機械仕掛けの超越者   作:巣作りBETA

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一旦ここで止まります。他の国の内情が解った頃に再開するかも。うわぁ。


10 第一回チキチキナザリック防災訓練

 

「はぁぁぁぁぁ……」

 

 開幕早々ため息つきやがったこの骸骨。

 

「そんな落ち込まないでよリーダー。折角帝都まで来たのにさ」

「落ち込みもしますよ……何ですか世界征服って」

 

 今まで幾度となく聞いてきた言葉に肩を竦める。大方リーダーの事だから適当な事言ってデミウルゴスが覚えてたとかその辺でしょ?

 

「でも悪い手でもありませんよ? 実際俺達は超越者ですし、引き籠るなら日々の糧の為に張り切る必要も無い……生き甲斐がないんですよね、このままだと」

「だから敢えて困難な目標に挑戦する、って事ですか?」

「ええ。まあ流石にビックリしたんで『まだ早い』って止めましたけど……」

「あれは本当にナイスプレーでした。私の立場だとあの空気で却下はできなくて……」

 

 リーダー、押しが弱い所があるからね。まあ俺達が同じ方向を向いてればアルベドやデミウルゴスは「流石は至高の御方々……」って深読みしてくれるし。

 それにまだ王国の犯罪組織を掌握した程度だ。デミウルゴスが言ったように表立って行動できないというデメリットはあるが、それ以上にまだ隠れているメリットの方が大きい。

 

 最低でも俺達が自由に動ける余地だけは確保し続けないといけないだろう。俺もリーダーも根っこは一般人なのだ、気が休める時間は欲しい。

 何より大手を振っての力押しはスマートじゃないし、密かに行動して一気に仕留める方が好きだ。気付いた時には手遅れ、ってね。

 

「実際早いと思いますしね。最低でも大陸一つ分は国の情報を得ないと」

「そう言えばこの世界ってどういう形なんでしょうね? 惑星なのか板の上なのか……そこから調べないと駄目か」

「で、最終的にはナザリック帝国でも何でも作って世界を統一、その過程で得られた技術でより高みへと向かうのが理想ですね。自衛用の神器級武器が一家に1つは置いてある、みたいな」

「また恐ろしい国ですね……」

 

 それとこれはリーダーには言わないが、元の世界に帰る方法も見つけておきたい。こっちが嫌な訳ではないが、最低でも手紙の1つは送っておきたい所だ。

 正直あんなマッポーめいた世界よりもこっちの方がずっと良いが、それでも親兄弟も友達も居る。仕事もある。気にならないと言えば嘘になる。

 

「まあ何にせよまだ暫くは情報収集の段階って事で」

「ええ、それは同感です。可能なら『燃え上がる三眼』のように各組織にスパイを入れたい所ですね」

「流石リーダー、目標がデカいね……っと、見えて来たか」

 

 話している内に目標の建物が見えてくる。分厚く高い塀に物見塔、巡回や飛行部隊による警戒も厳重なこの建物は帝国魔法省。

 今回のターゲットはここのボスであるフールーダ・パラダインという魔法詠唱者だ。八本指の情報を精査した結果、帝国を切り崩すならコイツからが一番だろうという結果が出ている。

 

「しかしいきなり中枢狙うとか、流石デミウルゴスって感じだよね」

「それも御見通しでしたのでしょう? ってのはいい加減やめて欲しいんですけどね……」

「ちょこちょこ解んないって言えばいいのに……俺結構言ってますよ?」

「マーキナーさんが言うから余計にデミウルゴスの期待が大きくなってるんです! ああ、ない筈の胃が痛みそうだ……」

 

 などとリーダーと漫才をしていたら警備をしていた騎士に誰何されました。そこでアダマンタイトのプレートを見せ、フールーダさんに会いたいと伝えてみる。

 アポなしで会えるかどうかは割と微妙なラインだが、そこは賭けだ。それに駄目なら駄目で他の予定を繰り上げれば良いんだし……と、大丈夫か。流石はアダマンタイト級、ってか?

 

 やがて通されたのはまあそれなりってグレードの応接室だった。勿論ナザリック基準であり、王都の騒動の時に呼び出しやら何やらで使った部屋よりは豪華だ。エ・ランテル? 比較にならんよ。

 そして暫く待つと頭髪から衣服まで真っ白といった印象の老人―――フールーダ・パラダインが現れたのだが、何故に硬直しとるね? ああ、探知防御で見えなくなってるのか?

 

「じゃあリーダー、どうする? さっそくやっちゃう?」

「そうですね。八つ当たりだって自覚はありますが、少しは面白いリアクションを見せて貰いましょう」

「じゃあせーので解除しよっか」

「ええ。せーの」

 

 リーダーが指輪を一つ外して俺がパーツに組み込んだ探知防御を解除すると、フールーダが勢いよく後ろにスッ転んだ。すげぇ古典漫画みてぇ。

 さて、この人は使える魔法の位階を見る目を持っているそうだが、超位魔法の使い手はどんな風に見えてるんだろうね?

 

「な、な、なぁ―――!? 馬鹿な、解るぞ……第七位? 違う、これは第九ですら……! おぉ、神よ……!」

「お? いきなり正体言い当てやがった。思ったより有能だな……」

「やはり、やはりそうなのですね! 私は魔法を司る小神を信仰してまいりました。しかしそのご様子ではそれとも異なるのですね!?」

「まあね。因みに俺はマジモンの神様だけど、魔法はそんな得意じゃないんだ。この場合はどうしたらいいのかな」

 

 おーおーおー、ビックリしてるビックリしてる。俺とリーダーの間でめっちゃ視線動いてる。うん、この様子だとどんな魔法がどれだけ使えるかとかも流石に解らないって感じかな?

 

「マーキナーさん、そこまで言ってしまって良かったんですか? まだ完全に信用できる訳では……」

「リーダー、ビックリさせたいって言ってたでしょ? それと呼び方、戻ってるよ」

「それは失礼。さて、フールーダ殿―――」

「し、失礼ながら伏してお願い致します! 貴方様方の、魔法の深淵を知る方々の教えを頂きたく存じます! 代価が必要ならば全てを! 私が差し出せる全てを差し上げます!」

「アッハイ」

 

 ドン引きしてる場合じゃねーよリーダー。いやまあリアル五体投地とか俺もドン引きしてるけどさ。どっちかって言うと四角い顔の異端審問官みたいな勢いだけどさ。

 

「じゃあ早速で悪いんだけど、この国頂戴」

 

 

「……よし、と。じゃあリーダー、お願い」

「ええ。<転移門>」

 

 ワーカー4チームがナザリックへ向かったのを確認し、俺達は自分達のテントの裏手に回る。そこで発動させた<転移門>から5人の影が現れた。

 ずらりと並んだのはメイド服と竹田頭巾。プレイアデスとリーダーの恰好をしたパンドラズ・アクターである。ユリとシズも後ろの方でメイド服に着替えてから列に加わった。

 

「さて、悪いが挨拶は省略だ。予定通りプレイアデスはマキナさんと同行、パンドラズ・アクターは私の影武者をしろ。私はナザリックへ戻る」

「パンドラズ・アクター、変な言動すんなよ?」

「ンお任せ下さいっ! 創造主たるモモンガ様の影武者という大役ッ、見事こなしてぇご覧に入れましょうっほ! この私めに―――お任せあれ」

「……うわぁ」

 

 小声で叫ぶという地味に器用な事をするパンドラズ・アクターに俺達の視線が突き刺さる。あ、リーダースゥーってなった。

 いやリーダーの影武者頼むのもこれで2回目だけどさ、またテンションたっかいよなぁコイツ。あと全体的にカッコつけてる時のリーダーにそっくり。

 

「さてさて、あんまり長い事<転移門>出してるのもまずいしさっさと移動しますか」

「ええ、そうですね……パンドラズ・アクター。良いか? くれぐれも、く! れ! ぐ! れ! も! ……変な言動はするなよ?」

「畏まりました。以後こちらは私にお任せ下さい」

「頼むぞ、ホント……」

 

 がっくりと肩を落としたリーダーが<転移門>へと消える。パンドラズ・アクターもテントへと入った事を確認し、俺達は夜闇へと溶けた。

 今回、俺とプレアデス6名はナザリック地下大墳墓攻略を目指す。一種の防災訓練だ。当然ながら最下層まで進めるとは思わないが、それでもこちらには全ギミックを網羅しているシズが居る。

 

「金のかかる装置厳禁とは言え、お互い可能な限り殺さないようにってのが難しいよなぁ……」

「後は階層守護者は次の層に進まれたら追ってはいけない、でしたか?」

「ああ。その条件出した時点で正面突破は無いってバレてるだろうし、向こうも警戒してくる筈だ……と、ただいまー」

「おやぁ? 小霊廟が荒らされてますねぇ」

 

 話しながらキチンと正面入り口から入る。因みにこの最外周の壁を乗り越えるように入ると、トラップの発動フラグが立つ仕掛けになっていたりする。故に面倒でもキチンと正面から入るのが一番なのだ。

 そして正面を見れば、ドアが開きっ放しの小霊廟。大方ここに入れておいた飾りつけ用アイテムを持って行ったんだろうが、本当にそれだけで金になるんだな。冒険者稼業が馬鹿らしくなってくる。

 

「下等生物が……よくもナザリックを荒らし回って」

「この程度の財宝を必死に持って帰ろうとして……いじらしいとすら感じるわね」

「まだ何人か地表に残ってるっすね。マーキナー様、如何為されますか?」

「そりゃあまずはお喋りからだよ。戦闘を楽しめない分、こういう所で楽しみを見つけないとな」

 

 ひゃひゃひゃ、と空気の抜けるような笑い声がする。ああ、この笑い声はあの爺ちゃんか。

 

「やっほー、さっきぶりだね」

「マキナとの! とうしてこちらに!? 何かあったのて!?」

 

 大霊廟の前にはドラゴンの鱗を鎧にした爺ちゃんを中心にしたチームが居た。他の面々が居る様子もないし、地表部分の探索をしてるのかな?

 しかしあの爺ちゃん程度の力量で俺を心配しようとは随分舐められて……いや、純粋に尊敬してくれてるのかな。あの速度の槍なら上に乗るぐらいリーダーでもできるだろうに。

 

「まあちょっとね……それはさておき調子はどうだい?」

「ええ、好調なすへりたしてすしゃ。かなりの量のさいほうも手に入りましたし……所て、後ろのおしょうさん方は? さきほとはおりませんてしたか……」

「何、この後用事があってね。そしておめでとう、1つ聞くよ? ―――服従か死を超える苦痛と絶望か、好きな方を選びな」

 

 この質問は今回の作戦にワーカー達を巻き込むと決まった時、ここだけは譲れないとリーダーと本気で討論した結果だ。

 この企画はリザードマンの時と同じ、俺達から動いて彼らを今までとは色々な意味で違う世界に連れて行く。故に1回は選択肢を与えるべきだと感じたのだ。

 

 当然リーダーはそれに反発し、薄汚い盗人にかける慈悲は無いとした。しかし俺からしてみりゃ報復でも成り行きでも無いのだし、前例だってある。

 彼らのような弱者が望むのであれば、俺達による慈悲を与えなければいけない。それにナザリック外で動ける人材は少しでも必要だしね。

 

「マキナとの? それは、とういう……?」

「別に難しい事を聞いている訳じゃないさ、どちらかを選べって話だ。ああ、沈黙も答えと見做すぞ?」

「……ては、とちらもえらへませんな。正体見たり、という所てすか」

「正体、ねぇ……? まあ良いや。回答は為った。ゴミ同然のアイテムでも窃盗は窃盗、相応の処分は必要だよな? オールド・ガーダー、5体出せ」

 

 俺が一度指を鳴らすと、爺ちゃん達を囲むようにナザリック・オールド・ガーダーが現れた。俺達のテストは一層に入ってからなのでまだ指揮権も問題なく使える。

 爺ちゃん達はオールド・ガーダーに驚くも、即座に陣形を整えた。まあ同数だから問題なく倒せるだろうけどさ。

 

「このアンテットはマキナとのかたされたのて……?」

「ご覧の通り、だよ。まあこの数なら問題無いだろ? 何処まで逃げられるか、後で聞かせてもらうとしよう」

「……? 良いのかの? 儂らを逃かせはこの話は広まってしまうそ?」

「逃げられれば、な。それにアンタらは服従を選ばなかった。それなら行き着く先は1つだけだ」

 

 後は特に言う事も無し、俺達は戦い始めたオールド・ガーダーの隣を悠々と歩いて大霊廟へと入る。流石にあの数なら逃げずに戦うか。

 

「さて、それじゃあここからが本番だ。前からシズ、ソリュシャン、ルプスレギナ、俺、ナーベラル、エントマ、ユリの順で行くぞ」

「「「はっ」」」

「あの爺ちゃん達は逃げるか背後を狙うか……どっちかな? <伝言>リーダー、そろそろ始めるよ」

『解りました。お手柔らかにお願いしますね』

 

 そりゃこっちの台詞だっての。

 

 

「走れ走れ走れぇぇぇぇっ!」

「「「ヒィィィィィィ!」」」

 

 シズを先頭にノンストップで通路を駆ける。たまに現れるモンスターを殴り、後ろから迫る大岩に潰されないよう走り、足元感知型の罠にかからないようシズと同じ場所のみを踏んで跳躍する。

 また現れたモンスターを蹴り飛ばし、絶壁や穴は俺とシズが飛行ユニットを装備してあるので背に乗るなり手足にぶら下がるなりで通過、足の速いアンデッドはルプスレギナに浄化してもらった。

 

「次が来ました! 蒼褪めた乗り手2、いや3! エルダーリッチが7!」

「ずっと見られてますぅ! アイボールコープスがどっかに隠れてます!」

「マーキナー様ぁ! やっぱ走ってやり過ごすのは無理っす! 足を止めて迎撃したいっす!」

「ルプスレギナ、弱音を吐かない! マーキナー様は私達なら出来るとお考えになられたからこの作戦を決行されたのよ!」

「ナーベラルはずっと<飛行>で飛んでるから楽でしょうけどね……! シズ、次はどっちかしら!?」

「……次、150メートル先を右折」

 

 そう言いながらもシズはジャンプし、壁の僅かな出っ張りを足場に三角飛び。天井の一部分を押すように更に加速して通路の一角を通り抜けた。

 俺達はそれをトレースするように同じ動きで進む。シズが進んだ場所以外には間違いなくトラップが仕掛けてあり、それを発動させないようにするには同じ動きをするしか無いからだ。

 

「……この先の暖炉に第三階層まで直通の穴がある。ただし一番下はマジックキャンセル付きのデストラップだから飛行必須」

「ナザリックの防衛設備を甘く見ていた訳じゃないけれど、これは厳しいわね……」

「うぉっと!? 何かこの辺ゴースト多くないっすか!?」

「常駐しているのと周回型のタイミングが合ったんでしょう。マーキナー様、またお手をお借りします」

「符術で強化するので手一杯で蟲が呼べないー!」

「通路上方、スライム! ……ブラックウーズ!?」

 

 ゲ。リーダーの奴、俺にダメージ与えないで酸の効果だけ狙って出してきやがったか!? 畜生今の装備に武器破壊防止付いてねーよ!

 

「あ、あの暖炉か! 飛ぶぞシズ!」

「了解……!」

 

 ギリギリの所でナーベラルとエントマを腕にぶら下げ、背中にユリを乗せる。シズもソリュシャンとルプスレギナにしがみ付かれながらも縦穴を真っ直ぐ降りて行った。

 そしてデストラップ直前にあるスペースへと入ったのだが、たしかここって袋小路じゃなかったっけ? 何かそんなデッドスペースがあった気がするんだけど。

 

「この先の壁を破壊します。マーキナー様、御許可を」

「ああうん、そういう方法も有りっちゃ有りか……よし、やれ!」

「……何かシーちゃん、随分気合い入ってるっすね」

「己の最大限の力を創造主たるマーキナー様にご覧頂いているんですもの、当然じゃないかしら?」

「シズが羨ましい……私も外向きの仕事で活躍したいわ」

「ナーベラルは人間を下等生物って呼ぶのを何とかしないといけないと思うなぁ」

「幾ら弱いと言ってもエントマの攻撃に耐えられる存在が居る以上、その認識は改めた方が良いでしょうね……と、ここに出ましたか」

 

 毎秒5000回転のドリルアームで壁を粉砕すると、そこは第三階層の随分奥の方だった。うーん、ここは何とかしないと駄目だな。

 しかし流石に壁をぶっ壊すと気付かれたのか、シャルティアが宙から舞い降りてきた。最初から第三階層で待つつもりだったんだな。

 

「流石はマーキナー様とプレイアデス、という所でありんしょうか? まさかこんなに早いとは思いんせんでしたわ」

「おう、シャルティアか。お勤めご苦労」

「いえ、これも階層守護者の大事な仕事……そして今は訓練中、加減は致しんすが多少の怪我は御覚悟頂きんすよ?」

「はっはっは、そりゃ怖い。それなら対シャルティア用最終兵器を使うしかないな」

 

 最終兵器発言に俺以外の全員が身構える中、俺はユリの後ろに回り腹の辺りを抱きすくめる。

 

「え、ちょ、っちょ!? マ、ママ、マーキナー様!? いきなり何を!?」

「……ユリ姉」

「ち、違、違うのシズ! これはマーキナー様がいきなぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 何か一部から不穏な気配がするが、それはスルーして俺は回転し始める。腹を抱えるタイプのジャイアントスイングと言えば良いか。

 当然ながら遠心力でユリの首が取れ、良い感じに加速が付いた所で俺はシャルティア目掛けてユリを放り投げた。あ、頭だけは上に投げて守ってやがる。

 

「わっとと……あの、マーキナー様?」

「ほれ、頭パス」

「マーキナー様! いきなり何をなさるのですか!? まさかこれが最終兵器だとでも!?」

「うん―――シャルティア、好きにして良いぞ」

「「……え?」」

 

 お姫様抱っこの形でユリを抱えたシャルティアに頭も追加で投げてやり、最終兵器たる一言を加える。

 一拍置いた後の反応は言葉こそ同じだが、顔色は赤と青で両極端であった。

 

「ぉほっ!? ほっ、本当に! よろ、宜しいのですか!?」

「言ったろ? 好きにして良いって……よし、ユリの犠牲を無駄にするな! 行くぞ!」

「「「はっ!」」」

「えっ、ちょっ、待っ―――あんっ!?」

 

 ……俺達は仲間を1人生贄に捧げ、その犠牲に胸を痛めながら第四階層へとひた走るのであった。

 

 

『……シャルティアがやられたようだ』

『何ト!? シャルティアハ純粋ナ戦闘ナラバ守護者最強―――流石ハマーキナー様ト言ウ事デショウカ』

 

 極寒の世界、第五階層に一人立つコキュートスへとモモンガからの<伝言>が入る。感心するコキュートスを余所に、モモンガは大きく溜息をついた。

 

『いやうんまあ……後でシャルティアは説教だな。それでガルガンチュアはマーキナーさんには勝てない。間違いなく第五階層まで来るだろう、気を付けろよ?』

『オ任セ下サイ。久シブリニ血ノ滾ル相手ト闘エテ嬉シイグライデスカラ!』

『……とにかく気をつけるように。何をしてくるか解らないからな』

 

 <伝言>が切れ、再びコキュートスの周囲には静寂が戻る。本来ならば複数の配下と共に戦うべきなのだが、リザードマン達とでは味わえなかった興奮が眼前にあると考えると1人で戦う以外の選択肢は彼には無かった。

 そして、眼前にソレは現れる。巨大な足音と共に、遥かな高みから見下ろすように。

 

「お、コキュートス発見」

「……ハ、ハハハ、ハハハハハ! 流石ハマーキナー様! マサカソノヨウナ手ガアルトハ! マサカ……ガルガンチュアヲ第四階層ヨリ持ッテ来ルトハ!」

「折角使える戦力があるんだ、使わなきゃ勿体無いだろ?」

 

 戦略級ゴーレムの肩に乗った主人の1人を見てコキュートスは笑う。当たり前だ、誰がこんな攻め方を予想してくるか。

 そして同時に1人で待っていて良かったと彼は感じていた。ガルガンチュアと正面からぶつかるのであれば、幾ら手勢が居ようと殆ど関係ないからだ。

 

「然リ! シャルティアニ全テ持ッテ行カレルトイウ心配等、杞憂デアリマシタナ! シカシ、命令権ハ一時的トハイエ無クナッテイル筈。ドウサレタノデ?」

「ドッキングだよ。巨大ロボは男の子の夢だからな。俺とシズだけのパンタグリュエルシステム―――その身を以って味わいな! パンチだ! シズ!」

「……マッ」

 

 ガルガンチュアから聞こえるのは少女―――シズの声。直接自身と結合する事で支配下に置いたという事か。そしてガルガンチュアの左拳が固められ、コキュートスへと振り下ろされた。

 

「ヌゥゥゥゥゥン!」

「んじゃ、悪いが先を急ぐんでな。シズ、投げろ!」

「……マッ」

 

 4つの腕に武器を持って防ぐも、その衝撃は凄まじい。ガルガンチュアは戦略級ゴーレム、つまり城壁破壊等に用いられるだけあって単純なステータスで見れば守護者最強のシャルティアを上回っているのだ。

 その衝撃に耐えている内に右手でマーキナー一行は投げ飛ばされる。音速の壁を超えたらしい速度は今から追いかけても無駄であり、何よりもコキュートスは眼前の敵に興奮を抑えきれなかった。

 

「シカシ、本来ナラ広域破壊ヤ動カヌ目標ヘノ攻撃ヲ目的トシタ存在―――ソレヲコウモ的確ニ攻撃ヲ当テルトハ。確カ、ドッキングト仰ッテイタナ……」

「……はい、コキュートス様。現在ガルガンチュアは私、CZ2128・デルタが操作を行っています」

「成程。シカシ、マサカシズヲ捨駒ニサレルトハ大胆ナ戦法ヲ取ラレル―――」

「違う」

 

 客観的に見ればコキュートスの言う通り、シズは捨駒であった。幾ら訓練であろうと彼女を溺愛しているマーキナーがこのような戦法を取るとは、誰も想像できなかっただろう。

 しかし、その一言へのシズの返答には隠しきれない怒気が含まれていた。滅多に表情を変えず、無表情でマーキナーの膝に乗るだけの存在ではない彼女がそこに居た。

 

「何?」

「……私は、マーキナー様にここを任された。だから、コキュートス様が相手でも全力で行く」

「フフ……勝チヲ狙イ、ソレモ不可能デハ無イカ! ヨカロウ、先ノ一言ハ謝罪スル! コチラモ全力デ行クゾ!」

「……負けない」

 

 そして巨人と異形の戦いが、幕を開けた―――。

 

 

「あーららぁ……参ったねこりゃ」

 

 巨大な2つのタンク型の飛行ユニットを吹かせながら俺はボヤいた。両腕にはルプスレギナとソリュシャンが掴まり、その左右ではエントマとナーベラルが自力で飛んでいる。

 

「まさかそれだけの戦力でここまで来られるとは、流石はマーキナー様ですね」

「で、でもこれは無理……ですよね?」

 

 そして俺達の前には課金ドラゴンが2匹おり、その背にはアウラとマーレがそれぞれ乗っていた。いきなり最大戦力出してきやがったぞコイツら。

 

「はぁ……ここでか。エントマ、ナーベラル。やれ」

「はっ! <二重最強化・連鎖する龍雷>!」

「雷鳥乱舞符に鋼弾蟲、一斉発射ぁー!」

「その程度! ブレスで撃ち落とす!」

 

 夜を映す天井に雷光が輝き、それを迎撃するように2匹のドラゴンがブレスを吐く体勢に映る。よし、今だ!

 

「―――ッ! お姉ちゃん! 何か来る!」

「おせぇよ! ロケットバズーカ、ダブル発射ぁ!」

 

 背負っていた飛行ユニットを肩に担ぐように移動させ、それをアウラとマーレ目掛けて発射する。それにはルプスレギナとソリュシャンが跨るように乗っており、迎撃にそれぞれが対応している。

 あー、折角だし大陸間弾道ミサイルに乗せて兎魔法でも使わせればよかったか。等と考えている俺は自由落下の最中にドラゴンのブレスに焼かれた。熱い。

 

「やった! ……大丈夫だよね?」

「だ、だと思うけど……最後にしては何かおかしいような……? あっ!」

 

 お、マーレは気付いたか。アウラが俺の顕現体を回収しているのをソリュシャンの体からはみ出しながら見ると、既に追いつけない距離まで来ているのが確認できた。

 そう、最後のあがきを行ったのは俺の顕現体であり、俺の本体はソリュシャンの体内の空間に収まっていたという訳だ。

 ナーベラルとエントマは最初から時間稼ぎ要員であり、ルプスレギナは囮である。随分気前よく手札を使っているように見えるが、これ以上は思いつかなかったのだ。

 

「うぅ……流石にドラゴンのブレスを正面から受けるのは痛いわね」

「あー、悪いなソリュシャン。ルプスレギナに回復……ってブレスのせいで軌道が変わっちまったな。合流は無理そうだ」

「いえ、お気になさらず。訓練とは言えこうしてマーキナー様の本体をお運びできるのですから。痛みよりも嬉しさの方が勝っておりますわ」

「そう言ってくれると有り難いがね……お、コロシアムに落ちそうだな。着地、気を付けろよ」

「お任せ下さい」

 

 やがてロケットバズーカも速度を失い、測ったかのようにコロシアムの闘技場内へと落下した。ソリュシャンは全身にダメージを受けているとは言え、見事な身のこなしで着地に成功する。

 

「さて、ここからは……んぉ?」

「な、なんだぁ!?」

「メイドが降って来た……!?」

 

 一応七層まで行こうかと考えていると、すぐ近くに誰かが居た。あー、どっかで見た顔だな。ああ、そうかワーカーのチームか。

 平均年齢が若いようだが優秀らしく、混乱からすぐさま立ち直って俺達を警戒している。

 

「……1つ聞きたい事がある」

「ああ、何だ?」

「い、石が喋った!?」

「―――何やってるんですか、マーキナーさん」

 

 驚くワーカー達を余所に、俺はやって来たリーダーの元へと移動する。流石にリーダーに対して警戒しているが、それよりも困惑の色の方が強い。

 

「いやー、流石にここまでが限界だったよ。で、リーダーはどったの? お迎え?」

「それもありますが、この薄汚い溝鼠共をどうしようかと思いましてね」

「何でそこまで不機嫌かな……ああ、それで聞きたい事があるんだっけ? 何、言ってごらん? 聞くだけ聞くよ?」

「え、あ、ああ……アンタ達は―――いや、ここはどこだ?」

 

 混乱して聞きたい事が増えたのだろうが、まずは周囲の状況を確認するべきだと判断したんだろう。うん、それは悪くないね。

 待ってるのは絶望だけだけど。

 

「ここかい? ここはナザリック地下大墳墓の第六階層にある円形闘技場、アンフィテアトルムだ。演目は見るも無残な虐殺ショー、演者はお馬鹿な侵入者だよ」

「第六、階層……?」

「如何にも。ああ、外だから<飛行>で飛べば逃げられるとでも思ったのか? 途中で天井か壁にぶつかるぞ?」

「そんな馬鹿な……世界を作ったとでも言うのですか!?」

 

 言うのですよ。ゲームのデータが現実になるとこうも恐ろしい事になるかと実感する瞬間である。

 

「さて、他にも色々と疑問があるみたいだね? 折角だし答えてあげ……あ、ごめんちょっと待って」

「な、にが―――!?」

「ドラ、ゴン……!?」

「マーキナー様ー! 御無事ですかー!?」

 

 どうやら俺の体を回収して来てくれたらしいアウラとマーレが頭上で旋回するドラゴンから飛び降りてくる。

 流石に羽のように着地、とはいかなかったが俺の体を丸ごと抱えて飛び降りた割にはダメージは見受けられない。

 

「あ、モモンガ様もいらっしゃいましたか! 高い所から失礼致しました」

「いや、構わんよ。アウラ、マーキナーさんに体を返してあげなさい。マーキナーさん、今回の記録は第六階層までで良いですね?」

「ええ、構いません。悪いけどちょっと支えててな……っと。あー、ん、んんっ!」

「ご、ごめんなさいマーキナー様……思い切りブレスを当てちゃって……汚れてませんか?」

 

 アウラに支えて貰い、元の体に戻る。別にマーレもそんなに気にしなくて良いのに。多少煤けてる程度なら新しい体を出すより楽だしな。

 コキコキと骨を鳴らすように体の調子を確かめていると、ワーカーチームが絶句したようにこちらを見てくる。待たせちゃったか。

 

「な……マキナさん!?」

「ど、どうしてここに!? それにその体は……!」

「それにドラゴンをつれたダークエルフって、一体……!」

「―――リーダー? まさか、このエルダーリッチは!?」

 

 おや、魔法詠唱者のお嬢さんは気が付いたな。リーダーも興味深そうにしている。ただエルダーリッチじゃねぇぞ?

 

「まあご覧の通りに俺は人間じゃなくてな。このナザリック地下大墳墓のナンバートゥーをやらせてもらってる」

「何ですかその発音……そして私がナザリック地下大墳墓を擁するギルド、アインズ・ウール・ゴウンのトップであるモモンガだ。

 それと1つ訂正しておくと、私はエルダーリッチではない。デスオーバーロードだ」

「そ、んな……」

「はは……人間の領域じゃねぇって思ったけど、本気で人間じゃなかったって事かよ……」

 

 イエス。そしてそんな自己紹介をしていると、若干焼け焦げのあるプレイアデスを筆頭にコキュートスとシズ、何かツヤツヤしてるシャルティアと青ざめたユリ達もこちらにやって来ていた。

 それに合わせたのかヴィクティムを小脇に抱えたデミウルゴス、ご機嫌そうな恐怖公とやたら距離を取っているアルベドもやって来た。ドラゴン達も興味深そうに観客席の外壁で羽を休めてこちらを見ている。

 

「そういやリーダー、残りの連中ってどうなったの?」

「ああ、地上の老人達はオールド・ガーダーを撃退した後に脱出しようとしてアンデッドに強襲されて死亡、エルフの奴隷を連れた男はハムスケが始末しましたよ。それとハムスケが武技を覚える事に成功したそうです」

「おお、そりゃめでたい。あと確か1チーム居たよね? それは?」

「2人が我輩の所に、残りは1人ずつニューロニストと餓食狐蟲王の所へ参りました。信仰系魔法詠唱者はモモンガ様の御命令により別途確保しましたが、我輩の眷属達も喜んでおりましたよ」

 

 リーダーの代わりに答えたのは恐怖公だった。ワーカーチームは直立するゴキブリというビジュアルの恐怖公に驚き、エントマが密かに喉を鳴らす。我慢しなさい。

 

「じゃあ、残りはこいつらだけか……」

「「「ヒッ!?」」」

 

 俺の呟きにこの場に居る全員の視線がワーカーチームに集まる。誰か1人だけでもチーム壊滅に追い込める戦力が無数に居るんだから、そりゃ怖いよな。

 

「ああそうだ、1つ聞いておこう―――服従か死を超える苦痛と絶望か、好きな方を選ぶと良い」

「服従か、死を超える苦痛と絶望……?」

「そう、このナザリック地下大墳墓では死はそれ以上の苦痛を与えられないという意味で慈悲だからね。そちらを選んだ場合、真っ当に死ぬ事すらできないからな? 選択は重々気を付けろよ?」

「じゃあ、老公やグリンガム達はそれを選んで……」

 

 俺はその問いに満面の笑みを返す事で答えとする。あ、魔法詠唱者が漏らしやがった。

 

「さあ、選択の時間だ」

 

 


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