Fate/Children【改稿中】   作:.副会長.

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どうもこんにちは

今回はバーサーカー回です




〜聖杯戦争〜 7月01日19時42分

形を得た”無”は、後ろを振り返った。

 

そこには誰もいない。

 

再び水面を見ると、やはり背後には影のように”存在”がいる。

 

”無”は苛立ちを感じた。早く、早くしなければ。

 

そうだ、触れるのだ。触れて、糸を繋げるのだ。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

 

悪臭が漂っている。肉が腐った、むせ返るような臭いだ。

 

見渡す限りの飛び散った肉片にはハエが集っており、薄暗いこの屋敷の中でそれは、モゾモゾと動く巨大な芋虫のように形を変えていく。

 

真夏の暑さでとろけきった屍肉が血の海に溶けていくその中で、時折音が聞こえてくる。ガツガツ、ペチャペチャ、ジュルリと。

 

犬がミルクを飲むようにして、”少女”が喰らっているのだ。人の、肉を。

 

その肌は水分を失って乾き切り、和紙か何かのような状態に、髪は恐らく脂や血液でだろう、固まりきっている。

 

凡そ一週間、碌な食事などできていない。していない、と言うのが適切だろうか。今の彼女には、目の前の臓物たちが馳走なのだ。

 

曇った眼球で、腐った食事を取りながら、彼女は何かうわ言のように呟いている。

 

「みんな…どこ行ったのかなぁ。これでもう一週間だよ…」

 

彼女はもう、壊れている。その目が捉える屍肉は真の馳走に視えているし、彼女の脳内には”屋敷に人がいない”という情報しか繰り返されない。

 

物心ついた頃に両親が事故死し、このシェル家に引き取られてからずっと、奴隷のような扱いを受けてきた。

 

向けられる言葉はいつも「分家のゴミ」「汚れた娘」。繰り返される凄惨な暴力と、ただ見下ろしてくるだけの冷たい目。

 

唯一、彼女が"人"でいられるのは義姉といる時だけだったのだ。そして最後には、その義姉も変わってしまった。

 

彼女は自身を守る為、思考を止めた。無意識に、逃避したのだ。

 

"とうとう、義姉までもが、偽物になってしまった"と。

 

"皆の偽物は退治したから、きっと本当の"家族"が帰ってくる"と。

 

今まで自分を傷つけていた彼らは全て偽物。本当の彼らは何処かへ閉じ込められていて、偽物を退治したのだから帰ってくるはず。

 

だから、今。彼女は、ヘレーネは、待っているのだ。"本当の家族"の事を。

 

それは、徐々に変化していった"設定"だ。自分のした事から、されていた事から逃げるための架空の設定だ。

 

辻褄なんて合っていないし、すぐに崩れる脆い脚本(シナリオ)。いや、きっと。

 

その時もまた、改変するのだろう。現実を受け止めたら、自己を受け止めたら、彼女は粉々になってしまう。

 

まだ10歳のヘレーネには重すぎる咎だ。しかし、"その時"は必ず訪れる。

 

少なくとも、彼女が狂戦士(バーサーカー)のマスターである限り。この屋敷の中だけで、物語は完結しない。

 

そんな未来は考えることもなく、腹を満たした彼女は歩き出した。向かうのは自室という名の物置部屋。

 

唯一バーサーカーによる被害を受けなかった、マスターであるヘレーネの部屋。そして、他でもない、彼を召喚した部屋だ。

 

当のバーサーカーは、広い屋敷の中を動き回っているようで、この場にはいない。静かにドアを開けた彼女は、部屋の隅へ真っ直ぐ歩いて横になった。

 

6年間、寝続けている場所。メイドのアンナからこっそり与えられた、毛布だけが無造作に置いてある。

 

いつも寝続けているうちに浅い凹みができたそこで、今日も彼女は眠りにつくのだ。

 

そして、一つの夢を見る。一人の青年の夢だ。

 

 

 

 

 

その青年には、師がいた。

 

師は、人々に対して新しい”道”を次々と示していく者だった。奇跡をもって、人を導いていく者。

 

ある時は盲人の視力を復活させ、ある時は水の上を歩き、またある時は、病で死んでしまった町娘を甦らせることまでも、男は行った。

 

そんな男を青年は”師”と仰ぎ、すでに男の後に続いていた者たちに加わって、12番目の弟子となった。

 

しかし、ある時から青年には、一つの疑念が湧き上がることになる。彼は何を思って人を導くのか、という疑念だ。

 

師は、その日に食べるパン切れ一つや僅かな銭で、いとも簡単に奇跡を起こす。そして他の者たちも、それが当たり前かのように、気安く師に求めるのだ。

 

最初は同じようにしていた青年は、やがてそれを疑問に思うようになった。

 

ーー師は、まさに神の如き力を持っている。その力はもっと、利益を受けて然るべきではないか。

 

青年は何度かそういった話を師と交わすうちに、真意を知ることとなった。

 

師にとって奇跡は、自分たちでいう呼吸と同義なのだという。呼吸をして、見返りを求める人間がいないように、師もまた見返りを求めない。

 

同時に、”しかし”とも師は言った。

 

「しかし、今の私の力では足りないのだ」

 

と。曰く、師は一度、死ななければならない。そしてその”死”から蘇ることによって初めて、世の人に”救世主”と認められるのだ。

 

そう説かれた時彼は、自分こそがその役目を担うべきだと思った。だから、

 

「この中に私を裏切ろうとしている者がいる」

 

と言われても少しも動揺しなかった。師は全てを分かってくれているのだと思った。

 

「しようとしていることを、今すぐしなさい」

 

と言われた時などは、答えを得た気持ちになった。晴れやかな気持ちで、師を売ったのだ。青年はそれを”正しいこと”だと思っていた。

 

師が捕らえられた時も、十字架に架けられた時も、青年は”師のこれから”のことしか頭に無かった。

 

他の弟子や、男を慕う者たちからどう思われたかなど、全く考えていなかったのだ。

 

「裏切り者め」

 

と彼は罵られた。師には十字架に架けられることが必要だったのだ、などという弁解を誰が信じただろう。

 

師を真に理解しない者たちに、青年は絶望した。裏切りの報酬として手に入れた、銀貨の入った袋を投げ捨て、荒野を彷徨い、首を吊った。

 

間も無く蘇った男は、弟子たちからそのことを聞き、静かに心の奥底で悲しんだ。

 

「生まれてこない方が、彼のために良かった」

 

自分のために”悪”を担った彼を想って言われたその言葉は、弟子たちによって歪められ、青年は”誕生そのものを神に否定された男”に変わる。

 

青年の願いはただ一つ。

 

師ともう一度だけ、話をすることだ。弟子として、友として、誰にも邪魔されることなく話がしたかった。

 

赦しなど、いらない。ただ、声を聞きたかったのだ。

 

 

 

 

そんな夢を見て眠るヘレーネの目元に、一筋の涙が伝った。

 

 

 

—————————

 

 

 

そうして終わる、聖杯戦争の初日。誰も欠けることなく、死者が出ることもなく、終わっていく。

 

屈辱で枕を濡らす者。怯え、隠れ、潜む者。力を目の当たりにして、はしゃぐ者。ひっそりと時を待つ者。狂気に身を預けた者。

 

そして、静かに怒りを燃やす者。

 

明日は何が起こるだろうか。今日の邂逅など、小競り合いにも入らない物だ。

 

ここから、聖杯戦争は加速するーーー





さて、真名の予想はついたでしょうか...?笑

これで第1章は終了となります

引き続き2章からも楽しんでいただければ幸いです
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