雨の日の学校。
どこか湿っぽい空気も相まってか、廊下に出ている生徒は少ない。
「どうやらあの子ら、止めるつもりは無いようやで? にこっち」
一人佇んでいた生徒が、歩いて来た生徒に突然話しかけた。
にこっちと呼ばれた少女は事情を知っているのか、特に困惑した様子はない。
だが、掛けられた言葉に対する反応はあまり良いものではなかった。
「……ふん」
「あの子ら」の存在が気に食わない。
少女の仏頂面からはそんな感情が滲み出していた。
二人の生徒はそれ以上の会話をすることなく、別々の方へ去っていった。
*****
「穂乃果? ストレスを食欲にぶつけると、大変なことになりますよ?」
雨が降っている以上、屋外での練習は不可能。
練習をしたいのにできない。そのことが高坂さんをものすごい形相にしていた。
僕たちは今、ガチなピエロがマスコットを勤めるハンバーガーショップにいる。
梅雨や台風など、数日に渡って天気が崩れることはよくある事だ。でも、その度に練習が出来ない日が続くなんてことになれば、アイドルとしてのレベルアップなど到底望めない。
練習場所をどうしようという目的での会議なはずだったが、高坂さんは天気の方にお怒りらしい。
「雨なんで止まないの?」
「私に言われても」
親の仇とでも言わんばかりにポテトをパクつく高坂さんだが、天候をどうこう言っても始まらないのは理解しているらしい。
(これ以上は止めた方がいいな)
なんて考えながら自分のジュースを取りに席を立った時だった。
「ッ!?」
衝立を挟んだ隣の席にとんてもないものが見えた。
例えるなら……小学生が描くような「う◯ち」だろうか。それもピンク色の。
「……はぁ」
小さくため息。
東京に来る前から、東京には地元では見ないような奇抜なモノが沢山あるだろうと思ってはいた。
だがさすがに食品を販売するお店で「うん◯」を拝むことになるとは流石に予想外だった。
「さっき予報見たら、明日も雨だって」
「えぇ〜!」
別に取りに行っていた南さん、小泉さんが戻るなり、高坂さんの不機嫌に燃料を投下。
「ねぇ高坂さん……」
食べ過ぎは美容と健康に良くないらしいぞとの声は、最後まで出なかった。
高坂さんのトレー。そこに残っていたはずのポテトが、消えていた。
それだけで考えると彼女が全部食べてしまったとしか考えられないが、そんなはずは無い。
ペースこそ速かったが、彼女のポテトはまだまだ残っていた。この一瞬で全部食べきるとなると、無理矢理口に押し込むしか無い。当然ながら、高坂さんはそんなことはしていなかった。
「あれ? 無くなった……
海未ちゃん食べたでしょ!」
「自分で食べた分も忘れたのですか? 全く……」
ヒュッ
微かな音と共に、視界の端で何かが動いた。
「穂乃果こそ!」
「わ、私は食べてないよ!」
今度は園田さんのポテトが無くなっていたらしい。
「そんなことより練習場所でしょ? 教室とか借りられないの?」
廃校の危機に陥るほど生徒が少ないこの学校には、空き教室がかなりある。それらの一つだけでも使えれば状況は好転するのだが……
「前に先生に頼んだんだけど、ちゃんとした部活じゃ無いと申請が出せないんだって」
……ん?
「そうなんだよねぇ……部員が5人いればちゃんとした部の申請をして、部活にできるんだけど……」
高坂さん以外の「5人」が顔を見合わせる。
「5人なら……」
「あっ」
ここでようやく彼女も状況が理解できたようだ。
「そうだ! 忘れてた!」
衝立の向こう。◯んちの辺りから声が上がる。高坂さんの声に驚いたのだろうか。
「部活申請すればいいんじゃん!」
そう。μ'sのメンバーは6人。申請の要件は満たしているのだ。
「忘れてたんかぁぁい!」
魂のツッコミは、衝立の向こうから入った。
今までの会話を聞いていたのか。その人は一瞬で席に戻ったが、服装を目に焼き付けるには充分すぎた。
ツッコミを入れた人物は、う◯ちの様な形状の物体を頭に乗せ、サングラスで顔を隠すという、よくもまぁ入店拒否されなかったなと違う意味で感心したくなる奇抜ファッションだったのだ。
「それより、忘れてたってどういう事?」
この状況下でも本題からぶれない西木野さん。将来すごい医師になれそうだ。
「いやぁ、メンバー揃ったら安心しちゃって……」
「……この人たちダメかも」
「ついうっかり」で重要事項を忘れていた高坂さんに、西木野さんは呆れてものも言えない様子だ。
「ぃよし! 明日早速部活申請しよう! そしたら部室が貰えるよ!
ハァー。ホッとしたらお腹空いてきちゃった。さぁて……」
残っていたハンバーガーに手を伸ばす高坂さん。
ハンバーガーに背を向けていた彼女が状況を把握したのはその瞬間だった。
衝立に開けられているスペース。そこから手が伸ばされ、彼女のハンバーガーをむんずと掴んでいた。
これ以上ない形の現行犯である。
手の主もバレたことに気づいたのだろう。衝立の向こうに戻りかけていた一瞬手が止まり、次にそっとハンバーガーをトレーに戻す。
そして席を立ち、この場から離れようとするのだが……
その様子が、ピンク色のう◯ちが空中浮遊している様にしか見えないのである。
小柄なのか、衝立と同じくらいの背丈らしい。
そこで金縛りが解けた。
「待て!」
僕もすぐに追いかけようとしたが、声を出す前に動いていた高坂さんの方が早い。
即座に(つまみ食いの)犯人の腕を捕まえた。
「ちょっと!」
「クッ……解散しろって言ったでしょ!」
「解散!?」
「そんなことより、食べたポテト返して!」
「そっち!?」
ツッコミが追いつかない様子の小泉さん。安心してほしい。今この場で状況が理解できている人は多分いないだろう。まず会話が成立していない。
「あーん!」
口を大きく開ける犯人。もう食べたから残っていないというアピールか。
背丈や声の高さからして若い女性のようだ。それにしては品が無さすぎる気がするが。
「買って返してよ!」
「あんたひゃちダンスも歌も全然なってない!ふろ意識が足りないわ!」
ほっぺをつねられながらもそんなことを言う犯人。
意表を突かれた高坂さんの手から離れると、犯人はビシッ! と指を突きつけた。
「いい? あんた達がやっているのは、アイドルへの冒涜。恥よ!
……とっとと辞めることね」
そう言い残すと、犯人は颯爽と走り去ってしまった。
その場も誰もが動かなかった。いや、動けなかったのだ。
状況があまりにも意味不明だったからである。
「あぁー! う◯ちだー!」
「う◯ちが走ってるぞ! カッコイイー!」
下校途中の小学生にそんなことを叫ばれながら、犯人は遠ざかっていった。
*****
「え、ダメだったの?」
翌日、生徒会室から戻ってきた高坂さんはしょげた様子で申請が却下された理由を話してくれた。
「アイドル研究部……そんな部活があったのか」
今は部員が1人しかいないらしいが、それでも部活として存在する以上、同じ様な活動の部活申請が却下されるのは当然だ。
「そうなると、アイドル研究部の人と話をつけるしかないか……」
「副会長にもそんなことを言われました」
「へぇ、副会長が……」
一瞬。本当に一瞬だが、糸が付いた高坂さん達を東條さんが操っているビジョンが脳裏をよぎった。
「ここであれこれ言っていてもしょうがないし、さっさとそこの部室に行きましょう?」
「そうですね」
西木野さんの発案でアイドル研究部の部室に向かう一行。
当の部屋に着いた時、僕たちは意外な人物と鉢合わせすることになる。
「あ、あぁぁぁ!」
「う、うぅ……」
頬を痙攣させる彼女こそ、アイドル研究部部長。そして昨日のつまみ食い事件の犯人である、矢澤 にこであった。
……前回の投稿から時間が経ち過ぎておっかない。
(開き直って)いかがでしたか? にこ襲来の第二部です。
こんだけ時間かけといて前半しか終わってねぇじゃねーか!
と思う方もいるかとは思いますが、それについては作者の想像(妄想?)力が貧弱なだけですはい。
読んでいただき、ありがとうございました!
次回もいつになるかは不明ですが、お待ちください!