Fate/Children【改稿中】   作:.副会長.

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どうもこんにちは

今回から2章がスタートです 1章から比べて文字数が2.5倍くらいになってます


ー第2章ー 闘争
〜聖杯戦争〜 7月2日13時47分


「本当に怖かった…」

 

とは、セイバーの台詞だ。表情を見ることはできないが、少なくとも伝説通りの勇ましさとは程遠いだろう。昨日の朝、ランサーと戦ってからずっと同じ事しか言わないセイバーに、ヨハンは呆れかえっていた。

 

「あのさぁ…それ、もう昨日の話じゃん。そんなんでこれからどうするの…」

 

あの時感じた尋常でない殺気は、緊張と恐怖によるものだったという。目の前の敵を屠ろうとする殺意ではなく、此奴は俺に一体何をしてくるんだ、という敵意。

 

近いものを挙げるとするなら、小動物が捕食者に対して行う威嚇行為だ。そんなものを”殺気”と勘違いした自分たちも大概だが、”殺気立っている”と勘違いされるほど、敵に対して緊張する英雄とはどうなのだろう。

 

あの戦闘中も、"怖い"と"やめたい"のみが思考を覆っていて、自分がどんな動きをしたのかすら覚えていないらしい。少なくとも、ランサーの姿を確認してからヨハンが念話で戦闘中止の声をかけるまで、彼は無我夢中だったのだ。

 

弱気な、現代風の言い方にすれば”チキン”な性格と、知名度のことを考えても低すぎるステータスのため、ヨハンはこの英霊が”日本武尊の偽物”なのではないかと疑い始めていた。

 

もちろん本人に向けてそんなことは言わないが、書に記されている日本武尊その人とは程遠い彼に、そんな思いを抱くのは当然だ。疑念というより、”認めたくない”という願望に近いものがある。

 

ーー真名だって本人が自称してるだけだし、宝具もまだ確認できてないんだよな…

 

もっとも、初戦のうちにセイバーは宝具を解放していて、優位に転じたのもそのおかげなのだが、ヨハンが知るのはもう少し先のことだ。とりあえず彼は、セイバーへの疑いを頭の隅に追いやり、聖杯戦争において気になっている点を話すことにした。

 

「ところで、セイバーは他の英霊を感知できたりするの?」

 

問いかけに対し、セイバーは首を傾げた。そんなことは”特殊な眼”を持つマスターの方が得意分野のはずだ。そのことは召喚されてから直ぐ聞かされているし、「英霊はこちらで見つける」とも言われている。

 

その後に「まぁ僕が参加しているのは皆が知ってるし、向こうから来るかもね。協力とかしちゃってさ」などと笑いながら言われ、肝を冷やしたのは内緒の話だ。

 

マスターからの問いかけの真意がわからず、黙りこくっているセイバーにヨハンが慌てて声をかけた。

 

「あ、いや、前と同じ意味ではなくて。全英霊がきちんと召喚されたことはわかるのかなって。ほら、フユキと違って霊基盤が無いから、こっちから全ての英霊が召喚されたかは、7騎全員みるまでわからないんだ」

 

そう、本当に7クラスの英霊が召喚されているのか。参加表明していたカールが正体不明のアサシンに殺されたことから、彼の欠員分をアサシンのマスターで埋めることはできる。しかし、それでも足りないのだ。

 

自分以前に参加を決めていたマリア、そして、名家の三男クルト・ヴァルトハイム、最近この地にやってきたモデルという一族の娘。今朝挑んできたのは、セイバーから風貌を聞いてウォルターだと予想している。

 

そこに自分とアサシンのマスターを加えてもなお、一人足りない。そこで、本当に”7騎”出揃っているのか確かめられないかと、つまりヨハンはそう聞いているのだ。

 

「とりあえず7人参加していることがわかれば、その人もアサシンのマスターと同じ”常識知らず”として扱えるから、対策はどうとでもなるんだ。6騎しかいないんだったら、それはそれで楽だからいいけど」

 

説明されてもまだ、セイバーは首を傾げていた。自分が知っている程度のことならば、このマスターは当然知っているものだと思っていたからだ。現界する際に聖杯から授けられた知識の中で、それに関するものが幾つかあった。

 

「いや、俺にそんな能力はない…というか、どの英霊にも無いと思うぞ。少なくとも俺は"最初の一週間以内に7騎全てが召喚される"と教えられている」

 

差異がある、とヨハンは思った。英霊と自分たちでは、恐らく知っている情報量に差があるのだ。少なくともヨハンは"確実に7騎召喚される"ということは知らなかった。

 

「--セイバー。君が聖杯から授かった知識を全て教えて。この聖杯戦争に関する事だけでいいから」

 

僅かな齟齬が敗北に繋がる可能性もある、と考えたヨハンは、"確認"という手段を取ることにした。とりあえず、潰せる不安要素は早めに潰すに越したことは無い。

 

--この僕に、ミスは許されない。少なくとも、僕自身が許さない。

 

彼が、その性格ゆえ多くの人間から苦手とされながら、それでも尊敬と畏怖を一身に受けるのはこういった点からだ。何よりも己自身が、"天才"であることを疑わず、また"天才"であろうとする。

 

努力を知らない彼ではあるが、もし自分にそれが必要な時が来たならば、彼は迷わず行うだろう。言動も自信過剰などでは決してなく、あくまで実力相応なのだ。彼はこの聖杯戦争においても、極めて"平常運転"だった。

 

「知っていること、か。そうだな、今言ったことに近いものとしては"マスターが7人に満たなかった場合でも、強制的な召喚を行うことによりサーヴァントの人数を合わせる"というものがあるな。とりあえず絶対に7人は召喚されるってことなんだろう」

 

「え、なんだそれ」

 

思わず声を上げてしまった。英霊を強制的に召喚するという事が可能だというのか。いや、絶対的に不可能な訳ではない。召喚用の魔方陣と召喚者が存在すれば、最悪詠唱無しでも聖杯の力でサーヴァントは降臨することが出来る。

 

しかしそれは、あくまでフユキの聖杯戦争での話だ。この地においては、英霊の召喚システムを担当したシェル家の魔術の”自らの肉体を生贄とする”という性質上、英霊召喚の際にマスターとなる者の血肉が必要となる。それを考慮するとやはり、強制召喚を行うのは不可能に思えた。

 

第一もし出来るのだとすれば、こちらの行為に意味がなくなる。強制召喚というからには、そのマスターはわざわざ自分の肉を削ぐなどということはする必要が無いわけで、正規のマスターが行わなくてはならない事を飛び入りの者はしなくていいなど訳がわからない。

 

ーーイレギュラーにとって必要無いモノならば、正規の者にも必要な訳は無いんだ。

 

持論だろうか。否、そうでは無い。その思考は”魔術”という学問の在り方に繋がるものだ。余計な過程を省き、そこに結果を映し出そうとする魔術において、より効率のいい”例外”が見つかればそれを”基準”に変えるべきなのである。故に、理由の無い”血肉を必要としない召喚”はありえない。

 

しかし、英霊が聖杯から知識を与えられているということは、やはり強制的な召喚自体は可能なのだろう。セイバーを召喚するときに抉った右腕の裏をさすりながら、ヨハンは可能性を見つけようと思考しようとした。

 

最悪、詠唱と魔法陣は必要ないとして最低限いるものはなんだろう。まず召喚者、マスターになる、この場合はされる者の存在だ。そして、その者の血と肉片。

 

ーーあれ?待てよ?

 

それ以外に必要な物が思いつかなかった。拍子抜けとはこのことだ。必須項目が他に無いということは、先の二つさえクリアすれば召喚自体は可能と言える。ならば、あとはその二つの条件を満たす方法を考えるのみだ。条件に予想がつけば、残る一人のマスターもなんとか目星がつくかもしれない。

 

そう彼が思考に一段落つけるのを見計らったかのように、昨日と同じく呼び鈴が鳴った。前回のように思考を中断させられる事はなかったものの、それを思い出させる鈴の音に気分が曇る。

 

「……セイバー、行ってきて」

 

もはや自分で行くのが面倒くさい。どうせマスターの内の一人だろうと、サーヴァントのみを送ることにした。考えてみれば、聖杯戦争は英霊同士を戦わせるのだから自分が出向く必要などない。セイバーが負けそうになった時だけ援護すればいいだろう。

 

セイバーも彼のそんな心を察したようで、軽くため息をつきながらも文句は言わず部屋から出て行った。

 

「---ふう」

 

一人になった部屋の中で、声を出して息を吐く。思えばセイバーを召喚してから一週間が過ぎた。本当の意味で一人になるのは久しぶりだ。近くにはいつもサーヴァントがいて、気を抜く暇などなかった。

 

セイバーが出向いている間、久しぶりに音楽でも聴こうかと、レコードラックに手を伸ばす。幼い頃から毎日のように触っているものだ。視えなくとも、何処に何があるかは完璧に把握している。

 

暫く探り、手に取ったのは"交響曲第25番"、モーツァルトが手がけた交響曲の中で、数少ない短調作品の一つだ。短調だけあって暗い音色ではあるが、ヨハンはこの曲をとても気に入っている。摩り切れたジャケットがその証だ。

 

レコード盤を取り出し、ターンテーブルに置く。ボタンを押して、レコードが回り始めた。レコードに針が置かれる瞬間の掠れるような音が、彼は好きだった。

 

第一楽章が流れ始める。目を閉じればそのまま中世の演奏会に入り込めそうな、深みあるバイオリンの音が心地よい。

 

「お、おいちょっと待ってくれそっちはマスターの」

 

「煩いぞ細いの。マスターに用があると言ってるだろうが。あの部屋にいるのだろう?」

 

「いや、ダメだ。俺が怒られる。話があるんだったら呼んでくるから。お願いだから待って…」

 

「おいランサー。さすがにそれは」

 

バタバタと物音が聞こえる。彼は思った。セイバーは何をしているのだろうか。まさか敵を家に通すなどという馬鹿な真似はしていないと思いたい。恐らく自分の血縁の人間だろう。全く煩わしい。意識的に脳内から排除しているといっても、"音"は相変わらず不快なものだ。

 

「邪魔するぞ、セイバーのマスターよぬわぁ!?」

 

反射的にガンド撃ちをしてしまった。”ガンド撃ち”とは、ルーン魔術における共感魔術の一種だ。一般的には相手を人差し指で指すことで体調を崩させる程度のものだが、その中でも強力な、直接的なダメージを与えるものを”フィンの一撃”と呼ぶ。ヨハンが放ったのは当然後者である。しかも、だいぶ魔力を込めて。

 

なぜそんなものをいきなり放ったのかと言われれば、部屋の扉がいきなり開けられたせいだ。音楽を楽しもうとしている人間の領域(テリトリー)に踏み込もうとするような無礼者は、総じて焼き尽くされるべきなのである。扉の向こうに何か野太い声の生き物がいた気がするが、文字どおり気のせいだろう。

 

「ーーほう。そちらがその気ならば、こちらもそれ相応の対応をさせてもらうぞッ!」

 

「…………」

 

「わーー!馬鹿野郎、戦いに来たんじゃないんだランサー!いい加減その喧嘩っ早い性格なんとかしてくれ!」

 

「…………チッ」

 

「ああ、もうマスターの部屋に入らないでくれ…」

 

「う!る!さいッ!!」

 

呑気にレコードを回し続けるターンテーブルのスイッチを叩き切り、ヨハンは部屋の扉に向けてもう一度、思い切りフィンの一撃を連射する。狙いなど付けない。ランサーとセイバーの悲鳴が聞こえる。

 

燃え尽きろ。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

「ーーーと、いうわけだ。無理にとは言わないけど、手を組んでもらえないか」

 

「家にドカドカ上がりこんできて何が「無理にとは言わない」だ。だいたい君は、僕のことが嫌いなんじゃなかったのか」

 

部屋の床に正座させたウォルターとランサーの話はこうだ。聖杯戦争が始まってから、彼ら二人は自前の魔術工房を拠点としていた。この地における”始まりの三家”に含まれないマッハ家では、他のマスターによる襲撃を受けた際になんの補償も受けられないからである。実家が破壊されて困るのは自分だけではない。家族も暮らしているのだから。

 

しかしその魔術工房が、バーサーカーと思われるサーヴァントの手によって壊滅させられてしまった。ランサーが言うには、「彼奴め、確かに心臓を貫いてやったはずが何事もなかったように暴れ続けおった」という話だ。

 

ランサーが急所を外していたのか、その英霊が不死性を持つ者なのか。どちらにせよ、厄介な敵であることには相違ない。

 

ともかく、それによって魔術工房が使えなくなり、かといって家に戻るわけにもいかない。また、強力な英霊に対抗するためには、他のマスターと手を組んだ方が効率がいい。そうして考えた結果、かろうじて知り合いで且つ話がつけやすそうなヨハンを選んだとい

うわけだそうだ。

 

こちらにしてはたまったものではない。”昨日の敵は今日の友”を地でいくような申し立てだ。昨日の朝、一番乗りで襲撃してきた相手を、次の日になって「信用しろ」という方が無理な話である。

 

彼は当然、断るつもりだった。自分のサーヴァントが弱いとはいえ、自力のみで勝ち残れるという自信は残っているのだ。いつ裏切るとも知れない者を仲間にするなど、ヨハンからすればデメリットしかない。が、その考えを再びセイバーが妨害する。

 

「マスターのことが嫌いって…前々から思っていたが、やはりマスターは友人が少ない人間なのか」

 

「ぶふっ」

 

ウォルターが吹き出す。ヨハンは自分のこめかみが痙攣するのを感じた。持っている杖をフルスイングして、ランサーの隣の座るセイバーに叩きつける。もちろんサーヴァント相手に人間による物理攻撃など効くはずもないのだが、それくらいしないと気が済まない。事実を指摘されることほど、人間が頭にくることなどないのだ。

 

「ふ、ふふふ、ふふふふふふ。いいだろう。友達が少ない、だって?友達ならここにいるじゃないか。我が友、ウォルター・マッハが目の前に!親愛なる彼のためならば、僕は協力を惜しまないよ!」

 

ウォルターの方へ向けて右手を伸ばす。彼が握り返してきた。相手の掌はじっとり汗で濡れている。信用出来ないのは相手も一緒か。全力で握り返してやった。

 

とりあえず、こちら側に全く利益のない同盟関係が成立だ。せっかくだから部屋くらいは用意してやろうと、彼は椅子から立ち上がった。杖をついて、二人に"ついて来い"と促す。使っていない客人用の一室があったはずだ。手短に説明して、そこへ向かうことにした。念の為、セイバーは二人の後ろにつける。

 

自らの緊張をほぐす為か、長い廊下を歩き始めたところでウォルターの方から話しかけてきた。一時的な同盟を結んだとはいえ、嫌いな相手に良くそこまでとヨハンは感心する。嫌悪する人間に頭を下げ、対話をするなど自分からしたら耐え難い苦痛だ。

 

「ところで、お前と戦ったのは時間的に考えて俺が一番初めだとして、そのあと来たマスターとかいないのか?例えば…そう、マリアさんとか」

 

「あぁ、そういえば来ていないね。言われてみれば、あの人なんか真っ先に僕のところに来るだろうに。マリアさん、なんの恨みか事あるごとに僕に突っかかってくるんだよなあ」

 

「なんの恨みかって、やっぱお前気づいてないのか…って、そんな事よりお前のところにすら訪ねてきてないのか。真っ先に何か仕掛けるならあの人だろうと思ったんだけどな」

 

「結界が張られてるのか、準備期間中から使い魔すら近寄れていないし、マリアさんどころかシェル家自体、何をやっているか全く掴めてないんだよねーー気づいていないって何が?」

 

「そこらへんだよ、俺がお前のこと嫌いなのは。ーーけど、俺も似たような感じだな。裏で何やってるのか不安になる。よかったら二人で夜にでも行ってみないか?いくらあの人でも、三騎士のうちの二人を同時に叩きのめせる程の力は無いだろうし覗くだけでも」

 

「いや訳が分からないよ、何だよその辺って。とりあえずマリアさんの件は賛成。夕食を食べてから行こう」

 

手頃な部屋を見つけ、中に案内する。自慢では無いが、風呂からベッドまで何でもあるダブルルームだ。飛び入りの彼らに与えるにしては勿体なさすぎるレベルである。とりあえず夜の予定も決まったことだ。ヨハンは夕食の時間までは部屋から出ないように言い聞かせたら、すぐに自室へ戻ろうと考えていた。去り際にウォルターがこんなことを言うまでは。

 

「ああ、もう一つ。お前、やっぱ魔術以外はからきしだな。さっき顔真っ赤にして俺の手握ってたけど、全く痛くなかったぞ」

 

広々としたダブルルームの床や天井に、再び”フィンの一撃”が飛び交う。天才魔術師の”全力”で放たれるその魔弾は、セイバーとランサーが大慌てで二人を落ち着けるまで、実に10分もの間放たれ続けた。

 

 

 

 

 




魔力耐性のあるランサーとセイバーがなぜガンド撃ちで悲鳴をあげるかと言えばランサー曰く「お前たちだってお化け屋敷に害は無いが驚きはするであろう」ということだそうです

あと交響曲第25番のレコードは単体で収録されてるものは見たこと無いですね 聴いたやつは28番と一緒になってました 他にもあるのかな
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