一週間や一か月で書き上げる作者さんって凄いです……。
気が付いたら来年になっていた。
何を言っているか(ry
シャアが目を覚ましてから、既に1か月半が過ぎていた。
シャアは今、寝かされていた部屋とは別に用意されたリハビリルームへ来ていた。
こちらの世界へ来てから、一体どれほどの時を寝ていたのかはまだ知らされていない。しかし、筋肉の衰えようから、かなり長い期間を寝ていたのだろう。
事実、最初のころは歩くこともままならなかった。
今は、松葉杖を使って歩くことができるが、それでも不便なのは変わりない。
ジョンソンは言うには、障害があるわけではないらしく、リハビリを続ければ歩けるようになり、かつての日常生活を送ることが出来るとのことだ。
平行棒の手すりを握り、1歩ずつ足を慎重に前へ出す。
まだ、足の感覚が鈍い。
痙攣し、まるで鉛が仕込んであるかのように重い。
手で踏ん張らなければ、すぐにでも倒れてしまいそうだ。
額から汗が滴った。
フウッと息を吐き、もう一度足を前へ出す。
昏睡状態の時も、CPM(持続的他運動)やマッサージを行っていたらしく、筋力の回復は早いとジョンソンは言っていた。
シャアもその成果は身に染みていた。
ここ1か月でここまで歩くことが出来たのも、この2つのおかげなのだろう。
シャアはこのリハビリを毎日欠かせたことはない。
早く元の体に戻したいという欲求があるのだが、根本的には何かをしていないと落ち着かないからだ。
目覚めてすぐに聞かされた真実には言葉を失った。
質の悪い冗談だと思っていたが、見せつけられた物や映像に、此処が宇宙世紀とは違う別の世界、しかも旧暦である“西暦”であることを否応なし証明された。
知った後は大変だった。
ベットに座り、1日中天井を見上げる日々が続いた。
食事もせず、生きることを放棄して、ただひたすらに無気力だった。
このまま惰性に過ごすなら、いっそ自殺も考えたが実行する勇気がなかった。
ここがUCの世界であったならきっと死を受け入れられただろう。
しかし、ここはUCではない。
ララァの魂が存在しない別の世界なのだ。
シャアを廃人どうように至らしめたのはララァに会えないことだった。
その事実がシャアの心に大きな穴を開けた。
今も、ララァのことを考えるだけで、不安と寂寥さに蝕まれる。親を失った子供のように、今の自分はUCの頃よりも脆い存在になり果てたことにシャアは自覚した。
だが、意外にも自分をこうして動かしているのは、かつてのライバル”アムロ・レイ”の存在だった。最後まで希望を捨てず、世界を信じ続けたあの男のことを思うと体から奇妙な対抗心が湧き上がってくる。
あの男のように自分も抗ってやる、というヤケクソ気味なことだったが、シャアの身体を動かすにはどういう訳かことが足りた。
平行棒を歩き切り、首から掛けていたタオルで汗を拭う。直後に自分のリハビリを担当している看護婦が声を掛けてきた。
彼女の言われるがままに時計を見ると、時刻は昼時を指していた。時刻を知ると自然と空腹感が現れる。
彼女にタオルを預けると、外で待機していた2人組の看護婦に連れられ、自室へと向かう。
歩いて直ぐだというのにご苦労なものだと内心で罵倒する。
1人が先頭を歩き、もう1人が後ろを歩く。
シャアはその真ん中に立ち、先頭立つナースの後ろをついて回る。ここでの移動はすべて、このように行われる。逃げる気など無いのだが、常にこうして監視されているというのは気分が悪い。
部屋に戻っても、監視カメラが付いている為、不満は堪る一方だ。
これならまだサイド5の暮らしの方がまだましだった。
ナースに先導さるがままに、1か月以上も住んでいる自分の部屋に到着した。先頭に立つナースがカードを使い、扉を開く。
同時に明かりが灯ると、シャアはナースに促されるように足を踏み入れた。
シャアは黙って中に入ると後ろで扉が閉まる音が聞こえた。
横目で扉を一瞥すると、フンと鼻を鳴らした。
シャアはここが何処なのかは知らない。
しかし、ここでのシャアの待遇は贅沢この上ないものだった。
どういうことか頼んだ物なら大抵なものを用意してくれるのだ。
それからというものシャアの自室はまるで豪邸の一室のような豪華なワンルームへと変貌していた。
床は最高級のベルギー製のダークブラウンのカーペットを敷き、簡易なベッドはSerta社のSertaパーフェクトスウィートに換えられ、部屋の隅には天然木仕様の本格派スライド本棚がある。
そして、部屋の中央にはガラストップの透明感のあるダイニングセットが置かれている。
ここはまさに貴族の一室、中世の貴族たちのような派手で煌びやかでなく、優雅で静かで寛美な室内だ。ただ1つ、窓がないこととテーブルに山積みとなった本の山を除けばではあるが。
シャアはダイニングセットの真っ白な椅子に腰を掛けると、山の天辺にある一冊の本を手に取った。
シャアが立ち直ってから最初に始めたことは情報収集だった。
自分が今いるこの世界が一体どういう世界なのかを詳しく知る為でもあったが、何故自分がこの世界に来たのかも考えたかったからだ。
偶然という言葉で片づければ済む話だが、それだけで片付けることに納得がいかなかった。
何億という人間の中で何故自分なのか。
なぜ、このシャア・アズナブルが選ばれたのか。
シャアはそこにこの世界で生きる意味が見出したかった。
ここはネットが通っていないが幸いにも新聞や本は頼めば持ってきてくれた。
勿論これが偽装の可能性もある。しかし、今のシャアにはこれしか情報を集める手段がないので訝しみながらではあるが、ひたすた調べ続けた。
それから1ヵ月が経過した今ではシャアはこの世界の状況をある程度は把握出来るようになっていた。
基本的な国家群はUC世界でいう‟旧暦”と同じだが世界のパワーバランスは自分の知る歴史とは大きく異なっていた。
地球連邦を発足し、その土台作りを行ったのは、‟アメリカ”という国家だ。方法はどうであれ、世界を1つにまとめるだけの力を持っていた国が、この世界では発言力の低い国家となっていた。
逆にイギリス、ドイツ、中国、といった国がアメリカよりも高い地位に存在していた。
これも全て、‟インフィニット・ストラトス”というパワードスーツの登場した結果であり、まだ、半信半疑の部分もあるがシャアは改めてここが別世界だということを理解した。
「失礼します、ジョンソンです。今、お時間よろしいでしょうか?」
かん高いチャイム音と共に、ジョンソンの声が聞こえてくる。
シャアは「構わんよ」と答えると本を閉じ、テーブルの上に置く。
扉が開き、ジョンソンが入ってくる。
「どうしたのだドクター?」とシャアは口を開く。
「Mr.アズナブル、突然で申し訳ありませんが実は今日の昼食は上でとっていただくことになっておりましてそのお迎えに」
「上でか? それは突然だな」
「はい、服はこちらで用意しておりますので着替え終えたら、声を掛けてください」
「それでは」と同行していたナースから服が手渡されるのを確認したジョンソンはそのまま退出していった。
残ったシャアは自分に拒否権がないこの状況に小さい憤りを感じつつも、渋々と袖に手を通していく。
一通り着替え終わるとシャアはぐるりと自分の来た服を確認する。
どういう訳か渡された服はロンデニオンで着ていたあのスーツだった。
少し感傷に浸りそうになってしまう。あのアムロとの殴り合いも今ではとても懐かしく感じてしまう。
「もうよろしいですか?」
ジョンソンの声が室内に響くとシャアは現実に引き戻される。
「ああ」とシャアが答えると扉が開き、ジョンソンと2人組のナースが入ってくる。
スーツ姿のシャアにジョンソンは「よくお似合いですね」と言う。
シャアは「ありがとう」と言葉を返す。
ナースたちに促されるままに、部屋を出る。
ジョンソンを先頭にシャアの前後を囲むように立つと自室を出て右、リハビリルームの反対側にある扉へ歩き始めた。
薄々気が付いてはいたが、あれが外へと繋がる扉だったようだ。
ジョンソンがカードを使って扉を開ける。
扉の先はエレベーターとなっていて、扉が開くと同時に明かりが灯る。
中は広く6人は入れそうだ。
ジョンソンが再びカードを使うエレベータが動き出す。
ゴォォという機械の唸りと共に体が上へと上がる。
そしてシャアの意識もまた上で待つ、何者かに向いていた。
何故ならば、これだけ上等なスーツを着させるということは位の高い人間と会うのでは?、と考えたからだ。
それを考慮しすると、食事に誘うということは自分にそれなりの好意を持った人間ということになる。
鬼が出るか蛇が出るか。
この先、待ち構える何者かにシャアの体には軽い緊張が走った。
今の自分の立場では一瞬で亡き者にされる可能性があるからだ。
シャアは自分の‟シャア・アズナブル”という名前がどれだけ便利だったかを考えると複雑な気分なった。
監禁されていた場所の真上に豪邸があったのは驚いた。
地下室ではないかと感づいてはいたが、真上が豪邸とは誰が予想しようか。
淡いブルーグレーの廊下を歩きながらシャアは思った。
ジョンソンは白衣から執事服に着替えていた。
2人組の看護婦たちもメイド服に着替えている。今まで自分の世話をしていた看護婦達が、この豪邸のメイドというのはつい先ほど知ったことだ。
頭に偽装という言葉よぎる。そうでなければわざわざ着替えるだろうか。
もしかしたら自分は危険な状態にあるのもしれない。
何事にも警戒して置いたほうが良い。
少し悲観的な考えではあるが、今の自分にはこれくらいが丁度いいだろうとシャアは思った。
しばらく歩を進めるとジョンソンが一枚の扉の前で足を止めた。
3回、扉を叩き「ジョンソンです。失礼します」と扉を開ける。
ジョンソンが入室していくの同時にまたシャアもナースに促さるように部屋へと入った。
そのあとに続くようにジョンソンも入室する。
室内には1人の初老が薄い茶色のソファーに腰を掛けていた。
初老はシャアを見ると「やあ、待っていたよ」と言い、立ち上がる。
人懐っこい笑みを浮かべながら、初老はゆっくりとした足取りでシャアへと近づくと手を差し出す。
「初めましてワシはイーサン、イーサン・トンプソン。君とこうして話をするのを楽しみにしていたよ。シャア君と呼んでも良いかな?」
「シャアで結構です、ミスター・トンプソン」とシャアはその手を握る。
シャアの言葉にイーサンは「ほほほっ」と笑った。
「ワシのことは気にせずイーサンと呼んでくれ。ワインは飲むかね?」
「いただきます」
「結構! まあ座ろうじゃないか。」
イーサンが座るソファーと反対側にあるソファーにシャアも腰を掛ける。
ソファーの間にあるテーブル。そのテーブルに置かれたワインのコルクをイーサンが抜くとグラスに注ぐ。
注ぎ終えたワインが差し出されるとシャアはそれを迷わず一口だけ飲んだ。
イーサンは「ほおぉ?」と息を吐いた。
「毒が入っているとは思わなかったのかね?」
「私を殺すつもりならこんな遠回りな手は使わないでしょう。それこそ意識がない時に殺しておくほうが処理が簡単なハズです。ましてや私の抹殺程度に貴方が来るとは思えません。Mr.イーサン」
「その口ぶりからするとワシのことを知っているようだね?」
「ええ、この国で貴方を知らない資本家はいないでしょう。執筆なさった本を読ませていただきました。素晴らしい、アメリカ資本の限界と格差による社会の不安定化。どちらも深く考えさせられました」
イーサンは恥ずかしそうに頭をかきながら「いやはや」と言葉を続ける。
「ほほっ、お恥ずかしい。あの頃の私は、ただの目立ちたがり屋でね。あんな本まで書いて自慢してたものさ。まあ、若さゆえの過ちだよ」
「それで? 貴方のような大物が私に何の御用ですかな?」
「まあまあ、そう慌てなさんな」
イーサンは手を軽く左右に振り、一口飲むとシャアを見る。
「それで、どうだね? ここでの暮らしは?」
「悪くありません。監視カメラの撤去と外出の許可さえいただければ、いっそう気に入ります」
イーサンの問いにシャアは溜まっていた鬱憤を静かに皮肉も混ぜて吐き出した。
イーサンは苦笑いながら申し訳なさそうに言う。
「耳が痛いわい。それについては許してほしい。何分、君の存在は異例でね。別世界からきたというのだからな。政府としても君のことをは隠蔽しておきたいんだよ」
「気に入りませんな。しかし、おっしゃる意味は理解できます。私の存在は一種の証明のようなものです。この世界とは違う第2世界の住人。これだけで、世界は混乱する」
シャアはこうして自分を隔離している政府の対応に当然の措置だと理解はしていた。
それを解っているががゆえにこれ以上も文句を吐き出すのを堪えた。
「ほっほっほっ、その通り。ある意味、君はイレギュラーというものかの」
イーサンは床に置かれたバックから1つの大きめのファイルを取り出すと地をシャアの方に向け、テーブルに置いた。
ファイルは大きめで、表紙には「極秘」と記されている。
「さて、そろそろ君の疑問に答えようかの。ワシは単純に君への興味で此処へ来たんだよ。ぜひ君と話がしたくての」
「地球を滅ぼそうとした男に……ですか?」
「ほほほっ、そうじゃ。その極悪人に興味があったんだ。何せ、生まれて70年、別世界の住人なんてものはお目にかかったことがなくてね」
「だが」とイーサンはワインをもう1度グラスに注ぐ。
「その前に、仕事を終わらせようかの」
ジョンソンはコクリと頷き、イーサンの横に立った。
「実はな、政府が君に情報を開示することを認めてね。なぜ君がこの世界に来たのかはワシにも解らんが、どうやって此処へ来たのかは知っておる。君も気になるだろ?どうやって此処へ来たのか?」
イーサンは両手を上げ、宥める仕草をしながら言う。
「落ち着いて聞いてほしい。君がどのくらい寝ていたかを最初に言おう。君は15年も昏睡状態だった」
シャアの頭が一瞬だけ、真っ白になった。
その一瞬が過ぎ去るとソファーから勢いよく立ち上がった。
「15年っ!?しかし、私の体はっ」
体に嫌な汗が流れ始めたのが解った。
鳥肌がたち、喉が渇く。
まるで体がその言葉を理解するのを拒んでいるようだ。
シャアは体の意識を確かめるように手を動かし、顔を触った。
15年もの歳月が経っているのに自分の体が当時と同じ体をしていることに違和感と不安を覚えた。
動機が早くなり、今にも倒れてしまいそうだった。
イーサンは「まだ早かったかのぉ……」と額を抑える。
ジョンソンは「大丈夫です」と答えるとシャアに言う。
「はい、貴方の体は15年経っても当時のままなのです。原因は不明です。失礼ながら貴方の体を調べさせていただきました。その時のカルテと今のカルテを照らし合わせた結果、筋力の衰えはありますが、そのほかの器官の衰えは何一つありません。先も述べましたように原因は不明ですが、それ以外に異常は見られません。これからは定期的に検査を受けていただくことになりますが」
今だに呆然と佇むシャアにイーサンは心配そうに声を掛ける。
シャアは額の汗を右手で拭うと「いえ、大丈夫です。話を続けてください」と再び腰を掛ける。
イーサンはシャアを見つめた後、「解った」とファイルを捲った。
表紙を捲るとそこには再びシャアの瞳を開かせる写真が載っていた。
空を見上げる形で、撮られたその写真には自分が最後に見た虹色の光‟サイコフレームの光”が夜空を覆うっていたからだ。
イーサンは写真にくぎ付けになるシャアを見ながら、ゆっくりと息を吐き出し、言葉を続けた。
「今から15年も前のことだ、突如巨大なオーロラがこの地球を横切った。君たちのいう人の心の光といったところかの? その光が何の前触れもなく現れた。当時は大変だったよ、あのオーロラの影響で地球の軌道にあった衛星の大半は宇宙の彼方へ吹っ飛んでいったんだからな。普及には、えらく時間がかかったもんだ。まあそんなことはどうでも良い。このオーロラは約1時間、地球を横切り消失した。そして……君が現れた」
「君が現れた」とイーサンは次のページへとファイルを捲る。
そのページにも数枚の写真が貼ってあった。しかし、ページの大半は写真で埋め尽くされており、コレを見た調査員の驚愕さと狼狽さが見て取れた。
その中の2枚にシャアの瞳は釘付けになった。
1枚は上空から撮られたその写真には、クレーターの中心に仰向けに横たわる真紅のサイクロプスが映っていた。
2枚目にはサイクロプスと同じ真紅に染まった球体が映っていた。
間違いない。
それはアクシズ表面で大破したサザビーとその脱出ポッドだ。
食い入るようにページを見つめるシャアを補足するようにイーサンが話す。
「オーロラが消失して間もなく、ワシントンから遠く離れた山中にこの2つの物体が落下してきた。大気圏外からだそうだ」
「大気圏外から?しかし、このコックピットに大気圏を突破する機能はありません。無論この機体にも」
「目撃情報によると、この2つはあのオーロラと同じ、虹色の光を纏い落下してきたらしい。君が摩擦熱で焼かれなかったのもこの光が原因だと結論が出ておる。非科学的だと研究チームは頭を抱えていたがね」とけらけらと笑うイーサン。
対するシャアは「ありえないことでない」と1人で納得する。
アクシズの軌道を逸らしたあの力なら可能かもしれないと考えたからだ。
「君とあのサザビーを回収したのは当時のアメリカ政府での、隕石の落下ということで事実を隠蔽し、非公式処理することで決定した。当時の政府内はそれはもう荒れた荒れた!
やれ宇宙人の襲来だ、他国の新兵器だ、と意見が分かれ、中には君を処分すべきだという意見まで上がってきての、まあ解析が進むごとに落ち着いてはきたんだがね」
イーサンはワインを一口飲むと「ふうぅ」と息を吐き出した。
「結論から察するに、君の処分は免れた。サザビーとコックピットは別の場所に運ばれた訳じゃが、君は此処、私が管理する地下室で保護すると決まった」
「私に興味があったから……ですかな?」
イーサンは「ほっほっほっほっ」と愉快そうにに笑うと「そのとうり!」と大げさに叫びワインを飲みほした。
「何せ、別世界からやってきた人間、しかもパラレルワールドとはいえ未来人。こんな貴重な存在を処分してしまおうなど、民主主義国家たるアメリカ合衆国の恥じゃよ! 人の自由なくて民主主義は成り立たん!……まあ、本音を言えば興味があったからだがね?」
「ふっ、どんな動機であれ、貴方に助けられたのは事実です。そのことには感謝します。
サザビーとコックピットは今何処に?」
大破したとはいえ、元は自分の機体だ。
行方が気になったシャアはそうイーサンに問いかける。
「政府が管理する施設にあるよ。場所は言えんがね? 今でも機体の解析に四苦八苦しておる。何せ、オーバーテクノロジーの塊だからな」
次にシャアが問いかけたのは自分の処遇だ。
問いに対する答えは、悪くはなく、しかし良くもなかった。
今までどうり監禁生活ではあるが、驚いたことにこの豪邸を譲ると言うのだ。
外出することは出来ないが、この豪邸内であれは自由に出歩いて良いそうだった。また、ネット回線を整備してくれるようで、TVやパソコンも設置してくれるという。
しかし、いくら待遇がよくなろうとシャアの内心は穏やかではなかった。
監視カメラは撤去すると話してはいたが、どっちにしても監視されるのだから意味はないからだ。
また監視される日々が続くのかと少し憂鬱な気分がなったとき、「さてと」とイーサンは呟くとソファーに座りなおした。
「これで仕事は終わりだ。ここからは個人の時間としよう。ジョンソン、すまんが席を外してくれんか?」
「はい」とジョンソンは短く答えると退出していった。
シャアはこの老人が自分に何を聞こうとしているのかを察し、先に口を開いた。
「……私のことはどこまで?」
「コックピットに入っているデータを見た程度じゃ。すまんが、あのコックピット内のデータは全て見させてもらったよ。だが、あのデータで得られるものは断片的なものばかりでね。それでもある程度の考察は可能だよ? しかし、それはあくまでも考察だ。ワシはね、君の口から聞きたいんじゃ。あの世界を生きた住人の生の話をね。隕石を落そうとした男の話をね」
「……」
シャアは少しの沈黙の後、口を開く。
イーサンに解るように、1つ1つかみ砕いて説明していく。
宇宙世紀。
スペースコロニー。
アースノイド。
スペースノイド。
一年戦争。
ニュータイプ。
グリプス戦役。
アクシズ落とし。
イーサンはその話を、淡褐色の瞳を子供の様に輝かせ、話を聞いていた。
解らないことがあれば、説明を求め、それをシャアが補足していく。
特にイーサンが聞いてきたのは、宇宙に住む人々やコロニーのことだった。
彼は宙(そら)が好きだと言った。
幼い頃に見に行ったプラネタリウムに感動し、天体観測を始め、学生の頃は宇宙飛行士に憧れていたそうだ。
コロニーから窓を見るだけで、星々が流れ、煌めく世界を覗くことのできる世界。そこはイーサンにとって、夢の世界だったのだ。
彼はこの世界も宇宙世紀のように地球というゆりかごから巣立つべきだと言った。
地球には限界がくる。
それは遠い話ではあるが、結果は見えているのだ。
だからこそ、この広大な宙(そら)へと飛び立つべきなのだと語った。
シャアはイーサンに対する評価を改め、少し共感した。
形はどうであれ、シャアも人類は地球から離れるべきだと考えているからだ。
しかし、アクシズ落としには否定的だった。
イーサンは人類は自分の意志で宙(そら)へと旅立つべきだと強くシャアへ言った。
「映像を見た時に感じたんだが、君はついでに、しかも私情で地球を滅ぼそうとしたのかね? 」
「……否定はしません。全てはアムロと決着を付けるために仕組んだことです。地球の危機となればあの男は出てこざる負えなくなる。だが、理屈はどうであれ、連邦政府への粛清も目的でした。地球の重力に引かれたノミ共を排除すること。アクシズが落ちれば、無関係の何億という人間が死んだでしょう。しかし私にはその業を背負う覚悟もありました」
「ほほっ、エゴだよそれは」
「それも否定はしません。しかし、私は自分の信じた道を進んできたつもりです」
「理想の為ならば、自分の身を犠牲にするが私情も捨て切れず完璧な指導者にもなれない。ほほほっ、君がどんな人間が少しわかってきたぞ」
「御冗談を」
「ほっほっほっほっ、じゃが今の君は随分とくたびれておるようだな。映像で見た活き活きとした君でないの。それほどにこの世界が衝撃的だったのかね? 報告によると、君は本や新聞を大量に頼んでいたようだが?」
「……最初は目を疑いました、にわかに信じがたい。今でもこれが悪い夢か連邦の洗脳工作ではないかと疑っています」
「無理もない。今まで、外部との接触を一切断っていたからの。情報源と言えば、本や新聞、あとはワシが用意した端末くらいなもんだ、いくらでも偽装できる。今すぐ信じてほしいとは言わん。次にワシが来るころまでには外出の許可を承諾させておく。ボディーガードばかりの窮屈な外出になるだろうがの」
「構いません、自分の目で見ることにこそ意味はある」
「うむ、そのとうりだ。ワシも若い時にそれを怠ってたせいでひどい目にあったよ」
それからしばらく会話は続き、気が付くと窓の外は茜色に空が染まっていた。
「ありがとうシャア。今日は本当に有意義な時間だった。また、話をしにきても良いかね?」
「構いません。私も貴方と話せて良かった」
「そう言ってくれると嬉しいわい。今日の夕食はワシの計らいで豪勢な料理を用意しておる。楽しんでくれ」
イーサンはそう言い残すとにっこりと笑い、退出して行った。