サブタイトルの通り、彼には東京に行ってもらいましょう。
では、どうぞ!
『次は〜県庁、県庁。お降りの方は〜バス停に着いてから、席をお立ちください』
バスを降りると、桜並木の後ろに茨城で一番高い建物、茨城県庁がその威容を誇っていた。
「……うしっ、行くか」
ビビっている訳ではない。でも震えを止められない。これがいわゆる武者震いという奴なのだろう。
いずれこの建物で働くことになる。
自分が社会人になった、もう学生ではないということを嫌でも思い知らされる。
軽く頭を振って気持ちを切り替え、僕は歩き始めた。
*****
「何度も言いましたが、今日から皆さんはこの茨城県の職員です。 県民の皆さんに最高のサービスを提供することを第一に考えながら、日々の職務に励んで下さい」
知事の挨拶が終わり、所属部局ごとに別れての辞令交付になる。
「県税事務所はこっちでーす!」
「農林事務所行きまーす」
たくさんの人と声が入り乱れる講堂の中を、僕は地域振興課の場所目指して彷徨う。
「地域振興課はこちらでーす!」
声が、聞こえた。
声のした方を見ると、若い女性職員が『地域振興課』と書かれたプラカードを掲げていた。
すでに何人か彼女の周りに集まっている。
僕は少し小走りで人ごみをかき分けていった。
「えー、全員揃ったようですので、移動したいと思います。私に着いてきて下さいね」
言うなりスタスタと歩き始めた彼女に、その場にいた新採職員が慌てたように歩き出す。
地元テレビや新聞社のカメラが一斉射撃のようなフラッシュを浴びせてくるが、努めて顔色を変えないように歩く。
正直な話、犯罪などよっぽどのことをしない限りクビのリスクがかなり低い職場に就くことができたのだ。当然嬉しいし、気を緩めると口元がにやけそうになる。
だがここで気を抜いたが最後、僕のマヌケな顔が茨城のあらゆるご家庭にさらされることになってしまうのだ。
取り敢えず全力で口を引き締めながら早足で講堂を出る。
帰ってからテレビや新聞を見たときに僕が一切映っていなかったのはまた別の話。
「はい、ここが地域振興課になります」
階段を登ること数階。僕達は思っていたより小さな部屋に案内された。
既に部屋には高そうなスーツを着た4.50位の大人が集まっている。
「床に名前の書かれたテープが貼ってあるので、そこに 並んで下さい」
そんなことを言われたら、当然みんな床を見ながら歩きまわることになる訳で
「松本、まつも…あっ、すいません」
10秒もしないうちに他の人にぶつかってしまった。
見ると同年代の男性が気まずそうな顔をしている。
「いや、こちらこそすいません」
「皆さん下ばかり見てますしね…」
二言三言言葉を交わし、お互いに離れる。
結局、自分の場所を見つけるまでに2回人にぶつかった。
*****
「それでは、辞令交付を始めたいと思います。
名前の順に呼びますので、呼ばれた方は返事をして前に出て下さい」
いよいよ始まる辞令交付。自分はマ行だから呼ばれるのはだいぶ後だ。
「……あっ」
ふと隣の人を見ると、始めにぶつかったあの人がいた。
「あ、どうも……」
向こうも気づいたようでなんとも微妙な顔である。
「えと、松本です」
「あ、野村です」
軽く自己紹介のようなものをしてから、今が辞令交付の真っ只中だと思い出す。
「野村 康太」
「はい!」
彼が呼ばれたということは次は僕の番だ。
「学校法人 UTX学院での勤務を命ず」
UTX学院、前にテレビで紹介されていた。
秋葉原にあるマンモス校で、高校というより大企業みたいな校舎やアイドル科とかいう特別クラスがあることが紹介されていた。
でもそれらが霞んでしまうような圧倒的存在感、それがUTX学院のスクールアイドル、A-RISEだった。
プロ顔負け、いや、そこらのプロ以上のパフォーマンスだった。
なんでも彼女達は現役高校生、普通に学校生活を送りながらアイドル活動にも励んでいるらしい。
凄い情熱だなと印象に残っていたので、野村さんがそこに配属と聞いて、正直羨ましかった。
「松本 諒太」
「はい!」
名前が呼ばれる
ただ前を向いて、歩き出す。
震える足を制御しながら数メートルを歩く。
気合いを入れろ
ここが僕の人生の新しいスタートなんだ
「国立音ノ木坂学院での勤務を命ず」
実を言うと自分がどこで働くかは3月の時点で内示が来ていた。職場にも挨拶に行き、引っ越しもとっくに済ませてある。
でも、
いざこうして辞令を受けるとなると、嫌でも気持ちが引き締まる。
情けないが、その後自分がどんなことをしていたのかよく覚えていない。
ハッと気がついた時にはもうバスに乗っていて、親に連絡をしていた。
いかがでしたか?
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本当にありがとうございました!