やはりナイトは格が違った!!-第5次聖杯戦争- 作:まじでやばい
説明が足りないところがあったら言ってください。
ブロントさんと霊夢は、博麗神社に帰るために夜の泉のほとりを歩いていた。
氷の妖精が縄張りとするこの泉には、所々に氷の破片がぷかぷかと浮かんでいる。
やさしく照らす月の光をそれがキラキラと反射して星のように輝く。
夜空と泉の境界を暗闇が曖昧にしているので、空にむかって泉の水が流れ込んでいくようにも見える。
夜空が生まれる場所はここだ。
いまどき誰も信じないそんな言葉も、この光景を見ることができたならきっと信じてしまうだろう。
そんな神秘的な泉のほとりを、二人はただ黙って歩いていた。
この光景に感激し、声を詰まらせているわけではない。
それは月光が暴き出す二人の表情を見れば一目瞭然だろう。
ブロントさんは何か考えているのか、地面の方に目を向け、いつもより無愛想な表情で歩いている。
霊夢は何か言いたいことがあるのか、時折ブロントさんを横目で盗み見て機会をうかがうようなしぐさをする。
二人は歩幅をあわせて並んで歩き、ゆっくりとゆっくりと進んでいく。
肩がぶつかるような距離で歩いているから、人影がひとつになったり二つになったりしている。
時折、どちらからともなく息を呑むような気配がする。
おそらく声を掛けるタイミングを見計らっているのだろう。
沈黙を続ける二人の思いは、きっと同じ方向を向いて交差している。
どちらかが一歩踏み出し言葉を発すれば事態は進展する。
それが恐ろしいのか、それともただ雰囲気がそれをさせないのか。
二人はただ黙って歩いている。
-カカカカッ-
「死ぬよ」
「えっ」
「ブロントさん死ぬ」
グラットンについて説明を終えたパチュリーは、いきなりそんなことを言った。
一瞬何を言われたか理解不能状態だったブロントさんだが、次第に状況を飲み込めたのか鬼の首を取ったみたいに騒ぎ出す。
「何いきなりバニッシュデスしてきてるわけ!?事前に死ぬと分かっていれば反抗も出来ますがわからない場合手の打ち様が遅れるんですわ?お!?」
「今死ぬと分かったんだから抵抗できるでしょう?落ち着きなさい。死にたくないなら落ち着きなさい」
「hai!まだ僕は死にたくないんです!!経験値ロストが怖いんです!僕の頑張った時間を奪わないで下さい!」
ブロントさんは混乱した。
確かに体は天人そっくりになってしまったが、具合が悪いかと言われればそうではない。
今までもそうだったのではないかと思うくらい問題なく体は動くし、元気に空腹を訴えてきている。
超・健・康・体。
こんな言葉以外自分を表現するフレーズはないとブロントさんは感じている。
それがいきなり死ぬと言われて、リアルでびびったブロントさんは涙目になってぷるぷると震えだした。
天人の見た目も相まって、それは追い詰められた小動物みたいに見える。というか実際追い詰められてる。
「・・・それどういうこと?ブロントさんの体が変化したのと何か関係あるわけ?」
「天人そっくりの姿になったのは、そうなる過程で生まれた副産物よ。問題はそこではないの」
霊夢は余裕のなくなった表情でパチュリーに問いかける。
表情には出していないが、あせっているのか不安がオーラとなって腋から表れそうになっていた(腋汗話)
今のブロントさんはエーテルと呼ばれる不思議パワーが、魂を核として人型を作っている「実体を持つ幽霊」のような存在なのだとか。
エーテルは魔力と同じようなもので、すべての魔法現象の元となるものだ。
魔法で火をおこすのも風をおこすのも、すべてこのエーテルが元となっており、魔法とは切っても切り離せない位置にある。
そんなもので体が作られているブロントさんは、魔法で存在を確認されているとても不安定な状態にあるらしい。
ある意味、寿命をもつ肉体から開放され生物の法から解き放たれたともいえるが、実際そんなに甘くはない。
人一人の体をエーテルで形作るには、膨大な量のエーテルが必要になる。
それは生きた魂を沢山融解して得られるほどの量で、なおかつそれを糧として生きていくことを余儀なくされる。
普通に考えてそんな非効率で燃費の悪い肉体が、平然と、それも平和な日常を満喫できるはずがない。
つまり自力でエーテルの肉体を維持することは実質不可能で、今のブロントさんの状態は"何か裏がある"ということだ。
パチュリーの見立てでは、グラットンが通じた先にある何かがそのバックアップを行っているらしい。
グラットンが開けた穴を通して「パス」と呼ばれる不思議パワーの通り道がつながっていて、そこからブロントさんが存在していられるだけのエーテルが流れてきている。
どんな目的があるかはわからないが、つまりブロントさんはエーテルを融通する何かに「生かされている」という状態にあるわけだ。
なぜ天人の姿になってしまったかは分からないが、肉体を形作る段階で何らかの影響があり、そうなってしまったと考えるのが妥当だろう。
「人の体奪った上に命まで人質にとるとかそいつ絶対忍者だろ・・・。普段は心優しく言葉使いも良いナイトでも、あまりの非道ぶりに完全な怒りとなった」
「お、落ち着いてブロントさん。あまり無駄な行動をするとエーテルを多く消耗するわ」
パチュリーの話を聞いて、ブロントさんの怒りが有頂天になった。
左腕からは電撃がほとばしり、体からは怒りがオーラとなって放出される。
かつて見たこともない怒り方をするブロントさんに、パチュリーは生まれて初めてほんのすこしびびった。
幻想郷に来てから毎日が平和だったわけではないが、それでもブロントさんは楽しく暮らしていた。
いろいろな出来事を通じて沢山フレもできたし、なにより霊夢やルーミアのような、家族とよんでも差し支えのない人たちとも出会うことができた。
それがどうだろうか。
体は自分が知る物ではなくなり、気まぐれで今すぐにでも死んでしまうかもしれないと言うふざけた状況。
かばんからは危険な泥があふれかえりそうになっているし、何より霊夢がすごく不安そうな顔をしている。
ブロントさんにはそれがどうにも許せなかった。
強がって見せて霊夢を安心させてあげたいが、それもこんな体ではまったく説得力がない。
今すぐにでも乗り込んでいって前歯へし折ろうとする勢いのブロントさんは、パチュリーに詰め寄ってどうすればいいか訪ねようとした。
あまりの勢いにパチュリーはぶん殴られるのではないかと気が気ではなかったが、今まで黙って話を聞いていた霊夢が口を開いたことでブロントさんの意識がそれた。
「・・・エーテルとか言うのを用意できるなら、ブロントさんは大丈夫なんでしょう?ならそれでいいじゃない」
「【えっ!?】お前話し聞いてたのかというか鬼なる・・・。俺にカニバリズムすすめるとかちょとsYレにならんしょこれ・・・」
ブロントさんは信じられないものを聞いたという顔で、霊夢を見つめた。
霊夢はブロントさんと視線を合わせず目を下に向け、指を絡ませるようにして手をもじもじさせる。
その姿はしかられるのを恐れる子供のようで、いつも感じる力強さはまったくなかった。
ブロントさんはふざけたことを言い出した霊夢に一撃くれてやるつもりだったが、そんな様子に気が引けてしまい言葉に詰まる。
「・・・ブロントさんが望むかはわからないけど、そうすることもできる。ただそれじゃ根本的な解決にならないわ」
「俺はルーミャじゃないので人食いとか【いりません】。とっととどうしたらいいのか教えるべき死にたくないなら教えるべき」
霊夢のばかげた提案をほう・・・と受け流したブロントさんは、パチュリーにこれからどうすればいいのかを尋ねた。
しかし霊夢はそれを意に介さず、ブロントさんに食い下がる。
「ブロントさんこそ話を聞いてましたか?別に人を食う必要はないんです。用はそれに変わるものを用意すればいいだけで・・・」
「おいィ!お前いい加減にしろよ・・・。こっちが礼儀正しい大人の対応してればつけあがりやがってよ!!俺はそんなことはしたくないと言っているサル!」
「ちょっと喧嘩しないでちょうだい・・・」
雲行きが怪しくなってきたブロントさんと霊夢を、パチュリーは手のひらを向けるようにして静止し、二人をなだめた。
どんな思惑の違いで二人が衝突しそうになっているか分からないが、お互いの思いを理解して解決を導いている場合ではない。
なにしろブロントさんの体にも、グラットンにもタイムリミットがある。
もしブロントさんの体にエーテルが供給され続ければ、ブロントさんは平穏無事に生きていくことができる。
しかしグラットンが別の何処かに通じている限り周囲に害をもたらす泥が収まることはない。
収まらない確証はないが、それがもつ底の深さを鑑みるに、幻想郷ひとつを食らうほどは確実にあるだろう。
逆にグラットンの穴が閉じてしまえばブロントさんを生かすパスは閉ざされ、ブロントさんは瞬く間に消えてしまう。
それこそ魂を食らうという選択肢もあるが、ブロントさんはナイトなので絶対に了承するはずがない。
つまりこれは「どちらをとるか」という選択ではなく「どちらもとらなければいけない」という脅迫で、将棋で言えば詰みの形だ。
だまってパスをすることができないブロントさんは、何らかの手を打つしかない。
だからこそ自分の体を取り戻し、なおかつグラットンが通じる穴を閉じる。
それがこの異変の最終的な解決のかたちで、理想系だ。
パチュリーは二人にそう告げるとそれぞれ異なった反応が返ってきた。
ブロントさんはやる気満々といった感じだが、霊夢は目に見えて乗り気じゃない。
「こうなってしまった以上決断は早いほうがいいわ。準備はこっちでしてあげるから、グラットンが指し示す先へ行くかどうかはブロントさんが決めて頂戴」
「hai!おれは光属性のリアルモンク属性だから一目置かれる存在。たまに異世界に行くとみんなが注目する。カカッと解決してくるからよwまあみてなw」
「露骨にフラグを立てようとする・・・いやらしい」
これからの方針が決まったブロントさんは、ネガネガするのを辞めて前向きになっていた。
いつもの調子を取り戻してパチュリーと楽しそうに会話をするブロントさんを、霊夢は寂しそうに見ている。
霊夢は不安だった。
これは博麗の巫女としての勘がそう告げるのではなく、霊夢という少女がブロントさんを思うがゆえに感じる純粋な恐怖。
「・・・行ってなにもなかったらどうするのよ」
霊夢は弱弱しくぽつりとつぶやいた。
-カカカカッ-
あれからずっと無言で二人は歩き続けて、気がつけば博麗神社の石段の前まで来ていた。
大図書館でのやり取りがなぜか気まずくて、お互いが声を掛けられなかったのだ。
このまま石段を登ってしまえば、このもやもやとした気持ちはうやむやになったまま消えるだろう。
それはブロントさんも霊夢もいやだった。
示し合わせるでもなく二人は足を止めると、石段に腰をかける。
「・・・ブロントさん」
「・・・何かようかな?」
「グラットンすごい・・・、じゃなくて、やっぱり行くんですよね・・・」
霊夢が先にブロントさんに声をかけた。
霊夢が感じる不安。
それを詳細に知ることは、霊夢が自分から話さない限りないだろう。
それでもその一言には、それらすべてを感じさせる思いがこもっていた。
「行くんですか」と。
ブロントさんに、沢山の意味をもって問いかける。
「どちらかと言うと大正解。このままではリアルより充実した幻想郷生活は認可されない、されにくい!それにこんなことした奴に一撃入れないと気がすまないんですわ?お?」
「・・・そう、ですか」
ブロントさんの答えはすでに決まっている。
「口で説明する暇があったら牙をむくだろうな」を実践するブロントさんにとって、それは当然のことだ。
霊夢もそれは理解していた。
ブロントさんならばそうするだろうな、と。
霊夢とブロントさんは知り合って1年ほどだが、過ごした時間は特別なものだった。
他人にたいした興味もしめさず生きてきた霊夢にとって、こうして一緒に暮らすブロントさんは大げさでもなんでもなく大切な存在だろう。
お互いを支えあうようにして暮らしてきた二人には、いまさら分かりきった事を聞く必要はない。
それでもそうせずにはいられない。
ブロントさんと霊夢が今していることは、一種の儀式のようなものだろう。
「ブロントさん」
霊夢がブロントさんを見つめる。
以前は見上げるほどの身長差があったが、今はまっすぐ前を見つめるだけでいい。
見た目が天人なのが若干、いや大分むかつくが、霊夢はその瞳の奥を覗き込むようにブロントさんを見つめる。
「私が"残ってください"って言っても、行くんですか?」
「おいィ・・・」
ブロントさんは霊夢の言葉に答えを詰まらせた。
それは以前、ブロントさんがヴァナディールに帰ろうとしたときに霊夢が心の底から搾り出し、ブロントさんに送った言葉。
ブロントさんはそのときの事を、今でも鮮明に思い出すことができる。
そんな言葉をこの状況で言われてしまったら、ブロントさんは困ってしまう。
おいィおいィ、と奇妙なうなり声を上げて悩みだしたブロントさんを、霊夢はうれしそうに観察していた。
「霊夢がそういう事言うのはズルイ。このままでは俺の気がヒュンヒュン行って一瞬の油断が命取りなんだが・・・」
「ごめんなさい。冗談です」
冷や汗をかいて小さく息を吐いたブロントさんは、不満たっぷりの目で霊夢を見つめる。
そんな視線を、霊夢は心地よいものでも浴びるみたいにして微笑むと、石段から腰を上げた。
今のやり取りに一体どんな意味があったのか。
満足したらしい霊夢は軽い足取りで石段を登り始めた。
ブロントさんは、霊夢が元気になってくれたのがうれしかった。
「やはり泣き顔より笑顔だな。今回のでそれがよく分かったよ>>エリ夢感謝」
ブロントさんは隣に並んで一緒に石段を登ろうと、霊夢の隣に駆け寄る。
それに気がついた霊夢はわざと石段を降りて、ブロントさんから離れるようにいじわるをした。
離れていこうとする霊夢が気に食わないのか、ブロントさんは意地になって霊夢の後を追いかける。
しばらく二人はそうして遊んでいた。
が、だんだん本気になってきたらしく、石段をガジガシ鳴らしながらマジ顔で鬼ごっこを始める。
「おいィ!?お前いい加減にしろよ!このままでは俺の寿命がストレスでマッハなんだが!?(エーテル話)」
「私はただ石段を登ったり降りたりしてるだけですが?言いがかりつけてくるナイトとか聞いたことないんで抜けますね^^;」
「ちくしょうエル夢は馬鹿だ;;」
石段を自分の足でかけるブロントさんと違い、霊夢はすこし浮いてホバリングするみたいに移動していた。
飛ぶのと走るのでは消費する体力に大きく違いが出る。
結果、石段には息を切らしてへばる銀髪の雑魚がいた。
「ブロントさん」
「ゼェ・・・ゼェ・・・なにかようかな!?」
「お土産期待してますねw」
「hai!って俺は観光に行くんじゃないんだが!?・・・だが「」確かにな。俺は圧倒的な生命維持能力を保持するナイトなのでお前全力で期待してていいぞ!!ゼェゼェ」
息を切らしながら、ブロントさんは自信たっぷりに答える。
「まってますね、ブロントさん」
霊夢は笑顔でそう言った。
そんななんでもないやり取りが、霊夢にはたまらなく悲しかった。