以後よろしくお願いします!
プロローグ
「え?」
呆けた自分の声で始まるこの夢を、僕は何度見たんだろう。
「だから、ウチがここにいられるのは、この3月までなんよ」
あれは…そう、小学5年の冬だった。
夢に出てくる彼女は、いつも変わらない。
どこかつかみどころがなくて。
誰とでもニコニコ話をしていて。
一つ上の学年の僕にも物怖じすることなく接していた。
「え…転校ってこと?」
「そう、4月からは愛知の学校なんや」
1年。それが僕と彼女が過ごすことのできた時間だった。
でも、その1年は幼い僕に淡い恋心を抱かせるには充分すぎる程だった。
「これ、あげるね」
彼女が渡してきたのは緑のリボンがついたついた小さな赤い箱。
「ん? 何これ?」
「嫌やな〜、今日が何日か忘れたん?」
忘れる訳がない。2月にやって来る、男子が期待と不安に振り回される日だ。
「あぁ〜、そういえば今日だっけ。バレンタイン」
本当は飛び上がって喜びたいくせに、あたかもバレンタインの存在を忘れていたかのように振る舞う僕。
「ま、毒でも入ってないといいんだけどな」
照れ隠しを言いながらも、ニヤニヤとした笑みを消すことができない。
「でも、サンキューな。ホワイトデー、期待してろよ? チロルチョコくらいはおごってやるから」
そこでツッコミが入ると思ってた。
今思うと、もうちょっとマシな事が言えなかったのかと後悔しかない。
でも、
「うん、期待してる」
一瞬。
本当にコンマ一秒位見せた彼女の寂しげな瞳に、浮かれていた心が地面に叩き落とされた気がした。
そして……
彼女は、二度と学校に来る事はなかった。
「えー、東條 希さんですが、ご家庭の事情で3月から転校しました」
先生から転校の話を聞いた時、足元の床に穴が開いたような感覚に襲われたことを、今でもよく覚えている。
周りの景色が白黒になっていき、全ての音が遠ざかっていく。
そのくせに自分の呼吸音はバカみたいに大きく聞こえて
うるさいな、なんて思ったものだ。
頬を流れる液体の感覚に、意識が覚醒していく。
夢から現実へ。
過去の失敗から、今の新しいスタートへ
そして
「くっそ……」
僕はこの日を、悪態で始まらせた。
なんて目覚めだ。今日が何の日かを思い出して、僕の気分は朝からだだ下がりだ。
よりにもよって社会人として最初の朝を涙で迎えることになるとは思ってもみなかった。
部屋は春の朝らしい微妙な肌寒さを残していたが、二度寝を決め込むという選択肢を選ぶ気にもなれず、僕はのそのそと起き上がった。
いかがでしたか?
週1投稿を目指して頑張りますので、よろしくお願いします!