あけましておめでとうございます
今年はもう一作何か書こうかとも考えております 忙しい一年になりそうです笑
"無"は、自身を何かに引き寄せるような力を感じた。
抵抗はしない。その力が害のあるものでは無いと、理解していたから。
身を委ねるその先には、杯があった。いや、それは、人が使うようなものでは無い。
それのみで一つの建造物として、一つの存在として確立されている巨大な器だった。
杯は、液体を静かに保っている。透明で、底がハッキリと見える。僅かな揺らぎも無い、静寂の水面。その上に、"無"は降り立った。
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「………あら?」
静かな寝室で一人、退屈そうにベッドで横にしている褐色の女性が声を上げた。
視線の先にあるのは、サイドテーブルに置かれた2冊の分厚い本。そのうちの一冊が、独りでに、小気味良い音を立てて捲れていく。
止まった先にあるのは、他の部分となんら変わらない、アラビア文字の羅列。その中の一節が、掠れるように消えていった。
「もうやられちゃったの?モブキャラとはいえ、幾らなんでも早すぎじゃないかしら…」
不満そうな声をあげ、掠れたページを見たキャスターだが、何かに納得したように頷いた。
「まぁ気にしてもしょうがないか。気を取り直して次よ、次!」
部屋の中でたった一人、自らを鼓舞するように拳を上げ、ベッドから起き上がると、再び本に目を移す。
絵本を読む童女のように目を輝かせながら文字を指で追っていく彼女は、これから起こるであろうことが楽しみで仕方がないという様子だ。
やがて彼女の指が、一つの挿絵の前で止まった。この子ね、と口にした彼女は、細長い指で挿絵の枠をなぞっていく。
そこには、右の親指に指輪をはめ、左手には取手と口がついた、ポットのような形をしているランプを持ち、絨毯にあぐらをかいて両手を広げている男が描かれている。男の後ろに写っているのは二人の巨人だ。
絵の上には、恐らくこの人物の名前なのであろうアラビア文字が大きく書かれている。
「さあ、出てきなさい」
呼びかけに応えるように、絵とその近くの文字が震えだす。その様子を眺めながら彼女は、優しく指を目の前へ向けスライドした。
指の動きに合わせ、絵と文字とが、本から抜け落ちるように地面へと。落ちた瞬間、辺りが眩い光に包まれる。
目がくらむ程の閃光。それが収まった後、絵と文字が抜け落ちたところには、褐色の肌をした青年が立っていた。
左手の親指には指輪をはめ、右手にはランプを持って空飛ぶ絨毯に乗っている。まるで絵から飛び出してきたような風貌の青年は言った。
「やあやあ、また呼ばれたと思ったら君かぁ。僕を呼ぶなんて珍しいじゃない、どうしたの?」
「そんな露骨にがっかりした顔しないでちょうだい。実はね…」
キャスターは、現れた男に自身の現状を伝えた。マスターが怯えて引きこもっていること。しょうがないので自分だけでも行動しようと決めたこと。男にはそのための駒となり、敵のサーヴァントと戦ってほしいということ。
要するに、自分のために犠牲になれと、彼女はそう言っているのだ。他力本願で身勝手とも言えるその申し出を、しかし男は快諾する。
「オッケー。で、倒してきてほしいサーヴァントのクラスは?」
「ーーライダーよ」
男が目を丸くした。慌てた様子でキャスターを問い詰める。
「ラ、ライダーって…僕と同じクラスじゃないか。僕だって結構名は知られてる方だ。一瞬でバレちゃうよ、いつもの君の戦い方じゃない」
いつもの彼女の戦い方。男を呼びだした宝具は、他にも様々な英雄を呼び出す能力を持っている。
アサシンに倒された弓兵も、彼女の宝具から召喚された者だ。それらを駆使し、クラス違いの英雄を敵サーヴァントたちを差し向け場を混乱させる。それがキャスターの戦術だった。
真名を暴くことや、敵英霊の戦闘スタイルに合わせた対策が重要となるサーヴァント戦では地味だが、他のマスターの戦術ミスを誘発したり、送り込んだ英雄が負けたとしても一方的に相手の情報を得ることが望めるなど、その効果は意外にも大きい。
実際、先ほどの戦闘だけでも”アサシンのマスターが前衛タイプ”であることや”一振りで20の追撃を与える宝具を持つ”という情報が得られている。
しかし、それはあくまで”他のクラスの英雄”を使うことで可能となる戦術だ。先ほど青年が言ったように、同じクラスとバレてしまう者を差し向けたところで、すぐに”英霊”でなく只の”使い魔”の類であると看破されてしまう。それは、何よりも宝具を持つ彼女が理解していることであるはずなのだ。
「そうなんだけど…私の知っている子たちの中で”彼らに追いつけそう”なのが貴方しかいないの」
「追いつけそう?あぁ、疾いタイプなのかーーめんどくさいなぁ…」
自分でなくてはならない理由がわかったのか、渋々ながらも男は了承した。ふわふわと浮かぶ絨毯に乗ったまま、外に出ようと部屋の窓を開ける。
「ーーー場所は?」
ふと、思いついたように青年が問いかける。敵の姿形もわからず、その上場所すらわからないようでは話にならない。
「え、ええと。多分ビルンバウムっていう魔術師の家、なん、だけど…」
歯切れの悪い回答をするキャスターに、男は首を傾げた。
「その魔術師の家、どうやら街のど真ん中にあるみたいなのよ…」
男は、その言葉に再び目を丸くする。聖杯、正しくはキャスターの宝具からだが、召喚時に付与された知識で魔術師がどういうものかはわかっている。
根元への到達、そして神秘の秘匿を重んじる彼らの中で、まさか都市に住む者がいるとは。都市に”住まない”理由は数あれど、そこに”住む”理由など、部外者である青年には想像もつかなかった。
「そっか…わかった。注意はするよ」
聖堂教会の管理下でなく、真に秘密裏に行われているこの聖杯戦争において、”バレること”もまた、絶対に避けるべきことだ。スマートフォンが流通し、誰もが情報を世界中に拡散することのできる現代では特に。
「ええ、頼んだわよ。アラジン」
キャスターからの期待と現代技術への煩わしさを胸に抱き、アラジンと呼ばれた青年はいざ、ライダーの元へ。
読了ありがとうございました
最近、作業中によく『パシフィック・リム』のサントラを聴いてます ああいう映画、もっと増えるといいなぁ...