事務員? いえ、公務員です   作:とある物書きMr.R

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第8話 〜スタートダッシュ 中編〜

(あれは、希……?)

理解すると同時に体が動いていた。

「え? 松本さん?」

会話の途中で歩き出した僕に園田さんが訝しげな声をかける。

「ごめん、ちょっと待ってて」

気の利いた声をかける余裕もないほど、僕は彼女の姿に動揺していた。

「東條さん」

「あ、おはようございます。松本先生」

彼女はここ、神社に最もふさわしい服。巫女服を着ていた。

「君はここで……」

何をしているの? その言葉が発せられる前に彼女はその続きを話し出した。

「ウチは、ここでアルバイトしてるんです。神社はいろんな気が集まる、スピリチュアルな場所やからね」

「スピリチュアル……」

分かるような、分からないような。多分彼女は敢えてその言葉を選んでる。

「先生はあの子達の朝練?」

「あ、うん。そうだよ」

それで結局、するりとかわされてしまうんだ。

「そう、ならお参りしていかんとね。場所使わせてもらってるんやし」

「あ、東條副会長。おはようございます」

「おはよ〜。みんなもお参りしてくん?」

 

心を空っぽにする。例えるなら澄んだ水のように。晴れ渡る空のように。

2礼、2拍、1礼。

以外と知られていないけれど、神社でのお賽銭には1円、50円、100円玉などの白銭がいいんだそうだ。「ご縁がありますように」と5円玉を入れるけれど、5円、10円、500円玉などの赤銭は、お寺のお賽銭にするのがベストなんだそうだ。

 

それはさておき。

(彼女達の活動が上手くいきますように)

彼女達の本気は疑う余地も無い。

なんやかんやでこうして朝練もきちんとしているし、泣き言を言うことはあっても諦めの言葉は聞いたことが無い。

本気でやっている事が報われない事ほど嫌なことも無いだろう。

「先生? 松本先生!」

「ん? あぁ、ごめん。どうしたの?」

「どうしたのじゃないですよ! もう行かないと遅刻しちゃう!」

「お、もうそんな時間か」

時計を見ると7時40分。確かにもう時間だった。

(あれ?)

気がつくと東條さんはいなくなっていた。

 

 

*****

 

 

ゆったりとした気持ちで大きく息を吸い込む。

曲は、『アメイジンググレイス』 僕が1番好きな曲の1つだ。

1番は序章。日の出の瞬間のような始まりを告げるメロディ。

2番。一気に半オクターブ音を上げ、クライマックスへと翔ける。

 

息が苦しい。やはりまだ肺活量は昔ほど戻っていないようだ。

でも嬉しい。諦めていた音楽。そこにまた戻ってこられた。

歓喜を音に込め、爆発させる。

自分とトランペット、そして音楽の境界が曖昧になる。

全てを出しきり、最後の1音まで吹き切った。

 

少しの間をおいて拍手が起こる。

「凄いです! 感度しました!」

言いながらも高坂さんは拍手を止めない。

「はい。私も歌詞のイメージが湧いてきました」

園田さんはもうノートを広げている。

そして。

「ふぇぇ……」

「えぇ⁉︎ どうしてことりちゃん泣いてるの?」

「だって、だってぇ……」

「それほど松本先生の演奏が心に響いたということでしょう。私も危ないところでした」

お客さんはたった3人の演奏会。

でもその3人にこう言ってもらえたのだ。大成功と言っても過言ではないだろう。

「レベルとしてはまだまだだけど、僕にもコレで手伝わせて欲しいんだ」

本気の彼女達の為に自分ができること。考えてみたら以外と限られていた。

練習で遅くなったら車で送ったりとか、そういう雑用みたいな事はいくらでもある。

でも、自分が頑張れる事はそう無いのだ。

「はい! こちらこそお願いします!」

机の上には紙の束が。

μ'sのファーストライブは、間近に迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お待たせいたしました。
できるだけ正確な描写を心がけていますが、違くない? という箇所が有りましたらどんどんご指摘お願いします!

次回はアレです。はい。
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