霧に消えゆく超大戦艦   作:霧のまほろば

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それでは、第7話どうぞご覧くださいませ





第7話 不穏な暗雲

 

 

遂に8月19日。この日を以って人類の深海棲艦に対する初めての大反攻作戦を開始する。

既に、呉鎮守府の第一艦隊32隻と、アメリカから派遣されたサウスダコタを旗艦にした艦隊25隻の艦艇全てが昨夜のうちから、ボイラーを動かし始め、ようやく、日の出までにタービンを回して、何時でもスクリューを回して、出航可能となっていた。

 

ミズーリ「司令、全艦出撃用意が完了しました!何時でも出れます!」

東山「うむ、ご苦労…。全艦に告ぐ‼」

 

何時もの鎮守府で見るような、優しい東山の顔が、この時ばかりは、百戦錬磨の老将へと変貌しており、年齢にそぐわぬ覇気を老いてなお逞しいその身へと漲らせていた。そして、これでもかとばかりに張り上げた声は空気をビリビリと震わし、聞くものに畏怖の感情を与える威圧感に溢れていた。

そこには、嘗ての大戦を生き抜き、艦娘が登場してからは世界で唯一奪われた海域を奪還するのみならず、スエズ運河まで奪還した世界最高峰の名将がいた。

 

サウスダコタ「凄い存在感ね…、これがアドミラル東山…!」

ミズーリ「流石は百戦錬磨の猛将というべきなのでしょう。尊敬すべきですね…」

 

感嘆の声をあげたのはこの姿の東山を初めて見たサウスダコタ、ミズーリ。ニューメキシコも声に出さないも、完全に東山に魅入っており、周りの声など聞こえてないかのようだった。

 

東山「遂にこの日がやってきた。今日、深海棲艦に対する大反攻作戦が始まる。諸君らもこの日に向けて、弛まぬ鍛錬を積んできた事だろう。…この作戦は人類の希望が懸かった戦いだ。後ろを見ろ。埠頭で我らを見つめる人々を」

 

後ろ、つまり、呉鎮守府の方面を向けば、広場には町中から集まったのかと思う程大勢の人々が手を組んで、祈るような眼差しで此方を見つめてくる。どの全員がこの作戦が無事に成功して帰ってくることを期待している目だった。

 

東山「この作戦が成功し、シーレーンがつながれば、この人々を幸せな笑顔にする事ができるんだと覚えておけ!さあ…、我らの手で、勝利の二文字を持って帰ろうじゃないか、…暁へ勝利を刻め!!」

 

  『『『オオォォッッ!!!』』』

 

東山「抜錨!霧笛を鳴らせ!!」

 

〈ボォーーー……!〉

 

ジャラジャラとけたたましい音を立てて、呉鎮守府の前に停泊していた57隻ものの大艦隊が一斉に碇を巻き上げて、一斉に動き出す。

まず、呉鎮守府の駆逐艦が矢印の先端のような陣形を組み、荒波を蹴立てて、突き進んでいく。そして、その後ろに高雄と愛宕が並んで続き、更に大和が続く。そして、その両隣には金剛、比叡。大和の後ろには武蔵。その両隣には伊勢と日向。

更にその後ろに赤城、蒼龍、飛龍、大鳳、信濃が輪陣形で続き、その真ん中にミズーリ。それを固める様に重巡利根、筑摩、軽巡矢矧、龍田、球磨、北上。その周りを残る駆逐艦が続いて、絶え間なく警戒する。

呉鎮守府の艦隊が先に出て、少し後ろをアメリカ艦隊が輪陣形を組んで続く。

この大艦隊は20ノットの速さで真っ直ぐグアムを目指す。

 

その先に何が待っているのか。それを示すかの様に真紅に染まった朝日が海面を照らし、艦隊に影を作っていく。

その様はまさに日本が世界に誇る猛々し艨艟たちだった。

それを見送る多数の影。本来ならば、加賀、最上、三隈、鈴谷、熊野たちも第1艦隊所属だが、万が一に備えて第2艦隊へ編入されているため、今回の作戦には参加しなかった。

 

長門「…行ってしまったな…」

加賀「そうね…、今回はミズーリさんも入る事だし、アメリカ艦隊も共同でやるのだから、上手く行くわ。なにより、東山司令が大和さんに乗っているのだから」

長門「そうだな…、……だというのに、何だ?この消えない不安は…?」

熊谷「不安…ですの?」

長門「ああ、かつてのミッドウェーで感じたような不安だ。何か大切なものを失う、そんな気がしてならない」

加賀「貴女も、ですか…。私も今回の出撃には不吉な予感がします」

陸奥「司令……」

 

遠ざかっていく大和達の影が赤く染まった海面に映る。さっきは誇らしい感情があったが、今の長門達の心に巣食うのは不吉な予感だった。

水平線へ向かっていく、艦隊、その道は赤く、血で塗られた道のような錯覚が見えたような気がした。

 

 

そして、一方、マホロバがいるリーガルの中でも、ついさっき、リーガルに迫る深海棲艦の艦隊を撃滅して、帰投したマホロバが異変を感じとっていた。

 

マホロバ「遂に作戦開始か。……だが、一つ、不安なことがある」

時雨「不安なこと?」

リーガル「もしかして、世界各地の海で観測された幾つかの空間の揺らぎですか?」

マホロバ「そうだ。一瞬だったが、レーダーにノイズが走った。それに、さっき撃滅した深海棲艦の群れは如何も、リーガルを狙ってたわけではなく、何かから逃げてきたような雰囲気が感じられた。それに、船体にも、つい最近ついた戦闘の痕が付いていた」

 

空間の揺らぎはシンガポール付近にも一つ現れ、直ぐに消えたが、その方面からボロボロになって、這々の体で逃げてきた深海棲艦が現れたのだ。

偶然にしては、出来過ぎている。

 

矢矧「シンガポール辺りに何かがいるのですか?」

リーガル「んー…、ノイズ、ですか…」

響「何か気になることでもあるのかい?」

リーガル「それが…、霧の艦艇のレーダーにノイズが入ること自体、あり得ないことなんですよ。霧の艦艇のレーダーは、ありとあらゆる状況に対しても、最高の状態を維持できるような超高性能のレーダーです」

マホロバ「それに……、一つ気かがりなのが、先ほど遭遇した深海棲艦の全てが傷ついていた、と言ったな?妙な事に、全ての傷が光化学兵器に付けられる特徴的な傷もあった」

時雨「光化学兵器って、たしか、レーザーとかビームとかそういうあれだよね?僕を助けてくれた時に使った赤い光線がそうだよね?」

マホロバ「そうだ。あれは、陽電子砲で、ビーム兵器の一つだ。破壊力は見た通りだ。……それで、見た限り、陽電子砲並とは行かないが、装甲板を融解させられるほどの威力があると見て間違いないだろう」

響「人類側の新兵器?」

マホロバ「私も、それは考えたが、傍聴した限り、その線は薄いな。あれが出現した海域は人類が生存している最短の国からでも、離れすぎている」

矢矧「では、深海棲艦の新種でしょうか?」

マホロバ「いや、それも無いだろう。深海棲艦の新種ならば、何故仲間を攻撃した?そこの説明がつかない」

リーガル「確かに……、では、私たちのように異世界からの訪問者ですか……」

 

 

 

時間は少し遡り、マホロバが撃滅した深海棲艦の視点に移る。

この深海棲艦は空母ヲ級4隻に率いられる27隻の機動艦隊だった。人類側の大反攻作戦が始まったのを感じ取り、援軍の為に、グアムに向かっている最中だった。新たなる脅威と出会ったのは。

 

ヲ級「……レーダー二、ノイズダト?―――何ダ?アノ影ハ?」

 

輪陣形の中心にいた旗艦のヲ級がレーダーにノイズが走って周囲の索敵が出来なくなってしまったすぐに、水平線上に横たわる影を3隻認めたときだった。

 

1隻目はおよそ240m級の戦艦らしきの艦影。35.6cmと予測できるが明らかに砲身が長い砲門を3門備えた主砲塔を3基、12.7cm3連装両用砲2基、魚雷発射管を6基備えているようにも見えた。

2隻目は250m級の、1隻目を僅かに上回る大きさもつ艦影。28cmの比較的小砲門だが、70口径以上はあると判断できるほど長大な砲身を3門備えた異様な主砲塔が4基を主兵装に、後は小型の魚雷発射管を6基。

最期の一隻はひと際大きく、300mを超え、350mに迫るではないだろうかと思えるほど巨大な艦影だ。一つの船体の両舷に浮きを取り付けたトリマラン型の船体だった。22.8cm程の単装の主砲を3基、15.5cm単装砲を6基その他にも火砲を多数備えていた。

 

このとき、深海棲艦はある二つの勘違いをしていた。

一つ目は1隻目と2隻目を純粋な戦艦だと思い込んでいたことだ。しかし、それが正しい事だろう。保有する砲門が戦艦級であったこと、また、艦船の大きさも戦艦級だった。だから、空母ヲ級は3隻を全て戦艦だと思っていた。

二つ目は、“戦艦だ”と思い込んでいたため、速度も遅いと判断していたこと。

 

だからこそ、ヲ級は目の前の3隻を撃破するために、艦載機を発艦させた。―――否、発艦させてしまった。本来ならば、偵察機を飛ばして索敵しつつ、グアムに向かうのが正しい選択だったが、ヲ級は驕っていた。こんなところに仲間以外の艦など居ない、と。それもそうだろう。このあたり一帯は完全に深海棲艦の支配海域だからだ。だから、正体不明の艦影を3つ見つけたときは焦ったものだが、3隻しかいない、楽に倒せるはずだと思ったがための行動だったのだ。

 

だが、お互いの艦影が視界内に入った時点で深海棲艦の敗北は決定していたのだ。

―――ヲ級は知らない。

 

この3隻の艦影は異なる世界で“超兵器”と呼ばれる従来の兵器とは隔絶した性能を持つ兵器中の兵器。

そして、此処に現れたのは“シュトゥルムヴィント”、“ヴィルベルヴィント”、“インテゲルタイラント”。

そのどれもが超高速を誇る艦だった。確かに1隻目と2隻目とも、戦艦であったが、巡洋艦と戦艦の長所を取った巡洋戦艦と呼ばれる存在。

シュトゥルムヴィントは最高180ノットを誇り、暴風を意味する名の通り、光化学兵器、実弾兵器の砲撃の暴風を繰り出してくる。ただし、純粋な戦艦ではなく、超高速巡洋戦艦の為、火力の反面、装甲が薄いという欠点を抱えている。だが、火力は高いもので、35.6cm55口径3連装3基、53cm5連装酸素誘導魚雷発射管6基、多目的ミサイルVLS多数、超怪力線照射装置4基を主兵装にする。

ヴィルベルヴィントも80ノットを誇る高速巡洋戦艦。かつての世界では、この巡洋戦艦単艦でアメリカの3個艦隊を壊滅させたこともある超兵器。28cm75口径3連装4基、48.3cm6連装酸素魚雷発射管4基、32.4cm酸素誘導魚雷発射管2基、怪力線照射装置4基、12.7cm対空パルスレーザー8基を持つ。

インテゲルタイラント。先にあげた2隻に比べると、50ノットと劣るが、それでも、従来の戦艦と比べても圧倒的に速い速度だった。そして、2隻にあった装甲の薄さという弱点も、インテゲルタイラントは純粋な超高速戦艦だったため、装甲も分厚いものとなっていた。3隻の中でも特にこの戦艦は近未来兵器を多くそろえた戦艦であり、新型228mmAGS3基、新型155mmAGS6基、超怪力線照射装置6基を持つ。

 

3隻とも霧の艦艇には及ばないものの、強力な火砲を多数備えた戦艦であり、従来の艦船とは完全に一線を引く超兵器。その圧倒的な戦闘力が今、正に解き放たれようとしていた。

 

ヲ級「―――ッ!!?速イ!?」

 

超兵器が自身の持てる限りの速度を発揮して突撃してきたのだ。特にシュトゥルムヴィントは180ノットという圧倒的な速度でこちら側の放った艦載機を躱して突っ込んでくる。見る見るうちに大きくなってくる艦影には恐怖を覚えさせられる何かがあった。

艦載機も慌てて突っ込んでくるシュトゥルムヴィントに抱えている爆弾や、魚雷を放ったが、慌てて放ったものが当たる訳が無い。そして、180ノットで動く標的を狙ったことも無かったため、爆弾は大きく外れ、魚雷も空しく航跡を交わすのみとなっていた。

だが、それでも、ヲ級は慌てることなく、冷静に従属艦の重巡や軽巡を迎撃に当たらせるように指示をくだし、その指示通り砲撃を始める重巡たちだったが、それでも、やはり、超兵器との性能の差は歴然としており、シュトゥルムヴィントは僅かに舵を切っただけでそんなに大きな動きはしなかった。まるで、砲弾が当たらないところが分かっているかのように。

果たして、深海棲艦が放った砲弾は虚空を貫いて、海面へ散らばって落ちる。そして、立ち昇った水柱を突き破ってシュトゥルムヴィントの主砲が火を噴いた。シュトゥルムヴィントの主砲は35.6cmの砲門であり、比較的、小さいものの、口径が55口径であり、その破壊力は38cm砲に劣らぬものだった。そして、その狙いもレーダー連動の為、命中率もかなり高いものだった。

1トン弱の砲弾は木枯らしのような音を何倍にも増幅させたかのような不気味な音を立てて近くにいた軽巡の煙突の付け根に着弾し、その薄い装甲を意図も容易く突き破り、艦の中心で機関を巻き込んで大爆発を起こし、船体を真っ二つに割って轟沈させた。

そして、容赦なく、53cm酸素誘導魚雷を扇状に全弾発射して、深海棲艦の群れのど真ん中を最大速度で突っ切っていく。

勿論、深海棲艦もただで当たる訳ではなく、魚雷の航跡を見極めて躱そうとしたが、放たれた魚雷は酸素魚雷。航跡などほとんど残らないため、視認は困難を極めた。その上、その魚雷は音響誘導魚雷の為、スクリュー音を追跡されてどこまでも追ってくるのだ。

そのため、一時は躱せて安心したが、次の瞬間、Uターンして戻ってくるのだ。それも、シュトゥルムヴィントに及ばないものの、80ノットの速さで突き進んでくるのだ。深海棲艦にとっても如何しようもなかった。次々と命中して沈んでいく同胞たち。怒りに飲まれ、艦隊の後方へ突っ切っていったシュトゥルムヴィントを狙おうとしたが、そこへ新たな攻撃が加わった。80ノットの高速で突っ込んできたヴィルベルヴィントと50ノットのインテゲルタイラントが砲撃してきたのだ。特に、超怪力線照射装置でのレーザー砲撃は苛烈さを極め、光の矢のように突き刺さっては、鋼鉄すら融解させる超高温にまで一気に熱せられ、装甲が飴細工のように歪んでいく。

その攻撃で混乱した深海棲艦は散り散りに逃げ散っていったが、それを甘んじて見逃すような超兵器ではない。即座に追撃に移り、各地へ散り散りになっていった深海棲艦を追って3隻も各地へ散っていった。だが、不幸中の幸いというべきか、ヲ級は辛うじて生き延びた。しかし、運が無かったのか、リーガルがいる海域へと逃れて行ったため、マホロバによって撃沈されてしまったのだ。

 

散っていった超兵器の内1隻、シュトゥルムヴィントがハワイの方へ、ヴィルベルヴィントはグアムへ、インテゲルタイラントはインド洋に向かって行ったのに、マホロバが気付いたのはリーガルへ帰還してから3時間後の事だった。

 

霧と超兵器と艦娘と深海棲艦の初めての邂逅は近い。それが何をもたらすのか。それは未だ、誰も分からぬことだった。

 

 

シュトゥルムヴィントたちが深海棲艦の増援を壊滅させてから3時間後。呉鎮守府を出港した艦隊は静岡県沖を20ノットで航行していた。日も高く昇っており、遠く本州に聳える富士山が映えて見えるところを通過しており、この後南下して小笠原諸島を目指すことになっていた。しかし、此処で予測外の問題が発生していた。

小笠原・グアム攻略艦隊の旗艦大和の艦橋内で東山は眉をひそめていた。それは、通信モニターの先に映っている長門からの緊急連絡だった。

 

長門『シンガポール付近からグアム方面へあり得ない速度で向かっている艦影を一隻確認した。あり得ない速度で向かっている。妖精さんの推測では80ノットくらいだという。このままでは遭遇まで30時間も無いだろう。それに一方、ハワイの方には180ノットという、信じられん速度で向かっている船影を確認したそうだ』

東山「マホロバか?」

長門『いや、違う。明らかにマホロバではないだろう。船体の規模が小さいからな。恐らく金剛クラスだろう』

東山「そうか……、分かった、慎重に動こう。知らせてくれてありがとう」

長門『いや、司令の役に立てたのならば、良かった。武運を祈る』〈プツン〉

 

通信が切れた途端、モニターが繋がっている艦娘たちからどよめきが起きた。金剛クラスの船体に80ノットなど考えられなかったからだ。それに、180ノットなど到底想像もつかなかった。現在東山達に思いつくことは…霧だった。

 

東山「かぁー…、正体不明艦の出現、しかも、ハワイ、グアムを目指しているとなると、敵の可能性が高いな」

ミズーリ『……いざとなったら私が出ます』

東山「ふむ、ミズーリの見解では霧の可能性が高いとみるか?」

ミズーリ『確証は持てませんが、180ノットや80ノットの速さで動ける存在を私は霧しか知らないものですから』

 

やはり、霧の可能性が高い、とミズーリも同意見だったようだ。確かに、この段階では、霧の可能性が高いだろう。マホロバも霧の艦艇だった。だから、他にも霧が居ても不思議じゃないというのがこの艦隊の全員が持ち合わせていた意見だった。

 

金剛『フーム…、確かに今はその可能性が高いデス…。シレー!偵察機による24時間体制で索敵を意見するネー!』

日向『私も同意見だが、今は小笠原諸島周辺の偵察を優先すべきじゃないか?』

蒼龍『あ、だったら、小笠原諸島周辺を航続距離の短い水上偵察機で、グアム周辺を増槽付きの彩雲を飛ばして偵察したらどうかな?』

東山「ふーむ…、いや、此処は小笠原諸島攻略に注力して、硫黄島まで奪還を確固たるものとすべきだな。その不明艦と遭遇までおよそ30時間程度だろう。まだ余裕あるから、現在はグアムまで足を延ばす必要はない」

『『了解!』』

 

 

赤城『彩雲発艦します!』

蒼龍『さあ、行くよ!』

日向『よし、行け!』

伊勢『よーっし、いっけー!』

 

それぞれに積まれている偵察機が爆音を轟かせて雲一つない青い大空へ、深緑色に塗られた銀翼が光を反射させて優雅に飛び立ち、2機編成を組んで扇状に飛び去っていく。

偵察機に乗り込んだ妖精さんは熟練の上を行く神業的な技術を持つ妖精さんで編成されている。それこそ、開戦時、アメリカの太平洋艦隊を壊滅させ、イギリスの東洋方面艦隊プリンス・オブ・ウェールズ、レパルスを驚異的な命中精度で轟沈させたころの、正に零戦の性能も相まって、世界最強と謳われていた精強なパイロットが揃っていた頃と遜色ないほどの実力を誇るパイロット妖精さんで編成されている。

そこんじょそこら程度の深海棲艦の艦載機など相手にならないほど圧倒的な差があった。例え、偵察機が敵襲を受けても、無傷で生還出来るほどに。

 

だが、東山には慢心などありはしなかった。東山はあのミッドウェー海戦時も飛龍に乗っており、日本が誇る機動艦隊の壊滅をその目で見てきたのだ。そして、その頃の戦訓が東山に厳しい戒めを作っており、いかなる状況にでも対応できるようにしていた。

 

東山「よし、大和たち戦艦組みは電探を最大レンジで展開。特に対空の索敵を厳かとなせ。重巡以下水雷戦隊は対潜索敵を主眼に、状況に対応できるように体制を整えつつ、そのまま前進。赤城、蒼龍、飛龍はローテーションで直掩機を上げていつでも敵機の襲撃に備えろ。信濃、大鳳は格納庫で雷装、爆装の用意、いつでも出せるようにせよ」

大和「はい!」

高雄『了解!』

赤城『はい!直掩機上げます!』

信濃『了解です!』

 

その司令が下りた途端、艦隊が慌ただしくなる。特に、その動きが顕著だったのは重巡以下水雷戦隊だった。重巡は空母の護衛があるため、うかつに赤城達の側を離れるわけにはいかない筈だが、今回はミズーリがいる。現代艦船並みの索敵能力を持つミズーリなら、対潜、対艦、対空とあらゆる敵に対応でき、更に高い精度の索敵能力を持ち、即応できるため、艦隊守護は安心して任せられる。だが、現代艦船並みのレーダーをもってしても、見逃すことや、見落とすことも十分あり得ることだった。だからこそ、東山は、その穴を埋めるために、空母組には直掩機の発艦、偵察機の派遣。大和たちには、それぞれが持つ電探の最大レンジでの索敵を指示し、穴を埋めた。対潜に関しても、水雷戦隊が辺り一帯の海域を駆け回ることで海中をひっかきまわして、潜水艦を混乱させることもあるが、潜水艦の装甲に反射した音紋をミズーリが感じとるという狙いもあるのだ。

 

やるなら徹底的に。それが東山が信念としてやってきていたことであり、それが功を奏して、現在まで呉鎮守府の中から一隻も沈没艦を出すことも無く、40年という長い年月ここまで切り抜けられたのだ。

 

 

それを見て一層驚いたのはサウスダコタたち米艦隊だった。

東山が下した指令は一見効率的で簡単そうに見え、やり方さえ分かれば誰にでも出来るかと言われればそうではない。

戦艦組みのレーダーでの索敵も、穴を埋めるとは聞こえがいいが、一歩間違えれば、ありもしない影を見て誤報をしてしまい、それがきっかけで混乱に陥ることだってある。空母たちもそうだ。ローテーションで直掩機を上げたり下ろしたりするのは、相当な連携が必要なことだった。上げるタイミングが少しでも遅れてしまうと、艦載機同士での衝突の可能性が一気に高くなってしまう。それに、敵艦隊発見の報でそれぞれの攻撃機や、爆撃機が発艦したとなれば、一気に上空に大量の艦載機が集まることになり、指令の錯乱、混乱の可能性も高い。水雷戦隊も周囲を駆け回るとあるが、索敵の途中に衝突の危険すら有り得ることだった。

だが、東山が指令を下し、それを実行してから既に1時間ほど経ったが、衝突や、誤報による混乱など一切なかったのだ。例えば、大和の電探が影を確認したと伝えれば、ミズーリにも伝わって、ミズーリもレーダーで確認してみて、影があるかないかだけではなく、直掩機のうちの数機がその場へ直行し、パイロット妖精さんが自身の目で確認するして、誤報かどうかを確認したという例もある。

ただ、この考え方にも一つの欠点がある。慎重になり過ぎて、後手に回り、先に敵機の襲撃を許してしまう可能性も高い事だった。

ただし、その欠点もそれぞれ艦艇が持つ性能や、連携によって補うことも出来る。そのために、精強なパイロットで固めた偵察機、ローテーションでの直掩機、戦艦組みの最大レンジでの索敵に、ミズーリの超広範囲レーダー索敵による照らし合わせ。

様々な要素が歯車のように噛み合ってこそ、この考え方は真価を発揮するのだ。

 

サウスダコタ『アドミラル東山達はこれほどの戦術を完成させるのにどれほどの時間を掛けたのかしらね……』

ニューメキシコ『推測デモ、最低5年は掛けたのデハ……?』

 

これほどの完成度を誇るようになるまで、どれほどの時間を掛けたのか。

 

東山「ご明察。この考え方が形になるまで5年、現在のような形にするまで6年。合わせて11年掛かったよ。この考え方を始めたときはまだまだ艦娘の数が致命的に少なくて、それに、大和や、武蔵たちも未だ登場していなかったからな。その時までは幸運もあって、沈没するような娘もいなかったが、大破まで追い込まれてしまったことも度々あった事か……」

サウスダコタ『11年……!……それじゃ、母国がこの戦術をとっても失敗するのも納得ね。そもそも、基礎が違いすぎる…。積み重ねてきた経験そのものが違いすぎるのだから……』

 

東山はこの戦術を完成させてから、世界各国に考え方を伝えた。賛否両論あったが、東山には、この戦術で、スエズ運河までを奪還したという実績があり、その考え方は各国の海軍に受け入れられ、模倣して、深海棲艦との海戦に及んだが、いずれも敗北を喫していた。そのことで司令官は東山を糾弾したが、毅然とした態度で『儂はこの作戦で幾多の海域の奪還を成し遂げている。何か問題点があるとするのならば、貴官らの方にある。儂の取った手段がそのまま貴官らに馴染むとは到底思えん。それを己がものとするのは儂の役目ではない、それを成し遂げるのは貴官らだ』と斬り捨てた。

冷酷だと思うだろうが、このとき、日本はスエズ運河まで奪還した海域を再び失い、沖縄周辺まで戦線を押し上げられていたのだ。その対処の為、各地の鎮守府は戦力を沖縄へ集結させて絶対防御線を築いていたが、急いで対策を取らねば、沖縄も陥落するという事は目に見えていたからだ。

監視衛星からの写真では、シンガポール跡地に新たに基地を構成した深海棲艦の大群が集まり、概算では既に800隻を超える大軍だったからだ。こんな時にほかの国へ気遣っている余裕などないというのが本音なのだ。この沖縄が落ちれば、台湾も陥落し、日本海まで侵入を許すことになってしまう。そうなれば、戦時と同様に日本は補給線を絶たれ、孤立してしまうのだ。その路の行く先は―――亡国。滅亡しか残っていない。

 

それだけは何としても避けなくてはならなかった。だからこそ、焦っていたのだ。

 

そして、日本が滅べば、更に人類は追い詰められることを意味するのを各国は分かっていたため、散発的ではあるが、積極的に出撃し、深海棲艦と盛んに交戦しようとしていたが、それでも、シンガポールに集結していた深海棲艦の数は変わらなかった。いや、増えなかったことを喜ぶべきだろうが、それでも、圧倒的な差があるのはどうしても覆らない。

 

各国は日本が滅ぶのが近い、半ばと諦めていたが、此処に奇跡が起きた。

原因は分からなかったが、急にシンガポールに集まっていた深海棲艦の数が急減して、残ったのは200隻程のみだった。600隻を超える深海棲艦が何処に向かったかはついぞ、分からなかったが、これで、何とか、沖縄を喪失することは無く、それから戦線をずっと沖縄で膠着させている。

 

 

赤城『司令官!彩雲が小笠原諸島父島付近に戦艦4隻、空母5隻を含む39隻の大規模な機動艦隊を発見したとのことです!』

日向『司令、こちらも硫黄島付近に戦艦2隻、空母2隻を中心に、18隻の艦隊を発見したそうだ』

 

その一報に一気に顔を引き締める大和たち艦娘。遂にこの反攻作戦での初めの戦闘が行われようとしていた。

 

 

―――彼らは未だ知らなかった。北極に“大いなる冬”がいるのと同じく、南極にも“摩天楼”と呼ばれる圧倒的な火力を持つ超兵器が眠っていたのを。そして、シンガポールから消えた600隻の大群はニュージーランドを中継点に南極を掠めて大回りで日本本土を目指すつもりだったが、運が悪かったのか、この“摩天楼”の眠りを妨害してしまったことで目覚めたそれによってニュージーランドごと消滅してしまったのだ。

 

 

“大いなる冬” “摩天楼”

 

人類の理解など到底及ばないような高みにある、兵器中の兵器。それはもはや、人類の制御に収まるような生温い兵器ではない。その圧倒的な暴力を無慈悲に振るう超兵器。

幸いにして、“大いなる冬”は北極海の海底に、“摩天楼”は南極の分厚い氷の壁に閉ざされて再び眠りに就いたが、これらを筆頭にした超兵器が人類―――否、この世界と邂逅した瞬間、何かが起こる。世界を巻き込む何かが―――

 

 

 

 

 

一方、リーガルの方でも、マホロバがその形の整った眉を顰め、普段は閉じている瞳を開いて銀と紫色のオッドアイを見せる。

 

時雨「そういえば、マホロバの瞳を見たのはこれが初めてだよね?」

矢矧「…そうですね、あの戦時もずっと瞼を閉じていましたから……」

響「銀に紫の瞳か…。綺麗だな…」

マホロバ「ん?お前たちが私の瞳を見るのはこれが初めてか?……言われてみれば、確かにそうだな。戦時でも目を開けた記憶が無いな」

 

戦時、マホロバと共に戦った時雨たちですらマホロバの瞳を見たことは無かったが、今回初めて見たそのオッドアイに見惚れていた。

 

時雨「マホロバが目を開けるのって何かきっかけがあった時だっけ?」

マホロバ「そう言っていたな…。よく覚えていたな」

時雨「いつか、マホロバの瞳を見てやるんだから!って、戦時にも関わらずそう思っていたから……、えへへ?」

矢矧「あはは…、それは、私たちも同じでしたよ。実際、私たちの中ではマホロバの瞳は何色かで物議を醸すほど興味深いものだったんですよ」

響「でも、まさか、銀と紫のオッドアイだとは思いもしなかったよ。予想の主が赤や、青とか、金とかで占められていたからね」

マホロバ「やれやれ…、私の知らないところでそんな話が出ていたとはな……。それでだが、お前たちはこの艦影をどう思う?」

 

そういって、空中ディスプレイに映し出されたのはグアム方面に向かう一隻の巡洋戦艦。

 

時雨「この戦艦が如何したの?一見砲身が長い戦艦のように見えるんだけど……?」

マホロバ「この戦艦は現在も80ノットの速さで 「80ノット!?」 …ああ。その速度でグアムを目指している。今もリーガルがレーダーで捕捉しているから間違いない。それに、この戦艦のほかにも、ハワイの方面に向かった戦艦は180ノット、インド方面に向かって行ったトリマラン型の戦艦は50ノットだそうだ。」

矢矧「180ノット……」

響「どうやったら、そんな速度が出るんだい……?」

 

時雨はもう既にある程度―――否、手遅れな段階で非常識に慣れつつあったため、そこまで驚かなかったが、建造されて間もない矢矧や響は流石に眩暈を感じたようでソファに力なく寄りかかってぐったりとしていた。

 

時雨(ああ……、僕も最初の頃はあんな感じだったんだろうなぁ…。慣れって本当に怖いものだよね)

 

と何処か悟ったかのような表情になる時雨だった。彼女もリーガルで過ごすようになったばかりの頃は日常的に行われる非常識なことで頭を抱えていたが、一か月も経てば、溜息を吐いてそれが普通なんだと受けいらられるようになってしまい、自身でも、それに戦慄してしまった。

 

リーガル「…やはり、今回補足した戦艦は何処の国が建造したものではありませんでした。“各国の機密情報”を片っ端から調べてみましたが、そんな建造計画なんて設計図の時点から存在していませんでした」

マホロバ「ふむ……、やはり、我らと同様に異世界からの訪問者と思えばいいか」

 

サラリと問題発言が流れたことにスルーして話を進めていく中、マホロバと、リーガルのみに鈴を転がしたかのような声が聞こえてきた。それは間違いなく、霧の艦隊と深いかかわりのあり、まほろばをマホロバへ、霧の艦艇へと改造した張本人、アドミラリティ・コードの声そのものだった。

 

コード【―――ええ、ご明察です。マホロバ。かの戦艦たちは異世界にて超兵器と呼ばれた兵器中の兵器です。かの世界に存在した超兵器すべての情報を貴女たちのメモリーにインストロールしておきます。かの超兵器は世界を混沌へ陥らせるために建造された忌まわしき、古代人の遺産です。超兵器とこの世界が交わることは一切ないでしょう。……願わくば、貴女たちに武運の長久があらんことを……。また会える日を楽しみにしていますよ。マホロバ、リーガル……】

 

響「……?どうしたんだい?二人とも、突然黙り込んで?」

マホロバ「……これは…想像よりも不味いかもしれんな…」

リーガル「超兵器…。こんなものが存在する世界があったなんて……」

時雨「超兵器……?」

 

ぽつりとリーガルが零した言葉を拾った時雨が不安げな顔をしつつも訪ねてくる。

 

マホロバ「ああ…。この世界とは全く違う辿り方をした世界であらゆる兵器の頂点となった兵器を指す言葉が超兵器だそうだ。今、アドミラリティ・コードから教えられた」

矢矧「まさか……、あの巡洋戦艦も超兵器だというのですか……?」

マホロバ「如何やらそのようだ。グアムに向かっているのは“超高速巡洋戦艦ヴィルベルヴィント”、180ノットを出しているのは“超高速巡洋戦艦シュトゥルムヴィント”、インド方面のは“超高速戦艦インテゲルタイラント”だそうだ」

リーガル「……お姉さま、急いで呉鎮守府の救援に向かわれては……?」

マホロバ「何を―――…しまった! ……今から行っても、間に合うか……!?」〈チ、チッチチッ〉

 

更に目を見開いたマホロバが慌てて演算素子を稼働させてシミュレーションを開始すると同時にリーガルが急速浮上を行う。高速エレベーターの中に居るような浮遊感が襲うが、マホロバにとって些細ごとでしかなかった。

 

マホロバ「ふむ…、今すぐ行けば、ヴィルベルヴィントのグアム到着寸前に捉えることが出来るか。よし、直ぐに出撃する!リーガル、海面まであと何秒だ!?」

リーガル「あと26秒です!ドックの固定も既に外して、直ぐに出れます!」

マホロバ「分かった、海面に到着と同時に全ての門を開け。リーガル、お前も後を追ってくれ」

 

そう言い、マホロバは金色に輝く粒子となってマホロバの船体の艦橋内へと転移する。

それと同時にリーガルの中で水面を突き破る激しい水音が聞こえ、同時に、重厚な音がドックの外から聞こえてくる。

 

〈ボォオォオオ…!!!〉

 

ドックの隔壁に一筋の切れ目が入ったのを確認した途端、マホロバは機関の出力を一気に最大へと引き上げる。

タナトニウムエンジン4基、波動縮退炉エンジン4基の出力は正に天文学的な数字を叩き出し、溢れ出したエネルギーが青白い稲妻となって迸るが、それも一瞬の事だった。船底や、艦尾にある装甲板が展開されると、菱形のような形状をしたスラスターが新たに10基現れ、普段露出しているスラスターと合わせて18基に金色の光が灯ったかと思えば、一気に噴射し、700mを超える巨体を意図も容易く最大速度へ押し出し、あっという間にリーガルの巨体が小さくなっていく。

 

時雨「なんて速さなの……」

リーガル「私たちもあとを追いますよ」

 

リーガルの周辺にある断崖絶壁のような分厚い鋼鉄の門が閉じたのを確認したら、自身も最大速度の40ノットの速さで膨大な海水を巻き上げながらも驀進していく。その様は正に移動要塞の名に相応しい圧巻。一つの島程もあろうかという規模を誇る巨体が駆逐艦並の速度で驀進するのだ。どれほど圧倒的な様子なのだろうか。

 

 




遂に大反攻作戦の開始です。ですが、一方、超兵器の影も蠢きだしまして……
本当に混沌の世界へと突き進んでいきますね
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