こんな時代だから、逆らえないことは分かっている。
それでも私は--貴方が好き。
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貴方は何も言わないけれど、私には分かっていた。
明日貴方は、二度と還らぬ空へ飛ぶのね。
いつものように笑っている貴方の背中が、とても広く、そして哀しく見えた。
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「征ってきます」
「ご武運を、祈っております」
言葉はそれだけで充分だった。
だって、私達は魂で繋がっている。
どれだけ離れたとしても、たとえ時代が引き裂いたとしても、二人の愛は、永遠だから。
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「レーダーに反応! 敵機です!」
「何だと、何処から出てきた!」
そのゼロは、亡霊のように湧いて出た。
「両用砲の射程内です!」
「撃て!」
これまで見たどんな奴とも違う。
「何で落ちないんだ!」
「海面が電波を反射してる! 奴には仕組みが分かっているのか!?」
「機銃、撃て!」
きっとあのゼロには悪魔か死神が乗っているに違いない。俺たちの命を寄越せ、エンジンの音がそんな風に言っているように感じられた。
「やった、火を吹いたぞ!」
「良いぞ、そのまま落とせ!」
海面スレスレを飛んでいた奴の翼に、火が踊った。
その時だった。
艦の土手っ腹に突っ込むかと思ったそのゼロは、天に昇ると言わんばかりの急上昇を始めた。
どの機銃も、突然の動きについていけていない。
「マズい、突っ込むぞー!!」
「衝撃に備えろ!」
轟音。そして火柱。
「……あれ?」
恐れていた爆弾の爆発は、いつまでたっても来なかった。不発だったのだ。
奴は、最後の最後で運に見放されたんだ。
「クソッ! ビビらせやがって」
「お、おい」
ダメコンチームの働きで、火はすぐに消えた。
残骸となったゼロのコックピットから、パイロットの死体が引き出される。
「艦長に敬礼!」
艦橋から降りてきた艦長は、死体を丁重に葬るよう指示を出した。
不発で済んだから良いものの、俺たちを皆殺しに来た敵を丁寧に扱うなんてと思ったけれど、パイロット連中は賛成のようだった。
「信じられん。なんて腕だ」
「なぁ、こいつの何処が凄腕なんだ?」
「おそらくこいつは、レーダーに掛かるのを防ぐために海面スレスレの低高度を何百マイルも飛んで来たんだ。そして被弾し、火を吹いた機体で急上昇に急降下。俺にはとても真似できん」
その後、パイロットだった艦長の息子さんがゼロに落とされたと聞いて、俺は艦長を尊敬した。
「死者よ安らかに」
ゼロの残骸と共に海中に沈んでいく彼に向けて、俺はそう呟いていた。
『嵐の中の恋だから』
本編はもう少しお待ちください