事務員? いえ、公務員です   作:とある物書きMr.R

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第7話 〜スタートダッシュ 前編〜

目の前に一つの箱がある。

 

中に入っているのは、よく手入れされたトランペットだ。

 

吹いてもいないくせに手入れだけはしっかりとしているあたり、我ながらなんとも未練がましい限りだが、どうしても止めることができなかった。

理由は分からない。でも、どうしても止めちゃいけない気がした。

 

マウスピースをはめる。

唇を軽く湿らせ、真横に引き締める。

 

かれこれ3年も吹いていなかったんだ。音が出るなんて思ってもないし、仮に出たとしても金管楽器特有のあのパリッとした音はまず出ないだろう。

 

肺8分目くらいの空気を吸い込みーー

 

ぶぉぉぉぉ

 

出てきたのは、出そうと思ったドの音ではなく、戦国時代の合戦で吹かれるホラ貝のような音だった。

「……だよねー」

もしかしたら、まだあの頃のような音が出せるかもしれない。

そう思った自分も確かにいた。

よく、練習を1日サボれば3日頑張らないと遅れを取り戻せないと言うが、どうやらそれは本当のことらしい。これじゃあ、入って1週間の素人の方がまだマシだ。

ようやく戻って来たのか。

 

そう抗議しているかのようなトランペットを再び楽器ケースにしまってから、僕はμ'sの朝練に行く準備を始めた。

 

*****

 

「曲が出来たぁ⁉︎」

「ハイッ! 私たちの、μ'sの曲です!」

挨拶より早かった高坂さんの報告に、僕は朝から大声を上げてしまった。

「もう穂乃果、失礼ですよ…

松本さん、おはようございます」

「おはようございます♪」

後ろからやってくる園田さんと南さんからも、嬉しそうな雰囲気が

溢れ出ている。

「それで、どんな曲なの?

っていうか、誰が作ってくれたの?」

「うーん、朝ポストに入ってたから分かんないんです」

(……まさか、ね)

不意に、以前音楽室で出会った赤髪の少女の顔が浮かんだ。

思いつきでしかないけど、当たっている可能性は高そうだ。

「はい、イヤホン」

「……え?」

「聴くんでしょ?」

どうやら彼女は本当に純粋な子らしい。この年頃の女子で彼氏以外の男に自分のイヤホンをこうも躊躇いもなく付けさせることができる子、そう多くはいない。

「あ、大丈夫だよ。自分のイヤホンあるしね」

今日ほど、マイイヤホンに感謝する日もそうそうない。

「じゃあ、行くよ」

「μ's!」

「ミュージック!」

「スタート!」

 

軽やかなピアノの旋律が流れる。

『産毛の小鳥達もいつか空に羽ばたく』

「しっかし、いい声してるな……」

ピアノと声だけ、それだけでも充分だと思える程、彼女の歌は完成されていた。

曲が終わる。

「……すごい」

どうにかそれだけ呟くと、間髪入れずに穂乃果が同意を示す。

「ですよね! 海未ちゃんに作詞頼んで良かったです」

「ちょっと、穂乃果!」

「え、作詞園田さんだったんだ。へぇー」

「海未ちゃん中学生の時ポエムとか書いてたもんねー」

「え? そうなの?」

「読ませてもらったことも、あったよねー」

おっと……

園田さんは耳まで真っ赤にして黙り込んでいる。怒りと恥ずかしさが半々といったところだろう。

彼女が臨界点を突破する前に助け舟を出すことにした。

「でも、すごく良かったよ」

「そう、ですか……?」

「うん。2人もそう思うだろ?」

「「はい!」」

「うぅ……

3人ともずるいです……」

なんやかんや言いながら、彼女も嬉しそうだ。

「よし、作曲してくれた人のためにも、全力で頑張ろう!」

『はい!』

綺麗に重なった3人の声を聞きながらも、僕は微かな違和感を感じていた。

(なんだろ、視線? 誰が見てるのか?)

振り向いてみてもこっちを見ている人はいない。境内を掃除している巫女さんがいるだけだ。

(……ん? あの人……まさかっ!)

あの髪の色、特徴的な雰囲気。

東條 希、その人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




まず、皆さんに謝らないといけません。
投稿遅れて、本当にすみませんでした。
リアルの方で内部異動などあり、話を考えることすら出来ませんでした。
同じ理由で、これからの投稿もかなり不定期になります。
重ね重ね、お詫び申し上げます。
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