「それで、何しに来たの?」
私は今不機嫌です。という感情がはっきり顔に出ている矢澤さん。
対する高坂さんは気にしていないのか分からないのかはっきりと要件を告げた。
「アイドル研究さん」
「……にこよ」
「にこ先輩、実は私達、スクールアイドルをやっておりまして」
「知ってる。
どうせ希に、部にしたいなら話つけてこいとか言われたんでしょ?」
僕は入口の近くで話を聞いていたけれど、正直イラっときていた。
理由は単純。
人が真面目に話をしているのにその態度はどうなんだ? という事。
不機嫌丸出しの声、目線だけしか高坂さんに向いていない顔。挙句に肘をつき、頬杖しながらというのが今の矢澤さんの会話スタイルだ。
「なら話が早い!」
「ま、いずれそうなるんじゃないかと思ってたからね」
「なら!」
「お断りよ」
「え?」
ぴくり、と頬が動くのを感じながら僕は矢澤さんを見つめ
そして、彼女の瞳に揺るぎない拒絶の色があるのを初めて知った。
ーー気圧された。
さっきまでの彼女はただただ不機嫌オーラを出しているだけで、変な話だが怖いとかそんな感情になるような顔はしていなかった。
けれど今の彼女はどうだ?
瞬きの間にそれまでの仮面をかなぐり捨て、明確な拒絶を突きつけてきた。
「私達は、μ'sとして活動できる場が必要なだけです。なので、ここを廃部にしてほしいとかいうのでは無く……」
「お断りって言ってるの! 言ったでしょ、あんた達はアイドルを汚しているの」
園田さんが割って入るも、帰って逆効果だったようだ。
「でも! ずっと練習してきたから、歌もダンスも」
「そういう事じゃない」
『?』
僕も含め、全員が分からないようだ
弱冠の間を置いて、矢澤さんは語り出す。
この場にいる全員に言い聞かせるかのように、矢澤さん自身に、言い聞かせるかのように。
「あんた達、ちゃんとキャラ作りしてるの?」
度肝を抜かれた。
「キャラ?」
「そう! お客さんがアイドルに求めるのは、楽しい夢のような時間でしょう?
だったら、それにふさわしいキャラってもんがあるの」
勢いよく立ち上がりながらいきなり語り出す矢澤さんに誰もが付いてこられない。
そんな様子に呆れたように、彼女は僕らに背を向けた。
「ったくしょうがないわねぇ。良い? 例えばーー」
何か、来る。
それが何かは見当もつかない。でも、確実に何かが来ることだけは分かった。
そして、その時は訪れる。
「にっこにっこにー♡
あなたのハートににこにこにー!
笑顔を届ける矢澤にこニコ♡
にこにーって覚えてラブニコ♡」
時が、止まった。
そう錯覚した程、矢澤さんの「例えば」の後に続いた行いは衝撃的すぎた。
さっきまでの険しい顔はどこへやら。楽しくて仕方ないとでも言いたげな全力の笑顔、こうな風に見つめれば相手の心をキュンとさせられる研究し尽くされた声で全力の猫なで声。
呆気にとられる僕らを尻目に、矢澤さんは一瞬でさっきの仏頂面に戻ると、
「どう?」
と、なんともどう答えたものか困る問いをぶつけてきたのだった。
「う……」
「これは……」
「キャラと言うか……」
「私無理ー」
「ちょっと寒くないかにゃー?」
「ふむふむ……!」
順に高坂さん、園田さん、南さん、西木野さん、星空さん、小泉さんのリアクションである。ちょっと待て小泉さんよ、そのメモはいつ用意したんだ?
「そこのアンタ、今寒いって……?」
「い、いや、すっごい可愛かったです! 最高です!」
「あ、でもこれも良いかも」
「そうですね! お客様を楽しませるための努力は大事です!」
「素晴らしい! さすがにこ先輩!」
おーい、本気で感動してる人がいるぞー。
「よーし、それぐらい私だってーー」
「出てって」
真似しようとしていた高坂さんを高坂さんが最初に、他のみんなも押し出されるようにアイドル研究部の部室からお暇したのだった。
あれ、僕何もできて無くない?
一話を何分割すれば気がすむんだという具合に切り分けてますが、単に筆者の想像力不足ですはい。
やっと書けたー! スケジュール・タイミングその他諸々あり書けてませんでした。
ほぼ間違いなくこれからもですが、このシリーズは不定期更新になります。劇場版の話も書きたいですが、そこまで行くのにどれだけの時間がかかるのか自分でも読めません!
それでも良いよという場合、これからも宜しくお願いします。