう。残りの二人は初対面だったよな? こっちの小さいの―――「誰がチビだ!?」―――小柄なのがエラルド・デンテッラ。うちの切り込み隊長だ。小せえからって舐めちゃダメだぜ?」

「だーかーら、何度も繰り返すなよ!……あぁ、よろしくな新入り! 分かんねえ事があったら、この俺をガンガン頼って良いぜ!」

 

 遠慮なんかしたらぶっ飛ばすからな! と言い放つエラルド。なるほど、背は小さいが心は大きい。少し意味が違う気もするが、『人は見かけによらない』とは彼の事を言うのだろうとジャスティンは思った。

 ずいっと伸ばされた手を握ると、ぶんぶんと勢い良く上下に振り回された。

 

「最後にこいつが、うちのチームの紅一点!」

「ニコル・フライフォーゲルだ。長い付き合いになれることを祈っている」

 

 つまり早死にするな、と言う事だろうか。ニヤリ、と不敵な笑みを浮べて笑うニコルの目は言外に『まだ仲間と認めてはいない』とありありと語っていた。

 ジャスティンも負けじと笑顔を浮かべるも、無理やりだったせいで引き攣ってしまい、それを見たニコルがクツクツと笑った。

 

「……よし、連絡は以上だ。全員通常業務に戻り、ブラッドギアは隊長であるテディの指示に従うように」

 

 そうして教官は早々とこの場を後にする。

 ブリーフィングルームには、新メンバーとしてジャスティンを加えた第二遊撃部隊の面々だけが残された。

 未だ緊張しているジャスティンを見つめる四対の視線。その内の一つ、その奥に自信を携えたまあるい翠瞳と目が合った。両拳を腰に当てて仁王立ちしているエラルドはニカっと笑って、元気よく肩を回してきた。

 

「これからよろしくな!ジャスティン! 困ったことがあれば何時でもこの先輩を頼れよ〜! あ!そうそう、俺のことは『エル』でいいぜ。仲いいやつは皆そう呼ぶんだ」

「あ、はい。エルさん」

「タメ口で良いって! 歳も同じくらいだろ?」

「そうです……そうか? じゃあ、そうさせてもらう」

「そうそう! これからは運命共同体みたいなもんなんだから、仲良くやってこうぜ!」

「ああ。よろしくな、エル」

 

 ぐわっとエラルドは両腕を使って背後から覆いかぶさってきた。思った以上に重くて熱い。ジャスティンがエラルドを引き剥がそうとしていると、そこに横あいから、

 

「早速仲が深まってなによりだ」

 

 真面目な顔で言葉を挟んだのはロイスだった。隣にはテディも居る。彼らはジャスティンの正面に回り込むと、自分を指しながら、

 

「これからは仲間になるんだ。俺のことも呼び捨てにしてもらって構わんし、敬語も要らない。その代わり俺も呼び捨てさせてもらうが、良いか?」

「俺にもそうしてくれ。良いよなジャスティン?」

「あ、ああ。それで良い。よろしくなロイス、テディ」

「これからは頼りにさせてもらうぞ」

「さっさと一人前になって俺たちを楽させてくれよ?」

「あはは、早くそうなれるように頑張るよ……っといい加減に離れろ!」

 

 エラルドを引き剥がすとジャスティンは一息つく。たたらを踏んで着地したエラルドは、ぐるりと視界を巡らせると部屋の隅に駆けて行った。

 いつの間にそこに移動したのか。壁際のソファに腰を下ろして脚を組んで座っているのはこの部隊唯一の女性メンバー、ニコル・フライフォーゲルだ。

 

「別に私はいい」

「んなこと言ってないでニコルもちゃんと話しとけって、これからは同じチームなんだから。意思疎通が上手く出来る方が良いだろ? それとも実戦で失敗したいのか?」

「……」

「な? 俺もサポートするからさ。行こうぜ?」

「……お前がそこまで言うなら、仕方ない」

「よっしゃ!」

 

 デディが騒いでいてよく聞き取れなかったが、エラルドと数言言葉を交わすと、おもむろにニコルが立ち上がった。

 そしてエラルドに手を引かれてジャスティンの下までやってきた。

 

「ほら、もう一回自己紹介!」

 

 エラルドに促されたニコルと目が合う。しかしすぐに視線を外された。まるで『興味がない』と言われているように感じてジャスティンが眉を寄せると、焦ったようにエラルドが口を開いた。

 

「悪いジャスティン、別にお前を怒らせたい訳じゃないんだ。……ほらニコル!」

「……ニコル・フライフォーゲル。改めてよろしく」

「……ジャスティン・ブラッドギアだ。こちらこそよろしく」

「あぁ……」

 

 簡潔にそれだけ返すとニコルは黙りこくってしまった。

 それを見てエラルドは頭に手を当てて小さくため息を吐いた。テディとロイスも同様の反応をしているのだ、ニコルのこの態度は珍しくないようだった。

 

「ごめんな。ニコルは別に悪いやつじゃないんだけど……ちょつと、その、シャイなんだ」

「あれが……?」

「顔にも出ないし、凄え判かりづらいけどな」

 

 その分、心を開いたら結構面白いな奴なんだぜ? と続ける。

 

 ジャスティンは改めてニコルを観察する。

 一文字に結ばれた口元、猛禽類を連想させる切れ長の三白眼は今もあらぬ方向に向けられ、頑なに視線を合わせようとしない。この明らかに社交性のなさそうな彼女が言うに事欠いて『シャイ』だと言うのか。

 

 とその時、ちらり、と一瞬だが目が合った。そして瞬きの間に再び視線を外される。

 

「……」

「……」

 

 ちらり。

 

 また目が合った。

 

「……」

「……」

 

 ……沈黙が広がる。気がつくと他の3人も口を閉じ、ジャスティンとニコルの動向を注視していた。妙に重い、言葉を発しづらい雰囲気が続く。

 視線が離れないまま十数秒が経過しただろうか。とうとう堪えきれなくなったのかエラルドが口を切った。

 

「ああっもう! 長いよ!いつまでも見つめ合ってんじゃねぇ!」

 

 二人の視線を遮るように割り込んで来たエラルドは、ビシイッとジャスティンに指を突きつける。

 

「気ぃ遣えよっ! シャイだって言ってるだろ!」

「え、俺?」

「当たり前だろ! ほら、ニコルが固まっちてるじゃねえか! 大丈夫かニコル!?」

「……あ、あぁエル。だ、大丈夫だ。うん、大丈夫大丈夫大丈夫……」

 

 はっとして漸くエラルドに気が付いたらしいニコルは、小さい声で繰り返し呟き始める。

 

「ああっ、自己暗示始めやがったコイツ!」

「こうなると長いからな……。エル、終ったら教えてくれ」

 

 慌てだすテディ、それと対照的に傍観を決め込んだロイスは壁によし掛かって目を閉じてしまった。

 

「問題ない。私はやれる。冷静に落ち着いて大丈夫大丈夫……」

「ニコル! 俺はここにいるぞ!?皆いるぞ!? 戻ってこいニコル!ニコルゥゥ!!」

 

 あまり広いとは言えないブリーフィングルームにエラルドの叫びが木霊し、ジャスティンは思わず耳を押さえた。

 

「ああっ逃げんなロイス! エルもニコニコうるせぇ! ジャスティン!元はと言えばお前のせいなんだ、お前が何とかしろ!」

「はぁ!? 俺何もしてなかっただろうが! シャイとか、人見知りとか知らねえよ!?」

 

 あんまりな言い掛かりにジャスティンは反論する。しかしそれもエラルドの叫びに掻き消された

 

「やれば出来る。私は強い、強い強い……もう何も怖くない……」

「な、涙!? な、泣くなニコルゥゥゥ!!」

「ハンカチ! エルお前ハンカチ持ってないのか!?」

 

 騒々しい。僅か十数分前とは打って変わって大声が響く光景に、ジャスティンは天井を仰いで眉間を揉んだ。

 

―――やっていけるのだろうか、この部隊で?

 

「なんとかなるさ。その内慣れる。慣れれば、ここも悪くない」

 

 どこからともなく返ってきた返事に驚いたジャスティンがその声の出処を探すと、薄目を開けたロイスが何とも楽しそうな笑みを浮べて笑っていた。

 

「これから始まるんだ。お前も、お前と俺たちも」 

 

 そうとだけ言ってロイスは壁から背を離して、未だ騒ぎ続けるテディたちのもとに向かった。

 

「始まる、ねえ」

 

 ふと、フェンリルの召集令状が届いた日のことを思い出した。

 ただ、すごいすごいと持て囃す弟妹たち。複雑な顔で、寂しそうにしながらも祝ってくれた兄姉たち。そして驚いて、喜びながらも涙を流して最後まで俺の身を案じてくれたシスター。高級な肉の缶詰を皆で分けた教会での最後の晩餐会。

 アドルフィーネさんとの出会い。テディやロイスと馬鹿話に花を咲かせた日。鬼みたいな教官にしごかれた訓練の日々。『ブラッドギア』の名を貰った日―――。

 

 そして、今。

 

 ロイスの言う通り、『ゴッドイーター』ジャスティン・ブラッドギアは漸くここからスタートを切るのだ。

 この先どうなるかなんて、まだ何も分からない。

 

 顔を上げると、四対の視線がジャスティンに注がれていた。

 赤い髪を掻き上げて、テディが右拳を突き出して言う。

 

「第二遊撃部隊『チームテディ』だ! 俺達はお前を歓迎するぜジャスティン!」

「ああ! これからよろしく頼む!」

 

 勢い良く、二人の拳がぶつかり合った。

 

 

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