◆
「―――俺達を指名した理由、どう思う?」
「嘘と本音が半々、ですかね。シルバー級を同時に雇えるなら依頼料に関しては嘘……何かありますね」
エ・ランテルを出てカルネ村に向かう途中、何でもない雑談の切れ間にリーダーに話し掛ける。
ユリにアプローチをかけて苦笑いで流されてるアイパッドはともかく、やっぱりニニャ君の俺とシズに対する態度が固い。やれやれだ。
「上手く食いついてくれたなら良いですけど、一応警戒しときますか」
「それが良いでしょう。さてあの子は鯛か、それとも鮫か……」
そうやって話していると、俺の感覚に引っ掛かる物があった。とは言え反応は森の中、俺のスキルの対象外だ。
「シズ」
「はい。ゴブリン15、オーガ6。いずれも武装は貧弱、低レベルだと思われます」
早速渡した装備が役に立ったな、と二重になっていた眼帯の蓋を開けて索敵を行ったシズを満足げに眺める。
表面にギルド内での俺の紋章が書かれたこの眼帯の名はターレットアイパッチ。非常に高い索敵性能を持っており、一部の完全不可知系スキルや魔法も見通せる優れものだ。
そして何より三つのレンズがシャコーンと回転するギミックが付いているのが良い。勿論、回転する意味は何もない。ロマンである。
と、ンフィーレア君が乗っている荷馬車を回り込むようにペテル君がやってきた。向こうも気付いたか。
「モモンさん、ルクルットが何か見つけたようです。気を付けて下さい」
「ああ、こちらでも確認しています。それで申し訳ありませんが、初回という事でこちらが先陣を切ってもよろしいでしょうか? 皆さんは馬車を守って下さい」
「え、あ……わ、解りました」
ンフィーレア君に馬を止めて貰い、その前に漆黒の剣の面々、更に前に俺達と布陣を変える。その頃には森からゴブリン達も姿を現し、俺達の事を確認しているようだった。
「ねぇリーダー、俺とシズでオーガ貰って良い?」
「ええ、構いませんよ。ユリ、ゴブリンが逃げ出さないように動け。色々と試したいからな」
「はっ」
「じゃあシズは3点バーストで適当に撃って。杖は使わなくて良いや」
「了解しました」
肩を回してユリと共に前に出る。機械の体に肩凝りは無いが、まあ気分の問題だ。先頭までおよそ100メートル。充分だな。
シズが左手をオーガの一匹に向け、ゆったりした袖の下で機械音を鳴らす。その次の瞬間、手を向けられたオーガは脳症を撒き散らして倒れ伏した。
「なにぃっ!?」
「この距離でヘッドショット……おいニニャ! あの魔法は何だ!?」
「わ、解りません! 詠唱も何も聞こえませんでした!」
「恐ろしい技量であるな……」
一射でオーガを葬ったシズに漆黒の剣の面々が驚く。まあ詠唱が聞こえないのは当然だろう。今回攻撃に使ったのは回転式機関銃腕、俺が作った伝説級の武器だ。
展開した装甲内に回転式機関銃を内蔵しており、実弾とMPを消費して発射する魔力弾の使い分けが可能な雑魚掃討の弾幕形成に適した武器である。
更に俺やシズのような機械系キャラクターは体のパーツそのものにパラメーターが左右される特性があるが、単純な腕力だけでもレベル50の戦士相当は出せるようになっている。まあ、これはオマケ機能だが。
何よりも誇るべきは武器を内蔵していながら指輪用の装備スロットを確保でき、更にパっと見では普通の腕にしか見えない所だろう。最後に浮かぶ文字が君に解るかな?
「ガウッ!?」
「そぉらいくぜぇっ!」
シズが一匹倒すのに前後して俺はオーガへと駆ける。人前に出ると言う事で今回装備しているのは疾走二脚。まあ、行動阻害を無効化して足の装備スロットが空いているだけのただの足だ。べつに飛べる訳でも何でもない。
駆け寄った勢いのままに俺はスキル<飛び膝蹴り>でオーガの頭を消し飛ばす。それが合図かのように3匹目をシズが仕留めた。はえーよオイ。
「ウォォォ!」
「おせーよオイ。<穿孔撃>!」
怯えと怒りが入り混じった咆哮と共にオーガが俺に向かってくるが、シズと互い違いに装備しているガトリングアームでスキルを発動させて醜く垂れ下がった腹に叩き込む。
本来は特定の方法で防御した場合を除いて防御力を無視するスキルだが、こちらの世界では文字通り「穴を開ける」スキルになってしまったらしい。向こう側の景色が良く見える。
「ヨグモォォォォ!」
「ん、残りはテメーだけか。物足りねぇなぁ……」
「ガ―――」
5匹目がシズのスナイプで崩れ落ち、残ったオーガが丸太を振り上げてくる。が、俺はそいつの方を見もせずに左手から魔力弾を一発出して首と胴体をオサラバさせてやった。これでこっちは終わりだ。
「っと、リーダーの方も終わりか」
「はい。お怪我は有りませんか、マキナ様」
「流石に今ので怪我してたらナザリックから出れねぇって。んじゃ戻るか、ユリ」
「はっ」
ユリも俺に続くようにゴブリンの相手をしていたらしく、周りを見れば凄惨な殺戮現場が出来上がっている。これ、ユリは一匹も倒していないだろ。
「そう言えばマキナ様、最後の一撃は魔力弾だったのですか? 薬莢が見当たりませんが……」
「リーダーに言われてね。流石に実弾は文化レベルが違うだろって事で余程の時じゃないと使えないんだ。ま、この強打銃腕は格闘用の性能を重視してるから元々実弾使えないんだけどさ」
ガトリングアームに比べると銃としての性能はお粗末だが、格闘性能で言えばこちらに分配が上がる。機械系の種族と素手職って意外と相性良いんだよね。
あとコイツは手や腕の装備スロットが全て空いており、余った容量に自動HP回復のデータクリスタルを突っ込んであるので装備しているだけで僅かずつだがHPが回復する。今後もシズの右腕はずっとこれだろうな。
「ただいまー」
「お帰りなさい、マキナさん。どうでした?」
「物足りないっす」
「はは……まあ、問題が無さそうで何よりです」
後衛2人の元へのんびり戻るが、未だに漆黒の剣とンフィーレア君の口が塞がっていない。いや、そろそろ戻ろうよ。
あと何気にすぐ近くまで近寄って来るシズが可愛い。何も喋らないが心配してくれてるんだな、と言うのがビンビン伝わってくる。頭を撫でてやると気持ち良さそうに目を細めるのがね! もうね!
「な……何ですか!? え、四人とも銅のプレートですよね!? 何ですか今の!?」
「シズ殿もモモン殿も100メートル以上先の標的に的確に魔法を当てていたのである。そう高い位階の魔法ではなかったようであるが……」
「そんなの問題じゃありませんよ。あんなの帝国最強の魔法詠唱者フールーダ・パラダインでもできるかどうか……」
「ユ、ユリさんって凄いんですね……ハハ、ハハハ」
で、復活したと思ったらコレである。ンフィーレア君は未だに茫然としてる。だから戻って来いっつーの。
◆
『さてさて、中々良い情報が手に入りましたね』
『ええ。タレントの情報は地道に調べるとして、英雄についての詳細が聞けたのは大きいです』
『余裕が出来たら図書館行ってみたいですね。御伽話の一つや二つあるでしょ』
他の面々が寝静まった頃、俺達は<伝言>で作戦会議を行っていた。どうせリーダーはアンデッドで俺は機械キャラだ。寝る必要はない。
『黒騎士はカースドナイトで間違いないでしょう。威光の主天使が魔神を倒したらしいですが、強さがピンキリと考えれば矛盾は生じません』
『まあ、ウチのNPCも外で暴れりゃ魔神とか言われそうだけど大分レベルにバラつきあるし……種族的にはハーフデーモンとかかな』
『よくあんな種族で……』
『いやペナルティ消す手間考えたらアリですよ。それにロールプレイ重視ビルドのリーダーが言える台詞でも無いですし、それ』
ユグドラシルの異形種にはたまにハーフ系という種族がある。ハーフエルフとかハーフサキュバスとか、ギルメンで言うと弐式炎雷さんがハーフゴーレムである。
ハーフ系種族は特定種族と人間の丁度中間程度の能力を持ち、ペナルティも半減もしくは無効という性能が多い。突出した能力が無いので微妙と評する人も多いが、逆にバランスが良いとも言える。
『う……まあどんなビルドでも強くなれるのがユグドラシルの魅力でしたからね。それにこうなるのが解ってたらせめて皮膚のある種族にするんでしたよ……』
『下手に飯食うと零れますからね、リーダー……』
『ああ、食事と言えばあのフォローは助かりました。今後も宗教上の理由で人前で食事ができないって事にしましょう』
『了解です。必要があったら俺が代わりに食いますから……まっずいですけど』
『……そんなに不味いんですか』
カルネ村で白湯を貰った時は俺もどうなるか解らなかったからフォローも出来なかったが、食べても問題ないなら可能な限り俺がフォローに回らないといけないだろう。
それに味に関してはナザリックに戻った時に好きなだけ食えば良いのだ。それに保存食としては塩味こそキツいが美味いんじゃないだろうか。少なくとも宿の飯よりは美味かった。
『あ、それとギルメンに関しての打ち合わせしときましょう。さっきのリーダーの口調だと俺達以外全滅したみたいになってましたよ』
『う……すみません。やはりギルドの事だと感情的になってしまって……』
『それだけ思ってくれるのは嬉しいというかこそばゆいですけどね……とりあえず『遺跡探索をしていて転移トラップで見知らぬ土地に来てしまった異国の冒険者』ってストーリーでいきましょう。常識の有無なんかはこれでゴリ押し出来る筈です』
『了解です。他のメンバーに関しては……まあ、実際どうなってるか解りませんしね。ユリとシズに関しては完全に従者になってますけど、大丈夫ですかね?』
『態度を強制させるのも悪いですからね。NPC達は絶対者としての振る舞いを求めてる感じですし、俺としては可能な限り対応してやりたいです』
他のギルメンに関しては最後の瞬間にログインしていなかった可能性が高く、この世界にも居ない可能性は高い。
しかしギルドに異常とも言える執着があるリーダーの手前、そんな事は言えはしない。まあリーダーも薄々解ってるんだろうけどさ。
それにこれはあくまで俺の予想だが、神や英雄がほぼ100年単位で現れてると言うのが怪しい。特に八欲王とやらの天空城ってどっかのギルドの本拠地じゃないのか?
つまり、プレイヤーの転移が100年ごとにあるか、ギルド単位での転移が100年ごとの可能性だ。時間がズレまくってるのはそういうものだと納得するしかない。原理? 知るか!
……結論を言うと、元々薄いギルメンが居る可能性が更にゼロに近付くんだよねー。流石にコレは口には出せんわな。
『それも中々難しいんですよねぇ……アルベドやデミウルゴスの舵取り、協力してくださいよ?』
『了解です。ま、気楽にいきましょう。ってかリーダー、デミウルゴスの仕事多くないっすか?』
『……他に任せられる人材が居ないんですよ。マキナさん、他に心当たり有ります?』
『全く。基本的に防衛用NPCは暗躍設定つけませんからね……せめて一般メイドにもう少し設定付けてりゃ補佐ぐらいは出来たんでしょうけど』
あー、とリーダーが頭を抱えるのが解る。ホワイトブリムさんはメイドキャラ全員の外装を考えて力尽き、設定好きの面々は自分の好きな物に全力投球したのであの辺のキャラは割と設定ガバガバだったりするのだ。
『まあ物理的に守りを厚くする方向で負担を減らしましょう。人間の生活圏に溶け込めるキャラ、ホント居ませんよねぇ……』
『一番自然なのが恐怖公の眷属って時点でお察しですよ。それにアイツらは草原の警戒にも当ててますし、流石にこれ以上は減らせません』
『むぅ……まあ、いざとなったら物理的に守りを厚くして負担を減らしましょう』
『了解です。あ、機械系モンスターの材料は大量に溜め込んであるんで必要なら言って下さい。データクリスタルも大量に余ってますし』
恐らく俺が出した機械系モンスターだけでナザリックに大打撃を与えられるぐらいは溜め込んでいる筈だ。伊達に年単位でロクに消費もせずにアイテム溜め込んでない。
『……いえ、使うのはやめておきましょう。ゴブリンやオーガがデータクリスタルを落とさなかった以上、可能な限り温存するべきです』
『了解です。となるとスキルでの召喚に留めとくか……そういや聞きました? 漆黒の剣の俺達への評価』
『いえ、聞いてませんね。何か話してましたか?』
『ええ。王国戦士長でもオーガに大穴あけるなんてできるかどうか解らない、もしかしたら戦士長以上の力があるんじゃないかーって』
大雑把に考えて以前会ったガゼフはレベル30前後。ガトリングアームがレベル50の戦士職程度の力を出せる事を考えれば、確かに彼らの予想は外れていない。
『リーダーもゴブリン程度だから低位階の魔法を使っただけで、もっと高位階の魔法が使えるんじゃないかって予想してましたよ』
『見事に当たってますね……もう少し抑えるべきでしょうか?』
『いや、逆にドンドンアピールしていきましょうよ。アインズ・ウール・ゴウンが舐められる訳にはいかないでしょう?』
『……ええ、そうですね。その通りです』
……ホント煽り耐性低いなリーダー。この辺も気を付けないとな。
『軽く聞けた話だけでもプレイヤーの影はチラホラしてます。エアジャイアントの戦士長とかゴブリンの王様とか……まだまだ忙しくなりそうですね』
『ええ。アインズ・ウール・ゴウンをそれらに並ぶような伝説の冒険者にしないといけませんからね!』
『……そーですねー』
◆
日も昇って暫く歩き、ようやくカルネ村も見えてくる。ボブカットは相変わらずユリにモーションをかけて苦笑いでスルーされているが、もうちょっとレンジャーとして仕事したらどうだい。
「あれ? あんな頑丈そうな柵、前は無かったよなぁ……?」
「そうかぁ? 森の近くだしもっと頑丈なのでも良いと思うけど」
「ああ、この近くには森の賢王が居ますから。モンスターも居ないですし、賢王自身も森から出てきませんし……何かあったのかな」
「ああ、こないだ法国の特殊部隊とやらが来てたな」
遠目に見えてきたカルネ村を見てンフィーレア君が首を傾げる。その疑問に俺が答えると、俺達以外の視線が一斉にこっちに集まった。
「え、ほ、法国!? 特殊部隊!? 何ですかそれ!?」
「ああ、何か王国戦士長を殺す餌にするとか言って帝国の騎士の格好してこの辺の村を焼いて回ってたそうだよ。実際戦士長も来たし」
「な―――じゃ、じゃあカルネ村も!?」
「うん、丁度襲われてる最中に俺達も転移罠にかかっちゃってね。流石に目の前で下衆い事されるのも気分悪いからぶっ殺しといた」
「ぶっこ……はぁ!?」
脳の処理が追いつかないのか漆黒の剣の面々は白黒の目に改名した方が良い状態になっている。で、ンフィーレア君は何で馬を走らせるかね。大人しくしろよ護衛対象。
「おーいどうした少年そんなに急いで」
「なんで着いてこれ……いえ、これぐらいできますよね。お聞きしますが、村の人は皆助かったんですか?」
「結構な数が死んだみたいだよ。流石に正規軍っぽい格好してる連中相手にするのも怖いし、何人か手遅れだったわ」
「そんな……! エンリィィィィッ!」
腰から上を一切動かさない歩法で馬車に並走する。そして俺の答えを聞いたンフィーレア君は更に馬を走らせた。あ、これ以上は不味いわ。
「はいストーップ」
「うわわわわわっ!?」
流石に力任せにやると荷馬車がぶっ壊れそうなんで馬を腹の下から持ち上げ、馬車を体全体でブレーキをかけるように止める。
そして丁度止まった所に追走していたシズが現れ、俺の正面に立って左手を展開した。その先にあるのは青々と茂った麦畑。
「あー……バレてやしたか」
「まあ、流石にね。君達も馬車がいきなり突っ込んでくるよりは良いだろ?」
「いや、そっちの方が対処は楽だったんですがね……参ったな、勝ち目がねぇ」
無言のまま銃口を向けるシズに代わり、どうどうと馬を宥めながら麦畑から現れた小さい影に話し掛ける。
現れたのはゴブリンだ。しかし、昨日のようなみすぼらしい姿のモノではなく、鍛えられた体とよく手入れされた装備をしている。
俺の記憶が確かなら小鬼将軍の角笛で召喚されるタイプのゴブリンの筈だ。
「ご、ゴブリン……!? 何で畑に!?」
「まあ疑問はあるでしょうが、姐さんが来るまでちょっと待っていてもらえますか」
「姐さん……? 村が襲われてマキナさん達が助けたと聞いたぞ! まだ何かあったのか!?」
「ああ、それじゃあアンタが……成程、っと。丁度姐さんも来ましたね」
「いやンフィーレア君凄いね。よくこんな状態の馬車から振り落とされずに問答続けられるね?」
ようやく落ち着いた馬を下ろすと、村の入口から一人の少女が現れた。えーっと誰だっけアレ。確か最初に助けた子だっけ? 名前覚えてないや。
「成程、ゴブリンと協力して柵を作ったのか……折角だし少し援助でもするかな?」
「あ、リーダー。遅かったね」
「あの程度の距離なら急ぐ必要もありませんしね……どうしましょう、嫉妬マスク出しますか?」
「いや、別にいいでしょ」
のんびりと歩いてきたリーダーを尻目にンフィーレア君が少女と青春を始めやがった。あー、やっぱ嫉妬マスク欲しいかも。
◆
『何とか言いくるめられましたね……』
『まあリーダーはともかく俺は顔丸出しですしね。当たり前っちゃ当たり前ですか』
あの後俺達が以前村を助けた一行だと速攻でバレ、流れで歓待されそうになったので何とか口八丁で乗り切る事はできた。第一、数日前の事で蓄えもロクにできてない村の歓待などタカが知れている。
因みに現在は薬草を探して森の中へ進んでいる真っ最中。毎度のように<伝言>で作戦会議である。
『それにンフィーレア君は学者と言うか研究者気質な所があるのも大体解りましたし、裏に誰か居るって線は薄いでしょう』
『可能性は0ではありませんが、まあ無いでしょうね。上手い具合に顔繋ぎができた、と前向きに捉えましょう』
『エ・ランテルじゃ有名人みたいですし、知名度アップに繋がれば万々歳って所ですか。ああ、可能なら今後の補給に向けての動きも入れたいですね』
『それは重要ですね。ポーションを餌に色々と頼む事も出来ると思いますし』
ざくざくと草を踏み分けながらそんな話合いをしていると、まるで気分は越後屋と悪代官だ。お主も悪よのぅ、とか凄い似合いそう俺達。
そんな中、そう言えばとリーダーが声を上げた。無論、<伝言>の中なので周りに声は聞こえていないが。
『マキナさん、錬金術師のクラス持ってましたよね? 薬草って使いましたっけ?』
『聞いた事無いですね……アプデで何かあった可能性もありますけど。それに俺、一応クラスレベル10取ってますけど基本的に金属と火薬加工にしか使いませんし』
『ふむ……後で司書長にでも聞いてみますか。それで今回の作戦についてなんですが、森の賢王を利用しようと思います』
『ほほう、まあ伝説を作るならそれぐらいのインパクトは欲しいですね。森に入るぐらいからアウラがついてきたのもその一環ですか?』
流石にレンジャーでも低レベルのリリパットにはバレていないが、俺の頭パーツの探知性能なら本気で隠れていないアウラなら割と楽に見つけられる。
他の面々にバレないように小さく手を振ると、アウラもまた手を振って来たのが何となく解った。他にも何体か連れてきているようだ。
『ええ、村に居る時に<伝言>で呼び出しました。心当たりもあるそうなので合図さえあればすぐにでも始められるそうです』
『流石リーダー。じゃあ漆黒の剣やンフィーレア君に一度姿を見せ、その後は俺達で適当にやる感じですか?』
『それが良いでしょう。防御系の魔法で彼らを守るようなアクションが取れれば最適ですね。あ、そうそう。アウラの仕事も順調だそうですよ』
『戦力拡充と避難所の建設でしたっけ。地味だけど大切な仕事ですし、何かご褒美やらないといけませんね』
NPC達は見事な忠誠を示してくれるが、俺達のようなゲーマー一般人がそれに確実に応えられているかは正直解らない。
ならばそれを目に見える形で何とかするのが一番だろう。やはりプレゼント作戦は偉大である。
『あー、そうですねぇ……何が良いでしょうか』
『まあそれは追々考えますか。作戦の開始タイミングはリーダーに任せます』
『ええ、それじゃあ長々と待つのも嫌ですし始めますね』
プツリとリーダーとの繋がった感覚が切れ、森の奥の方が騒がしくなる。誘っていると言うよりは追い立てている感じだろうか。
程なくしてカレクックもそれに気付き、即座に撤退の指示が出る。まあ普通に考えればそうか。失敗したかなコリャ。
「……ま、いいか。シズ、ユリ。彼らについて下がれ。俺達が相手をする」
「彼らに死なれると面倒だからな。まあ適当に守ってやれ」
「はっ、畏まりました」
「……お気を付け下さいませ」
2人は揃って頭を下げて踵を返す。俺達が残ったのは万が一プレアデスよりも強かった場合を考えてだ。特にあの二人はレベル的には弱いしね。
「お、来ましたね―――っと?」
「ほう? 20メートル以上伸びる……何だ、尻尾? 随分と堅いみたいですね」
「ええ。中々面白い相手みたいです……ん?」
「ふむ、それがしの初撃を弾くでござるか。更にその余裕、かなりの強者とお見受けするでござるよ」
ガサリと大木の影が鳴る。いや、隠れてるつもりみたいだけどモロバレだからな? それにこれは……うん、まあ面白いっちゃ面白いか。
「それがしの縄張りへの侵入者よ、お互い本気になれば深手を負うは必須。無益な争いは避けたいでござる。立ち去るなら追わぬでござるよ?」
「こういうタイプのモンスターは初めてだなぁ……ああ、隠れてないで出ておいで。俺達に目を付けられた不幸を呪うと良い」
「ほう、言うではござらぬか! 吐いた唾は呑めぬでござるよ!」
風を切るように現れたのは見事な白銀の体毛。身体と比較すると恐ろしく長く堅い尻尾が揺れ、短いながらも力強さを感じる四肢が大地を踏みしめた。
しかし饅頭を軽く上から押し潰したようなフォルムと、くりくりとした黒目の大きい瞳。更に口から伸びる立派な前歯。
「……あー、んん? ……一つ聞きたい、お前の種族名は何だ?」
「それがしに名はなく、森の賢王とだけ呼ばれているでござる。ああ、南の魔獣とも言われた事があるが、生憎と同種については知らぬでござる」
「……そうか。ジャンガリアンハムスター、ではないのか?」
―――実に可愛らしい巨大ハムスターが俺達の目の前に立っていた。
「ほう、お主達はそれがしの種族を知っているのでござるか?」
「いや、精々掌サイズの奴だな。似てるだけで別種だろ」
「むぅ……流石にそれほどの差があると繁殖もできぬでござるなぁ。まあ、貴重な情報に感謝するでござるよ。
しかしそれとそれがしの縄張りへの侵入は別問題。出て行かぬのならその命、貰い受けるでござるよ!」
ふしゃー、と毛を逆立てて威嚇してくるハムスター。頭を下げて尻尾を自由に動かせるようにしている辺り、中々理にかなったポーズだろう。
「んで、リーダーどうする? やっちゃう?」
「いや……流石にコレを突き出しても酷い絵面になるだけです。それなら捕まえる方向でいきましょう」
「了解。あ、じゃあ適当に遊んでいいかな」
「ええ、お任せします。正直やる気が失せました……」
がっくりと肩を落とすリーダー。まあ、俺としてはオーガ程度では消化不良だったので丁度いい。最低限楽しめるぐらい強いと良いんだけど。
「フン、2人で来ないでござるか? それを後悔するでござる!」
「ほい、っと」
溜めた力を一気に開放し、突っ込んできたハムスターを右手一本で受け止める。魔獣型のモンスターと考えればレベル30相当って所か? 大した事無いな。
受け止められたのに驚いたのか、ハムスターは慌てて距離を取る。
「む!? ならばこれで! <全種族魅了>!」
「悪いな、機械系キャラに精神作用は基本無意味だ。ホラ、もっと手札を見せてみな?」
「……あんまり調子に乗ってると足元掬われますよー」
ハムスターの全身にある模様の一つが光を放ち、魔法を使ってきたのが解る。同様の模様が全身に有る事から、全部で8つ程度の魔法が使えるようだ。この辺はユグドラシルと同じだな。
そして後ろからやる気の無いリーダーの呟きが聞こえるが、そこはリーダーにお任せする領分だ。基本楽天家の俺に期待する部分ではない。
「言ったでござるな! <盲目化>!」
「あ、言い忘れてたけど上位魔法吸収Ⅲ持ってるから低レベルだと魔法は効かないぞ?」
「良いですよね、回復も同時にできるって」
遂にその辺の石に腰を下ろしたリーダーはさておき、コイツは中々悪くない相手だ。防御力もオーガよりは高いだろう。
「そら、次はこっちの番だ!」
「むぐっ!? 魔法でござるか!?」
腕試しに左手から魔力弾を放つと、中々の痛みはあるようだが決定的な一打にはならない程度のようだ。うんうん、良いぞ良いぞ?
「その立ち振る舞いから拳を使う戦士と思ったでござるが、それがしの勘違いでござったか」
「いや? ある意味当たりだ。両方使えるんだよ―――魔法じゃないけどな!」
「ッ!?」
ガションと右腕のガトリングガンを展開し、ハムスター目掛けてトリガーを引く。野生の勘で危険を察知したのか、ハムスターは尻尾を振るう事で銃弾を弾いた。
……まあ、回転式機関銃のフル回転に勝てる訳無いんだけどな。数発弾く事には成功したが、残り数千発がほぼ全てクリーンヒットしたようだ。
籠めていた魔力が極僅かだった事と、ガンナーのスキルである<ゴム弾>を使った事によってハムスターは何とか生きているようだ。
「さて、と……まだやるかい?」
「こ、降伏でござる……死ぬ……」
「ありゃ、スリップダメージで死ぬか? ……よし、服従を誓うなら傷を癒してやろう。どうする?」
「ち、誓うでござ―――たすけ、て」
あ、やばいマジで死にそう。
◆