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リ・エスティーゼ王国、バハルス帝国、スレイン法国の間に広がる土地、カッツェ平原。そこに一番近い王国の町、城塞都市エ・ランテル。
三重の城壁の間に作られたこの町は石畳が敷かれておらず、大通りを少し歩けば足元が土塗れになる。特に今日のような雨の後は尚更だ。
「ふぅ……ん」
冒険者組合の受付嬢、イシュペン・ロンブルは欠伸を噛み殺した。冒険者は朝晩に一度に押し寄せる習性がある為、どうしても今のような空いた時間が産まれてしまう。
冒険者達が朝方に泥でつけた足跡も綺麗に掃除されており、これから何をしようかとイシュペンが考えていると外に繋がる扉が開いた。こちらから出ていく姿は無く、それはつまり外側から誰かが来たという事だ。
「……ん?」
受付嬢として有り得ざる声を出すイシュペン。その理由は困惑からだ。
通常、正面から冒険者組合に入って来るのは依頼主か冒険者のどちらかである。では、今入って来た四人組はどちらになるのか。
一人は茶髪で端正な顔立ちの青年だ。とは言え――この世界では――そう珍しい容姿でもない。物珍しそうに周囲を見渡しており、場慣れしていない事が解る。
そのすぐ後ろについているのは、絶世の美少女と言って過言は無いだろう。ピンクブロンドの髪をストレートに流し、何故か左目に何かの紋章の付いた眼帯をつけている。
まあ、この二人だけであればどこかの坊ちゃんと護衛の魔法詠唱者と言えるだろう。青年の衣服は変わったデザインではあるが、頑丈で立派なものだ。野外活動に適しているだろう。
少女の方は自身の肩ぐらいまである杖を持ち、ゆったりした袖の服に身を包んでいる。それと妙に角ばってはいるが背嚢と一目でわかる物を背負っていた。
問題はもう二人だ。
一人は先程の青年の隣を歩いている。身長が青年とさほど変わらないので男性だろうと思われるが、確証は持てない。
何故なら、顔や手足に一切の露出が無いからだ。顔は頭巾――見る者が見れば竹田頭巾か黒子のようだと思っただろう――で隠れており、視界確保用の隙間以外は全て覆われている。
手もゆったりとした袖に隠されており、全体的に色調も暗い。まあ、一応魔法詠唱者だろうという予測は出来る。
その頭巾男の後ろについている女性は更に訳が解らない。魔法詠唱者の少女と同じく美女ではあるが、非常にアンバランスな印象を受ける。
夜会巻きに結い上げられた黒髪は艶やかであり、手入れを欠かしていないと解る。顔にかけられた眼鏡も美しい装飾が施されており、そこだけ見れば舞踏会の会場のようである。
が、その首から下は質実剛健と言わざるを得ない。黒を基調とした衣服に白い革鎧を着こんでおり、所々に金属板が打ち付けられた見事な鎧だ。
因みにそんな鎧でも圧倒的な質量の双丘は隠しきれていない。腕には棘が無数に生えた凶悪そうなガントレットを装備している。
首から上は貴族の令嬢、下は冒険者。これなーんだ? と言わんばかりの謎の美女が居た。
「んん……?」
改めて四人を観察し終わったイシュペンは遂に頭を傾げる。何だこの四人組は、と。
偶然同時に入って来たなら、まあ解る。ただ彼らの距離感は非常に近く、お互いのパーソナルスペースに受け入れているのが良く解った。つまり偶然は無い。
ではこの四人を1グループと見做した場合、彼らは一体何なのかという疑問が生じる。お坊ちゃん、魔法詠唱者二人……に、女冒険者?
考えれば考えるほど良く解らない組み合わせだ。まあ、お坊ちゃんの護衛か何かと考える事もできるがパーティーとしての組み合わせのバランスが悪い。
もしや魔法詠唱者のどちらかが回復担当か、と思考を巡らせ始めた所で遂に四人組はイシュペンの目の前へと来てしまった。
その後ろではつい先程掃除された床がキラリと光っている。
「あ、よ、ようこそ。冒険者組合へ」
「ええと、冒険者になりに来たんですが」
「あ、はい……ええと、一名様でしょうか?」
「? いえ、四人です」
イシュペンはお坊ちゃんの道楽かなと負の感情を出しながら聞いてみるも、見るからに魔法詠唱者然とした二人や冒険者らしい女性も含めてだ、と青年が答えた。
慌ててイシュペンが残り三人の胸元を見るも、確かに冒険者である事を示すプレートを身に着けている様子は無い。
「あ、そ、それは失礼しました。では、まず加入料の必要書類料として一人当たり5銀貨頂きます」
「どうぞ」
頭巾を被った男――声からそうだと解る――がぬっと手を出し、イシュペンの前に20枚の銀貨を置いた。すり減ってはいるが間違いなく印も入っている。
「では、書類の作成を行いますが……代筆を行いますか? その場合銅貨5枚になります」
「では全員分お願いします」
青年が迷いなく答え、頭巾の男が銀貨を2枚追加した。これにはイシュペンは驚く。お坊ちゃんであれば読み書きは問題なくできるだろうし、魔法詠唱者が本も読めなくてどうするというのか。
とは言え仕事は仕事、と頭を切り替えてイシュペンはペンを用意した。ダジャレではない。
「それでは、登録する名前を教えて頂けますか?」
「マキナ、で」
「……シズ」
「ユリでお願いします」
「……まあ、良いか。モモンでお願いします」
◆
「んー、まあある意味期待通りである意味期待外れ、かな」
「そうですね。もう少し夢のある職業かと思ってました」
「きっと田舎から出てきた人とかもそう言ってますよ。人に伝わるのは大体華々しい話ばっかりですし」
「でしょうね」
組合を出て受付さんに教えられた宿屋へと足を向ける。頭巾でリーダーの表情は見えないが多少落胆したような声色というのが解る……ってか元々骨だから顔見ただけじゃ解んないんだけどさ。
俺とリーダーは現在シズとユリ・アルファを供にして最寄りの都市であるエ・ランテルへと来ていた。そしてつい先程簡単な講習を終えた所である。
「まあ手数料やらが掛かるのは解りますよ。でもこう……未知の遺跡の探索、とかあると思ったんですけどね」
「あー、そこは大事ですよね。まあ、ランクが上がればそういう仕事も出来るんじゃないですか?」
「ですかね。まあ明日辺り適当な依頼でも受けてみますか」
「そうしましょう。さて、この辺に教えて貰った宿屋がある筈ですけど……ああ、アレかな?」
歩いてる途中で見つけたボロい安宿に入る。酒場のようだが随分と暗く、そして汚らしい。これは客層だけが問題じゃない筈だ。
と、店員らしい恰好のハゲマッチョがこちらを睨んでいる。何だよ俺はそっちの趣味は無いぞ。
「宿だな。何泊だ」
「1泊でお願いしたい。4人部屋はあるか?」
「無いな。相部屋で1人5銅貨、2人部屋で7銅貨だ。あんたらはチームか?」
「ああ。マー……マキナさん。どうします?」
いやそれぐらいリーダーが決めてよ。まあここで聞いてこなかったらリーダーらしくないけどさ。
「まあ、2人部屋2つで良いんじゃない? こっちは女の子も居るし、襲われちゃうかも」
「そんな事する奴ぁ居ねぇよ。組合は犯罪者に仕事は回さねぇし、やる側も武装した相手なんざ襲えるか。それにここは俺の宿だ。
―――ボンボンの冷やかしなら帰りな」
「……2人部屋2つで14銅貨ですね。私の食事は結構……マキナさんはどうします?」
「んー、一応貰っとくかな……ん?」
おどけて肩を竦めたらハゲに睨まれたでゴザル。で、お兄さん。この足は何だい。邪魔だよ。
「えい」
「っ、があぁぁぁっ!?」
「なっ!? て、テメェッ!」
「うっさい」
邪魔な足を脛辺りから踏み折ったら怒られたでゴザル。うるさかったのでブン殴って黙らせたでゴザル。おー、よく飛んだよく飛んだ。
「やれやれ……店に迷惑はかけないで下さいよ?」
「人の邪魔する方が悪いんですよ。そう思いませんか、皆さん?」
「「「ッ!」」」
唖然とするハゲに銅貨を握らせたリーダーが溜息をつき、こちらを見ていた飲んだくれ達が一斉に視線を逸らす。やだなあちょっと微笑んだだけじゃないですか。
と、何やら店の奥から女冒険者がこっちにやって来た。凄いねこの人、周りの「オイオイオイ」「死ぬわアイツ」ってオーラを全く気にしてない。
「ちょ、ちょっとアンタ! 何してくれてんのよ!?」
「ん、何か?」
「何かじゃないわよ! アンタがあの男をぶっ飛ばしたお陰で私のポーションが割れたのよ! アレ高かったのに! どうしてくれんのよ!?」
「ありゃ、こりゃ失敬……ふむ、ならこれを代わりにどうぞ」
まともに相手をするのも面倒だったので下級治療薬をポンと渡す。どうせ5桁ほど死蔵してるアイテムだ。どうってこたぁない。
その後、一連のやり取りの間に鍵を受け取っていたリーダーと共に部屋に向かう。2部屋借りたので隣も俺達のだけど、やっぱりボロいな。
「汚い……それに狭い」
「全くです。お二方がこのような場所で休まねばならないとは……シズ、最低限の掃除だけでもしてしまいましょう」
「解った。マー……マキナ様、モモン様。隣の部屋の掃除をして参ります」
「ああ、それと変な仕掛けが無いかチェックしといてくれ。一応それ用のスキルはアサシンで覚えてたよな?」
「お任せ下さい」
ぺこりと頭を下げて二人が隣の部屋に移動する。まあ本当に最低限の掃除しかしてない感じだもんなぁ……メイド的には無視できないんだろうな。
でも折角メイド服脱いでるのにそのサガを忘れられないのはどうかと。シズだっていつものB―――ベーシック兵装じゃなくC―――シティ兵装なのに。
「流石に様付けや敬語は直させた方が良いですかね? チームならもっと砕けた感じにした方が……」
「無理に直す必要は無いんじゃないですか? むしろ関係を邪推して色々と勘違いしてくれそうですし。ただでさえ俺はお坊ちゃんだって思われてるみたいなんで、それに乗っかろうかなって思ってたんですけど」
リーダーがベッドの一つに腰掛け、覆面を外す。骸骨の顔は動いていない筈なのになんとなく表情が読み取れるから不思議だ。
俺ももう一つのベッドに体を預け、リーダーの対面に座―――って、うわ。ホコリ舞ってる。
「そうですかね……まあ、それも良いかもしれませんね。絵面的にも覆面の魔法詠唱者より中心に来やすいですし」
「いや、メインはあくまでリーダーですよ。リーダーが居て、メンバーである俺が居る。それなら俺達は紛れもなくアインズ・ウール・ゴウンです。
冒険者チーム『アインズ・ウール・ゴウン』ですよ」
「……本当にそう名乗るんですか? 他のプレイヤーに気付かれますよ?」
「まあその危険性は高いですけど、大人しく冒険者やってりゃ良いんですよ。いきなり襲い掛かってきたらこっちは被害者ですし、話し合いのテーブルに着いたなら後は俺が何とかします」
伊達に提案が割れた時の討論で勝率9割超えてねぇよ。リーダーはまとめ役と言うか進行役が多かったからそういうのあんまり経験してないけど、ギルメンとしては口の上手さは大事な要素だったからな。
「―――それに、現状のナザリックは人間と同様の感性を持ったプレイヤーには受け入れ辛い存在の筈です。それなら俺達が動いてる所を見せないと」
「まあそれは解りますけど……」
「大人しく正義降臨してりゃ大義名分はこっちのもんです。そうしやすい二人を連れてきたのもその一環ですしね」
「……シズに関してはマキナさんが連れて来たかっただけでしょ?」
「はい」
はぁ、とリーダーがこれ見よがしに溜息をつく。だって折角連れ出せるチャンスなんだよ!? この機能のアプデを何年待ったと思ってんのさ! ちゃんとそれっぽく見える装備だって用意したし!
「そう言えばあの二人のチョイスは何でですか? エントマは蟲使いと符術士だから目立ってアウト、ソリュシャンはセバスと動かしたんで除外したのは解るんですけど……」
「純粋にカルマ値と相性で選びました。ってかナーベラルは意外とポンコツな面が、ルプスレギナは基本駄犬って設定があるんであんまり難しい仕事に向いてないんですよ。
それにシズは俺と組んで動かすのが前提ですし、ギルドの名前を使う以上は即応性を考えるとリーダーに前衛の真似事はさせられませんから」
それにアルベドの人間に対する扱いを見てると、どうも人間嫌いがNPC達のデフォルトになってる気がする。一回じっくり調べた方が良いかも。
「ああ、カルマ値もありましたね……マキナさんは幾つでしたっけ?」
「一応プラスで100です。少しずつ上がるクエスト暫くやってたんで気が付いたらこんななってました」
「おぉ……私、確かマイナス500だったな。それにしてもよく設定とか覚えてますね?」
「PK上等のギルドのギルマスですしねぇ……まあ、設定はSS書きまくりましたからね。自分でも結構覚えててビックリしました」
ただそれでもよく思い出せないNPCは多い。特に上層の領域守護者は何人かキャラ薄いのが居るからなぁ……オチでよく使った恐怖公はよく覚えてるけど。
と、リーダーととりとめもない話をしていると2人が戻って来る。どうやら隣の部屋の掃除が終わったようだ。ふむ。
「リーダー、少し散歩しません? 2人の掃除の邪魔になってもいけませんし」
「ああ、それもそうですね。それでは2人で町の地理を確認してくる、任せたぞ」
「はっ、御配慮頂き誠にありがとうございます」
「行ってらっしゃいませ。マキナ様、モモン様」
その後街中で適当にシャドウデーモンと恐怖公の眷属等を情報収集に当たらせ、糞不味い晩飯にシズとユリが店主をぶち殺そうとしたりして冒険者生活1日目は幕を閉じるのであった。
「……そんなに不味かったんですか?」
「ナザリック飯に慣れると飯と呼ぶのも烏滸がましいですよアレは……」
「……むしろそんなに美味いんですか、ナザリック飯」
「最高っす」
「糞がぁっ!」
あ、俺機械の体でバフはかからないけど普通に飯は食えます。何かカロリックストーンが全部燃やして熱に変えてるみたい。ドラえもんかよ、俺。
◆
翌朝、軽く市場を見物しながら冒険者組合にやってきた俺達。ラッシュの時間は過ぎているのか、組合に残っている冒険者も思ったより少なかった。
「さて、マキナさん。いきなり問題が一つ」
「どうしたんだいモモンくん? そんなに慌てて」
「何変な声出してるんですか……依頼書、と言えばいいんでしょうか? それが読めません」
「しょうがないなぁモモンくんは……テテテテン! 読解の片眼鏡ー!」
変に作ったダミ声で取り出したのはつるが付いたタイプのモノクル。名前の通りに書いてある文字の内容が解るアイテムだ。
「ああ、やっぱりお持ちでしたか。良かった……」
「ユグドラシル時代は余程の事が無ければ読解系装備は一つで充分でしたしねぇ。宝物庫漁れば皆が置いてった分ぐらいは有りそうですけど……げっ」
「……どうしました?」
「残ってるの、大体高ランク用依頼です」
よく考えたらそれもそうだ。俺達は日が昇って暫く経ってからやってきたが、当然美味しい依頼や簡単な依頼はすぐに取られてしまうだろう。
そして当然低ランク冒険者の数は多く、低ランク依頼が多いとしてものんびりしていたら根こそぎ取られてしまう。
「あー……参りましたねぇ。もう少し早く来るべきでしたか」
「ですね。内容こそ楽勝ですけど、俺達は冒険者には成りたてホヤホヤです。組合側としては変な事はさせたくないでしょうし」
「ふむ……何か残ってないか受付の人に聞いてみますね」
「ええ、お願いします」
リーダーが受付に残った依頼が無いか聞きに行っている間、俺は貼り出された依頼の内容を熟読する。やはりモンスター絡みの仕事や町の外での採取活動が主のようだ。
「すみません、少しよろしいですか?」
「はい?」
と、依頼書を眺めていた俺に横から声がかかる。そこに居たのは四人組の冒険者であり、話し掛けてきたのは先頭の青年のようだ。
外見は見るからに戦士。金属と革を組み合わせた鎧を着ており、腰には長剣を下げている。胸のプレートは銀、って事は俺達より二階級上か。
「私達はチーム『漆黒の剣』。依頼が無くてお困りのようでしたので、良ければ私達の仕事を手伝って貰えたらと思いまして」
「ああ、そうでしたか。今ウチのリーダーが何か残ってないか聞きに行ったので……と、戻って来た。リーダー、どう?」
「駄目ですね。たまたま今日は依頼が少ないみたいで……こちらの方々は?」
「先輩冒険者。依頼が無いなら手伝いをしてくれないかって言われました」
「貴方がリーダーでしたか。ここだと他の人達の邪魔になりますんで、一部屋借りてお話ししましょうか」
お互い四人ずつなので合計八人が立ち話する羽目になる。それは流石に迷惑だろうと俺達も従い、受付さんが用意してくれた小さめの会議室に移動する。
「では改めて。私は漆黒の剣のリーダー、ペテル・モークです。こちらからチームの索敵を担当するレンジャー、ルクルット・ボルブ。
隣が魔法詠唱者でありチームの頭脳、『スペルキャスター』ニニャ。そしてドルイドのダイン・ウッドワンダー。彼は治癒や自然を操る魔法、薬草知識に長けています」
座った面々を漆黒の剣のリーダーさんが紹介していく。その言葉には隠しきれない自信と仲間達への信頼が見え隠れしている。良いチームのようだ。
それに合わせて軽く頭を下げたり挨拶をしていく漆黒の剣の面々。だが、何かニニャ君の視線がこちらに刺さって来る。おいおい惚れたか?
「では我々も自己紹介を。私がチーム『アインズ・ウール・ゴウン』のリーダー、モモンです。ご覧の通りの魔法詠唱者ですね」
「マキナ。一応前衛だ」
「……シズ」
「ユリと申します。戦闘では格闘術を少々」
俺とユリの自己紹介を聞いた漆黒の剣の面々が目を見開く。まあそうだろう。軽装どころか普段着とも言える恰好の俺が前衛で、鎧こそ着てるがユリがステゴロやるとか冗談にしか聞こえない筈だ。
それに比べたらリーダーが覆面をしてるとか、シズがロクに喋らないのは大した事じゃない。それにシズもリーダーもこれ見よがしに杖を持ってるから一目で魔法詠唱者だって解るしね。
「それで手伝いとの話でしたが、詳しくはどういう……?」
「あ、ああ、失礼。それで正確には依頼された仕事ではなく、この街周辺に出没するモンスターを狩るのが目的なんです」
「ああ、それは先程受付の方から説明されましたね。モンスターを狩り、その証明を受けると報奨金が出るそうですが……それですか?」
「ええ、それです。こなしたい依頼がある時以外はそうやって糊口を凌ぐのが冒険者の基本的なスタイルですから―――そうされないのは経験が無いからかな、と思って声をかけさせてもらいました」
成程、バッチリ観察されてた訳だ。だがこの提案は俺達にとっても渡りに船だな。冒険者の基礎を彼らに教わるのも悪くない……が、チト疑問も残る。
「それは有り難い申し出ですけど、何故わざわざ新人丸出しの俺達に声を?」
「あー、それはですね……」
「はい! 先達冒険者としてお美しいお嬢さんとお姉様のお力になれればと思いまして!」
「……だ、そうです」
俺の疑問に答えてくれたのはレンジャーの……クレラップだっけ? そしてガックリとペテル君が肩を落とす。中々苦労人っぽい雰囲気が滲み出ていてそっちの方が好感触だ。
「つきましては、シズさんとユリさんはお付き合いされている男性はいらっしゃいますか!?」
「……おりませんが」
「………。」
ラリパッパの質問に二人の視線の温度が氷点下まで落ち込む。そして周囲に静寂が訪れ、リーダーがわたわたとし始める。しょうがないなぁ。
「シズ、おいで」
「はい」
一度席を立ったシズが手招きされるまま俺の膝の上にちょこんと座る。そのまま俺は何事も無かったかのようにピンクブロンドの髪に手櫛を入れ始めた。気分は膝の上の猫を片手間に弄る悪役である。
「シズ! マキナ様の膝の上に座るなど……!」
「俺から誘ったんだ、怒る事は無いよ。それにこうやって見せてやった方が解りやすいだろう? シズは嫌かい?」
「マキナ様の御望みのままに」
「……あまり甘やかさないで下さいね」
ハッハッハ、そりゃ無理な相談だな。で、ロリポップは俺達の関係をどう捉えたかは知らないがユリ一人に狙いを絞ったようだ。そして更にニニャ君の視線が鋭くなる。どうした嫉妬か?
「……マキナさんは貴族ですか?」
「いや? それが何か?」
「……いえ、何も」
何もと言う割には思考が自己完結し始めているのか眉尻がゴリゴリ吊り上がっている。慌ててペテル君がフォローに入っていた。やっぱり苦労人だね。
「あ、あー……すまない。ニニャは貴族が嫌いでね。気分を害したようなら謝罪するよ」
「一部の貴族がまともなのは知っているんですけどね。姉を豚に連れていかれた身としてはどうしても」
「気にしないで下さい、別に俺は貴族じゃありませんし。あ、そうだ。報酬の分配はどうなりますか?」
「ああ、そこは大事ですね。頭数も同じですし、単純に頭割でどうでしょう? ……メンバーが失礼をしたお詫びも兼ねて」
ペテル君の言葉にニニャ君が精神的なダメージを喰らったかのように動きを止めるが、ペテル君が言ってるのはチンポッポの事だと思うぞ。
と言うかチームメンバーが割と険悪な空気出してるのにスルーしてユリにアタックかけるって凄い根性してるなお前。それとも逃げただけか。
「俺の方からは特にないけど、リーダーは?」
「そうですね、どういったモンスターが相手になるのかを聞いておきたいですが……」
生じかけた険悪なムードが話題を変える事で消えようとした時、会議室のドアがノックされる。互いに目配せをした後、ペテル君が入室の許可を出すと受付のお姉さんが現れた。
受付さんは俺達を見渡し、シズが俺の膝の上に座っているのに気が付いて驚くも逆に何か納得したような顔で俺に話し掛けてきた。
「お話し中申し訳ありません、ご指名の依頼が入っております」
「……俺達に、ですか? 漆黒の剣ではなく?」
「はい。依頼主はンフィーレア・バレアレさんです」
「なっ!?」
依頼人は有名人なのか、名前を聞いた漆黒の剣の面々が大なり小なり驚いていた。が、昨日この街に来た俺達からすると「誰?」って感じである。
ああ、部屋の入口から中を窺ってるメカクレ少年がそうかな。うわ、草くせぇ。ダインさんも大分草臭いけどその比じゃねぇ。
「……誰です? 有名な人ですか?」
「ご存知、ないのですか!? 彼こそどんなアイテムでも無条件に使えるタレントを持ち、この街一番の薬師の孫である超時空アルケミスト、ンフィーレア君です!」
「ど、どうもご紹介にあずかりましたンフィーレア・バレアレです……何ですか超時空アルケミストって」
「へぇ、何でも……ああ、すみません。この街に着いたのが昨日なので噂や評判にはまだ疎くて」
何故かニニャ君が興奮して変な言葉遣いになってるのはスルーする事にする。そしてリーダーとアイコンタクトを……交わせてるよな? こっちからだとよく解んないんだけど。
「それで指名を頂けるのは有り難いですけど、漆黒の剣の方々と契約の確認の段階に来てますし……どうする、リーダー?」
「そうですね、普通であれば先に依頼を受けている方を優先すべきだと思いますが―――」
「そんな! 名指しの依頼ですよ? それに我々のは依頼と言う程でもありませんし、モンスターと遭遇しなければ報酬もありませんから……」
「であれば、まずバレアレさんの話を聞いてから考えると言うのはどうでしょう? 聞かない内から受ける受けないを決めるよりはそちらの方が良い」
リーダーの予想通りの展開に転んだのか、ノーウェイトで会話が進む。レスポンスの早さで予想済みかどうかってすぐバレるよね、リーダー。俺もだけど。
それに承諾したペテルさんを見たのか、受付さんが部屋の隅から予備の椅子を引きずってンフィーレア君を座らせる。退室しないのは話を聞いておくためか。
「改めて、ンフィーレア・バレアレです。依頼の内容は近場の森での薬草の採取、その協力と警護をお願いしたいんです」
「警護ねぇ……流石にこの辺での情報が足りない。ちょっと自信ないかな」
「そうです―――いや、待てよ? ペテルさん、一緒にこの依頼を受けられるのはどうでしょうか?」
それに一回も依頼こなしてないチームに指名とか怪しい空気過積載だよな、と思ったらリーダーが何やら閃いたようだ。
退散しようかというムードになった漆黒の剣の面々の注意がリーダーに向く。
「森の中での活動ならルクルットさんやダインさんのお力を借りられればと思いまして。我々としても先輩冒険者の知恵と力を借りられれば心強いですから。
報酬は頭割、道中のモンスターを殺して報酬を貰えばお互い損は無いかと……こんなんでどうでしょう、マキナさん」
「俺は異議なし。皆さんはどうです?」
「そちらが構わないのであればこちらに異存はありませんが……バレアレさんもよろしいですか?」
「ええ、僕も問題はありません。あ、それと僕はンフィーレアと呼んで頂いて結構です。では皆さん、よろしくお願いします」
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