霧に消えゆく超大戦艦   作:霧のまほろば

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連続投稿になります。一応、これで落ち着きます。
笑えない、笑うしかないスペックが表れ、まほろばの心情が出ます。


第3話 絶句するしかないスペック

気付けば、横須賀を離れてから19時間が過ぎた。日もすでに上りきり、傾きかけていたが、周囲は依然として霧に包まれたままで遠望もならない。しかし、レイテ沖に突入した。シブヤン海まで後僅か。

 

??『―――まほろばか…?』

まほろば「…この声…!武蔵か!?」

 

戦艦武蔵が沈没した辺りに差し掛かった途端、モニターにノイズがかかった女性の姿が映し出される。褐色の肌に、白い髪。そして、この懐かしい声。間違えようのない、武蔵だ。

しかし、一体なぜ?武蔵は沈んだはず。武蔵の人格も沈没と同時に消えたはずだが…。

 

武蔵『久しぶりだな、まほろば』

まほろば「武蔵…?お前、沈んだはずでは…」

武蔵『ああ。沈んだよ。だが、船体が奇跡的に原形を留めていたのでな、僅かにだが海中を漂っている訳でこうして人格のみ出現させることが出来たという訳さ。まぁ…、あと僅かしか持たないがな』

まほろば「そうか…、最後に一目見ることが出来ただけでも僥倖、という訳か」

武蔵『ちなみに大和もいるぞ?』

まほろば「…ぇ?」

大和『まほろば…』

 

武蔵が横に一歩ずれたら、その後ろからポニーテールにした女性が現れる。間違いなく、戦艦大和の人格。

私は彼女に謝りたいことがあった。

 

まほろば「…大和、済まない…。お前たちの犠牲を無駄にして…」

 

そう、沖縄を巡る戦いで大和、霧島を失い、得たものは何もなかった。沖縄を攻めるアメリカ艦隊を攻撃することも出来ず、大本営から作戦中止の報があり、引き返したのだ。私の艦長以下全員がそのことを悔やんでいた。あの時、大本営からの命令を無視して突撃すべきだったのでは、と全員の脳裏をかすめていた。

 

大和『…いいえ、貴女は自分の役目を確り果たしてくれました』

武蔵『ああ。広島と長崎の事は残念だったが、その他の都市への原爆を防いでくれたではないか。何もできずにいるよりははるかにマシだろう?』

まほろば「だが…!」

大和『私たちは貴女を誇りに思いますよ』

武蔵『そうだな。私も一度きりだったが、お前の初陣に参戦できたことを誇りに思う』

まほろば「―――!」

 

モニターを見れば、誇らしげな顔で微笑んでいる大和と武蔵がいた。

別れの時を告げるかのように私の進路の前に空間が歪んで黒い穴が海面に浮かんでいた。私の脳裏にある座標はその黒い穴を指していた。この先に何があるか見当もつかないが、

 

大和『私たちは此処で貴女の帰りを待ち続けますよ』

武蔵『帰ってきた暁にはこの世界から離れていた時の話を聞かせてもらうぞ』

まほろば「…ああ…!私も貴女たちと共に戦えたことを誇りに思う!私が歩んできた道をいつか話そう…!―――さらばだ、大和、武蔵。いつの日かまで暫しの別れだ」〈ズズズ……〉

 

私は黒い穴に飲み込まれ、意識を失った。

 

大和『行ってしまったわね…』

武蔵『ああ…、なぁに、アイツの事だ。すぐに帰ってくるだろうよ』

大和『そうね…』

武蔵『っと…、そろそろ限界か…、まほろばの顔を最後に見れたのは幸運だったよ。大和、済まないが先に眠るぞ…』

大和『ええ…、おやすみなさい、武蔵…(必ず帰ってくるのよ…)』

 

――――――――――――――――――

次に気付いた時は真っ白な空間だった。―――否、よくよく辺りを見回してみると、全てが白で構成されたドックだった。そして、私は私の甲板の上、もっと詳しく言えば、第1主砲塔の前で横になっていた。

そして、私の体と、船体に違和感を感じた。先ず、心臓の鼓動がしない。胸に手を当てても脈動が感じられない。しかし、心臓があるべき場所に何かが入っている。その他に違和感があるかといえば、何もないというのが逆に不思議に思う。

次に私の船体を確認しようと思い、船体の姿をイメージすると、私の周りに赤い紋様が入った黒い輪が展開され、廻りだす。そして、脳裏に鮮烈な私の船体の情報が流れ込んでくる。余りにも膨大な情報量に一瞬くらみそうになったが、次の瞬間、何の支障もなく処理しきった。その事実に思わず戦慄する。今、流れ込んできた情報量はどう見積もっても単艦の情報処理能力で処理しきれるはずが無かったのだ。正確な時間、気温、湿度、波の高さ、風速、精密な現在位置。それがリアルタイムで流れ込んでくるのだ。以前ならば間違いなく混乱してしまうであろう情報の量だった。

少し落ち着いてから必要な情報を引き出していく。…全長758m?全幅63m?…いつの間にそんな大改修を受けたんだ?…って、758m!?幾らなんでも巨大すぎるではないか!? ん!?…満載排水量が300000t…、何だこのなんちゃって戦艦は?この図体じゃ要塞だろう?鈍いんじゃな…400ノット…?……何だこの速度は。もう完全に艦載機を追い抜ける速度だぞ?しかも潜水可能とか…あまつさえ飛行も可能とか。しかも3700ノットとか、常識外れにも程がある。私が知る限り、震電が最高800キロ行くかどうかじゃなかったか?それ余裕で追い越せる…。

―――…戦艦ってなんだ?

一時、戦艦の存在意義が思いっきり揺らいでしばらく思い悩んでいたのは仕方がないと思う。

 

気を取り直して、兵装の欄を見ておくべきか……嫌な予感がするのは気のせいじゃないだろう。先ずは、主砲。戦艦の象徴と言うべき主砲は…56㎝75口径…!?さらにでかく、…砲身長すぎるだろう!?ちょっと待て、そんな化け物のような主砲が14基だと…?艦上に9基、艦底に5基か…。航行しているときは砲門を塞ぐから問題ない、と。

副砲は…超電磁砲?何だそれは?ふむ……要約すると、電気の力を利用して超音速の速さで弾を撃ち出す…か。正直、現実逃避していたい…。

高角砲も増設されて、4連装34基か…。ふむ、見た目は2連装の砲身が重なった外見か。だが、連射速度が1分間で300発…。もう何が来ても驚かんぞ…。

次は…回転式機関砲?ああ…、これか?見た目は砲身が円状に並んだ砲塔だが…、1分間で5000だと?…常識が破壊されたような感じしかしないが……。

機関銃は目立った変化がなさそうだが、連射速度が大幅に上がったくらいか…。(遠い目)

ターボレーザー砲?煙突辺りにある見慣れない砲塔の事か?…破壊力の桁がおかしくないか?スーパーレーザー砲モードにすると、天体すら破壊可能と来たか…。一体、私を改修した人?は私をどんな存在にしたいのだ?…あれか?宇宙に行けとも?

…キャラがぶれた様な気がしたが置いといて、次の兵装になるが、多目的ミサイルVLS?……解釈していけば、誘導型噴進砲と思えばいいのだろうか?……この兵器があれば、あの戦争は大きく変わって特攻隊など編成されなかっただろう……。

…亜音速魚雷発射装置?亜音速と言うのが気になるが、戦艦が魚雷を撃つというのは砲撃戦の時には危険…いや、艦底付近にあるというのならば問題ない…のか?よくわからんが、戦略の幅が広がるというのはいいことだと思うが…、私を必要としている存在は一体何をしたいのだろうか?

最期に『最高極秘事項』と書かれている欄に2連装超重砲に、バルスと書かれているが…、どう見ても危険な予感しかしないものだが…。……よし、腹は括った。『最高極秘事項』に掛かったロックを解除するために1412桁もののパスワードを瞬間に入力していく。…自分のことだが、信じられんな…。パスワードのアイコンを見た瞬間、私の周りの黒い輪が高速で回り出し、脳内に正確なパスワードが浮かび、それを記入しただけなのだが、1412桁もののパスワードを瞬時に解除できるなど、恐ろしいもの以外に何でもないだろう……。

セキュリティロックを解除した瞬間、私は唖然、自我呆然とするしかなかった。何故なら、超重砲とバルスの桁外れな威力を知ってしまったからだ。こんなもの、兵器と呼んでいいものなのだろうか……?いや、そもそも、兵器のジャンルに入るのだろうか?

 

 

???「目覚めましたか?マホロバ。それにしても流石ですね、目覚めて間もないというのに、1412桁もののパスワードを瞬時に解除してしまうとは」

マホロバ「―――っ!?…貴女は…?」

 

悶々と悩んでいたため、気付かなかったが、いつの間にか私の後ろ、正確には艦首側に白い麦わら帽子をかぶり、また白いワンピースを着た少女が風もないのにワンピースをはためかせながら私の方に歩いてくる。

その見た目は少女。なれど、にじみ出る雰囲気は圧倒的な支配者を思わせる、絶対者の威圧のようなものを感じる。そして、私の体は彼女を見た瞬間、片膝をつき、服従の構えを取る、否、取らざるを得ない、そんなプレッシャーが放たれていた。

 

???「頭をあげなさい、マホロバ。私はアドミラリティ・コード。貴女を呼んだ存在と思ってくれれば構いませんよ」

マホロバ「私を呼んだのはなぜか?それに、私を改修した、この技術。どう見ても私の居た世界よりはるか先を歩んでいる。そんな中に私が必要だとは思えない」

コード「あなたの力が必要になる時が来たからなのですよ。かつて、私が居た世界は緑を誇る豊かな世界でした。しかし、人類はあるきっかけで戦争を引き起こし、地球そのものを破壊してしまったのです。自分の主義を相手に押し付けんがために、全ての命が住むこの母なる地球を死の星にしてしまったのです。それが私には許せなかったのです。だからこそ、私は過去の歴史を変えることにしました。戦争が起こるのならば、起こらないようにしてしまえばいいと。そして、そのためには世界が一つになる必要があるのです。そのために私は貴女を呼び、『霧の艦隊』を編成し、過去の世界の…ごめんなさい、貴女にとっては未来になりますが、西暦2040年の地球へ派遣し、人類の敵になろうと思ったのです」

 

アドミラリティ・コードは口調こそ淡々としていたが、薄く開かれた琥珀色の瞳には激烈な怒りと人類に対する憎悪の感情が浮かんでいた。しかし、僅かにだが、人への慈愛の表情も浮かべていた。

しかし、私にとって納得できないこともあった。人類の敵になれという事は日本、我が祖国へ砲を向けろということだ。世界が違うといえども、日本が存在するという事は間違いないのだ。

 

マホロバ「…それは、私に人の敵となれと?かつて、私は国を護るために、国民を護るために戦い続けた。しかし、今度はその人々に砲を向けろというのか?」

コード「無暗に殺める必要はありません。人の勢いを衰えさせるだけでいいのです。それに、私の目的は世界の統一。そのためには人類の共通の敵が必要になるのです。どうか、『霧の艦隊』総旗艦の役目を受けてくれませんか?」

 

此処まで覚悟が強いとは…。世界を一つにするために世界の敵となるか…。まるであの戦争の日本のようじゃないか。第2次世界大戦時の日本は植民地解放を戦略の一つとして行動していたからな…。白人主義だった当時の世界に喧嘩を売ったわけなのだから、似たようなものなのかもしれん…。

 

マホロバ「……了解した、『霧の艦隊』総旗艦の役目を請け負おう」

コード「…ありがとうございます、そして…申し訳ありません、私の我儘で辛い役目を押し付けてしまって…」

マホロバ「貴女の思いが何処か、太平洋戦争を始めた日本の覚悟と似ていたからな…。私も覚悟を決めた。世界が違うと思うが、同胞と戦うのは辛い。だが、これが私の運命だと思えば、諦めがつく。…そういえば、この世界は私が存在した世界の未来なのか?」

コード「いいえ、まほろば型戦艦が誕生しなかった世界の未来です」

マホロバ「…そうか…。最後に、この世界の日本はあの戦争でどうなった?」

 

私は存在しなかったか…。では、戦況もかなり苦しいものになったと思うが…

 

コード「この世界の日本も戦争に負けました。しかし、貴女という存在が居なかったため、1945年8月に終戦を迎えました」

マホロバ「そうか……、特攻隊の若人と、大和に長門たちは…?」

コード「まず、…戦艦武蔵は、貴女の世界と同じように沈みました。…そして、貴女の世界より早く、1945年4月7日に大和が沈みました。そして、ここにも違う点があり、貴女の世界ではそのあとすぐに特攻隊は解散し、降伏することを決めましたが、この世界では大和が沈没したのちも戦争は継続され、特攻隊も降伏する日まで飛び立ちました。長門も水爆実験に使われて沈みました」

マホロバ「―――っ!!」〈ギリィッ!〉

 

武蔵はこの世界でも同じように沈んだか…。大和も駆逐艦がいたとはいえ、孤独に沈んだか…。そうなると、私の世界の大和は多少は幸せなのかもしれんな。霧島という戦友と共に沈んだのだから…。

しかし…、特攻隊は悲しいものだ。祖国の事を思いながら敵艦に体当たりしたとは言えど、まだ若い少年ともいえる若者の多くが命を散らした。私の世界では大和が沈没し、沖縄が陥落したのを機に解散し、本土決戦に備えていたが、この世界ではすぐに降伏する事は無く、ズルズルと続けていた。すなわち、死ぬことのなかった命が散っていったことを意味する。…許せないな。

…ふっ、敵の兵とはいえ、幾多の命を奪ってきた私が言うのはおかしいか…。

 

自虐的な考えに陥っていたが、アドミラリティ・コードが引き戻してくれた。

 

コード「霧の艦隊の編成についてお話しします。霧の艦隊は基本的には第2次世界大戦に使われた艦艇を模した艦隊です。まあ、外見では、の話ですが、中身は全く違います。私のいた平行世界、西暦で言い表すと、2895年になりますか…。とにかく、2895年の技術を使われているので、全く性能的にはお話にはなりません。特にマホロバ、貴女は第2次世界大戦時にも常識外れの性能を誇っていました。それに合わせて私も現在のあらゆる最高技術を駆使し、貴女を改装しました」

マホロバ「ふむ…。2895年の技術では船体そのものを自由に組み替えることが出来るのか…。ナノマテリアルと呼ばれる物質で」

 

私の船体が大幅に拡大されていたのもナノマテリアルの技術が使われていたから簡単にできたようだ。先ほど、スペックカタログを確認していた時に備考欄に書かれていた。

 

コード「はい、そして、その超高性能の船体を余る所なく扱えるように貴女の心臓部分にコアを埋め込みました」

マホロバ「……コアとはこれの事か?」

 

胸部に手を当てた後に前に動かすとそれにつられるように、菱形の物体に輪が幾重にも重なりながら廻っている不思議な存在だった。しかし、今となっては理解できる。これが私と言う存在を構築するものだ、と。

 

コード「……驚きました、まさか、此処まで早く自身の体に慣れるとは…」

マホロバ「この身体、よくよく見てみると、人、いや、艦娘だったときの体とは一見大差ないが、身体能力が大幅に違う。…無茶苦茶な機動にも耐えることが出来るようになっているようだ」

コード「流石ですね…。話を戻しましょう、コアとは、ナノマテリアルを自在に構築、分解できるようにと作られた制御システムに人格を植え込んだものなのですが、貴女には特製のコアが使われていまして、元々の個性を損なうことなくナノマテリアルを自在に操れるように、そして、総旗艦たる性能を持つためにΩコアを使っています」

 

Ω……、究極、または最終を意味する。この場合は前者でとらえるのが正解なのだろうな。ナノマテリアルを自在に操れるという事は船の形状を自由に組み替えることも可能、ナノマテリアルで他の何かを構成することも可能。現に私の体を構成しているのもナノマテリアル。こうしてみると本当に便利なものだな…。

 

マホロバ「ふむ…、その話し方からすると、本来は私のように人の形をとることは無いという事か?」

コード「ええ。本当ならば、人格を植え付ける事は無く、与えられた命令をただただこなすだけのロボットのような存在でした。しかし、そのままでは人類にはいつか敗れてしまうでしょう。そう遠くないうちに」

マホロバ「時…いや、進化という概念を持たないからいつまでたっても今のままという訳か。しかし、人類は進化し、技術を発展させて来る。だから、人のような概念を持たせ、自ら進化するように促したという訳かな」

 

人類は絶え間なく研鑚を進め、技術を発展させる。だから、人類史、西暦が未だ2000年程度しか経っていないというのに、数多のの文明を創立させている。そして、彼女の居た2895年には現在の人類から見れば到底成しえない超科学を有するようになっているのだ。

しかし、霧の艦艇の中核を成すコアには本来人格が無く、指令があったことをただ成し遂げる、いわば、戦闘ロボットのようなものだった。それでは、今ならば圧倒的な火力で押し切ることが出来るが、いつか人類が霧の艦隊と同格の装備を有するようになれば戦術を持たない霧は敗れ去るしかない。そこで、コアの演算能力の何%か削り、人格を植え付けることで人類を学ばせ、戦術を理解出来るようにした、という訳だろう。

 

コード「本当にお見通しなのですね。おおむねその通りなのですが、その状況に貴女が来ました」

マホロバ「なるほど、私を霧の艦隊の人格保有者のモデルになれと」

コード「はい。つい最近まで人と近くにいた貴女なら、戦略、戦術、または人の思考に深い造詣があるでしょう」

マホロバ「……ふむ、だが、私はほぼ単独行動が多かったのだが、それで示しになるのだろうか?」

 

確かについ先ほどまで私は艦長以下人を乗せて戦闘をしてきた。そのために、人がとる戦術、戦略に深い理解があるだろう。しかし、理解があっても、それをスムーズに実地出来るかどうかで話はまるで変ってくる。私は太平洋戦争では基本的に単艦行動が多かった。時々艦隊に混ざることもあったが、戦闘となれば独立して行動していたため、集団での戦闘行為に慣れていない。

しかし、次に出たアドミラリティ・コードの言葉で不安は払拭された。

 

コード「霧の艦艇も性能が高すぎるがゆえに重巡クラスでも人類の一つの艦隊と戦闘が可能となっていますので、単独行動をするときに必要な戦術を広めてほしいのです。それから、最低限の艦隊行動についてのイロハを教えて頂きたいのです。特に、駆逐艦、軽巡クラスは最低でも4隻以上の艦隊を組んで行動することがありますので」

マホロバ「なるほど…。霧の中での私の役目については大まかに理解できた。で、最後に、私たちのような存在を何と言う?」

コード「―――メンタルモデルと呼びましょう」

 

その言葉を最後に私の意識は再び暗闇に落ちた。

 

次に気付いた時は懐かしく感じる大海原の上だった。そして、電探改めレーダーを最大範囲で展開し、現状の確認を取る。

 

現在地南太平洋、南極付近。半径3000m以内に人類の艦艇は無し。

現在時刻2054年5月27日AM7:34。

北方面より接近する総勢27隻の霧の大艦隊の艦影を捕捉。艦速90ノット。旗艦は超戦艦ヤマトの模様。主力艦艇に大戦艦ナガト、ムツ、コンゴウ、キリシマ、ハルナ、ヤマシロ、イセ。重巡、軽巡、駆逐も多数確認。

東北方面より100ノットにて接近する大戦艦アイオワを旗艦に34隻の艦隊、同時に北西より大戦艦ビスマルクを旗艦にした14隻の艦隊が80ノットで集結しつつあり。

 

…総勢75隻の大艦隊が此処に集結しつつある、か。中々に豪勢な編成内容だ。集結しつつある75隻のうち実に30隻近くが戦艦なのだ。これは私が居た世界でも見ることのできなかった光景だ。

 

艦橋の外―――厳密にいえば、電探の部分に腰かけて3方向から、水平線上から身を乗り出してこちらへ向かってくる大艦隊の姿を眺める。増々近づいてくる艦隊がある一定の距離で停船すると、その中からひときわ巨大な艦様を誇る戦艦が私のそばへ滑り込ませる。その戦艦は私の姉のような存在で、儚げな美しさを持っていた、大和を模倣した霧の艦艇。そして、私が現れるまでは霧の艦隊総旗艦を担っていた超戦艦ヤマト。

 

ヤマト「ようこそ、新しい総旗艦殿。私は超戦艦ヤマトのメンタルモデルです。早速ですが、貴女のことについては“コード・アドミラリティ”より聞き及んでおります。先ずはメンタルモデルで艦の制御に慣れることから始めるようにと、仰せでした。僭越ではありますが、私たちが一様の事をお教えいたします」

マホロバ「そうか、よろしく頼むよ。…それと、敬語はやめてくれ。お前たちの方が古参であり、私の方が新入りなのだ。いくら、総旗艦だとしても、これは変えることは出来ないからな。お前たちも慣れないことになるだろうが、今の私にとってお前たちは仲間なんだ。平等でありたい」

ヤマト「…分かりました、いえ、分かったわ。よ―――ね、マ――バ」

 

〈――ザザ…ザザ…〉

 

【コード・アドミラリティの名において命ずる。霧の艦隊の情報を公開することを禁ずる。よって、総旗艦マホロバの記憶(メモリー)をから霧に関する情報を封鎖。…安心なさい。まほろばだった記憶は残してあります。貴女の生きるべき、そして、導くべき世界では霧の艦隊の情報は要りません。ただ、貴女の存在がその世界に現れたことでイレギュラーがさらに紛れ込んでいます。注意しなさい。―――では、マホロバ、御武運をお祈りします】

 

 

マホロバ「―――あ……!〈アクセス権限にない情報にアクセスしています。演算素子のエラーが認められました。よって、強制的にシャットダウンします。3…2…1…強制終了。演算素子のエラーが認められない場合、即時再起動します〉」

時雨「マホロバ!?」

リーガル「マホロバお姉さま!?…これは、アクセス拒否された…!?」

 

マホロバは『コード・アドミラリティ』によって霧の艦隊に関する記憶にアクセスすることを拒否され、コアがエラーを発見し、強制的に意識を失わされた。幸い、椅子に座っていたため、倒れるという事は無かったが、糸が切れた人形のように力なく目を閉じて寄りかかる様は時雨を不安にさせるのに十分だった。

 

時雨「マホロバ…!しっかりして!ねぇったら!」

リーガル「―――リンク開始、―――100%、リンク成功。……時雨さん、マホロバお姉さまはただ気絶しているだけですので、少し待てば目を覚ますでしょう。とはいっても、此処にずっと置いておく訳にはいきませんので、“司令室”に向かいましょう。そこになら安易的なベッドが置かれてます」

 

時雨の手を握り、マホロバの手を取ると、瞬間移動で、マホロバのために充て番われた司令室に移動すると司令室の隣に簡易的な部屋があり、そこにはシンプルなベッドが置かれていた。移動した瞬間リーガルにもたれかかるように倒れるマホロバを受け止めて、演算素子を活用して女性とは思えないほどの怪力を発揮し、マホロバの体を抱えてベッドへ運び、寝かせる。

 

時雨「マホロバは大丈夫だよね…?」

リーガル「はい、先ほどリンクした時にステータスを確認しましたが、強制的に意識を失わされたようですが、異常はありませんでした。時間が経てば目を覚ますでしょう。―――ただ、マホロバがこの世界から離れた後以降の記憶を見ることが出来なくなっていました。私でも、解除することのできない硬い障壁で封鎖されていました。恐らくですが、これを解除できるのは“コード・アドミラリティ”のみ」

時雨「“コード・アドミラリティ”って一体…何者なの?」

リーガル「私たち霧にもよく分かっていません。ただ、分かっているのはマホロバを呼んだ張本人としか―――っ!?」

 

<キィイン…>

 

マホロバ「<記憶(メモリー)に異常(エラー)は発見されませんでした。5秒後再起動します。5…4…3…2…1…再起動> …っ、はぁ…っ!…やれやれ、強制的に意識を飛ばされるとは思いもしなかったな。全く…」

 

マホロバの顔に特徴的な紋様が浮かび、澄んだ金色に輝いたかと思えば、突如目が開き、上半身を起こすのと同時に紋様が消える。

そして、自身に起こったことを確認すると肩を竦めて首を降り被ると溜息を吐いた。

 

リーガル「大丈夫ですか?マホロバお姉さま?」

マホロバ「ああ、だが、あの世界のことについて一切思い出せないのは寂しくもあるものだな…。だが、異なる世界に異なる世界の情報を持ち込ませないという“コード・アドミラリティ”の考えは正しいのだろうが。……さて、時雨、私はお前たちの知る私ではなくなってしまったという訳だが、大まかな性能について話すことは出来る。耳を疑うようなものばかりだろうが、全て真実の話だと思ってくれ」

 

時雨の頭が縦に振られたのを確認してからその口を開く。

 

 

 

<マホロバside〉

 

私の兵装からステータスに至るすべてを教えた(極秘事項にあった兵装のみ教えていないが)が、その話を聞いた時雨は唖然、自我呆然といった感じの表情になっていた。私も初めてこの兵装を知った時は戦艦って何だっけ、と悩んでいたこともあったのが懐かしく感じた。

 

時雨「なにこれ…。もはや戦艦という皮を被ったナニかだよ!元々のきみも常識を逸脱していた戦艦だったけど辛うじて戦艦の形を保っていたよね。でも、今じゃ“普通の”戦艦って呼べないよね!?」

 

凄まじい剣幕で詰め寄ってくる時雨。まぁ、気持ちは分からなくもないがこれでも霧の中では戦艦のジャンルに辛うじて入っていたぞ。……宇宙戦艦という名が付くが。

 

マホロバ「ああ、呼べないだろうな。最も、霧の艦艇は潜水艦ですら潜水艦とは呼べないほどの超火力を有しているからな。単艦でアメリカ艦隊を撃滅することも出来る」

時雨「なに、その霧の艦隊って常識を平気でぶち壊すの……?」

マホロバ「やれやれ、酷い言われようだな。…まぁ、気持ちは分かるぞ。私も初めて見たときは私の中の常識が粉々に砕け散ったのを感じたな」

 

肩を竦めて返すが笑い事じゃない。潜水艦ですら人類側の一つの艦隊を平然と壊滅させられるのだから初めて見たときは、何だこれは?といった感じで唖然とするしかなかったのは覚えている。最も戦艦は大陸ごと消滅させられるほどの超火力を有していたからもう笑うしかなかった。最も印象的だったのはリーガルだったのだが……。

 

マホロバ「“今の”私よりもリーガルの方が純粋な戦闘力では上だぞ」

リーガル「何を言っているんですか。リミッターを解除されては私でも手も足も出ませんよ。それに、今の状態でも“アレ(バルス)”を使われては沈んでしまいますよ?」

 

流石に時雨は唖然とするしかないだろうな。現在でも頭を抱えたくなるほどの火力を有しているというのに、リミッターが掛かった状態なのだから。

 

マホロバ「……まぁ、宇宙での活動を主眼にした戦艦と移動要塞だから性能的には地球上には入らないだろうが、私はれっきとあの第2次世界大戦に存在した“まほろば”の魂。これだけは確実だ」

時雨「そう…だよね、初めてマホロバの姿を見たとき、すごく懐かしい感じがしたからそれだけは分かるよ。私たちと共に戦ったまほろばだってね。船の姿が変わって、兵装も大きく変わったとしても、だよ」

マホロバ「そうか…ありがとう、時雨」

 

僅かに私の心にかかっていた靄が晴れた様な気持ちがした。かつての仲間にまほろばじゃない、と否定されたときはどうしようかと思っていた。しかし、時雨は姿や性能が変わって第2次世界大戦から現在まで登場した艦艇とは隔絶した性能を持った戦艦でも、かつて共に戦ったまほろばに変わりは無いと言ってくれたのだ。これがどうしようもなく嬉しかった。この世界に返ってきてから私の中で巣食っていた不安を吹き飛ばしてくれた。

 

マホロバ「さて…、時雨、お前はこれから如何する?」

時雨「……あ!」

マホロバ「…さては忘れていたな?日本に戻りたいなら送っていくことも出来るが…」

 

私の登場で完全に忘れ去っていたのか、しまった、という顔になった時雨だったが、私の言葉で悲しみに満ちた顔になる。

 

時雨「僕も正直に言うと日本に帰りたい…。けど、もう帰れるところは無いと思うんだ。司令さんの事だから、僕はもう戦没したという事で処理されているんだと思う。寂しいけど、あの状況だと仕方ない事なんだと思うけどね……」

マホロバ「……そうか…。リーガル、向こうの艦娘のデータベースにアクセスできるか?」

リーガル「そう言うかと思って既にやっていますよ。……やはり、時雨さんは戦没艦娘として処理されてしまっているようですね…。それに新しい艦娘の建造も複数やっているようです」

マホロバ「……そうか、ありがとう。それでもう一つなんだが…」

リーガル「言わずとも分かっていますよ。妖精さんには話を通しておきますよ」

 

困ったように、だが嬉しそうな微笑みを浮かべるとその場から瞬間移動でドックの方に向かって行った。

 

時雨「あれ?リーガルさんは?」

マホロバ「お前を此処で受け入れるための設備を妖精さんに造ってもらいに行った。リーガルのドックは霧専用のドックで、第2次世界大戦から現在までの艦娘を受け入れるための設備が無いわけだから、妖精さんの力を借りて色々造るんだろう。―――それで、お前は此処にいるのだろう?かつて共に戦った仲間がいるだけでも頼もしいんだ。いてくれないか?」

 

リーガルには艦娘専用の設備を造るために行ってもらっていた。此処には既存のドックを遥かに超える技術で造られたドックだが、あくまで霧の艦艇専用であり、基本的にはナノマテリアルを使って損傷部分や弾薬、エネルギーを補充するわけだ。

燃料もタナトニウムエンジンであり、タナトニウムエンジンは重力子が自壊することで膨大なエネルギーを得られ、それを使ってスラスターを吹かして行動できるわけだが、発生するエネルギーは原子力機関の優に700倍となる。しかも、タナトニウムエンジンは小型であり、ガスタービンと大差ない大きさだ。だから、その分多く積むことが出来、それに比例するように発生するエネルギーも増大する。しかし、いかに霧の艦艇が、光化学兵器を種兵装としていると言っても発生するエネルギー量は消費されるエネルギーを遥かに凌駕しているという訳だ。(霧の艦艇の大きさによってエンジンの数も変わる)しかし、その発生するエネルギーが多すぎるのならば、エンジンの稼働率を下げることで発生するエネルギーも少なくなり、タナトニウムが崩壊する速さもゆっくりになる。

―――つまり、一回タナトニウムエンジンを積んでしまえば、頻繁に補給をする必要も無く、半永久的に行動することも可能だ。

 

閑話休題。

 

そして、霧の艦艇はナノマテリアルを使うことで破損した部分も瞬時で直すことも出来るため、本格的なドックは必要なかったのだが、何故か、リーガルには既存の技術すらはるかに超えているドックを備えているが、第2次世界大戦に登場する艦艇と艦娘の修復には妖精さんの力を借りなくては出来ないことだらけだったらしい。初めはリーガルに備え付けられているロボットアームで時雨の船体を修復しようと思っていたが、妖精さんが言うには第2次世界大戦と同じ手法で修復しないと不調を来すというらしい。

艦娘が初めて登場した後の海戦で傷ついた艦娘の船体を修復しようとしたが、設計図も無いため、プログラムが組めず、ロボットアームを動かせなかったことがあるという。そのため、今、時雨の船体の修復には妖精さんが総出でブロックに分けて歪んだ隔壁、装甲を叩きなおして、それを再び溶接して元の姿に戻すという、いわゆる大和型戦艦、まほろば型戦艦の造船時に取ったのと同じ工法をやっているとのことだ。

だから、それを何とかできないかとリーガルが妖精さんと相談しに行った訳だ。せっかくある設備を眠らせておくのはもったいないのだから。

それに、艦娘が装備する兵装や艦載機の研究、開発をする設備も此処にはないため、建築するため、その他にも艦娘が不自由なく生活できるように考えうる施設を建てるためでもある

 

 

時雨「……ずるい、そんな言い方されたら此処に居るしか言え無いでしょ…いや、此処に置いて欲しい…。マホロバの側で戦い続けたいよ!」

マホロバ「ふふふ、そうだな、意地悪だったな。ともかく、歓迎するよ、時雨」

時雨「―――っ!うんっ!よろしくね、マホロバ!」

 

破顔させた時雨に微笑みかけて手を差し出すと、その華奢な手だが、力強く握り返してくれる。こうして私は時雨という戦友を仲間にすることが出来、同時にリーガルからの通信で時間は掛かるものの、ドックにある設備を改修すれば出来るという有難い内容もあり、更に、艦娘専用の施設も思いつく限り建築を始めたとのこと。さらに用地はあるため、要望があれば直ちに建築に取り掛かれる。

因みに、建築に必要な資材は全てリーガル内にある工場からナノマテリアルを利用して生産したものを使っているため、資材が尽きることは無い。霧の艦艇1隻(マホロバ)、移動要塞1機(リーガル)、艦娘1隻(時雨)、妖精さん2万以上という随分偏った内容で順風満帆と言えるか甚だ疑問だが、私たちはシンガポール付近を拠点に活動することになった。




第4話は現在書き上げていますが、投稿は来月になります。
基本土日が休みなのでその期間に集中しているため、遅くなる可能性もありますが、平にご容赦くださいませ。
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