やはりナイトは格が違った!!-第5次聖杯戦争- 作:まじでやばい
分からない、もしくは説明が足りないでしょうか。
大図書館に住む魔女パチュリー・ノーレッジは、ブロントさんが両手で抱えるかばんの中身を見ていた。
黒くよどんだドブのような液体は、ブロントさんの僅かな手のゆれを敏感に受け取り小さく波打たせる。
ぬたりぬたりと不気味に揺れる泥は、小波がかばんの縁にあたると飛沫が飛び散り猛毒となって中を舞う。
それを吸い込むまいと、パチュリーはハンカチを顔に当て身を守るようにしてやり過ごす。
この泥が放つ猛毒の正体は人が持つ悪意そのものだ。
それはグラットンと似たような特性を持ち、この泥に触れたものは健康を害して死ぬ(普通)
グラットンが洗練され純度を増してできた結晶だとしたら、この泥はただの水溶液。
だからこそどこにもとどまらず、すべてを平らげるまで猛毒は拡大していく、名実ともに札つき物の悪。
そんな泥に向けてパチュリーの指先からきれいな色をした幾何学模様が飛んでいく。
きらきらと七色に輝いていたそれは、泥に触れたとたんに色を失い燃えかすのように消える。
ブロントさん達にはそれがいかなる行為なのかまったく検討が付かないが、パチュリーが何度も何度も繰り返すのだから、きっと大事な事なのだろう。
「・・・面白いわね。適当に魔法を飛ばしてみたんだけど、触れたとたん魔力が吸収されるわ」
「お前遊んでたのか!!というか鬼なるんだが!?」
訂正。
魔女はただ遊んでた。
-カカカカッ-
ブロントさんと霊夢がこの大図書館に来た目的は、パチュリーに助言を求めるためだった。
「本の傍に在る者こそ自分」と自身をそう評価しているらしく、パチュリーは一日中読書をしてすごしている。
一日36時間とか平気で矛盾したペースで本を読んだりするので、その知識量はすさまじい。
パチュリーは見た目10代の隠れ巨乳少女だが、魔法使いは外見が変化することがない(デカメロン話)
そんな彼女が一体どれだけの時間を読書に費やしてきたか想像も付かないが、困ったとき泣きつけば「大体正しい」答えを導いてくれるくらいに、その頭脳は知識を溜め込んでいる。
つまりブロントさん達は、この魔女の頭脳を当てにしてやってきたというわけだ。
ブロントさんの話を聞いたパチュリーは、あまりの信憑性のなさに疑うような顔をしていたが、かばんの中に溜まる泥を見て態度を変える。
パチュリーの知識に該当するものがあったのかなかったのかはわからないが、泥に粉を振り掛けたり、手をかざして熱を確かめたりして熱心に何かしていた。
結局その行為半分以上はただ遊んでいるだけだったが、すばらしい頭脳をもつ魔女にはそれで十分だったらしい。
カカッと泥を調べ終えたパチュリーはこんなことを言った。
「グラットンはどこか別の場所に通じるポータルになってしまったようね」
「hai?グラットンは剣であってポタとは無関係。どういう意味なのか【わかりません】」
まったく意味が分からないブロントさんは、目を玉のように大きくして首をかしげる。
グラットンから染み出すこの泥は周囲を害するという特性を除けば上質な魔力の塊なのだという。
魔力とは、パチュリー達のような魔法使いが扱う不思議パワーのことだ。
魔法使いが体から発していたり霊脈と呼ばれるところから湧き出していたりしているが、一般人にはその色や形を認識することはできない。
それがある一定の方向性を持って視覚化しているのだから、この泥が持つ魔力の濃度はとんでもないということになる。
魔法使いはその魔力を使ってさまざまな現象を引き起こす。
自分の魂を七つに分けて擬似的な不死を手に入れたり、復活してすぐ決闘相手をおじぎさせたり、魔力があれば何でもできてしまう(おじぎ話)
それは言葉通りの意味で「何でもできる」ので、この泥が持つ魔力を使えば、グラットンを別の何処かへ通じるポータルにするのも不可能ではないと言う。
つまりグラットンから染み出すこの泥は、通じてしまった何処かから流れてくる産業汚水のようなもの。
それを鑑みるに、通じてしまった何処かはろくな場所ではないだろう。
「しかし何故そんなことをするのか理解不能状態。一体誰が何の目的でそんなことをしたんですかねえ?」
「魔法を使った相手の意図が分からないから私の推測になるんだけど、おそらく目的はブロントさんよ。グラットンを狙ったのなら、わざわざブロントさんを襲う必要はないもの。そう考えるのが自然だわ」
「おいィ?至高のナイトである俺を狙うとかそいつ絶対忍者だろ・・・。汚いなさすが忍者きたない」
腕を組んでむっとした顔になるとブロントさんはイラついたようにそう言い放つ。
ブロントさんはグラットンが作った裏世界っぽいところで、体と意識を離され、体を奪われていた。
その結果、ブロントさんは天人そっくりの姿になってしまい、霊夢にさんざん粘着される羽目になる。
それはグラットンの暴走に巻き込まれた結果ではなく、明確な意思を持ってブロントさんを狙った結果だと、パチュリーはそう主張したのだ。
しかし、霊夢はそれに違和感を感じたのか、パチュリーに不満そうな顔で言葉を投げかける
「いや、それ順序が逆よ。グラットンを狙ったからこそブロントさんを襲うんでしょ?」
お宝を守る門番がいるのなら、それをかわして宝を手に入れるのが定石だ。
この場合、門番がブロントさんでお宝がグラットンなのだから、お宝を手に入れるにはブロントさんをどうにかする必要がある。
つまり霊夢はブロントさんが体を奪われたのはグラットンをどうにかするためであって、ブロントさんが狙われたわけではない、と考えたのだ。
それにブロントさんは自他共に認める一級廃人である。
寝ながらアイテム販売もするし、釣りもする(BOT疑惑)
いくらブロントさんが眠っていたからといって、そんな風に襲われて気がつかないはずがない。
というか寝てる門番とかいるわけない。
霊夢がパチュリーにそう主張すると、パチュリーは首を横にふった。
「いいえ違うわ。そうしたいのなら、ただ”願う”だけでいい。それで何でもできてしまうのがこの泥なのよ」
「・・・冗談でしょ?私がこのきったない泥に"お賽銭をください"ってお願いしたらかなえてくれるって言うの?」
霊夢のある意味分かりきっていたお願いに、ブロントさんは「お前それでいいのか・・・?」とこっそり突っ込みを入れる。
霊夢はブロントさんの件があるだけに頭ごなしに否定したりするようなことはしなかったが、内心疑っていた。
この泥は、明らかに人の願いをかなえてくれるようなすばらしいものではない。
目の前に見せつかられるだけで不快になる、はっきり言ってしまえば汚物と同じものだ。
それが魔法のランプのように願いをかなえてくれると言うのだから、信じたくもなくなる。
眉間にしわをよせて、むむむとうなる霊夢をパチュリーは無表情に眺めていたが、ただ一言
「そうよ」
と、静かに言葉を返した。