言い訳はしません。話が浮かばなかった。それだけです。
さて、今回はあの子が登場します。
お楽しみに!
公務員の朝は以外と早い。
ここだけかもしれないが8時位にはもう半数近くの職員が来ている。
「おはようございます」
「あ、おはよう」
ここに配属されてから1週間。職場でも仕事はまだ雑用みたいなことしかしていないが、県の仕事の方はもう動きが出ていた。
「ライブ?」
「はい! 今度の新入生歓迎会で部活動紹介があるんですが、それが終わった後に私たちのファーストライブをします!」
昨日、電話で穂乃果から言われた言葉。
実を言うとライブよりも 、彼女が言っていたもうひとつの言葉の方が僕は気になっていた。
「私たちのグループ名は、μ'sです!」
「み、ミューズ……? 石鹸の?」
「違いますよ! 神話に出てくる9人の女神様です!」
「へぇー。いい名前じゃない。園田さんが考えたのかな?」
「いやー、それが……」
「募集したぁ!?」
「どうしても思い浮かばなくて……えへへ」
「そ、そうなんだ……」
すごい話だ。一体どこに、自分たちのグループ名を一般の人に考えてもらうアイドルがいるだろう。
でも、
「おもしろそうじゃない、それ」
誰がこの名前を付けてくれたのかはわからない。でも、きっとその人は彼女たちに何かしらの“想い”を託したのだろう。
「ミューズ、ミューズ……
あった」
ミューズ。ギリシャ神話に登場する9人の女神で、音楽など芸術を司っているらしい。
「でも、なんで9人? 3人しかいないんだがな……」
それにしても。
「音楽の神様、か……」
ふと思い出す苦い記憶。
まだ思い出にはちょっとできていない。
高校の時、吹奏楽部に入っていた。もともと音楽は好きだったし、楽器を演奏するのも、歌うことも好きだった。
僕が一番好きだったのはトランペット。あの乾いた感じのパンッという音がたまらなく好きだった。
でも。
「できない……? どういう、ことですか?」
“好き”は、突然絶たれた。
口の中にある唾液腺。それが詰まって膨れ上がり、手術をした。
手術自体は成功したが、その後お医者さんに告げられた言葉は、あまりに受け入れがたいものだった。
僕が通っていた高校の吹奏楽部は、それなりにガチな部活で、実績も残していた。
「このままトランペットを吹き続けた場合、また腫瘍ができるおそれがあります。たまに演奏するていどなら問題はないのですが、毎日数時間の演奏になると……」
要するに、僕はもうトランペットを吹いちゃいけないんだ。
「僕はちょっと敬遠されちゃったかな……」
こみ上げた苦い思いをしまい込むみたいに本を閉じた時だった。
〜♪
「ん?」
自慢じゃないが、耳は結構いい方だと思ってる。
それでも、風に乗って聞こえてきたピアノの旋律は、周りが少しでも騒がしかったら聞き逃していただろう。
『時々雨が降るけど水がなくちゃ大変
乾いちゃダメだよ みんなの夢の木よ育て』
呑まれた。
その歌詞に、その美貌に。何よりその旋律に。
聴くだけで分かる。
この子は、天才だ。
「……すごいね」
躊躇いもなしに音楽室の扉を開き、声をかける。賞賛の言葉が溢れて止まらなかった。
「なんです? 昨日のことならお断りしますって……」
「昨日?」
「え? 違うんですか?」
「「……」」
女神との出会いは、勘違いから始まった。
話を聞いたところ、どうやら昨日穂乃果にアイドルにならないかと声をかけられたらしい。
「そんなに上手なんだからやってみてもいいんじゃないかな?」
「……やっぱり同じじゃないですか」
「そうだね。でも、才能があって、それを活かすチャンスがあるってことは、凄く幸せなことなんだ。
それだけでもいいから覚えておいてほしいな」
「……そろそろ昼休み終わっちゃうので失礼します」
「あ、待って。
……名前、聞いてもいい?」
「西木野 真姫です」
「西木野さん、よかったら神田明神にきてみて。放課後練習してるんだ」
「……多分、行きませんよ?」
「それでも構わない。それじゃあね」
ぺこりとお辞儀をして、西木野さんは出て行った。
*****
「失礼します」
「どうぞ」
放課後、僕は理事長室に来ていた。
「あら、松本さん。来てくれましたか」
「はい、それで話というのは……?」
「単刀直入に言います。
明日を持ってあなたが受け持っている全ての仕事を解きます」
「……え?」
いかがでしたか?
なんだか波乱の予感がする終わりになりましたが、少なくともクビにはならないのでご安心を笑
今回も読んで頂き、ありがとうございました!