◆
「遅くなりまして申し訳ございません」
俺、リーダーに扮したパンドラズ・アクター、デミウルゴス、ヴィクティム、コキュートスが居る部屋にセバスが現れる。あとついでにソリュシャン。
こっちとしても内心ドキドキである。なんせシャルティアに続いてセバスに離反の恐れありときたもんだ。まあ今回はただの気まずさからの隠蔽だろうけどさ。
念のためではあるが俺は今回全パーツ神器級装備で固めてある。相性で言えばフル装備のリーダーにも勝てなくはない仕様だ。戦術で負けそうだけど。
そして話を戻すが、セバスの行動に関しては完全にたっちさんの影響だろうな。あの人もあの人でリーダーとは別ベクトルに歪んでた人だったし。軽度のメサイアコンプレックスと言うべきか。
まあそれ自体は良いんだ。人助け大いに結構。他のプレイヤーの目を考えるならガンガンやって欲しい所である。
が、その結果として厄介事を招いたという話だ。それはいかん。特にこっちが対応する時間が無いのがいかん。一言話してくれれば面白おかしい方向に持って行けたのに。
ルプスレギナもそうだったが、自己判断で報連相を怠った訳だな。これは一度徹底的に意識改善をさせた方が良いのかもしれないな。防災訓練? いや違うか。
で、そんな事を考えている間に一応の確認としてセバスにツアレとやらを殺せる一撃を放たせた。それをコキュートスに受け止めさせ、この件は以後不問とするとの事だ。
そして今後の事についてだが、俺としては大金出して買った屋敷を手放すのは正直口惜しい。ただここに来る前にリーダーが言っていた通り、ここに残るメリットも無いのだ。
ただ折角王都に来たんだし、少しぐらい散策してもバチは当たらないだろう。流石にこのフル装備顕現体じゃ無理だけど―――ってリーダーと一緒に本体来たし。
本体が来た以上、記憶の共有の為に一度顕現体を解除しないといけな――以上、本編に沿ったシーンで一言も喋らなかった俺、のシーンでした――何だ今の?
◆
「でさあリーダー、拾った子はカルネ村にでも放り込んどけば良いんじゃない? あそこでも流石に駄目かな? 他のプレイヤーへの友好アピールにもなるけど」
「んー……つい漏れた一言が原因で虐殺、というのも後味が悪いですから駄目ですね。それにあれだけ信頼されている以上、下手に頭数を増やしても効果はあまりないでしょう」
「それもそっか。じゃあ他の拠点は……デミウルゴスの牧場だと力仕事が多いからパスだな。あ、そうだリーダー。あそこ用の食料が足りないんだった。小麦とか買い付けできないかな」
「解りました。セバス、倉庫でも借りて小麦を買い付けろ。ナザリックまではシャルティアに<転移門>を使わせる。そこから先はデミウルゴスに任せて良いか?」
仲が悪かろうとこういう時の返事はピッタリな二人である。まあ、それを言ったらNPC達は何体居ようが一糸乱れぬ反応が可能なのだが。スゲェよお前ら。
で、セバスが拾った子をナザリックで働かせたいと言い出した。やがて反発したデミウルゴスとの言い合いになるが……リーダー? 何遠い目してんの? 解り辛いけどこればっかりは雰囲気で解るよ?
「あははははっ! そうだ、そうだな! 二人ともよく喧嘩をし―――チッ、抑制されたか」
「……ああ、たっちさんとウルベルトさんか。確かに今のは似てたけど、結局どうするのさリーダー」
「ふむ……セバス、そのツアレとか言う女を連れて来い。それから決めよう」
「はっ!」
セバスが踵を返して数分もしない内にまた現れる……けど、そういや何かどっかで見た顔だな。どこだ?
「……マーキナーさん、どう思います? たまに村の様子見に行ってますよね」
「……あ、あーあーあーそういう事か! うん、似てると思うよ。一回会わせてみる?」
「ふむ……まあ、乗り掛かった舟です。マーキナーさん風に言うなら弱者への慈悲、という所ですか」
何かと思ったらこの子、ニニャ君に似てるんだわ。うん、確か姉がどうこう言ってたし。まあ人違いだったらそれはそれで構わないんだけどさ。うん、たまには感動モノの話も良いよね。
そしてリーダーはツアレ君との問答の末、彼女を保護すると決めた。所属はセバス直轄メイド見習い。同時にプレアデスをプレイアデスシフトに変更するそうだ。とは言え全員で動く事は当分ないだろうけど。
「では諸々が片付いたら我々も帰還するとしよう。どうせなら王都観光でもと思ったが……流石にそれは気を抜き過ぎか」
「あ、それならリーダー。デミウルゴスとちょっと行きたい所あるんだけど良いかな? 危ないなら顕現体使うからさ」
「まあそれなら構いませんが……一体どちらに?」
「まあ色々と、ね」
顕現体は大体このまま使うとして……あ、頭パーツはステルス機能があるやつに替えとこ。
◆
そして翌日。顕現体である俺は小麦と一緒にナザリックに戻る予定なので今日はツアレ君とお留守番である。セバス達についてっても良かったんだけど、流石に一悶着あった後に1人にするのもちょっとね。
「―――とまあ我々の本拠地、ナザリック地下大墳墓の組織図はこんな感じか。多少端折ってる所もあるけど機密とかもあるんで勘弁ね」
「いえ、わざわざ説明してくださってありがとうございます。マーキナー様」
「礼は良いさ。これからウチで働くんだから、簡単な説明ぐらいはしてやらないと……客、じゃないな」
そして手持ち無沙汰なのでツアレ君にアインズ・ウール・ゴウンの大体の説明を行っているのだが、なーんか変な奴が居るな。
三人……ドアの前でごそごそやってる? ああ、ピッキングしてんのか。面倒だしこっちから開けてやろう。
「下位眷属創造、ツアレ君を守れっと。悪いが客みたいだ、少し出てくるよ」
「あ、はい……」
盾の機天を創造し、俺は入口の鍵を内側から開ける。お、動きが止まった。ビビってんのか?
「……どうした?」
「いや、唐突に鍵が開いた……内側に誰か居るのか?」
「いや、<透視>で見たが誰も居ないな……罠か?」
「……何か仕掛けがある手応えじゃなかったな。気配も感じないし、たまたま鍵がすぐ開いただけかもしれん」
ボソボソと招かれざる客が相談する。いや空いたんだから入って来いよ。流石に軒先で吹っ飛ばす訳にもいかないんだからよ。
と、ようやく結論が出たのか慎重に入って来る。盗賊2人に盗賊系魔法詠唱者って所か? はーいいらっしゃーい。
「誰も居ない……な。それに妙に片付いてやがる」
「何だ、まさか逃げたのか?」
「この規模の屋敷だ、すぐに逃げられるとは思わんが……」
「ああ、引っ越しの最中だ。気にしないでくれ」
「「「ッ!?」」」
3人が完全に家の中に入ったのを確認し、鍵をかける。そこで俺はステルス電波、もとい頭パーツが発動していた<完全不可知化>を解除した。
「だっ……な、何だテメェ!」
「いや普通に考えて住人だろうよ……いやそれも違うか。まあいいや、何の御用で?」
「チッ……女しか居ないんじゃなかったのかよ」
「どうする? こいつは殺し……何だコイツ」
誰何しといて人の質問には答えませんかそうですか。まあ今のパーツは人間っぽさがあんまりないから「誰」よりも「何」って感情が強くて混乱するのも解るがな。
「無視されるのは非常に不愉快だ。中位眷属創造―――拷問の力機天」
「がっ!?」
「う、うわぁっ!?」
「なんだコレ!? おい、出しやがれテメェ!」
現れたのは人数分の鉄の処女。その中に3人ともすっぽり収まってしまい、声を上げる事以外できなくなってしまう。
因みにこの機天は外見こそ狭苦しい鉄の処女だが、中は意外と広く様々な拷問器具がずらりと並んでいる。んー、どれからいこうか。
「流石に苦悩の梨は使いたくないし……まあ、手っ取り早く親指締め機で良いか。じゃあやっちゃって」
「「「ぎゃあああああああああああっ!?」」」
俺がお仕置きの方法を指示すると、見事に絶叫がハーモニーを奏でる。流石にうるさいので顔の部分の蓋も閉めてあるが、それでも結構聞こえるもんだな。
「それじゃあ改めて聞くけど、君達は誰で何のご用ですか?」
「は、はぁ……はっ! だ、誰が言う―――」
「ワニのペンチ追加ー」
「があああああああああああっ!」
バツンと股間辺りから鈍い音が響く。ちゃんと熱してあるから出血多量で死ぬ事は無いだろう。では次、真ん中の君にいってみよー。
「はい、3度目の正直。どちら様? ご用件は?」
「あ、ああ……は、八本指のもんだ。ここにいる女を連れて来いって……」
「誰から?」
「そ、それは知らねぇ! 上からやれって言われただけなんだ! 信じてくれ!」
この子はちょっと拷問に弱いね。まあ俺も強いかって言われたら全力で「NO!」って言うけどさ。まあ手間がかからなくて結構。
「浚ったらどこに連れてくとか言ってた?」
「あ、ああ。手紙を置いてくつもりだったんだ……あ、後は何だ!? 何でも答える! だからもうこれ以上はやめてくれ!」
「って言ってもあと特に聞きたい事は……あ、サンキュ。えーっと何々……?」
拷問の力機天がするりと手紙を抜き出してくれる。一体どういう構造してるんだか解らないが、今は気にしてる時でも無いだろう。
そういや昨日色々と八本指について情報貰ったなー、と資料を探ればその1つが手紙に書かれていた。うーん、こりゃ相談案件だな。
「頼む、この指のやつを外してくれ……もう感覚が無いんだ……」
「あ、ごめんごめん。忘れてたわ―――やっていいぞ」
「「「ぐあああああああああっ!?」」」
ぐしゃり、と侵入者の頭蓋が粉砕される。ウチに入ろうとした時点で生き残れる訳が無かろうに……ふむ、よく考えればこの手紙は俺達への挑戦状と受け取れるか。
じゃあ、こちらも相応にお相手しないとね。
◆
「さて、それでは作戦の説明を始めましょうか」
コツ、と靴を鳴らしたデミウルゴスが集まった面々に振り返る。シャルティア、マーレ、ソリュシャン、エントマ、セバスの他にモンスターが少々。王都を壊滅させるだけなら誰か一人でも居れば充分と言える戦力だ。
因みにツアレは既にシャルティアの<転移門>でペストーニャに預けてある。何か一悶着あったのか、送って行ったセバスの顔が若干赤くなっていた。この色ボケ爺が。
「今回の作戦はモモンガ様、マーキナー様の両名が保護するとお決めになった人間、ツアレを誘拐しようとした愚かな人間共―――八本指とやらへの誅殺です。
確かにツアレも人間ではありますが、至高の御方々が保護すると決められ、マーキナー様が八本指への誅殺を行うと決めた以上は我々は全力を以ってその命に従います。異論のある者は?」
「「「………。」」」
「ありませんね。ではまずセバス、君は呼び出しのあった場所へと向かい、そこにいる連中を殲滅しなさい。
既にマーキナー様がツアレの姿を読み取ったドッペルゲンガーを向こうに置いて下さっていますし、資料なども手に入っているので探索等は必要ありません。
ナザリックに唾を吐いておきながら得意気になっている連中に絶望を見せてきなさい。殲滅後はシャルティアの<転移門>を使い、ナザリックに帰還するように」
「はっ」
この後の作戦の性質上、あまりセバスに長居されても困るのでさっさと出て貰う。やれやれ、今後は誰か助けるにしても報告位はしてもらいたいもんだな。
そして協力者との取引をした上での諸注意を行い、デミウルゴスの説明が一通り終わる。諸々の物資不足を一気に解決できるし、人造魔王の第一歩としては申し分ない計画だろう。
「では、この作戦は顕現体ではあるがマーキナー様もご覧になっておられる。各員、全力を尽くすように……最後にマーキナー様、一言お願いします」
「ん? ああ……まあ、何だ。正体はバレないようにな。これはあくまで『アインズ・ウール・ゴウン以外の奴がやった事』なんだから。じゃあ頑張れよ」
◆
「んー? なぁデ……ヤルダバオト」
「はい、何かござましたか?」
王都の一角、襲撃地点の多くが見渡せる高い建物の屋根の上に俺達は居た。そして手持ちの時計と予定を見比べると、どうも遅れている箇所がある。
そして俺は頭をエッグヘッドにし、デミウルゴスは変なマスクをかけていた。眼に当たる部分が四つあるのだが、さっきから顔に合わせて結構伸縮している。こんなアイテムあったっけ?
「いや、マーレとエントマの所が遅れてるみたいなんだけど……何かあったのか?」
「マーレからは目標を確保して恐怖公の所に入れたと報告がありましたが、確かにエントマは遅いですね……見てきましょうか」
「ああ、それなら俺が見てくるよ。どうせ見てるだけってのも暇だし、責任者がそう簡単に動くな……って、俺が言っても説得力ないか」
「いえ、私は貴方様の御言葉に従うまでです。お手数をお掛け致します」
いいって事よ、とふわりと宙へ飛び立つ。向かった先は一つの屋敷。マーレの魔法によって植物に覆われた屋敷は―――あぁ?
「おいおいおい、どーしたってんだこりゃあ?」
「あ―――」
「む……?」
「チッ、新手かよ!」
エントマは戦闘中だった。相手は3人、忍者っぽい奴は倒れ、仮面をつけた子供は水晶で出来た馬上槍の石突に立っている。
最後の男か女か解らんのは事もあろうに千鞭蟲に包まれている。おいおいおいおい、確かアレってエントマの切り札だろ? 何でそれ使う様な戦闘になってんだよ。
「帰りが遅いと思って見に来れば戦闘中ときたか。怪我は無いか?」
「は、はい。問題ありません! すぐに片付けますので―――」
「駄目だ。流石にお前じゃ荷が重い、サッサと戻れ」
「……畏まりましたぁ」
しょぼんと肩を落とすエントマの頭を軽く撫でてやる。ガサガサしてるかと思ったら意外と手触り良いでやんの。あ、短い毛が生えてるのか。
エントマは蟲を帰還させ、自らも巨大な蜻蛉に回収されて飛び去って行く。さて、問題はコイツらか。しかし何で動かない?
「……おい、どうしたイビルアイ?」
「まずいな……勝てる気がしない。誰が足止めをして誰が逃げようが一歩歩き出した瞬間に殺されそうだ」
「……絶体絶命」
ああ成程、絶体絶命のピンチに動くに動けず……ってオイオイマジかよ。
「その首にかけてるのはアダマンタイトのプレートに相違ないかな、お嬢さん方?」
「……それがどうした」
「いや、アダマンタイト級冒険者って言ってもこの程度なんだな、と思って。それで君達は……青い方、で良いのかな?」
「人間社会にも詳しい、か……何だテメェ」
間違いない、こいつら青の薔薇って連中だ。しかし3人掛かりでエントマにやられるような奴が忍者とか冗談キツいぜ。コスプレか?
「まあ何だって良いだろ。それよりウチのもんが世話になったみたいだが、何かあったのか?」
「やっぱあの蟲メイドの親玉か……アンタの部下が人を喰ってたみたいなんでね、ちょいとお仕置きしてやろうと思ったのさ」
「まあ冒険者なら見逃すはずも無いか……ふむ、どうしたもんかな? こちらとしても将来使えそうな連中を無駄に殺す気はないけど、かと言ってこのまま返すのも……」
一通り考え、そして結論を出す。
「―――よし、決めた。1人か2人連れてって知ってる事洗いざらい吐いて貰おうかな。最高位冒険者なら色々と知ってる事も多いだろ」
「チッ! マジかよ!」
「最悪……!」
「殿は私がやる! 全力で逃げろ!」
俺が結論を出したのと同時に筋肉女と忍者が走り出す。仮面をつけた子供―――じゃ、ないな。そもそも人間ですらない。死体? あ、吸血鬼かな?
まあ良いけど、殿はほっといて走ってる2人は止まろうか。はい指ビーム。
「がぁっ!?」
「ぐっ!?」
「チッ! <魔法最強化・結晶散弾>!」
俺の指先から放たれた攻撃に2人はバランスを崩して倒れ込む。そして目眩ましのつもりか水晶の礫を大量に放たれるが、その魔法は吸収される。んー、吸血鬼の割にレベル低い?
「無効化された!? くっ、一体何の種族だ!」
「聞かれて答える事でもなし、言って理解できるとも思わないね。はいビーム」
「がぐっ!」
「ぎっ!?」
念には念を入れて倒れ伏した2人の足に風穴を大量に空ける。あー、回復用のポーションか何かもってやがるな。面倒だし壊しとくか。はいビーム。
「おのれ倒れた奴に何度も……!」
「別に君の攻撃は痛くも痒くもないし、これが一番楽だろ? それより今の内に逃げればどうだ? あの2人を見捨てるなら君は追わんぞ?」
「ほざけ……空を飛んでも今の攻撃で撃ち落とされ、転移魔法は次元封鎖なり何なりを持っているんだろう?」
「ほう? そういう事は知ってるんだな? 如何にも持ってるが……君の知識量に少し興味が沸いてきたな」
やはり仲間は見捨てられないか。死んでいればまた違ったのだろうが、なまじ生きているから余計に見捨てられないと。
そして一部の悪魔や天使が持っているスキルを知っている、か。何だかんだ言っても最高位冒険者、これは悪くない情報を得られそうだな。
「御免被る! <魔法抵抗突破最強化・水晶の短剣>!」
「いやだから効かねーって。レベルが足りねぇんだよ、レベルが」
「糞が……一体なんだ!? コイツは一体……!」
ふむ、そこまで知りたいか。ならそろそろ頃合いだし自己紹介しとこうか。
「なぁ? マキナァ……!」
フルフルニィィィ、と笑って俺達の目の前に落ちてきた俺とリーダーを見る……いやちょっと待って何でいんの? あ、シズとユリも居る。
◆
「んー、中々に面白い事になってるね。こんな面倒な移動法じゃなかったら一回顕現解除して情報共有したのに」
「……そう言えばマキナさん、顕現って長時間もつんですか?」
俺達はレエブン候とやらの依頼を受け、<飛行>に<浮遊板>を組み合わせた移動法で王都へとやって来ていた。王都では中々派手にドンパチやっているらしい。
そんな中でふとリーダーが疑問を投げかけてくる。それと俺は移動中、シズを膝に乗せっ放しである。ユリも怖い目してないでいい加減慣れろ。俺とシズの関係はこれがデフォなの!
「一応自室で実験中です。ずーっと新しいパーツ作ったり整備したりしてるのが居ますけど問題なく戻れそうですよ」
「ああいや、効果時間って意味なんですけど……そっちの問題もありましたね。どういう感覚なんですか?」
「ふっと思い出す感じですかね。流石に一瞬ガクンってなりますけど、それ以降は問題なく同一時間上の2つの記憶の両方が自分の物だって認識できてます」
元々記憶なんて適当で曖昧なものだ。多少時間軸がダブってても何も問題は無い。2つの場面を同時に思い出すなんて器用な真似は元々できないしな。
「それでリーダー、気付いてる?」
「ええ、顕現体が遊んでるみたいですけど……ああいう事してると今みたいに不意を突かれますよ?」
「大丈夫、向こうもこっちに気付いてるよ。それとデミウルゴスに<伝言>入れておいて」
「もう済んでますよ―――途中で悪いが、我々はここから現場に急行させてもらう。着いて来た場合は君達の安全は保障しかねるので注意してくれ」
リーダーが<全体飛行>を使い、俺達は顕現体と仮面の誰かが向かい合っている場面に現れる。それと同じくデミウルゴスが顕現体の後ろに現れたのだが、何でアイツは四つ目のマスクをつけているのか。ふざけているのかぁ!
「なぁ? マキナァ……!」
クレイジーサイコホモのような顔でこっちを見てくる顕現体。いや何の同意を求めてるんだよ。そもそも今はエッグヘッドだから表情変わらんぞ。まあ良い、今は乗ってやるか。
「テメェ……マデウス! 何でこんな所に居やがる!」
「ん? 何、ちょっとした探し物さ。ウチの部下が仕事中にこいつらと遊んでたんでな、手が空いてた俺が代わっただけだよ」
これぞ秘儀「一人芝居」である。マッチポンプどころの話ではない。状況の確認やら何やらも必要だし、少し話すか。
「相変わらずだなテメェは……お嬢ちゃん、怪我は無いか?」
「生憎と一度もまともに攻撃されていなくてな……それよりアイツの名を呼んだな? アレは一体何だ? それとお前達は……ん、そのプレートは!?」
「ああ、俺達はアインズ・ウール・ゴウン。アダマンタイト級冒険者だ。それにそちらは……青の薔薇、だったっけ?」
「ああ、イビルアイと言う。協力を要請したいが……勝てるか?」
んー、顕現体がコイツへの攪乱を含んだ言葉を入れてないなら昨日の夜に仕入れた情報で動いてるって事か? 確か八本指への粛清中の筈だけど……まあ良いか、後で確かめよう。
「まあ、俺1人でも時間稼ぎぐらいはできるさ……アイツはマデウス。機械神、マデウスだ」
「マデウス……機械、つまり時計やら何やらの神だと? 馬鹿な、そんな奴がいると言うのか……!」
「ああ、知られちゃったか。まあ良い、改めて名乗るか。俺はマデウス、コイツはヤルダバオト。以後お見知りおきを」
「偽名になってねぇな……シズとユリはそこで倒れてる2人を回収、下がってろ。俺はマデウスをやる。リーダー、アイツ頼める?」
指示を出すと二人は転がってる筋肉女と忍者を引きずっていく。明らかに怪我人へ配慮した運び方ではないが、それぐらいは我慢して貰おう。
「ええ、大丈夫です。それとイビルアイさん、危険ですので私の後ろに」
「あ、ああ……本当に大丈夫か? あのヤルダバオトと言うのも相当強いぞ? 正直私ではマデウスとどちらが強いのかも解らん」
「大丈夫。今は二人しか居ないけど―――」
「アインズ・ウール・ゴウンに敗北は有り得ません」
俺は拳を握って顕現体へ飛び、リーダーは<三重魔法最強化・魔法の矢>でサーカスをおっぱじめていた。また見事な弾幕である。
その間を縫うように顕現体は飛び、俺も何度か射撃を繰り返しながら屋根の上へと飛び上がった。
「ハッハァ! その程度かマキナァ!」
「ほざけ! そこだぁっ!」
俺と顕現体は適当に音の出る射撃で周囲の建物に風穴を開けつつ、リーダーとデミウルゴスの居る辺りから程々に離れた所まで移動する。
二人も結構派手にやり合っているらしく、そろそろ切り上げても良い頃合だ。即座に顕現体を解除し、崩れ落ちた体を支えながら状況を確認する。
「ふむ、ふむ、ふむ……うん、中々良い作戦じゃないか。流石デミウルゴス。じゃあコレに俺達を組み込んで……よし! これだ!」
記憶の整理が完了し、修正を行った所で再び顕現体を発動。また暫く屋根を破壊していくと、丁度デミウルゴスがこちらに目配せをして去っていく所だった。では顕現体、武運を祈る!
「おーいリーダー大丈夫……って、何で抱えてんの?」
「ん、ああ。デ―――ヤルダバオトが彼女を狙って攻撃していたので、庇うよりはこちらの方が楽かと思いまして。申し訳ありません、許可もなしに抱えてしまいました」
「いや、気にしないでく―――ださい」
はて、何か顕現体の記憶にあった声よりオクターブが高いぞ。いや敵と味方ではトーンぐらい違うだろうが……あとリーダー、小脇にってのはどうかと思うよ。幾ら死体でも女の子なんだからさ。
リーダーが俺の視線に気づいたのか、イビルアイを下ろす。んー、何か距離近くね?
「助けて頂きありがとうございます。改めまして、私はアダマンタイト級冒険者チーム、青の薔薇のイビルアイと申します」
「これはどうもご丁寧に。同じくアダマンタイト級冒険者チーム、アインズ・ウール・ゴウンのモモンです」
「同じくマキナ。で、あと2人が……お、来たな? シズ、様子はどうだ?」
「出血はなし、穴が開いていただけです。如何なさいましょう?」
「んー、ポーションでもぶっかけとくか。とりあえず移動しようぜリーダー」
「ええ、そうしましょう」
ユリを護衛に残した形なのか、シズがこっちに戻って来る。その先導で移動すると路地に筋肉女と忍者が転がされていた。ここは恩を売っとくとしよう。
「すまねぇな兄ちゃん……何か、見ない色のポーションだな?」
「特別製さ。そういやそっちの名前、聞いてなかったな」
「ああ、わりぃ。俺はガガーラン、こっちはティアだ……助かったぜ。あと少しで連れてかれちまう所だった」
「きっとあんな事やこんな事されて尋問されてた。女戦士ガガーラン~淫欲の檻の中で筋肉が躍る~みたいな状況になってたかも」
誰がするか。
「それでお聞きしたいのですが、ここで何があったんでしょう? ヤルダバオトは探し物をしていると言っていましたが……」
「そのついでに人も喰ってたって訳か……少し離れてたが屋敷があったろ? あそこは八本指っつー犯罪組織の拠点の1つでな、襲撃してとっ捕まえる予定だったんだ」
「でも先を越された。蟲と符術を使うメイドが居て、人を喰ってたから見過ごせなかった」
「その戦闘の途中に私が追い付きましたが、その直後に奴―――マデウスが来たんです。蟲メイドには逃げられ、私の魔法は一切効かず、奴には遊ばれる始末……」
そこから先は顕現体の記憶にあるな。ふむ、この様子なら問題なく修正案にもっていけそうだ。お、ありゃゲヘナの炎か。うん、予定通りだな。
◆
「―――とまあ、そういう予定な訳よ」
「成程……名声と資産を同時にゲット、という訳ですか。素晴らしいですね」
「更に依頼内容の変更に合わせて報酬の値上げもできたしね。デミウルゴス様々だよ」
「後でご褒美の1つでもあげないとなぁ……」
作戦説明の待ち時間に俺達の真の目的をリーダーに説明する。多少の変更はあるだろうが、向こうにはマデウスこと顕現体も居る。修正は簡単だ。
と、何か髭面が近付いてきた。何だっけどっかで見た顔だな。
「お久しぶりです。モモンガさん、マーキナーさん」
……あ、この髭面はアレか。最初にカルネ村で会った戦士長か。やっべすっかり忘れてた。
「あ、ど、どうも。えっと……ガゼフさん、でしたっけ?」
「ええ。噂を聞いてもしやと思いましたが、やはり御二人だったのですね。モモンさんとマキナさんとお呼びした方が良いですか」
「……ええ、そちらでお願いします」
痛い! リーダー痛い! 足踏まないで! ごめんなさい! 顔変えてなくてごめんなさい! でもリーダーも即偽名って解る名前じゃん! おれだけのせいじゃないよ!
「御二人がついて頂けるならこちらとしても非常に心強いのですが……敵もまた強大との事。勝算の程は?」
「頭数だけは揃ってますし、被害を拡大させないぐらいなら大丈夫ですよ。勿論、余裕があれば倒したいとは思いますけど」
「向こうの狙いは悪魔を召喚するアイテムだと言っていましたし、それをどちらかが回収なり破壊なりすれば撤退するでしょう。そう分の悪い戦いでもありません」
「……そうですね。では、申し訳ありませんが私はこれで」
戦士長が軽く頭を下げて去っていくが、ちょっとどうすんのこの空気。あんた王国最強なんでしょ? こんな人目のある所で頭下げんなバーカ!
「……モモン殿は、偽名を使われてるのか?」
まだいた。え、何この仮面死体幼女。しかも俺スルーですか?
「ま、まあ冒険者としてはよくある事です。あまり詮索しないでいただけると助かります」
「そ、そうですね! すみません……それにしても王国戦士長があそこまで言うとは、流石ですね。以前にも面識が? っと、これも詮索になってしまうか……」
「以前会った事があるという程度ですよ。ああ、それと偽名の事は内密にお願いしますね」
「はい! ……よし。その、実は私も偽名なんです。私だけ知っているのも不公平なので、できれば聞いて頂けますか?」
リーダーの体がビクリと震える。これはきっと脳内で「興味ねーよ!」とか全力でツッコんでいるんだろう。頑張れリーダー、これもコネ作りだ。
「そこまでして頂くのも悪い気がしますが、よろしいんですか?」
「ええ! ―――キーノ・ファスリス・インベルンです。2人だけの時はキーノと呼んでください」
「そ、そうですか……では、私も人目が無い時はモモンガで構いません」
「はい、ももんがさま……」
「いや人目あるっちゅーに」
と言うか人の隣でイチャつくでない。え、俺がシズとイチャつくのは良いんだよ! 文句あるか!
「では我々は別室にて最終確認を行います。アインズ・ウール・ゴウンの方々もこちらへお願いします」
お、呼んでる。んじゃ行こか。
◆
「え、死体?」
「うん。あれ、気付いてなかった? 俺のスキルには引っ掛かってたけど……」
ゲヘナの炎で包まれた領域内、空を移動中に話題になったのは冒険者チームを纏めている青の薔薇の一員、イビルアイことキーノちゃんである。
シズとユリはまた別の場所で待機させており、エントマとの戦いを他の連中に見せるつもりだ。こっちの決戦は誰も見てないからね、仕方ないね。
「おかしいですね。不死の祝福でアンデッドなら探知出来る筈なんですが……」
「じゃあ装備品で隠してるとか。エッグヘッドでスキル使ったらバッチリ全身見えたから、少なくとも生きてる人間じゃないよ」
俺のスキルの1つに非生物探知というものがある。コイツは生きてる動植物以外をレーダーで探知でき、地形や非生物モンスター等を探れるというそれなりのスキルだった。
因みにこの世界に来た事で壊れ性能になったスキルでもあり、ユグドラシルではできなかった装備品単位での探知を可能にしている。つまり服を着ていればそれだけで俺に位置がモロバレになるのだ。
まあ結構低位の探知妨害で使い物にならなくなるが球状に発動すれば地面が抉れて見えるのでバレ、装備に沿うようにすると足の裏がついた地面だけ消える。後は俺がそれに気付くかどうかだ。
そして人間だと空中に服や装備が浮いてるように探知する事になるのだが、アンデッドの場合は肉体も丸見えだ。イビルアイもその類であり、アンデッドである事は誤魔化せても非生物であるという事は誤魔化せなかったようだ。
「それだと仮面を被っているのも頷けますね。しかしスケルトンではないでしょうし……吸血鬼ですかね?」
「多分ね。キョンシーやフレッシュゴーレムって線もあるけど、マデウスの正体に気付かなかったからゴーレムやオートマトンって可能性はまず無い」
「抱えた時も体格相応の体重でした。しかしアンデッド隠しの装備ですか……欲しいな」
お前アンデッドだろーって言って自分の顔見せればくれるんじゃない? 無理かな? 無理だな。
と、やがて地上から迎撃用の一撃が飛んでくる。俺達はそれを回避し、やがて広場のような一角へと降り立った。
「―――お待ちしておりました。モモン様、マキナ様」
「んじゃ後は任せるぞ、ヤルダバオト。俺は適当に戦ってるフリしてくる」
「はい、お手数をお掛け致します。マデウス様」
いつものように深々と礼をしたデミウルゴスに先導されて俺達は歩き出す。代わりに一度顕現し直したマデウスがフワリと飛び上がり、適当に破壊活動を始めた。あ、悪魔1匹吹っ飛ばされた。
「こちらへどうぞ。簡素な物ではありますが、御席を用意させて頂きました」
「情報系その他諸々の対応はしてある、問題ないぜ」
「2人ともご苦労……デミウルゴス、マーキナーさんから聞いているがこの作戦は金銭的・人材的資源の確保、八本指への襲撃の攪乱、機械神マデウスの悪評立てで良かったか?」
「はい。同時にそれをアダマンタイト級冒険者チームアインズ・ウール・ゴウンがそれを撃退する―――私だけではここまでの利益を上げる事はできなかったでしょう。やはり御二方の叡智にはとても敵いません……」
デミウルゴスが用意したソファーに俺とリーダーは腰掛ける。相変わらずのべた褒めっぷりだが、マッチポンプだとバレなければ今回は俺達の総取りだ。
更に八本指を掌握できる可能性もあり、シャルティアを洗脳した奴と王国の関係が無い事もほぼ確定となった。ウハウハである。
「いやいや、今回の作戦の手柄はお前と協力してくれた奴ら皆のもんだ。俺らは最後にちょっと付け加えただけだよ」
「ですね。それでデミウルゴス、最後にお前を退場させる時だがどういう方向を予定している? それに合わせて動こう」
「ありがとうございます。私は圧倒される形になり、マデウス様も二人掛かりでは不安が残る……そこで王都に悪魔を潜ませて人質を取る、という事にしようかと」
「解った、それでいこう。ではお互いに攻撃しつつこちらの先陣の辺りへ着地するように<飛行>を使うか。デミウルゴス、少し痛いが我慢しろよ?」
「畏まりました。お手柔らかにお願いしますよ……!」
さあ、英雄と邪神が産まれる時間だ。
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