おちている。
その感覚だけが、男の体をみたしていた。
よって立つべき足場をうしない、虚空になげだされ、ハラワタは浮きあがるよう。
風をきる音はすでに遠く、耳をふるわせるものはなにもない。
しじま。
死にのぞむおのれをつよく自覚しながら、これが走馬灯なのかとぼんやりと思う。
まどろむ意識のなかに、声がとよむ。
「単にあんたが目障りなだけだよ」
甲高い男の声。
「まじめにやりなさい。相手はあの呉島貴虎よ」
凛とした女の声。
「残念だ。本当に残念だよ貴虎。君となら、ともに理想をめざせると思ったのに」
そして、うれいげな吐息をふくんだ男の声。
「君は、私の理解者ではなかった。とても名残りおしいが、お別れのときだ」
その声が耳の奥でこだまして、やがてしぼんで消え去った。
仮面に覆われたその声のヌシたちの顔を思いうかべようとして、結局なんの形もむすびはしない。
信じていた。
信じられていると思っていた。
彼らに対する恨みはない。
心をかよいあわせたと思いこみ、、その奥底に気づかなかった。
そのおのれの愚かさだけがくやしい。
はたすべき責務をはたせなかったことが無念で、それを誰かに押しつけなければならないのが情けなかった。
(光実……)
呆然とみつめる、まだ幼さをのこす顔。
まだひとり立ちもできていない弟の姿が、マブタのうらに焼きついている。
その焼きついた顔が、別の誰かの形にゆがんでいく。
深いシワをかんばせにきざんだ老人へと。その顔がみあげながらおだやかに、おごそかに語りかける。
「Noblesse Oblige。高貴なるものには、背負うべき責任がある。われわれ呉島は、俗物とはちがうのだ。わかったな、貴虎」
いつか父が語った、おのれのありかた。
おのが責務を果たさんがために厳格でありつづけ、非道を歩むこともいとわなかった、呉島の男。
その父も、こころざしなかばにして世を去った。
みずからがなすべきこととのために踏みにじった、力なきものどもの手によって。
マブタにうつる思い出のなかの父の姿も、うすれてはきえる。
ついぞ父と心をかよいあわせることはなかったが、その言葉だけは正しいと信じ、それにしたがって生きてきた。
その果てが、このざま。
父のようにおのが罪のむくいを受けるのではなく、わざわいに乗じて野心をみたそうとたくらむ、部下の裏切り。
人類を救うと大言をはいておきながら、人をしたがえることすらかなわなかった。
おのれが背負うには重すぎたのか。背負うだけの力がなかったのか。
そのウチに対する問いかけは、無意味だった。
うつろな思考がさりゆくまでの、義務から生じるあがきも、もうすぐおわる。
おのれのたたかいは、はたすべき責務は、もうない。
そうして、うつろいゆく思い出にしずむ男の体をみたすのは、すでに、いつ奈落へたどり着くかもわからない浮遊感ではなかった。
どれだけのときを、そうしてながれたのか。
ふと、からだにほとりをおぼえる。
(なんだ……)
顔が、手が、あたたかみをやどす。
(ひかり……?)
ただヤミがみたすマブタの裏にともる、かそけき光。
そのマブタににじむ光はかがやきをまし、男の瞳をうちふるわせた。
そのきらめきのなかに、誰かの姿が重なる。
(あれは)
その誰かがふりむいて、さけんだ。
「俺はあきらめない!」
炎のようなゆらめきをたたえて、ただまっすぐに前を見すえるふたつの目。
幾度となくすくいのない現実をつきつけられ、悪意に満ちた暴力にさらされても、くじけず、立ちあがりつづけた男の姿。
こどもではなく、オトナにもなりきれない、半端者と自分がののしった男。
どれだけ打ち据えられようとも、怒りと悲しみをむねに、もがき、あがき、だれも犠牲にしないという夢をおった男。
(そうだ)
はじめはそれがなんであるかも知らず、考えずに、あたえられた力にうかれていた男も、この世の悪意を見、悪意を知り、悪意にうちのめされ、そしてたちむかった。
そのスガタにいらだちもした。
犠牲なくして理想はならない。そのために人類の七分の六を間引こうともした。
そんなおのれに立ちはだかり、ついにはあらたな道をもたらした、諦めのわるい男。
「俺たちはまだであったばかりだ」
ようやくみいだした希望を手放しかねないことをしたと危惧する自分に、かたりかけた言葉。
それが、人類と未知の生命のであいだけでなく、己と男のであいにもかかっているときづいていたのか。
チが、かよいだす。
腹にぐっと力をこめ、手足への血の巡りをたしかめる。
(わたしはまだ)
マブタの裏にささる光に痛みをおぼえつつ、それをふりきるように目をひらこうとする。
(あきらめるわけにはいかない)
まだイノチがあるのならば。あの男のように。
指ひとつ微動だにしない体が、息をふきかえしてゆく。
(それがわたしの……)
わずかにスキマがのぞいたマブタに、瞳をこがすような光がさす。
見開かれた双眸は、あまねく降りそそぐ光にくらむ。
あまりの痛みに、またすぐ目を閉じてしまう。
すると、マブタをとおして届く光がよわまった。
なにかが影になったのか。
血がかよい、やっと動くようになった手を目の前にかざし、今度はゆっくりと目を開く。
指と指のあいだ。その向こうから、鳶色をしたふたつのつぶらな光が、男をのぞきこんでいる。
「あなた、誰?」
そうして、呉島貴虎は少女にであった。
はじめまして。
小説を書くのは初めてなもので、忌憚ないご意見をいただけるとさいわいです。
「仮面ライダー鎧武」と「ゼロの使い魔」のCross Overですが、主役は貴虎で他のキャラはあまり出番がありません。
なお、完全なOriginalのライダーとLock seedはでません。
更新は一週間以内を目標にしています。
はやく続きを書けと発破をかけていただけると、気合がはいるので気が向けば是非。
よろしくお願いします。