霧に消えゆく超大戦艦   作:霧のまほろば

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お久しぶりで御座います。
遅れた事深くお詫びします。

今回は日常話?デス。
なぜ?が付いているのか。それはこの先を読んでいただければ理解できることでしょう。


第13話 日常話?

 

 

 

「―――さて、何か言う事はあるか?」

 

額に青筋を立てたマホロバ。相変わらず、目を閉じた状態の笑みではあったが、背後には怒りのオーラが殲滅戦態勢(デストロイモード)になったマホロバの幻影が浮かび上がっていた。更に言うならば、扇子を媒介にナノマテリアルで作った巨大な剣を肩に担いている。最早斬る気マンマンである。

彼女が何故、此処まで激おこぷんぷん丸になっているのかというと―――

 

「………ゴメンナサイ………」

 

―――ボロボロになったヒュウガが原因である。一体何があったのかというと、ヒュウガのレズが暴走し、マホロバを押し倒して貞操を奪いかけたのだ。

 

詳しく話せば、マホロバがリーガルに帰還したのと同時に、ヒュウガの造船が終わった。

ドックに係留が済んだマホロバがリーガルの素へ粒子となって移動し、ヒュウガの船体へ向かったのだが、「お姉様〜!!」と不意打ちのような形で、マホロバへ襲いかかったのだ。

だが、マホロバも元総旗艦であり、ヒュウガの性癖を把握していたため、対処に回ろうとしていたが、不意にマホロバの動きが何かによって固められ、動かなくなってしまう。

何事かと思えば、ヒュウガは自身の演算能力を余す事なく使い切り、ミニチュアサイズのヒュウガを幾つか作り出し、マホロバの身体にしがみつかせる事で動きを制限したのだ。

なんとか引き剥がそうとするも、大戦艦級の演算能力を全て使い切ったミニヒュウガの力も強く、なかなか引き剥がせない。直ちに自身の演算素子を稼働させて、クラインフィールドを展開しようとしたが、それよりも早く、飛び込んできたヒュウガに押し倒される。

ミニヒュウガも手際よく、マホロバの細い手足を自身の体ごと桟橋の床に固定し、完全に動きを奪ったのだ。更に言うならば、マホロバに馬乗りになったヒュウガは口からよだれを垂れ流しにし、手をすり合わせながら、「うへへ……」と迫って来る。

大凡の女子がするような顔ではない、緩みきっただらしない顔ではあったが、これでも大戦艦。一時であるが、マホロバを抑えることもできる。

但し、マホロバは日常時、演算能力を大戦艦級と超戦艦級の間ほどに抑えているからできる事であり、本格的に唯一の超大戦艦級であるマホロバの本領を発揮してしまえば、抵抗すら出来ず制圧されてしまうだろう。だが、好きにできるのは本領を発揮する前である今のみ。

そして、伸びてきた手がマホロバの着物を引き剥がし始め、肌蹴た着物の隙間から白い太腿がチラリと見えたところで―――吹き飛ばされた。

 

―――激おこマホロバ丸の降臨である。

 

ヒュウガに押し倒されてからコンマ数秒で演算素子を大戦艦級の数十倍へ跳ね上げて、大戦艦級など比べものにならない強度のクラインフィールドを展開し、衝撃波のように放射状に広げ、ヒュウガをミニヒュウガごと吹き飛ばし、壁に叩きつける。ヒュウガ自身は卵型の移動ラボに守られていたが、ミニヒュウガは銀砂となってドックの床へ散っていき、キラキラと照明を反射して輝く。

幻想的な情景を作り出すが、その中に巨剣を担いて立つ1人と壁にめり込む1人のせいでいろいろ台無しとなっていた。リーガルや、時雨たちに加え、タカオや401、そのクルーたちは騒動に巻き込まれないように、離れた場所で見守っている。

 

「ふむ……、ずいぶんと舐めた真似をしてくれたな。―――覚悟はいいか?」

 

羞恥で顔を赤くして、いそいそと乱れた着物を整えた後、ニッコリと笑みを浮かべ、未だにめり込んだままのヒュウガの顔の近くにしゃがみこむ。

最初、ヒュウガはマホロバの顔が近くにある事で興奮していたが、うっすらと開かれた瞼の奥に煌る白銀と紫色の瞳を見ると、一気に血の気が下りて、冷や汗を流しながらカタカタと体が震えだす。

マホロバの瞳には、凄絶な輝きがあり、普段の温かみなど感じさせない、氷のような冷たい視線がヒュウガを射竦めていた。いわゆる顔は笑っているが、目は笑っていなかったというやつである。

 

 

それから数分。

オシオキされたヒュウガが正座して、マホロバと向き合っていた。常に装着している片眼鏡はヒビが入り、フレームも歪んで無残な姿に。白衣も所々穴が開き、何かに斬られたかのように切れ目が多数つき、全身に焦げた跡が付いていた。

茶髪もパンチパーマでもやったかの様にもさもさして、そこから煙が立ち上っていた。

しかし、ヒュウガ自身に怪我がなかったのは、マホロバにわずかな理性が残っていたという事だろうか。

 

 

ヒュウガの謝罪の声を聞けた事で怒りを鎮め、デストロイモードになっていたオーラも霧散して消える。巨剣も粒子となって消え、マホロバの手には愛用の扇子が握られた。

 

だが、この変態戦艦、一度のオシオキで懲りる訳なく、逆にオシオキされた事を喜んでいたが、表情は反省している風に装っていたので、タチが悪いところである。

 

一件落着したのを見計らって、物陰からリーガルたちが出て来て漸く怒りを収めたマホロバのところに集まってくる。苦笑を浮かべた時雨から会話が始まる。

 

「大変な目に遭ったね……」

「何故戻ってきていきなり着物を脱がされにゃならんのだ。しかも、以前までの経験から妨害の手段も多様化しているから余計に面倒だ」

 

マホロバとヒュウガのやり取りも今始まった事ではなく、かつての世界で、初めてマホロバとヒュウガが遭遇した硫黄島から始まった。総旗艦直衛艦隊を率いて、401の先導の元、硫黄島に向かい、ヤマトと共に硫黄島の地下ドックに停船し、改めて千早群像ら401のクルーと会談のために下船した瞬間、ヒュウガに飛び込まれたのだが、イオナとともに蹴り飛ばしたという経歴があった。

 

閑話休題。

 

 

ひと騒動あったが兎に角、リーガルの中にある談話室にマホロバを筆頭にリーガル、時雨、響、矢矧。そして、イ−401ことイオナ、千早群像、織部僧、橿原杏兵、八月一日静、四月一日いおり。さらにタカオとヒュウガ。

錚々たるメンツが揃っていた。この場にいる者たちだけで世界全ての国の総戦力に等しい、否。世界そのものを敵に回したとしても大した影響など皆無に等しいほどの圧倒的な戦力だ。

 

「さて……、よく来たな、イオナ、群像たち。タカオとヒュウガも。恐らく"コード・アドミラリティ"によって転移されたようなものだと思うが、この世界は私の故郷だ」

「ある程度の事情は“コード・アドミラリティ”から聞いているが、俄かに信じがたいことだ。超兵器と呼ばれる巨大な戦艦群と深海棲艦と艦娘の存在……」

 

マホロバは微笑を浮かべて紅茶を啜りながら語るが、リーガル以外は真剣な顔で話に臨む。それもそうだろう。

 

何故ならば、今の人類は滅亡の危機に瀕している。深海棲艦の猛威によって、多くの国が亡国へ追い込まれ、強力な軍事力―――艦娘を多数擁する国へ亡命し、辛うじて大使館が政府としての形を保っている。その亡命した国に住む住民は山奥に逃れ、細々とした貧しい生活を送っている。

 

人口も大幅に減り、海岸沿いには深海棲艦の拠点が点在し、海から遠く離れることは出来ないものの、爆撃機を繰り出して内陸の方へ空襲することも度々ある。そのため、海岸沿いから離れたからといって安心出来ることは無く、内陸の都市に聳えるビル群の屋上には、多数の対空火器が置かれ、レーダーによる索敵と多数の見張り員によって厳重な警戒網を敷いているが、完全に防ぎきることは出来ず、空襲の度に少なく無い犠牲者が出る。

それを恐れた住民は少しでも安全な場所へ避難しようとするが、この時勢、安全な場所というのは、途轍もなく限られてくる。日本で言えば、各地にある鎮守府のお膝元である街や、帝都京都、大阪の周辺 が日本では最も安全な地帯と言えるだろう。

 

例え、敵の襲撃があったとしても、多くの艦娘が所属する鎮守府、舞鶴鎮守府と堺鎮守府に守護される京都や大阪ならば、直ぐに防衛のために艦娘を展開し、深海棲艦の侵攻を阻止できるからだ。

しかし、そこに住める人数は限られており、厳しい選抜を潜り抜けてきた者たちだけがそこに住むことを許される。それに落ちた者たちは山間部に疎開して、ひっそりと暮らしている。

 

そして、沖縄を最終防衛ラインとして、深海棲艦と膠着状態に陥っていた。一度膠着状態に陥った戦況を動かすのは簡単なことでは無く、小規模の艦隊同士による小競り合いが度々起こるだけで大規模な海戦は全くと言っても良いほど起こらず、深海棲艦出現時と比べると比較的平穏な一時がしばらく続いていた。

 

―――最近までは。

現在は“超兵器”と呼ばれる巨大兵器の出現によって、艦娘と深海棲艦の均衡が脆くも崩れ去り、先程の反攻作戦に突如として現れた超兵器の艦隊によって、艦娘の艦隊は大損害を被り、大半の艦娘を失い、戦力を大幅に低下させている。

その一方、深海棲艦も超兵器の猛攻に晒され、次々と沈められている。だが、深海棲艦は負の感情が固まった、いわば怨念のようなものが具現化したものであり、戦時であるこの時、負の感情が絶えることは無く、次々と新たに深海棲艦が生まれ、数の暴力で超兵器と拮抗している。

 

しかし、超兵器にもデータにあるもの全てが出現したというわけでは無く、まだ一部の超兵器は未だにその姿をみせていない。

しかし、それらの超兵器が出現し、稼働してしまえば、人類滅亡は目の前にあると言ってもいいだろう。

 

先程、深海棲艦の総勢1800隻にも上る大軍と“超播磨”を筆頭とする超兵器の艦隊が激突した。その結果、深海棲艦の艦隊は壊滅。姫、鬼と思われる船体も沈んだ。

幸い、超兵器はその激戦でも触発されず、依然として変わらぬ沈黙を貫いている。

いつ動くか分からないというのは不気味なものだった。

 

「………超兵器のスペックを見せてくれないか」

「これだ。……ああ、1つ言っておく。この図面はあくまで目安。実際に備えている性能はこれ以上だと思え」

 

群像の要請に応え、現在知り得る限りの超兵器の性能を記した表をモニターに敷き詰める。それを見た群像たちの表情が険しくなり、次々とズームアップされる超兵器が戦闘しているシーンを切り取った映像が流れる。

1つの島のように巨大な船体から嵐のように吐き出されるミサイルや砲弾。果てにはレーザーやプラズマなどの光化学兵器。

圧倒的な質が量をすり潰す、航空主義から始まった物量で質を圧し潰すという考え方を根本から覆す光景が広がっていた。

それを見た杏兵から呻き声が上がる。彼自身、401の砲雷長であるため、超兵器から放たれる弾幕の濃さがどれほど異常なのかを良く理解していた。

 

「こいつぁ……とんでもねぇな……」

「そうですね……。一隻一隻が霧の大戦艦以下、若しくは互角でしょう。ですが、上位にあたる超兵器は大戦艦を凌ぐ戦闘能力を誇るようですね……」

 

それに応えたのが僧。いつも頭全体を覆うマスクをしているため、表情は分からなかったが、声質が非常に強張っているため、緊張しているようだった。

特に、"摩天楼"…ヴォルケンクラッツアーがもつ最強の兵装、波動砲は恐らく超戦艦級の超重力砲並の威力を誇るだろう。

"大いなる冬"と呼ばれる究極超兵器フィンブルヴィンテルに至っては反物質砲と呼ばれる兵器を持っている。これには大戦艦級のクラインフィールドでも耐えられるか疑問である。船体に直撃でもすれば、如何に霧でもただでは済まない。

 

「超戦艦級は実際に戦闘している所を観測した訳では無いのだから、実際の戦闘能力がどの辺りにあるか分からないけれど、性能を見る限り超戦艦級と互角に渡り合えるのかもしれないわね」

「そうね。まぁ、最も、総旗艦には敵わないでしょうけどね」

 

冷静に解析するヒュウガ。先程の姿とは打って変わって理知的な女性を連想させる。

常にこれだったら、私も苦労しないのだがな………。

確かにあの世界でもヤマトとムサシは本気で戦闘している場面は無かった。私が出現する前は如何だったかは分からないが。

タカオは鼻を鳴らして、不敵な笑みを浮かべるが……。

 

「タカオ、余り油断するな。先程も言ったようにモニターに映っている超兵器の性能がそのままであるとは限らん。万が一の時もあり得る」

「総旗艦に限ってそんなことないでしょ」

「私だって万能では無い。不覚を取る事も戦場ではあり得るのだからな。タカオ、お前も経験済みだろう」

 

不満げに眉を顰めるが、彼女自身、401に敗れ、さらにU-2501にも敗れた。私が戦闘に介入したため、沈没は免れたが、大破に追い込まれた。だから、敗北と言っても差し支えないだろう。それも格下であるはずの潜水艦にだった。U-2501の時は囮を引き受けたため、自身の持つスペック全てを発揮できなかった事が原因であるが、401の時は格下である事に油断し、慢心した結果が敗北である。

だからこそ、私は油断、慢心はしてはならないと戒めを作っている。常に最悪の状況を想定する事であらゆる状況に対応できるように心構えを立てるようにしている。

 

敗北した事実がタカオの心に突き刺さり、顔を顰めるが、一応納得したようで何も言わなくなった。しかし、不貞腐れた顔になり、腕を組んで頬を膨らませながら話を傍観している。

 

……全く仕方の無い奴だ。まあ、以前のタカオと比べれば幾ばくかは、柔らかくなったように感じる。これも群像たちと触れ合った影響か。…悪く無い。

 

「疑問なんだが、これらの超兵器の補給は如何なっているんだ?」

「実弾以外は自身に積んである超兵器機関から生み出されるエネルギーがあるから、半永久的に補給を必要としない個体が多い。ふむ…実弾を主兵装にしている"ハリマ"などは弾薬庫が複数艦内にある可能性が高い。双胴の船体は膨大な排水量を有するため、重量の艤装を多数搭載出来るという利点がある。だから、堅牢な装甲を施し、その内部に多数の弾薬庫を持っていると考えるのが自然だろう。………もう1つ可能性もある。だが……」

 

もう1つの可能性は恐らく、人類にとって最悪の可能性だろう。だから口にするのは憚れるが、群像が鋭い視線で続きを促す。

 

「……最悪、超兵器には無限装填装置という代物が装備されている可能性が高い」

「無限装填装置………?」

 

聞きなれない言葉に首を捻っているが、この装置は正に超兵器が超兵器たらんとするための装置と言えるだろう。故にこの装置を備えている可能性も高い。

 

「この装置は海水を汲み上げ、その装置で一瞬で砲弾の形に氷結、圧縮させる機能を持つ。硬度も鋼鉄のそれとなんら変わりない程に硬く凝縮されている。無論、ミサイルや魚雷の胴体にも適応出来る。それに、炸薬は火薬ではなく、水素を代用している」

 

場の空気が凍る。

正に最悪の事態を想定させるものだった。あの嵐のように飛んでくる砲弾やミサイル、魚雷が弾切れで途切れることが無いというのだ。さらに言うならば、推進の為の燃料も、爆発の炸薬も水素に代替え出来る。

なにせ、材料は無限にある。この外に広がる蒼い大海そのものが超兵器を支える無限のエネルギーになるのだから

 

「欠点は氷でできていることから、太陽の光を反射して、余計に目立つから迎撃されやすいというところか。……その他の欠点は思い当たらんな。強いて言えば、その装置も巨大であるため場所がかなり取られるというところか」

 

敢えて欠点を上げてみるが、決定的な欠点とは言えないものだった。やはりというべきか、リーガル以外顔色が悪かった。無限装填装置は小さくても駆逐艦並の大きさを誇るため、それを搭載できる超兵器は限られている。だが、裏を返せば、それを搭載した超兵器は例外なく人類にとって最悪の兵器となる。

 

「その無限装填装置を搭載した超兵器が出現しない事を祈るばかりだな」

「そうですね……。正直、その装置を搭載した超兵器とぶつかれば、勝ち目は薄いでしょうね。奇襲ならば何とかなるかもしれませんが、真正面からの攻略は霧の大戦艦級とガチンコでぶつかり合うようなものですから……」

 

イオナがボソッと呟くが、高性能のマスクをしている僧がその声を拾い、最適な戦術を練り始める。

 

イオナやタカオ、ヒュウガたち霧の艦艇ならなんとか対抗出来るだろうが、最も心配なのは、時雨や矢矧、響たち一般的な艤装しか積んでいない艦娘たちだ。呉鎮守府―――人類に渡したような超兵器に対抗出来る装置を未だ持たないのだから、万が一、超兵器による奇襲を受けたら一瞬で轟沈する可能性すらある。早急に何らかの対策を取るべきだろう。

 

「とりあえず、今は研究開発を最優先。それに合わせて時雨、矢矧、響の改装を実行する。イオナ、タカオ、ヒュウガは演習で戦術の研究だな。開発で出た兵装で強力なものがあれば搭載してもらう」

「そうですね。幸い、電磁防壁、重力防壁それぞれの基礎は完成していますので、もう少し時間があれば、更に上位の装置を開発出来ると思います。現に開発担当の妖精さんが色々試して新しい物を作り出していますから。………妙な物を作っている可能性が否めないのですが……」

 

確かに、現在も遠くから金槌の音が聞こえる。……偶に悲鳴のような叫び声が聞こえてくるのが気になるが……。幸い、波風の音に紛れてここまでくるときには掠れ、常人には聞こえないほどの小さな音になる。現在聞こえているのは、私たちメンタルモデルと時雨たち艦娘たちのみ。それぞれが原因を掴んだようで、苦笑を浮かべて顔を見合わせていた。

ん?八月一日静が困惑したような顔で恐る恐る手を上げている。もしや、この声が聞こえたのか?ならば、相当な聴力の持ち主だな。……いや、それほどでなければ、401のソナー手を務めてはいないか。

 

「……あのぉ…、悲鳴のような声が聞こえてくるのですが……」

「悲鳴?何処からだ?」

「この要塞のドック付近辺りです。ええと、……恐らく、開発工廠かと」

 

群像たちは聞こえていなかったようで、眉を顰めて尋ね、八月一日が場所を示す。

……やはりか。妖精さんたち、一体何を作っているんだ?……心配になってきたから、行ってみるか。

 

「不安になってきたから見てみようと思うが、お前たちは如何する?」

「……此処でどんなものが作られるのか気になるから覗いてみよう」

 

群像も複雑そうな表情を浮かべて同意する。まぁ、確かに気になるだろうな。断続的に悲鳴や、爆発音やら破砕音やら。普通に開発すれば、あり得ないような音が聞こえてくるのだから、却って好奇心をくすぐられる。だが、見てはいけない物を見てしまいそうで恐いという感情だ。

しかし、この世には好奇心で生きているのもいる。特にヒュウガや杏兵などは顔をニヤつかせ、今すぐにでも行きたそうにしている。

 

「仕方ない。皆で行こうか。……万が一の時にすぐに対応できるようにな【タカオ、ヒュウガ、イオナ、リーガル。群像たちと時雨たちを頼む】」

【了解。……それにしても、総旗艦がそんな顔をするのって余程の事だと思うのだけれど?】

【此れには事情がありまして、何故か私に住み着いた妖精さんは通常兵器の常識を上回るような兵器を平然と作り出してしまうのです。それも霧の技術と肩を並べても可笑しくないレベルの物を】

【ちょ!?それって不味くない!?霧の技術と肩を並べるって相当な物よ!?】

【そうだ……。少し……いや、かなりマズイことになりかねん】

 

嫌な予感しかしないが、取り敢えず、処分の準備をしなくては。勿論、妖精さん……じゃなく、出来てしまったモノをだ。

……む?高エネルギー反応!?

 

〈ボゴォオォーーン!!〉

 

工廠の屋根を突き破って赤いイナズマ……プラズマが天に向かって迸り、天に向かって落ちる雷を生み出す。

あれは……。

 

「……妖精さんの技術は如何なっているのか見てみたいものだわね。確かに霧の技術と同レベルか、それ以上と推測できるわ」

「……ヒュウガ、今のは一体何だ?」

「圧縮プラズマよ。通常のプラズマを更に高電圧に、膨大なエネルギーを蓄えて一気に放出する兵器のようね。今観測したエネルギーだったら、霧の重巡クラスでも一発で撃沈出来るわ」

 

冷や汗を流しながら今起こった現象について説明するヒュウガ。

それを聞いた杏兵とタカオも唖然としていた。尋ねた群像も唖然としなかったものの、顔を引き攣らせ、沈黙を貫いていた。

 

群像たち霧の艦艇に理解があるものたちから見れば、重巡クラスでも相当な脅威にある。霧の艦隊は駆逐艦以上になるとクラインフィールドを供え、重巡クラスになれば、そのクラインフィールドの対負荷容量も桁違いに膨大である。

401とタカオの戦闘時、群像は切り札である“超重力砲”を使う事で辛くも勝利を収めた。代償に元々使えなかった超重力砲をヒュウガのものを半ば無理矢理搭載したので、自身にも少なからずダメージを受けてしまったのだが。

人類側の艦隊はこの重巡クラスの艦船一隻すら沈めることも出来ず、逆に撃滅されている。それほど恐るべき脅威である重巡が一発で撃沈されるというのだから、それが信じられないのだろう。だが、解説するのは霧の大戦艦の一つにして、東洋巡航艦隊旗艦を務めていたこともある旗艦権限を持ち合わせる大戦艦である。そんな彼女が嘘を吐く筈が無い。……冗談をいう事はあるかもしれないが。

(マホロバが出現し、人類に対する閉鎖作戦も緩和されたため、二つあった巡航艦隊を一つにまとめた。ヒュウガが初代旗艦を務め、二代目がコンゴウ。ナガト、ムツの2隻と重巡、軽巡、駆逐艦それぞれ数隻ずつ、総旗艦直衛艦隊麾下に編入され、残る艦艇はコンゴウ麾下に編入された)

 

 

閑話休題。

 

「う、嘘だろ?クラインフィールドでも意味を成さないのかよ?」

「あのエネルギー量を見る限り、重巡のクラインフィールドの対負荷許容を軽くオーバーしているわ。下手にクラインフィールドで防ごうとしたら、一瞬で飽和されて、本体にまで攻撃が届くわ」

「ふむ……。前回開発で出たプラズマ砲の数倍の威力か。大戦艦級でも十発も喰らえば危ういだろうな」

 

絶句するしかない破壊力だ。まさか、重巡クラスが一発で撃沈するような兵器を作ってくるとは思わなかった。

しかし、超兵器側にもこれと同等と兵器を積んでいる個体も存在するというのだから、悩ましいものだ。

と言うよりも、妖精さんの技術や頭脳をじっくりと解析してみたくなる。現代レベルまでの技術しか有していないハズの妖精さんが何故未来兵器を開発出来るのか。正直言って霧の艦隊が何故生まれたのかよりも妖精さんの正体を知りたい。

 

哀れ、妖精さんたち。

その時、妖精さんたちの背筋に凄まじい悪寒が走ったのは言うまでもない。

そして、その悪寒が原因で手元が狂い、さらなる爆発を招き、工廠の一部が吹き飛ぶ。

慌てて吹き飛んだ箇所を修理しようと数人の妖精さんが動き出して―――

 

「―――何をしている」

 

石像と化す。

ビシィと石が割れるような音があちこちから聞こえて、先程まで騒がしかった工廠が無人であるかのように静まり返る。

妖精さんたちはわかっていた。この世に救いなど無いという事を。

 

大破した工廠の入り口―――妖精さんの背後には目を閉じたままの美しくも恐怖の魔王が扉を潜り抜けてきた。

カツンとナノマテリアルで構成されたコンクリートの床にブーツが着地した音が妙に響く。その音が次第に近づいてくると、固まったままの妖精さんの身体中から滝のように汗が噴き出す。

そして、ブーツの音が止むと不気味な沈黙が暫し辺りを支配する。それに耐え切れなかった妖精さんがゆっくりと首を回して背後を見る。いや、見てしまった。

 

そこに居たのは白い髪を舞い上がらせながら、身体中から紫電を迸らせている超大戦艦の姿が。しかも、心なしか、宙に浮いているような気もする。

 

いや、実際に浮いていた。重力子のベクトルを変換することで、斥力を生み出し、その反発によって浮いているのだが、何より、浮いている事で神々しささえ感じてしまう程のものがあった。

破壊された天井からオレンジ色に染まった太陽の光が差し込み、舞い上がったマホロバの雪のように白い髪がオレンジ色に煌めきながらたなびく。そして、花魁を思わせる豪華絢爛な着物には薄く青白い粒子が漂い、そこから紫電が放たれるが、それも含めてありとあらゆる要素が組み合わさって神々しさを醸し出していた。

 

そんなマホロバに妖精さんたちのみならず、リーガル、タカオや、ヒュウガでさえ見惚れていた。メンタルモデルでも引き込まれるのだから、人間である群像たちと、人とほぼ変わりない艦娘である時雨たちも視線が釘付けとなっていた。

我を忘れていた彼女、彼らを現実に戻したのは、身に纏う雰囲気とは正反対の魔王のような、氷のような冷たさを感じさせる声音のマホロバだった。

 

「よく、自分たちの作業場であり、住む家であるようなリーガルの建物を破壊することが出来るものだな?」

 

これに対する妖精さんの答えは無かったが、冷や汗が滝のように流れ出ており、視線が泳ぐ。

 

「一回本気で灸を据えねばならん。―――覚悟はいいか?」

 

事実上の死刑宣告であった。放出する紫電の大きさや数が膨れ上がり、雷鳴のような轟音が工廠の中に轟く。雷光のような閃光が断続的に続き、マホロバの動きがコマ送りのように見え、マホロバの手に"緑色"のプラズマが込められるのが見えた時点で妖精さんたち一同の意識はプツリと切れる。

 

(安心してください、死んでません。………黒焦げですが。煙も出ていますが、一応生命反応はあります)

(死んでいないって、すごい焦げているんだけど、大丈夫かな……)

(ちょ、ちょっと………!いまの緑色のプラズマ、さっきの圧縮プラズマ砲の数倍のエネルギー反応があったんだけど!?)

 

離れた所でリーガル、時雨、タカオがひそひそと会話しているが、マホロバには筒抜けである。

ヒュウガも口には出さないものの、驚愕していた。さっき、妖精さんが作った圧縮プラズマ砲も驚愕に値するものだったが、それを凌駕する威力を放てる兵器をいとも容易く構成し、制御したマホロバの演算能力に戦慄したのだ。

 

 

 

「―――覚悟はいいか?」

 

その瞬間、視界を緑色の閃光が覆い隠す。私が放ったのはAC(アーマードコア)の世界にて、地上を空気から大地、果てには海に至る、ありとあらゆるものを生命の住むことのできない死の大地に変えた最悪の汚染物質、"コジマ粒子"を利用した兵器、“コジマライフル”を霧の技術でさらなる高みへ昇華された兵器、"コジマプラズマ砲"だった。

最も、汚染物質は霧の技術で完全に除去されているため、無害である。

だが、威力は圧縮プラズマ砲の比にもならず、単純な破壊力では超重力砲並。

(超重力砲≧コジマプラズマ砲>圧縮プラズマ砲>プラズマ砲)

 

放たれた緑色の稲妻は妖精さんの頭上ギリギリを通過し、感電で妖精さんを黒焦げにしながら後方の壁を破壊して、遠くに聳える要塞の外周の装甲壁を回避して更に遠くの海、水平線上に着弾する。

着弾するだけならまだよかっただろう。着弾したプラズマは瞬く間に超高エネルギーに変わり、辺りの海水一帯を瞬時にて蒸発させ、広範囲に衝撃波を生み出し海水を吹き飛ばし、上空には巨大なキノコ雲が生まれた。上空1万5千mにまで昇ったキノコ雲から凄まじい熱風が暴風となって周囲一帯に襲い掛かる。

即座にリーガルがクラインフィールドを要塞の外壁全体を覆い隠した次の瞬間、熱風の暴風が衝撃波を伴って到来する。熱風は驚愕すべきことに3万℃にまで達する。爆心地に至っては40億度。此れは人類が現在保有している最強の兵器である核兵器“ツァーリボンバー”の30億度を優に超える灼熱すら生易しい煉獄の熱さだ。

 

「む……、この兵器は使用禁止だな。もはや環境破壊兵器のレベルじゃない」

「そうですよ、やりすぎです!クラインフィールドの飽和量の2%の威力をお仕置きで放つのは止めてください!放射線のように汚染物質じゃなかったからよかったものの、膨大な熱量が艦橋に及ぼす影響は甚大ですよ!」

「分かっている。私でもこれほどの威力が出るとは思ってもいなかったからな。ふむ、兵器の起爆理論としては間違っていないはずだが……疑似コジマ粒子にしたのが悪かったのか」

 

ブツブツとさっき放ったコジマプラズマ砲の桁外れの威力の原因を解析しているが、“片手間”でクラインフィールドを展開し、着弾地点を中心に巨大なドーム状に囲み包む。簡単に言葉にしているが、数字で表せばとんでもない規模だという事が分かる。

高度1万7000m、半径60万m、直径にして120万m―――1200kmを丸ごと包み込む超巨大なクラインフィールドだ。

 

「―――コジマプラズマ砲の解析はこんなものでいいだろう。さて、熱を冷ますとしようか。―――クラインフィールド強度84%を維持。凝縮開始。飽和率6%……8%」

 

マホロバの周りに黄金色に光り輝くサークルが出現し、ゆっくりと回りだす。そして前に突き出した手を動かして、何かを握るようなしぐさをすればそれに合わせて展開されたクラインフィールドが狭まり、爆心地に向かって凝縮していく。

クラインフィールドの中ではキノコ雲と発生した超高温の熱風が吹き荒れ、クラインフィールドを突破しようと嵐を作り出すが、霧の艦隊総旗艦である超大戦艦マホロバの作るクラインフィールドが“その程度”で破れるわけがない。更に凝縮を進め、圧縮に圧縮を重ねる。先ほどまでは満遍なく燃え広がっていた熱風は逃げ場を失い、ボウリングの球と同じくらいの大きさになったクラインフィールドの中で禍々しい赤い光と緑の光が入れ替わるように鈍い輝きを放つ。そして、空間転移でその球体がマホロバの両手に収まる。

メンタルモデルだから分かるが、この球体に内容されているエネルギーは膨大なものであり、凝縮、圧縮したことによって起爆した時の破壊力はプラズマ砲とは比較にならないほどの威力を持つ爆弾だ。下手すればアフリカ大陸そのものが地図から消し飛ぶ。

 

「ちょ……それ、如何するつもりなの?」

「いやなに、万が一に備えての切り札と言うものだ。究極超兵器がどれほどのものか、はっきりしないが、万が一に私が敗れたときはそれを使え」

 

流石はヒュウガと言うべきか。一目見ただけでマホロバの持つ球体の異様さが理解出来たようで冷や汗を流して尋ねる。霧の艦艇は大陸を焦土と化すことは出来るが、大陸そのものを消し飛ばすことなど、大戦艦にでも出来ない。超戦艦以上でないと出来ないことがマホロバの手の中にあるボウリングの球と同じくらいの大きさの球体が出来るのだから。

 

「総旗艦が負けることなんてありえないわよ!それに、総旗艦が負けた相手にそれが通用するとは思えないわ」

「だから万が一にだ。それにこの私が相手に何の手傷を与えられずに沈む訳がないだろう?手傷の一つや二つは作って置くさ。そこを攻めればいい」

 

タカオが異議を唱えてくるが、万が一に、念のためにと推すと渋々だが引き下がった。未だ時雨たちが不安そうな顔で見つめてくるが問題ないと微笑んでおく。

 

「リーガル、これを兵器庫の奥深くに保管しておけ。妖精さんたちに任せるととんでもないことになりかねんからな」

「了解しました。妖精さんには自重してほしいものですね」

「全くだ」

 

苦笑を零すリーガルに溜息を吐きながら答えるマホロバ。

 

うっすらと開かれたマホロバの白銀と紫苑のオッドアイは悲しげに揺らめき、遥か遠くを見つめる。その先にはかつてないほどの危機に追い込まれている祖国日本の姿があることだろう。

超兵器の影が蠢くかつてないほど不安定な、それこそ第2次世界大戦時以上に不安定な海はいつまでも蒼く雄大であった。

 

それが戦火に飲み込まれ紅くなるのもそう遠くないこと――――――

 

 

 

ハワイに拠点を置く南方棲姫は不意に空を見上げる。

 

「―――?鼓動……?」

<ドクン……ドクン……>

 

小さくか弱い音であったが、確かに心臓の鼓動のような音が辛うじて南方棲姫の耳に届く。

その音は世界中にか細く響き、人間には聞こえないが並外れた聴力を持つ駆逐艦などの艦娘や深海棲艦。果てにはメンタルモデルにまで届く。

不気味な鼓動。一つなるたびに警戒心が深まり、背筋を何かに撫でられたかのようにゾワリ、と寒気が走る。狂気が世界を覆いつくしていく、そんな感覚さえ覚えてしまう。

 

「嫌ナ予感ガスルワネ……。部下二警戒ヲ厳カニ成セト伝エタ方ガイイカシラネ……」

 

南方棲姫の独り言は虚空に消えていく。

いつもいる埠頭から踵を返し、自身の船体を係留している桟橋に歩いていく。

 

 

――――――北極海深海。

<ドクン……!ドクン……!>

 

そこには装甲の隙間から筋繊維のような構造物がのぞき見える巨大な船体を持つ“究極超兵器インフィンティンブル”が海底に船体を乗せて深い眠りに就いていた。

世界に響き渡る心臓の様な鼓動はこの“大いなる冬”から響いていく。未だか細いものの、力強く響く鼓動は増々強さを増していく。

 

そして、船体の至る所にある眼窩のような窪みに光が宿るとカッと見開かれた――――

 




今回はネタ編です。
ヒュウガの暴走から始まり、制裁。

コジマプラズマ砲。
ACの最強兵器であるコジマライフルを霧の技術で昇華してしまったシロモノ。
艤装にすれば、様々な装置が取り付けられた単装の46cm砲と同じくらいです。
威力はアフリカ大陸を海に沈められるくらい。

これを掠めたとしても黒焦げで済んだ妖精さんは如何なる生命体なのだろうか……


そして、不穏な”大いなる冬”の鼓動……
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