でも、このペースを維持できるとは思えないので、2週間に1回に訂正します。
宜しくお願いしますね。
今は7月。マホロバが帰還してから既に1か月近くが過ぎた。
夏に入り、じわじわと地面を焼く日照りが強くなり、大日本帝国海軍に所属している証である純白の軍服をじっとりと汗が湿らすこの頃。
呉鎮守府の近海に総勢32隻の大艦隊が輪陣形にて展開していた。東山が座乗する証である、元帥旗がマストに翻る、旗艦に大和を据え、戦艦武蔵、金剛、比叡、日向、伊勢と続き、空母赤城、蒼龍、飛龍、大鳳、信濃。重巡に愛宕、高雄、利根、筑摩。軽巡矢矧、龍田、球磨、北上。駆逐艦に暁、響、雷、電、陽炎、不知火、初風、雪風、天津風、時津風、浜風、吹雪、島風。
錚々たる顔ぶれである、この艦隊は呉鎮守府第1艦隊であり、東山元帥が直接率いる日本最強の艦隊だ。
そんな艦隊が何故こんなところに展開しているかというと―――
大和「司令、前方50kmに米艦隊と堺鎮守府の艦隊を捉えました」
東山「うむ。予定通り、か。総員に告ぐ。今回の米艦隊の受け入れは本国とアメリカとの共同作戦の第一歩だ。予定では、1か月程の連携訓練を経て、小笠原諸島の奪還後に小笠原とミッドウェーを落とす。アメリカからも艦隊が派遣され、ハワイに向かう。もし、これが成れば、太平洋の大半を奪還出来たのと同義。厳しい戦いが待っているだろうが、貴官らの実力なら乗り越えられると信じている。総員奮起せよ!」
そう、アメリカ艦隊が遂に日本へやって来たのだ。これは史上初になるアメリカとの協調作戦。作戦の概要は日本に回されたアメリカ第8艦隊と日本の呉鎮守府第1艦隊は小笠原諸島を目指し、その周辺の奪還のちにミッドウェーを目指し、横須賀鎮守府の第1艦隊と第2艦隊はグアムを目指し、佐世保鎮守府の第1艦隊と舞鶴鎮守府の第1艦隊はレイテを目指す。だが、この艦隊はハワイを拠点にする深海棲艦の目を引く、いわば囮の様な役目だ。本命はアメリカから出撃するアイオワ級を全て揃えた大艦隊がまっすぐにハワイを目指し、南方棲姫を撃破し、奪還するという手はずになっている。
この作戦は『one step of a big counterattack(大反攻の一歩)』と名付けられた。
更に言えば、アメリカのボストンにはモンタナ級3隻が集結し、総勢58隻の大艦隊が集まり、イギリスのポーツマスにはプリンス・オブ・ウェールズを旗艦に、最低限の戦力を残して総戦力と言える68隻の艦隊が集まりつつあった。そして、ドイツも既にポルトガルのリスボンにH級を2隻揃えた39隻の艦隊とフランスの23隻の艦隊が集結し、連携訓練を行っていた。
此処に人類が初めて行う深海棲艦に対する大反攻作戦のための主力が集結しつつあったのだ。
そして、その動きに気付いていない深海棲艦ではない。各国の主力たる艦艇が数か所に集結しつつあるのを潜水艦による諜報で掴んでおり、それぞれの姫級が拠点にする各地に膨大な数の深海棲艦が集まりつつあった。今、正に地球は人類と、深海棲艦の激突の前触れの静けさが支配しており、前線の小競り合いも沈静化していたが、戦場の空気を感じている司令官は嵐の前触れのようで不気味だと怪しげな雲行きに鋭い視線を投げかけていた。
東山「米艦隊と合流した後に、呉鎮守府で建造されたミズーリはアメリカとの合意のもと、呉鎮守府第1艦隊に編入されることが正式に決定された。よって今夜はミズーリたちの歓迎会を開く。楽しみにしておけ!」
途端に控えめながらも湧き上がる歓喜の声。後ろに控えている大和も小さくガッツして喜びを表していた。
彼女らも心のある者たちだ。膠着状態が長く続けば、沈鬱になってくるものだ。だからこそ、この歓迎会には、鬱憤を晴らすという意味合いも含められているのだが、効果は覿面だったようで、大人しい性格の艦娘までそれぞれ思いの形で喜びを示している。
それから少しして、水平線上に戦艦ミズーリの勇姿が乗り出してくる。
何処か米国の雰囲気が感じられる船体に、大和の46㎝砲を改修して、性能を大幅に引き上げたのが分かる主砲が3基。157㎜速射砲50基、30㎜CIWS70基。対空ミサイル70基280セル、ASROC対潜ミサイルVLS24基192セル、36連装多目的ミサイルVLS2基16セル。
近代化を通り越して、現代化と言える程の大改装を受け、現代兵器が多く積まれていた。大和型戦艦で組んだ編成で挑んでも到底勝ち目の無い強力な戦艦だった。
しかし、彼女の話を鵜呑みにするのならば、彼女はそんな強大な兵装をもってして尚、霧の艦隊に敗れ、沈没しているという。
無論、相手にも損害を与えたらしいが、こちらから見れば、その兵装をもってしても、大戦艦級2隻、重巡級3隻、軽巡級5隻しか沈められなかった霧の艦隊が恐ろしく感じる。
もしも、このミズーリと我々が敵対していたとなれば、良くて7割の艦船の沈没、悪くて、全滅すらあり得ると大本営の会議の結果、そう出たのだ。
彼女の話によると、“霧の艦隊は全てが第二次世界大戦時のあらゆる艦艇を模倣したものである”という。だからこそ、彼女を敵に回して、7割の損失すら出さずにいた霧の艦隊が余計に恐ろしく感じてしまう。
大和「司令、ミズーリから通信が入ってます。つなぎますか?」
東山「ん、ああ、繋いでくれ」
思考の海に沈んでいた東山の意識を引き戻したのは大和の声だった。
ミズーリ『こちら、ミズーリです。東山司令、聞こえますか?』
東山「ああ、よく聞こえてるよ。お帰り。無事でなによりだ」
モニターには白い着物を着た少女から女性になりかけの可愛らしい少女が満面の笑顔を浮かべていた。彼女は、この呉鎮守府で建造されて、東山と対面した時、いきなりお爺ちゃんと呼んでしまったことがあったが、東山も、笑いながらも受け入れたため、ここに、祖父と孫娘の様な関係が出来あがったのだ。そして、それを機に周りにいた艦娘も、休みの時だけ東山をお爺ちゃんと呼ぶようになった。
ミズーリ『はいっ!戦艦ミズーリ、サウスダコタ、ニューメキシコ以下19隻只今呉鎮守府に着任いたします!』
東山「うむ、しばらくの間、よろしく頼むよ。ミズーリは今日より呉鎮守府所属になるが、サウスダコタ、ニューメキシコたちは同盟国の船だ。出来る限りの歓迎をしよう」
サウスダコタ『ええ、よろしくお願いするわ、アドミラル東山。現在まで沈没艦を出さなかったその指揮、期待しているわ』
ニューメキシコ『日本の司令官たちは皆優れた者が多いと聞き及んでいマス。思う存分指揮して下さって構いまセン。…大和サンと武蔵サンと共に戦える夢が遂に叶うと思うと、気分が高揚致しマス』
新たに開かれたモニターには、金髪碧眼の美女が二人映っていた。
一人はサウスダコタ。垂れ目と、ウェーブがかかった髪が背中の中程まであるのが特徴だ。サウスダコタ級戦艦1番艦として建造された。ミッドウェー奪還作戦の為に派遣された米艦隊旗艦である。
二人目はニューメキシコ。ニューメキシコ級戦艦1番艦として建造された戦艦で、サウスダコタの僚艦として派遣された。肩口で髪を切りそろえ、軍帽を被った、発言に訛があるものの、生真面目な性格の女性。
二人とも日本に魅了された船であり、共に戦えることを楽しみにしていた節がある。今回の派遣では、他にも希望者が多数あったため、大騒動に発展したが、無事、勝利を収め、派遣されている。
サウスダコタ『そうね、…あら?マホロバもいるかと思ったのだけれど?』
大和「こちらこそ、楽しみにしていました。よろしくお願いしますね。ええと…マホロバは…」
東山「ふむ……マホロバは、出現した場所が問題で、こちらとしても頭を悩ませているところだ」
サウスダコタ『あら?何処に現れたのかしら?』
東山「シンガポールだ」
ミズーリ『―――ッ!?』
呉鎮守府の艦隊の中にマホロバの姿が無いことで疑問に思ったが、東山が苦虫を噛み潰したかのように苦しげな表情を浮かべ、マホロバの現在地がシンガポールだと伝えられ、驚愕するミズーリ。サウスダコタ、ニューメキシコも声に出さないが、目を見開いて驚いていた。
シンガポール付近の海域は“あの”日本艦隊が攻略に数年もかけて尚、奪還出来ずにいる魔の海域。
日本艦隊は現在で、世界最強の艦隊と呼ばれている。アメリカにはアイオワ級戦艦だけではなく、モンタナ級戦艦もが勢ぞろいしているにもかかわらずに、だ。何故か?
それには理由があった。アメリカは戦力を広域に分散せねばならず、保有する膨大な艦船をもってしても、戦線を保つのが精一杯だった。それに、司令官たちの作戦の方針が合わず、派閥が出来上がり、大西洋方面と、太平洋、どちらに重きをおくかで揉めていたため、足並みが揃わず、協調性に欠くという欠点があった。
それに対し、日本の司令官は自分の為すべきことを確と心得ており、役割を分担していた。室蘭鎮守府、大湊鎮守府は東日本全体からオホーツク海方面を、横須賀鎮守府は小笠原方面、堺鎮守府、呉鎮守府、佐世保鎮守府は沖縄以下南部方面、舞鶴鎮守府は日本海、というふうに役割を分担している。そして、呉鎮守府にはマホロバが不在の間、世界最強の戦艦だった大和、武蔵が所属しており、それだけでは無く、一航戦、ニ航戦、五航戦といった世界有数の空母群を持ち、第二次世界大戦を踏まえた戦訓、ほぼすべての艦艇が揃い、連携も恙無く成し遂げるだけの実力があった。さらに、戦時とは違い、大陸から資材の供給もあり、不自由なく開発、研究にも取り組め、優秀な兵器を少なからず作り出していた。
実際に、日本艦隊は一度、スエズ運河まで奪還を成し遂げ、地中海までの道を切り開き、ハワイ奪還目前にまで深海棲艦を追い込んだのだ。その破竹の勢いは世界各国で、日本艦隊が世界最強と謳われる要因となっている。だが、深海棲艦も新たな艦種を投下し、反撃を始め沖縄まで押し上げているのだが。
それなのに、何故、現在沖縄よりも先に進めないのか?
―――簡単なこと。深海棲艦の数が膨大で、一つの艦隊を撃破しても、次々と新たな艦隊が現れ、弾薬や、燃料も足りなくなり、撤退するしかなくなる。さらに、艦娘も只の兵器ではなく、心ある兵器なのだ。艦船を意のままに操れ、身体も並の人と比べるまでもなく、艦娘のほうが優位に立つという点を除けば、人間と何ら変わりないのだ。
連戦に次ぐ連戦で、身体、精神ともに磨耗していき、疲労も溜まる。いつまでも戦えるわけでは無いのだ。
そのため、沖縄では一進一退の膠着状態に陥ってしまっている。一度、膠着状態になれば、戦況を覆すのは容易くないため、睨みあったまま、動こうにも動けず、数年が経っている。
ちなみに新たなに投下された艦種は戦艦レ級。日本でいえば、紀伊型。アメリカでいえば、モンタナ級、ドイツならば、ビスマルクを超える戦艦、H級戦艦に相当する。そんな艦隊が怒涛の如く押し寄せては、どうしようもないだろう。
閑話休題。
マホロバがシンガポールにいると聞き、驚いたものの、かつて、敵対した国、激闘を演じた戦艦であるマホロバがそう簡単に沈むような戦艦じゃないと分かっていた。
サウスダコタ『ふぅーん…シンガポールね…。まっ、マホロバなら問題ないでしょ?だからこそ、アドミラル東山も、即座に動かなかった訳なのでしょうし。それだけじゃないにしても、沈まないって確信があるんでしょう?』
東山『ははは、そこまでお見通しという訳か。隠し立ては無用だな。うむ、呉鎮守府の桟橋に係留が済んだら、先ずは歓迎会を開こう。終わったあとに余裕があれば、マホロバの情報を見せよう。きっと驚くことだろう』
屈託のない笑いで、サウスダコタの疑問を確信へと変える。その後に放たれた言葉は重大なことであり、だからこそ、大和が待ったをかけた。
大和『司令…、それは流石に機密情報漏洩になるのでは…?』
東山『なーに、いま黙っていても、いつか分かることだ。それに、アメリカと綿密な連携が今度行われる作戦には必要なことだ。秘密を作っておくものじゃないよ』
言われてみれば確かにそうだ。反攻作戦が終われば、呉鎮守府はマホロバと接触の為に動く。そして、マホロバの様子は監視衛星で、アメリカにも伝わっているのだ。事が解決すれば、世界中が知る事になるのだろう。だから、ここで、変な蟠りを残して、作戦に影響を及ぼすのなら、いっそのこと暴露しちゃえ、という考えなのだろう。
武蔵『それには賛成だと思う。だが、マホロバの詳細をアメリカ側に伝えるのは後にしてくれないか?』
ニューメキシコ『それは構いまセン。ですが、アドミラル東山がそこまで慎重になる程の事だと心得ればいいのデスカ?』
東山『うむ。下手すれば、マホロバの存在を賭けて新たな世界大戦が始まる可能性もある』
息を飲むミズーリ、サウスダコタに、ニューメキシコ。新たな世界大戦が始まるかもしれないと伝えられても驚かない者がいるだろうか。そして、悟ったのだ。マホロバの件の重大さを。
サウスダコタ『……理解したわ。私たちも慎重にならざるを得ないわね。…ともかく、これからよろしく、アドミラル東山、大和、武蔵。日本の皆もよろしくね』
2015年6月21日。呉鎮守府に戦艦ミズーリ着任。正式に呉鎮守府所属と決定。
同時に戦艦サウスダコタ、ニューメキシコに率いられるアメリカ艦隊も呉鎮守府に着任。
その日の夜、呉鎮守府の食堂では盛大な歓迎会が開かれた。哨戒艦隊も、短めの時間で交代し、全員が参加できるように図られたこの会には豪華なことに、呉鎮守府に所属する全ての艦娘が揃っていた。
特にサウスダコタと、ニューメキシコはある一角に視線をくぎ付けになっていた。その一角は呉鎮守府最高戦力の大和、武蔵に、今日正式に所属となったミズーリ。さらに、長門、陸奥、金剛、比叡、榛名、霧島、日向、伊勢、扶桑、山城といった錚々たる顔ぶれが揃っており、その近くには、赤城、加賀、蒼龍、飛龍、翔鶴、瑞鶴に大鳳、信濃といった日本が世界に誇る空母群が楽しそうに談話していた。
戦艦組を挟んだ反対側には第二次世界大戦時でも世界最強と謳われ、畏怖された、餓狼とも言われた水雷戦隊、―――つまり、重巡、軽巡組が楽しそうにアメリカ艦隊の重巡たちを引き連れて、談話に華を咲かせていた。
そして、それらの周りを小学生か、中学生くらいの少女―――駆逐艦の艦娘が料理を、目を輝かせながらも、この場に不慣れな様子のアメリカ側の駆逐艦の手を引いて食べ歩いていた。
東山「おお、サウスダコタにニューメキシコ。楽しんでいるか……って、緊張しているようだな」
サウスダコタ「あ……、アドミラル東山。いえ、まさか、私たちの為に呉鎮守府の最高戦力が勢ぞろいするとは思わなかったわね……」
東山「はは、まあ、もっとも彼女らも、膠着した戦線で溜まったストレスを発散する良い機会だと、思う存分楽しんでいるようで、何よりだ。お二人さんも、みんなと話し合ってみたらどうだい?」
ニューメキシコ「あ、アノ、いや、実際に大和サンと武蔵サン、長門サン、陸奥サンを目の前にスルト、緊張で……」
長門と陸奥はビッグセブンと呼ばれ、1936年まで当時世界に7隻しか存在しなかったとされる41cm砲を備えた戦艦の一つに数えられる栄光を浴びており、大和と武蔵は世界初の46cm砲を備え、マホロバ完成まで世界最強の戦艦と謳われた。ニューメキシコの目の前にいる4人はその栄光に違わぬ存在感を湛えており、気圧されているのだ。
東山「はははっ、四人とも気さくで気周りが利くから、一回思い切って話してみたらどうだ?きっと話がはずむだろう」
サウスダコタ「そうね…、そうさせてもらうわね。……あ、そうだわ、いつ司令官室に窺えばいいのかしら?」
東山「おっと、ふむ…そうだな、今は0730か。では0850に来てくれ。その時は大和と武蔵、長門、陸奥たちも来る手はずになっているから声を掛ければ連れてくれると思う」
サウスダコタ「了解したわ、じゃあ、また後でね。ほら、行くわよ、ニューメキシコ!ぼさぼさしていないで!また“ニューキシ”と呼ばれたいの!?」
ニューメキシコ「そ、その名で呼ばないでって言ったじゃないデスカ!!それを言うのなら、貴女も“ダンゴ”って呼びマスよ!」
サウスダコタ「ちょっ!?何よ!?そのあだ名!」
喧々囂々。激しく言い争いながらも二人の顔には笑みが浮かんでおり、軽口を言い合う仲だと一目で分かる。二人の言い争いに気付いた艦娘も遠巻きにながらも微笑を浮かべており、当初の硬さなど感じられない、確りした絆が感じられた。此れが、かつて、砲撃をかわし、血で血を洗う過酷な戦いを繰り広げた両国の艦なのかと疑いたくなるほど笑い声に包まれ、平和なひと時を過ごしていた。
そして、0850。指定した時間になったら、司令官室の扉が軽めにノックされ、秘書艦の大和を筆頭に、戦艦組み、正規空母組み、重巡組が入ってくる。もちろん、アメリカ組みも遅れずに来ていた。
呉鎮守府の大半の人数が入ってきたため、元々は貴賓室として使われていた広い司令官室も少将狭く感じるほどにまで集まっていた。因みに駆逐艦の娘は現在お風呂の時間であり、この場には来ていない。
大和「司令、皆を連れてきました」
東山「ご苦労さま。そこらにある席に腰かけて休んでくれ。……よし、今回皆に集まってもらったのは先月、大和と、武蔵、信濃が感じ取ったマホロバの帰還についてだ」
騒ぎ疲れて少々眠たそうにしていた面子だったが、“マホロバ”という言葉を聞いて一気に目が覚めたかのように真剣な顔つきになり、一句一言も聞き逃すまいと東山を注視していた。
東山「現在確認されているマホロバの現在位置はシンガポールから東南に100km離れた海域を中心に行動しているらしい」
長門「む?“らしい”とはどういうことだ?マホロバの拠点となる島は見つからなかったのか?」
大和「ええ、何故か、マホロバが帰投していると思わしき写真は拠点があると思われる海域に差し掛かるとジャミングされたかのようにノイズが入って映像が撮れなくなってしまうのです。超高度無人機を飛ばして映像を撮ろうとすると、快晴にも関わらず、“濃霧”が辺り一帯の海域を覆い隠し、マホロバと思われる船体がその霧の中へ消えていく映像しか残されていませんでした」
ミズーリ(濃霧……?ジャミング……?私の記憶の中で霧の艦隊の中にマホロバって名前の戦艦は無かった筈……、でも…?)
東山「それで、だ。呉鎮守府では大和以外は知らないマホロバだと判断できる写真がある。ひとまずはこれを見てほしい」
司令官室にあるモニターに映し出されたのは先日の大本営でも映った監視衛星で撮ったマホロバの真上からの写真である。大本営で映し出されたよりも画像処理がされており、詳しい砲火器の位置、種類までも確認できるようになるまで高画質の写真だった。さらに、つい最近無人機で撮られた映像も映し出される。
マホロバの写真が映し出され、集まっていた艦娘たちから驚きの声が上がりだす。
長門「ほう…、これが現在のマホロバか……。確かにマホロバの面影があるな。最も、主砲塔が9基もある時点で可笑しいとしか思えないが……」
武蔵「あ、ああ…。船体の規模も後ろにいる白露型駆逐艦と比べてみても明らかに大きくなっているな……」
高雄「な、何ですか…、あの対空砲火器群は……」
やはりと言うべきか、真っ先に目が付くのは船体の規模、9基ある主砲塔だが、高雄が目に付けたのはその巨大な船体規模以上に過剰な対空砲火器群だった。
東山「ああ、妖精さんに依頼して分かる限り正確な情報を求めた結果、目を疑うべき火力を有していることも分かった。…ああ、これは白露型駆逐艦との比較のため、これで合っているとは限らないという事は心得てくれ。……それがこれだ」
マホロバの写真の上にスペック表が載せられる。そして、そのスペック表をみた者は大和も含めて呆然、絶句、唖然といった言葉が合う表情になっていた。
ミズーリ「ええと…、司令、これは……現実なのですよね……?」
東山「……残念ながら…現実だ」
ひとまず我に返ったミズーリがわずかな望みを賭け、フィクションか如何かを尋ねるが、返ってきたのは非情にも現実だと叩き付けられた。
写真の上に現れたスペック表には―――
全長758m 全幅63m。
想定排水量300.000t。
映像の艦首がかき分ける波の大きさから70ノット以上の可能性高。
56cm 75口径3連装9基27門
38cm 75口径2連装10基20門
12.7cm60口径4連装高角砲34基136門
50mm6連砲身回転式機関砲(ガトリング)24基
40mm 3連装機関銃400基
400mm2連装75口径AGS?4基
ミサイルVLS 100基400セル以上
正に空前絶後と言うべき、巨大な規模を誇る戦艦だった。全長758m、全幅63mの大きさは大和型の2倍以上の大きさであり、まさしく、要塞か何かだとしか思えなかった。
現存する艦娘から見ると圧倒的な火力を有しているミズーリがまるで駆逐艦程度の大きさにしか思えてならなかった。ミズーリも270mを誇る戦艦だったが、如何せん758mという大きさからみると半分にも満たない大きさなのだ。それも致し方ないだろうが、何より、目を疑ったのは速力が70ノット以上の可能性が高い、という事だ。どうやって速度を見分けたのかというと、こちらで建造されたミズーリが全力運転を行い59ノットで起きた、艦首が波をかき分け、かき分けられた波が跳ね上がる高さを見比べてみたという。言われてみれば、確かに、ミズーリが全力運転をしてかき分けられた波の高さと比べれば明らかに高さや、水量の規模が違う。ミズーリは艦首の甲板ほどにまで波が上がったが、映像では第1主砲塔の中ほどの高さにまで波が上がっていたのだ。これらから考えてみても常識内にはない速度を出しているという事が分かる。
普通に考えてみてもあり得ない速度だ。百歩譲ってミズーリの59ノットを常識と考えてみても圧倒的な速さだ。だが、この場に来ていた妖精さんの話によると、“恐らく、全力ではない”という言葉が一層の衝撃を与えた。
この場にいた艦娘全員がこの規格外の性能に言葉を失くしていたが、特に驚いたのがミズーリだった。
ミズーリ(この船体に浮かぶ紋様―――、間違いなく霧…!! 何故ここにも霧の艦隊が―――?)
ミズーリが注視していたのは無人機が撮ってきた映像の中で圧倒的な速度で疾走するマホロバの漆黒の船体に浮かぶ黄金色の紋様。かつての世界でも見てきた霧の艦隊に共通する点、それが形状や色は違えども、必ず各艦に一つ持っている紋様がそうだ。
ミズーリ「司令、悪い知らせです……、恐らく、そのマホロバと思われる船体は明らかに霧の艦艇です」
東山「何?どういうことだ?何を見て判断できた?」
ミズーリ「こちらの無人機の映像に移っている船体に浮かぶ金色に光り輝く紋様、それは霧の艦隊に共通する点です。霧の艦隊に所属する艦艇は形状や色は違えども、必ず、その艦固有の紋様を持っています」
“霧の艦隊”。その言葉だけで司令官室に集まった艦娘の顔から血の気が下りる。
それはミズーリが生まれ、生涯を閉じた世界に出現し、人類の最大の敵となった。人類の持つ科学力を遥かに凌駕する超科学力をもって人類の艦隊を圧倒した艦艇群の事を指す言葉だ。実際、目の前にいるミズーリも奮戦したが、最後は沈められた相手だ。最悪の事態という考えが浮かんでしまっても仕方がないだろう。
東山はその悪い予感が当たったことで頭を痛めていたが、それを表に出すようなことはせずにじっと我慢していた。
武蔵「……ミズーリよ、お前の知る霧の艦隊の中にマホロバと同じ紋様をもつ艦は居たか?またはマホロバと呼ばれる艦艇は居たか?」
ミズーリ「……いえ、私の知る限りマホロバと呼ばれる個体は存在しません」
武蔵「……ふむ、ならば、ミズーリの知る霧の艦隊とは違う世界から来たのかもしれんな。ならば、希望はあるだろう」
この武蔵の予想は正しく、正解そのものだった。マホロバも記憶を封じられて思い出せていないことなのだが、マホロバの居る世界の霧の艦隊は史実と比べ、封鎖網も甘く、通信衛星も撃墜されずに放置されており、人類も封鎖網を潜り抜けて物資のやり取りも出来ていた。そのため、史実と比べると、人類にも余裕が出来ており、霧の艦隊と交渉することも可能というほど深刻な関係じゃなかったのだ。小競り合いが起きる程度の事で、完全にお互いのどちらが“降伏するか”“滅亡するか”といったところまではいっていなかった。
大鳳「確かにそうですね……、ミズーリさんの話によると、霧の艦隊は圧倒的な索敵網を有していると聞きます。それこそ、人工衛星まで捕捉できるほどの。このマホロバさんが霧の艦艇だとするのならば、とっくに監視衛星や、無人機の存在は知られていると思って構わないと思われます。ですが、撃墜せずにあえて放置しているというのなら、決定的な決裂を向こうも望んでいる訳ではないと思います」
ミズーリ「……確かにそうですね……、ですが、強力なジャミングがかけられているという事はどう説明するのですか?」
東山「これは、私の勘になるが……、霧の中には“私たちに知られたくない”ことではなく、“私たちにとって知ってはいけない”ものがあるのだろう。恐らく世界そのものがひっくり返るほどの重大なものがあると思う。それこそ、マホロバの世界にあった“霧の拠点”だったりして、な。……はは、面白い事じゃないか」
大和「笑えないこと、さらっと言わないでください!」
大和の言う通り、笑い事じゃないだろう。あの霧の拠点なのだ。並大抵の軍港だと思わない方がいいだろう。下手すれば、一つの島程の規模を誇る要塞という可能性すらある。人類には実現不可能な科学力を持つ霧なら何でもできてしまうのだろうという確信にも似た何かが此処に居る者たち、全員に共通することだろう。
現に東山も遠い目をして乾いた笑いを零していたから理解しているのだろう。
サウスダコタ「なるほどね…、それなら、アドミラル東山がそこまで慎重になるのも理解出来るわね。確かに新たな大戦の火種となりかねない物事だわ。マホロバという超戦力が日本のものとなるのを世界は指をくわえて見逃すようなことはしないでしょうね。特に私たちの司令官達は、何が何でも我が物にしたがるでしょうね」
高雄「え?じゃあ、なんでミズーリさんは日本に譲り渡すことにしたんでしょうか?戦力が欲しいアメリカからすれば、ミズーリさんは喉から手が出るほどに欲しい存在じゃないですか?」
ミズーリ「あー…、それがですね、私を巡って軍内の派閥で争いが起きてしまいまして、それを憂い得たアメリカ大統領が日本に委託することを強行したんです」
妙高「そ、そうなんですね……、あ、でも、それだと、マホロバさんの事も何とかなるのではないですか?ほら、ミズーリさんでもこうなったのですから、マホロバさんの方が大変な騒ぎになるのではないですか?だから、いつの間にか有耶無耶になっていたりして……」
つまり、ミズーリの時と同じように軍閥内で争いが起きて同じような流れになって日本に所属になるのでは?と言いたいのだ。だが、その見通しは甘いだろう。
加賀「それは私も同じことを考えたわ。でも、あのアメリカが日本の戦力が突出するのを黙ってみていると思うかしら?最悪、ミズーリさんとマホロバさん両方とも寄越せとも言いかねないわよ?」
サウスダコタ「酷い言い様ね…。……でも、私も同意するわね。現在も日本が世界最強と謳われるようになってから上層部でも大和型戦艦の設計図を寄越せという発言が出たとも聞くわ。もちろん、そんなことを言い出した人は左遷されたみたいだけどね」
そこまで酷いことになっているとは思わなかったのは加賀も含めて全員がそうだった。
アメリカという国はある一種の被害妄想を患っていると言ってもいいのかもしれない。かつて、第2次世界大戦時、伊400、401の両潜水艦に搭載されている特殊爆撃機による本土空襲、ハワイの真珠湾奇襲以外に空襲を許したことのないアメリカにとって、今回の深海棲艦戦役に度々起こる空襲は見過ごせないものだった。戦力の増強に血眼になって戦時の資料をひっくり返してあるだけの設計図を探り出し、国内にある造船所を全て稼働し圧倒的な物量を持って深海棲艦を制圧しようと思っていたが、一進一退の戦況が長く続いたこともあり、『量だけじゃだめなら、質と量、二つを揃えばいい』と言い出し、設計図のみの状態だったモンタナ級戦艦の造船もなりふり構わずに強行したらしい。そして、その考えの中でに大和型の設計図のみならず、、まほろば型の設計図も渡せと言ったとのこと。
しかし、その強行しても結果、日本の腰元に及ぼうとしていただけに留まり、策も尽き果てようとしていたその時、日本で異世界からのミズーリが建造されたのだ。これ幸いと艦隊に組み込もうとしたが、ミズーリ本人の拒否もあり、太平洋側に重きを置こうとする意見の司令官側と、大西洋に重きを置く考えの司令官側との醜い争いが起きてしまった。
だが、同じ軍内で争いが起きるような事態を重く見た現在の大統領がミズーリに日本所属になってくれないかと願い出て、それをミズーリが了承。
しかし、このままでは“元”世界の警察官と名乗っていたアメリカの面子が立たないため、恩を着せるという形でミズーリを日本所属にするという形で決着したのだ。
その一方、リーガルの中で、マホロバもアメリカのこの考え方には呆れを通り越して失望すらしていた。この状況で仲間の争いや、面子といった下らないプライドでお互いの脚を引っ張り合う愚かなアメリカ政府に対しての失望だった。
勿論、再び司令官室のコンピューター、監視カメラなどありとあらゆる端末を痕跡すら残さずにハッキングして傍聴していたのだ。
時雨「前も思ったんだけど、その行為ってどうかと思うんだけどさ……。それに、司令官室のコンピューターにしてもそうだけど、端末ですらセキュリティ高いんだけど、それを簡単にハッキング出来るのって可笑しくないかな?」
呆れと疲労感を併せ持ったような表情でつぶやく時雨だったが、やはり、返答は時雨に更なる疲労を負わせることになっていた。目を閉じたいつもの表情から口角を少し上げてニヤリと悪い笑みを浮かべたマホロバの様子から嫌な予感がしたが、発言を止められなかった。
マホロバ「ふ、良く言うだろう?ばれなきゃ問題ない、と。それに、霧にとってこの程度のセキュリティなど、ティッシュペーパーを破るよりも容易く出来るレベルだからな。セキュリティなんぞあって無いようなものだ」
やはり、規格外というべきか、常識外というべきか。今日もマホロバは時雨の常識を粉々に打ち砕いたのだ。がっくりと肩を落とした時雨の背中には哀愁が漂っていた。
そして、そのやり取りを少し離れたところのソファに腰かけて苦笑を浮かべて見守っていたのはリーガルだけではなく、見慣れない顔があった。
彼女らは新たにリーガルで建造された艦娘だ。
今回建造されたのは軽巡1隻と駆逐艦1隻。
今回建造されたのは―――
矢矧「あはは……、前よりも荒唐無稽さが増していますね……」
響「ハラショー、マホロバらしいね」
矢矧と響だった。
矢矧とは終戦間際の沖縄特攻まで生き延びており、マホロバと大和の出撃に度々随艦として共に戦った絆がある。
響は終戦まで生き延びた駆逐艦であり、マホロバがこの世界を去る時に見送った者の一員であり、マホロバとは度々酒を飲み交わす仲でもあった。
そして、二人とも、建造されている間に、妖精さんから眠っている意識の中に情報をインストロールされるため、マホロバの霧の艦艇の性能、この世界とは隔絶した性能について、知っていたのだ。最も、開いた口が塞がらないというか、唖然とするしかなかったのだが。
マホロバ「二人とも久しいな。私の事と、今の状況は既に妖精さんから話を聞いているだろうが、それでもあえて聞こう。日本に帰る―――」
響「此処に残るよ。漸く帰ってきたマホロバと共に戦えるのならば、日本に帰る理由などどこにもないよ」
矢矧「私も同意見です。あの時、最後まで守れなかった分、此れから守らせてください!」
マホロバ「―――そうか、……頼もしいな」
微笑を浮かべて再会を喜ぶ3人だったが、現状を鑑みて日本に戻りたいというのならば、送り届けることも出来ると伝えた。しかし、戻ってきた答えは否定。二人とも、此処に残ると言ってくれたのだ。
これ以上に嬉しいことなど無いだろう。目を閉じたままだったが、軽く微笑み返す。
だが、足元に居た妖精さんが差し出したファイルには待ったを掛けたかった。
何故か?
それは―――
マホロバ「……何故ガスタービンⅢの開発基礎が出来ているんだ?……いや、元々イージス艦や護衛艦といった現代艦に搭載されていたものだと分かるが、それにしても、性能が格段に違うだろう」
時雨「えっと……ガスタービンの開発が出来るようになったの……?」
それに答えたのは何処か呆れたかのような雰囲気を持ち合わせたリーガルが時雨に答えた。
リーガル「ええ……、それも、従来のものよりも1600馬力もアップしたものです。速度に変換すれば、時雨、貴女ならば、4基載せただけで40ノットを超えることも可能になります」
時雨「よ、40ノット……」
マホロバ「しかも、煙突を必要としないから煙突を取り除くことで出来る余裕に新たな兵装を積むことも出来るそうだ」
やはり、リーガルに乗っている妖精さんは何処か可笑しいのだろうか?
元々、イージス艦などの現代艦に載せられていた機関を艦娘の船体に乗せ換えて性能を上げようという考えを持ち出した提督が居たが、ガスタービンの基礎理論に対する鎮守府の妖精さんの知識がなかったため、それは出来ないという事でお流れになった経緯があると時雨から聞いたことがあった。しかし、それが如何だ。リーガルに乗っている妖精さんは確りと知識を持っているうえ、格段に性能を上げている。
これで分かったことは私たちの存在は人類に更なる衝撃を与えることになってしまうことになる。ただでさえ、霧の科学力は確実にオーバーテクノロジー。最低でも500年は先を走っているのだ。500年の間に蓄積、発見、研磨されてきた技術は今の人から見ても全く想像つかない世界だろう。
そこに、鎮守府の妖精さんとは明らかに違う存在の妖精さんまで現れてしまった。此処の技術力を欲しがる国はさらに増えることになってしまうだろう。
此れでは増々、慎重にならざるを得なくなってしまったとこめかみに手を当てて、頭が痛そうにする。コアを持ち、半分とは言えど、メンタルモデルになっている今、痛覚の感覚は薄くなっているが、今回の事は精神的にも負担となったようで、頭が痛くなったように感じているだけだ。
とりあえず、ガスタービンの開発は自重してほしいと伝え、しょんぼりと肩を落としてとぼとぼと帰っていく姿を見て、若干罪悪感が芽生えてしまったものの、現在はこれでいいんだと自身に言い聞かせる。
だからこそ、気付かなかったのだろうか。
ガスタービンの開発基礎について書かれていたプリントの裏にももう一つ重要な開発基礎が出来ているという報告を見逃してしまったのは。
――――――収束光線発振装置基礎理論。通称レーザー発振装置。
いわば、光化学兵器を開発するために必要な基礎理論が完成していた。いや、完成してしまった。
此処に、人類側が霧の技術に頼らずに光化学兵器を開発する術を図らずも得てしまった瞬間だった。
人類が自身の業によって生まれた永遠の深淵に更に近づいた瞬間でもあった。
その先に待つのは―――希望か―――絶望か。
今回は大反攻の一歩として、参加する艦艇の一部を出しました。
次回は何が出るのでしょうか……?