今回は長めになっております
飽きずに読んで頂ければ嬉しいです
さて、ヨハンの家を訪ねてきた者とは…?
やがて、憎悪が消えた。そこには憎悪が渦巻いているだけだったから、"なにも無くなった"と言えるかもしれない。
その"何も無い"場所には確かになにも無かったが、意思があった。
"もう一度会いたい"という願望が、"願いを叶える"という使命感が、あった。
そしてーーーその"無"へ、声が響く。
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「なあ、あいつは出てくるかな」
言いながら、ウォルターは呼び鈴を鳴らした。その後ろにはランサー、聖骸布で覆われた得物を片手に控えている。
最後の敵と見据えていたヨハンの家にこうして訪れたのは、予想より遥かに彼の英霊が弱そうだったからである。
そう、単純に。使い魔の目を通した映像からですら、セイバーは迫力が無かった。案外、大したことないんじゃないか、と思えてしまうほどに。
「さあ…もしかしたら出てこないかもしれんな。アサシンの件もあるし、警戒はしているだろう」
後ろから答える声と同時に、玄関の扉が開いた。
「やあ、こんにちは。誰だか知らないけど、僕は今とても苛立っているんだ」
笑顔。しかし、その笑みはあくまで好戦的なもの。相手のその表情を見て、ウォルターは理解した。
親友の死など、天才にはかすり傷程度でしかないのだ。そうでなければ、苛立っているなどと言えるものか。
覚悟は決まった。俺は今から、こいつと、こいつのサーヴァントと戦う。もしかしたらこいつを殺してしまうかもしれないが、それも致し方ない。
不敵な笑みを浮かべるヨハンと、それを睨みつけるウォルター。殺気立つ両者の空気を、ランサーが緩める。
「そう気張るなマスター。やり合うのは私たちだ。お前さんたちは後ろで見ていれば良い。そうだろう、細いの」
そこで初めて、ウォルターは奥の"殺意"に気がついた。小さく、隅で燃える灯火のようなそれは、けれど確かな鋭さを持ってウォルターに向けられていた。
たった今まで戦場にいたのかと見紛うような、朽ちた和鎧に額当て。そして腰に差された二本の剣。落ち武者のような雰囲気の"殺意"に、マスターであるヨハンも驚きを隠せないでいる。
「セイ…バー……?」
「あぁ、そいつの言う通りだ。戦うのは主たちの役目ではない。あくまで俺とそこのーー」
「ランサーだ」
ウォルターを退けて前に出るランサーと、ヨハンの横をするりと抜け出たセイバー。両者の身長には5センチほどの差しか無い。しかし体格ゆえか、セイバーは先ほどまでより一層、小さく見えた。
「下がっていろ、マスター」
言われるがまま、ウォルターは下がる。ここからは英霊たちの戦いだ。自分の出る幕では無いことは自覚している。
しかし依然、睨み合う二人の英霊だが、お互い己の得物を振るおうとはしない。存分に振るうことのできる状態では無い、と言う方が適切だろう。
ランサーの槍は2m半程。至近距離の今では当然有効打など狙える筈もなく、かと言って後ろに下がって間合いを取ろうなど、緊迫したこの状態で出来る訳が無かった。僅かの重心移動すら、この場では隙につながる。
では、相手が腰の剣を抜かない理由はなんだ。セイバーは未だ、それを手にとってすらいない。剣士のクラスで現界したのであれば当然、その武器は剣であるはずで---
「ぬァアッ!!!」
地面を抉る音と共に、ランサーが右足を振った。巨木と見紛う凄絶な一撃。セイバーは、抵抗する事もなく真横に吹き飛んだ。
まるで水切り石のように地面を何度か跳ね、屋敷のそばの森へ激突した。
あまりの衝撃に息を呑むウォルターと、自分のサーヴァントが目の前から消えたことに気づいて呆然とするヨハン。
「………なんと」
が、そう思っていたのは
ウォルターは再び息を呑んだ。今の一瞬で、
「ふむ。意外と素早い動きをするな。途中で足を引かねば持っていかれていたかも知れん」
槍を構えて楽しそうに笑う。人間であればそれだけで動けなくなるような傷を、ランサーは気にも留めていなかった。むしろ、期待以上だった相手を前にして滾っているようだ。
一方のセイバーも、すでに立ち上がり埃を払っている。血を流してはいるがどの傷も浅く、度合いだけで言えば此方の方が深手を負ったように見えた。
一本の剣を抜いて構えるセイバーと、それを待つランサー。両者は同時に大地を蹴る。
槍と剣、金属同士が打ちあう快音が響いた。槍の薙ぎを交わし、剣を振り、突き出される剣を避け、槍を斬り上げる。
一閃、一閃、一閃。繰り返される刃の煌めきは、まるで夜空に疾る流星の如く。
互角に打ち合う両者だったが、その終わりは予想より早く訪れた。ランサーの振り上げた槍が、相手の剣を真上に弾き飛ばしたのだ。
勝利を確信し、そのまま槍を薙ぎ払おうと、
「--------」
その時、ウォルターは見た。今までの二人の動きは目で追うことすらできなかったが、その時のセイバーの口が、何かを呟く光景だけは見ることができた。
先ほどまで腰に差されていたもう一振りの剣が独りでに抜ける。セイバーが右足を引き、両腕を広げて体を仰け反らせた。首を落とさんと払われる槍との間に割って入る剣。火花を散らし、槍の柄をなぞっていく。
「はッ!」
刹那のうちに、形勢が逆転した。紙一重で槍を逸らした剣が、そのまま流れるようにセイバーの右手に収まった瞬間、彼は右足を踏み出してランサーの顔面を斬り裂いたのだ。
踏み込みの勢いで横から迫る剣に、完全に隙を突かれたランサーは成す術がない。辛うじて顔を背け、両目を潰してしまうことは避けたものの、左の頬から額の右端にかけて斜めに走る斬り傷はもはや、誰から見ても致命傷だった。
抉られて消失した左眼球と、流血により開くこともままならない右目。ランサーはもう戦えない。
明らかな勝機。しかしセイバーは追撃をしなかった。剣を鞘に収め、背を向けて、後ろに落ちたもう一方の剣を拾っている。
もう十分、ってことかよ。
「このッ…」
「やめろマスター!一旦引くぞ。こんな状態では槍を持つことさえ出来ぬ」
憤るマスターを抑えて撤退を決めるランサー。尚も魔術の詠唱を続けるウォルターにフラつきながら歩み寄り、槍を持っていない左手で肩を叩く。
「せっかく見逃されたのだ。対策を練り、次の機会に勝てば良い。どちらにせよ、傷の手当がしたい」
その顔を血で濡らしながらも、ランサーは笑っていた。ウォルターは涙を堪え、サーヴァントと顔を合わせる。
すでにヨハンとセイバーは自分の家の中に戻ったのか、姿は無い。
自分が情けなくなった。ランサーを霊体化させてヨハンの家を睨みつける。馬鹿にしやがって。
背後に生い繁る森へと振り返り、涙を拭いて走り出した。
ちくしょう。ちくしょう。ちくしょう。なんだあれ。
ステータスの差は歴然。得物の打ち合いでも、終始こちらが勝っていた。それなのに。
なんなんだよ、あの剣は。
独りでに動く剣だけで、一瞬にしてひっくり返されてしまった。あれが宝具というものなのか。
自らの家へと森を駆ける息遣いはいつしか嗚咽に変わり。木の根に蹴躓いたウォルターは、そのまま地面に倒れこむ。
また、勝てなかった。
「ちくしょぉぉぉお!!!!!!!」
少年の涙が、静かな森の中に響き渡る。
11時07分。ヨハンが扉を開けてから、僅か20分程度の出来事だった。
ありがとうございました
自分の好きなキャラクターが苦しんでいるのが好きです 成長とか、進化とか全く興味なくてただ、苦しんでいるのが好きです
でも理不尽なのは好きじゃなくて、なんというか、覚醒前の苦悩の時期、みたいなのがピンポイントで好きなんですよね
だから俺TUEEE系主人公って愛着湧きません ヨハンよりウォルターみたいな感じが好きです 容姿や設定で気に入っているのはヨハンなんですけど