機械仕掛けの超越者   作:巣作りBETA

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超位魔法の取得条件ってどうなってんでしょう? 戦士職だと取れないイメージがあります。うわぁ。


6 機天の支配者

 

『それでリーダー、詳細は?』

 

 墓地でのゴタゴタを終え、無事にミスリル級冒険者となった余韻もそこそこに俺はボロ宿の一室でリーダーと連絡を取っていた。

 叡者の額冠は勿体なかったがンフィーレア君救出と天秤にかけて破壊し、俺はスティレットを、リーダーは死の宝珠とやらを回収できたのでまあ収支としてはプラスか。

 

 そしてバレアレ家と可能ならニニャ君にもカルネ村に行ってもらうかと話し合っていた所で<伝言>である。

 それによると『シャルティアが反旗を翻した』との事。万が一を考えて俺とシズは宿に残り、リーダーはユリを連れてナザリックへと戻った次第だ。

 

『……マスターソースを確認した所、精神支配等による一時的な敵対状態になっていると思われます』

『ハァ!? アンデッドを精神支配―――超位魔法、いやまさか!?』

『ええ。純粋な離反やこの世界独自のアイテム、タレントと言う可能性もありますが、恐らくアレである可能性が一番高いかと』

『……ワールドアイテム』

 

 ユグドラシルの設定上、プレイヤー達が冒険する世界は9つある。その1つと同等の力を持つとされるバランス巴投げアイテムだ。

 まあ世界に匹敵すると言いながら、莫大な労力を費やせば複数個所持できる物もあるのだが。現に俺が持っているワールドアイテム「カロリックストーン」はガルガンチュアにも使っている。

 

 で、俺はシャルティアを支配できるであろうアイテムに心当たりがあった。

 

『リーダー、傾城傾国って知ってますか?』

『……マーキナーさん、心当たりが?』

『ええ。少し前にwiki巡りしてたら結構な数のワールドアイテムの情報が公開されてまして、その中に耐性を無視して洗脳を可能にするってアイテムがあった筈です』

『成程……糞、迂闊だった。プレイヤーが居るんだからワールドアイテムもこちらに来てるのは当たり前じゃないか!』

 

 リーダーは自分を責めるように吠えるがやめてくれ、その術は俺に効く。スゥーってなってるのが解る。

 

『まずはニグレドにシャルティアの居場所を調べさせようと思います。流石にワールドアイテムを持っているプレイヤーでは私の探知対策も突破される可能性があるので』

『解りました、気を付けて下さい。ああそうだ、念のため冒険者組合がシャルティアに関して情報を得ているか調べようと思います』

『ああ、それはお願いします。セバス達もエ・ランテルに居た筈ですし、何か解るかもしれません』

 

 <伝言>の接続感が切れると、俺は大きく溜息をつく。ああ畜生、思考がグルグル回って一定以上の揺れ幅にならねぇ。一回スゥーっとなりゃ楽なのに。

 

「マーキナー様……?」

「ん、悪い。ちょっとな……流石に階層守護者以外にワールドアイテム持たせるのは無理があるか」

 

 視界の端に入るか否かギリギリに立っていたシズがこちらの顔色を窺うように覗き込んでくる。

 ……よく考えたら連れ回す以上、シズにも危険があるんだよな。糞ッ、こんな事に今更気付くだなんて。

 

「マーキナー様、私の事をお気に掛けておられるのでしたら何も問題は有りません。この身は全てマーキナー様を始めとする至高の方々の物。如何様にもお使い潰し下さい」

「……シズ、呼び方が戻ってる。それとそんな悲しい事を言うな」

 

 シズのあんまりな台詞にようやく精神が安定し、頭が動くようになる。何かシズの安全を確保できるような手段は……あ。

 

 

 俺とシズはつい先程解放された冒険者組合へと再びやって来る。しかしとりあえず来たは良いものの、どうやって情報を手に入れるか……聞き耳でも立ててみるか?

 

「君、少しいいかい?」

 

 また狙ったかのようなタイミングで話し掛けられたな……体はそこそこ鍛えられているが、クレマンティーヌ程の強さじゃないか。

 改めて考えるとあの女は本当に強かったんだな。王国戦士長の装備が貧弱だった事もあるが、恐らくあの女の方が強いだろう。

 

「はい、何でしょう? ……それとすみません、どちら様でしょうか?」

「ああ、これは済まない。この街の冒険者の組合長をやっている、プルトン・アインザックだ」

「組合長さんでしたか、これは失礼しました。私はアインズ・ウール・ゴウンのマキナです」

「やはり君がそうか……確かリーダーは頭巾の魔法詠唱者と聞いたが? 来ていないかね?」

 

 プルトンさんは連れていた組合員に「彼らは私から伝える」と言うとこちらに向き直る。まさかもうシャルティアについて何か解ったのか? だとすると侮れないが……。

 

「ええ、リーダーとは別行動中です。ただ、何かご用件があるなら伺いますが」

「そうか、それはありがたい。とは言えあまり公にできる話でも無いのでね、場所を変えよう」

 

 俺はそれに頷き、漆黒の剣との話し合いで使ったのよりは幾段かグレードの高い部屋に通される。適当に座るように言われたので下座に座るが、プルトンさんは何故か最上座では無い席に座っていた。誰か来るのか?

 

「まずは昨日のアンデッドに関する事件の解決に対して礼を言わせてくれ。君達が居なければ被害は拡大していただろう。本当にありがとう」

「リィジーさんの依頼をこなしただけですよ。ただ、本当に昇格試験を受けなくても良かったんですか? 我々としてはデメリットが大きいのですが……」

「む……そうか? 君達ぐらいの力量を持っているなら相応の地位に据えるべきだと思ったんだが」

「周囲を完全に納得させられるならミスリルだろうがアダマンタイトだろうが喜んでなりますよ。ただ俺達は新参者です。当分は嫉妬や根も葉もない噂が出回ると思いまして」

 

 リーダーはポンポンとランクが上がった事に大喜びしていたが、個人的には周囲の人間がどう考えるかを考慮した方が良かったと思う。

 普通に生活する分には他人の評価などどうでも良いが、俺達が目指すのは伝説になるぐらいの冒険者だ。瑕疵は可能な限り避けたい。

 

「何、森の賢王を従える事が出来るぐらいだ。君達ならばすぐにそれも解決するだろう―――特に、今回の件を解決できればな」

「ふむ……お聞きしましょう。わざわざ探しに出てくるぐらいです、余程の事が起こったので?」

「ああ。2日ほど前の晩、エ・ランテル近郊の街道を見回っていた冒険者が吸血鬼と遭遇した」

「吸血鬼……」

 

 ビンゴ、か? 近郊の事件で情報が伝わるのが2日かかるとは……いや、それを言うならウチの方が問題だな。

 何で異常事態が伝わるのにそんな時間かかってんだよ。時間的に俺達がカルネ村に居た頃じゃねーか。危機管理意識が全体的に足りん!

 

「あー、吸血鬼に関しては知ってるかね? 確か冒険者になって五日程度だろう?」

「……一応知っていますが、擦り合わせをさせて下さい。その吸血鬼の外見や発見された場所等について」

「ああ、それもそうだな。詳しくは覚えていないそうだが、銀髪で大口だったそうだ。場所は北門から歩いて三時間程度の森……そして一番重要なのはその吸血鬼が第三位階魔法である<不死者創造>を使った事だ」

「……すみません、やはり不勉強のようです。吸血鬼は人間よりも強大な存在です、第三位階の魔法ならば使える者もいるのでは?」

 

 って、あれ? なんか信じられないって顔されたんだけど。え、俺なんか変な事言った? あと誰か来てるね?

 

「……驚いたな。いや、やはりミスリル級では収まらないと言うべきか。確かにそういう見方もできるが、吸血鬼の討伐難度は基本的にモンスターとしての強さで考えられている。魔法、それも第三位階を使うとなれば通常考えられている強さとは桁外れになる」

「成程……では通常の吸血鬼はミスリル級以下の相手、と言う事で良いんでしょうか?」

「ああ、通常は白金クラスの仕事だ。君達の他にも幾つかミスリル級冒険者に声をかけているが、私としては君達にエ・ランテルの防衛に回ってもらいたい。アダマンタイト級冒険者を呼ぶ時間を稼いでほしいのだ」

「それはどうかと思うがな、アインザック」

 

 俺の後ろにあるドアが開くと、痩せ細って神経質そうな男が現れた。中間管理職か魔法詠唱者のどっちかかな。ただ、無駄に歳を重ねていない凄みを感じる立ち振る舞いをしている。

 

「ラケシル……盗み聞きか?」

「興奮して声が大きくなっていただけだ。初めまして、魔術師組合長のテオ・ラケシルです」

「始めまして。アインズ・ウール・ゴウンのマキナです。それで組合長……だと被るか。ラケシルさん、それはどういう?」

「既に我々は後手に回っています。それに冒険者は我が強く動きを合わせるにも時間がかかる。それに昨日の一件はズーラーノーンが関わっているとか……陽動の可能性もある」

 

 ……いや、まあ首魁はハゲを隠して無かったけどね。ズラが無いとかそういう事じゃないんだろ?

 

「すみません、ズーラーノーンとは何でしょう?」

「ああ、知らないか。アンデッドを利用する魔法詠唱者中心の秘密結社だ。一つの都市を滅ぼしたとも言われている、恐ろしい連中だよ」

「……それも知らないで高弟を二人も倒したのか。全く恐ろしいな」

「こちらに来たのもつい最近で、中々疎い事ばかりで困ってるんですよ……それで、もしよろしければ我々で偵察を行いましょうか?」

 

 苦笑から切り替えた話に二人が一斉に目を見開く。タイミングバッチリだね。プルトンさんは元冒険者みたいだし、テオさんもそうなのかな?

 

「確かに可能ならお願いしたいが、大丈夫なのかね? 詳細はもう一度確認したいが、確か吸血鬼と第三位階魔法と聞こえたぞ? ……と言うか、何故彼らが私達よりも先に?」

「ああ、丁度呼びに行こうと思ったら居たのでね。昨日の礼も兼ねて話をしたんだ……しかし、先程の君の吸血鬼への認識を考えると、第三位階魔法を使う吸血鬼でも問題なく対処できると?」

「……リーダーとの話し合いも必要ですが、他のチームを派遣するよりは勝算が高いかと。それに―――可能なら倒してしまっても構わないんでしょう?」

 

 ドヤァ、と効果音が出ているのが自分でも解る笑みを浮かべる。可能なら背中を見せておきたい所だったが、流石に会議室ではそれはできないか。

 

 

「……済みません。本当はリーダーこそ出たいでしょうに」

「いえ。アルベドに3つ理由があると言ってしまいましたから……その3つ目、勝算の高さで言えば私よりマーキナーさんの方が高いのは事実です」

「シャルティアのビルドはリーダーメタな部分が有りますからね。ペロさんとはしゃぎながら考えてたのが懐かしいです」

 

 他のミスリル級冒険者に防衛を任せ、現地の確認や俺達が持っているワールドアイテムの階層守護者への配布も終わらせたリーダーと合流する。

 作戦に関しては既に<伝言>で連絡済みであり、最終的に博打要素の薄い俺の案が通ったので俺が戦う事となった。

 

「まあ相性も有りますが、やはり直接的な殴り合いは前衛の仕事ですから。私は私でやるべき事もありますしね」

「俺、一応ガンナーなんだけどなぁ……」

「たっち・みーさんやぶくぶく茶釜さんと同じ列で戦ってた人の台詞じゃないですよ、それ」

「……それはあくまでパーツとメンバーの組み合わせの都合ですし」

 

 パーツを変える事でキャラ性能を大幅に変える事ができる俺はメインメンバーが居ない時の穴埋めとして重宝されたものだ。

 逆に言えば頭数が揃ってるとロクな事が出来なかったので埋没しがちだったけど……そういう時はペロさんとエロトークしながら爆撃してたし。

 

「……本当はマーキナーさんがシャルティアに手を下す所は、見たくないです。ペロロンチーノさんの子供を殺させるようで」

「まあ、俺もシズを見てるとそういう想いは有りますけど……ただね、リーダー。それ以上に俺、怒ってるんですよ」

「……この可能性に気付かなかった、大馬鹿野郎の私にですか?」

「いや抱え込み過ぎだって……それ言ったら俺もですし―――そうじゃなくて、ダチの子供を殺す真似をする羽目になった原因に、ですよ」

 

 遥か後方でリーダーが作った集眼の屍に見つからないよう、シャルティアが居る筈の方向に顔を向ける。表情が変わらないリーダーと違い、今の体の俺は考えている事がダイレクトに出るからだ。

 勿論、その気持ちはリーダーも俺と同等かそれ以上に持っているだろう。だが、魔法詠唱者であるリーダーに出来る事は俺の何倍もあり、それもまた大事な役目だからだ。

 その一つに、監視者の発見という役目がある。

 

「それでどうですリーダー? 誰か見てます?」

「いえ、ナザリックからの監視だけですね。てっきり誰かが見ていると思ったんですが……」

「あー、<過去視>とっときゃよかった……そうすりゃ誰がどうやってシャルティアを操ったのか一発で解ったのに」

「あんな糞魔法誰が覚えるんだって思いましたけど、こういう時に役立つんですねぇ……まあ、シャルティアが覚えてる事を期待しましょう」

 

 俺達が囮を使ってPKをする場合、監視は当然ながら必要だった……まさかとは思うが、この状況は不幸が積み重なった結果だとでも言うのだろうか。

 

「話は変わりますけどリーダー、組合へ提出する証拠品って用意できました?」

「ええ。適当な人間を吸血鬼に変えてから腕以外を吹き飛ばしました。これがあればまあ大丈夫でしょう」

 

 恐らくだが、シャルティアを倒せばその体は消えてしまうだろう。戦闘跡こそこれからドカンドカン付くだろうが、流石に体の一部も残らないというのは不自然だ。

 

「……よし。じゃあお願いします」

「ええ。<飛行><魔法詠唱者の祝福><無限障壁><魔法からの守り・神聖><上位全能力強化>―――」

 

 リーダーから一通りのバフを貰い、俺は木立の先へブースターを吹かせるのであった。

 

 

 開始を告げたのは超位魔法の一撃、<天上の剣>。

 

「っ、はぁぁぁ! かぁぁぁ……!」

 

 天を切り裂かんと現れた巨大な剣―――にも似た魔法チックな人工衛星からのレーザーが地表を焼き尽くす。

 着弾の衝撃で木々は大きく揺れ、中には根元から吹き飛んだ大木もある。急激に熱せられた周囲の大気が巻き上げられて乱気流を作っていた。

 

「痛いですねぇ……マーキナー様ぁ?」

 

 俺が持つ超位魔法の中で瞬間的な火力が一番高いのがコレだが、流石にその程度ではシャルティアを一撃で殺すのは無理だ。

 現にフル装備になっている彼女の動きに何も問題はなく、クレーターの端に立つ俺をニタリと見上げてくる。

 

「ぼーっとしてたみたいなんでな、気付けが必要かと思ったんだよ。で、目は醒めたか?」

「いえいえいえ、ずーっと起きてましたよ? 至高の御方に仕える身ですもの、気を抜いてなど居られません!」

「そうかい。じゃあ聞くが、お前の主人は誰だ?」

「主人? 私の主人は……あれ? あれれれ?」

 

 くりくりと首を傾げて独特の論理展開をし、結論が出たのかシャルティアはパっと笑みを浮かべる。

 

「良く解りませんが、攻撃されたのでマーキナー様を滅ぼさないといけません!」

「そうか。生憎とお前程度にどうにかできるほど『神』ってのは安くないぞ?」

「言いましたねマーキナー様! 後悔してくださいっ!」

 

 シャルティアは自身の力のままに全力で突っ込んでくる。元々馬上槍を立ったまま何の問題も無く使える以上、それ位は出来て当たり前だ。

 そして、レベル的に同格の俺ならこれぐらいは対処できる。

 

「<穿孔撃>!」

「ッ、はははははっ! 流石ですね、私のランスをドリルで弾くなんて!」

「そう難しい事じゃないさ。ポイントは回転を活かす事だ。さて、次はこっちの番だぞ?」

 

 右肘から先が巨大な円錐型の穿孔機になっている腕、穿孔腕。スポイトランスと攻撃力だけならほぼ同等の武器だ。形状的にも攻撃を受け流しやすいのが今回チョイスした理由である。

 大きく跳躍して離れたシャルティアに対し、俺は左腕を向ける。その先に付いた巨大銃器は低い唸りと共にガトリングアームの比ではない量の弾丸を撒き散らし始めた。

 

「<石壁>……チッ! 時間稼ぎにもなりませんか!」

「そぉらどうしたどうした! 逃げるだけか!?」

 

 俺が作り出した弾幕に対してシャルティアは魔法で壁を作り出すが、それはあっという間にハチの巣になって崩れ落ちる。

 <天上の剣>の一撃で障害物が吹き飛ばされたココは俺にとって非常に戦いやすいフィールドだ。ついでに言うと空は更にやりやすい。一切の障害物が無いから銃弾が良く通る。

 

「武器の性能自体は精々伝説級、下手をすれば聖遺物級ですね? それを補うように銃弾の質は最高級品、それなら弾数もそう多くない!」

「あーはいはい全部当たりですよ畜生。この双発型回転式機関銃は所詮聖遺物級、ただの弾幕形成用装備だよ。

 お前は純粋な防御力が糞高いからな、コツコツ年単位で溜め込んだ代物を出血大サービスだ。吸血鬼なら泣いて喜ぶ言葉だろ? だから大人しく喰らっとけ!」

「それとこれとは別問題です! <生命力持続回復>!」

 

 フルプレートアーマーを着こんだシャルティアは一見鈍重そうに見えるが、ゲームのキャラの見た目と性能は一致しない事が多い。

 現にシャルティアは俺が作る弾幕の嵐の中をポンポン飛び跳ね、隙あらばこちらに突進を仕掛けてくる。その度にドリルアームが大活躍だ。

 

「弾切れを待つのも悪くないですが、性に合いません。攻めますね? <上位転移>―――なっ!?」

「転移ならもっと上手く使え。背後狙いとかベタ過ぎて逆に新鮮だぞ、っと!」

 

 シャルティアの姿が掻き消えるが、即座に俺の背中から生える四本腕がその四肢を絡め取った。ドリルアームとダブルガトリングガンで両手が塞がっているので付けた腕だが、コイツにして正解だったな。

 そしてこのまま拘束できれば楽なのだが、生憎コイツは移動阻害耐性を持っているので投げ飛ばして弾丸をたらふく食わせてやる事にする。

 

「<力の聖―――いや、これだ!」

「ぐぅっ!」

 

 何故かシャルティアは防御魔法を取り消し、<不浄衝撃盾>で弾幕を防御しつつこちらに反撃してくる。正解だよこの野郎。いや女郎か。

 

「防御魔法ならカウンター・コンデンターで大ダメージだったんだけどな……そう簡単にはいかねぇか」

「流石にこの状態でそんな攻撃を貰えばタダでは済みませんが……これで元通りです」

 

 俺が<不浄衝撃盾>に怯んだ隙に<時間逆行>により今までチクチク溜めたダメージが回復される。あーあ、やり直しか。

 

「今度はこっちから行きますよ! <魔法最強化・朱の新星>!」

「おわっち!? あちちち……へへ、俺に追加効果は意味ないぞ?」

 

 サービス終了の一年ほど前……つまりユグドラシル最後期では「とりあえずコレ目指してビルドすれば大体何とかなる」と言われたのが雷神や機械神等クラス名に『神』と付く、通称神クラスだ。

 

 分類としては取得条件が非常に厳しい異形種であり、例えば雷神なら人間や亜人、一部異形種が雷の魔法やスキルに特化してレベル60程度で「雷神レベル60」になる事が出来る。

 これでも神クラスとしては下の下の強さと難易度であり、俺の種族である機械神は通常であればレベル80を超えていないとなれない種族だ。それを俺は偶然発見した方法で種族レベルを10に抑えている。こればかりは協力してくれたギルドの仲間以外には一切教えていない。

 

 条件の厳しさと引き換えに高い耐性や能力を持っているため、殆どのプレイヤーは神クラスか他の最高位クラス――リーダーが持ってるエクリプスもその一つ――を持っているのが普通だった。

 ただ、その風潮が広まる前に衰退期に入ったアインズ・ウール・ゴウンはそういったビルドのキャラは俺が知る限りは居ない。

 それはペロさんが作ったシャルティアも例外ではなく、特にカルマ値が悪であったり聖や火属性を狙い撃ちする等の一般的なアンデッド重視のビルドである以上、カルマがプラスである機械神の俺に決定打は与えられない。

 

 ……ある魔法を除いて、だが。

 

「それなら! <内部爆散>!」

「ッ!? がぁぁぁっ!」

「―――アハッ!」

 

 純粋な物体への破壊効果を求めた魔法。それが俺の酸や電気を超える最大の弱点だ。どこをどうやっても人造物で体が構成されているため、魔法そのものを無効化しない限り防ぎようがない。

 仮にリーダーが俺に<上位道具破壊>をかけた場合、条件次第だが即死すると思う。生身なら不発に終わるだけだが、俺にとっては何よりも恐ろしい魔法だ。

 

「チッ! 腕一本持ってかれたか!」

「弱点、見つけましたよマーキナー様ぁ! <魔法抵抗難度強化・内部爆散>!」

「うっ、ぐぅぅぅ! 舐めんなぁっ! <ホーミング>!」

「んぐ―――なぁんて、ね?」

 

 背中に生えたオクトアームが立て続けに3本も爆散する。負けじとドリルアームのドリル部分を射出し、胴体に風穴を開けてやるが即座にその穴も元通りになる。<時間逆行>だ。

 とは言え俺はその隙を突いてオクトアームを全てパージし、無事なパーツを繋げて一本の長い触手に切り替える。それを空いた右肘に装着すればほぼ元通りだ。

 

「シルバーギア! 全弾射出!」

「うざったい! <魔法抵抗難度強化・内部爆散>」

 

 脛に装着した鎧から銀色の歯車が大量に飛び出す。高速回転するソレは眼前の敵を切り裂こうと殺到するが、不浄衝撃盾によって全て撃ち落とされた。

 一度攻勢に出たからか、それとも流石に<力場爆発>では威力が足りないと判断したか。強力な手札をシャルティアは1つ使い切ってしまう。

 とは言えこちらも右手の一部と左足をやられてしまう。生身なら致命的なやられっぷりだろう。

 

「こなくそ! コイツも持ってけ!」

「フン! <魔法最強化・力場爆発>!」

 

 俺はシルバーギアに増設するように装備した8連ミサイルを撃ち込み、壊れたパーツを排除した右腕を同じく排除済みの左脛に装着しっ放しだったミサイルに接続。同様にシャルティアへと撃ち込んだ。

 しかし、流石にコレでは威力が足りないのか魔法で迎撃される。俺は即座に右肘と右膝から先をパージ。更にバランスが悪くなったのでダブルガトリングガンを投げ捨てた。

 

「おやおやぁ? 随分可愛くなりましたねぇ!」

「だよな、HPを回復させに来るよな? <不惜身命>!」

 

 シャルティアはスポイトランスでこちらにトドメを刺しにくる。狙いは胴体一直線。だが、俺はスキルを発動させて左腕一本を犠牲にする代わりに他はノーダメージで凌ぎ切る。

 そこに待っているのは右肘に装着した右脚、それに内蔵されている姿勢安定用アンカー、それを転用したパイルバンカーだ。

 

「狙いは良いですが装備そのものの攻撃力が足りませんよ、マーキナー様ぁ!」

 

 流石にフルアーマーシャルティアは防御力が高く、所詮は姿勢安定用アンカーでは毛ほどのダメージも与えられない。

 

「いや、これで良いのさ。アーマーオープン! チェストガイザァー!」

 

 しかし、スポイトランスは左手に刺さりっ放し、パイルバンカーによる攻撃のために俺達の距離はこれ以上なく近い。

 そこで俺は胸部装甲を展開し、そこに空いた大穴から極太ビームを撃ち出した。とは言え別に超科学兵器とかではなく、高威力の神聖属性魔法を出せるパーツというだけである。

 

「ぐっ、がぁぁぁっ!?」

「お、ちゃんと効いたな。まあ俺はカルマがプラスの『神』だから威力ボーナスが効い、て――――」

「……ごちゃごちゃうるさい。それに隙だらけですよ」

 

 無事に期待通りのダメージを与えられたな、と一息ついた先が何も言えなくなる。ああ、そういや<時間逆行>あと一回残ってたっ、け……。

 

 

 左腕と両脚をなくし、片腕が足という状態のマーキナーを背後から突き刺すのは白一色に染められたシャルティア。

 エインヘリヤルという自身とほぼ同等の分身を作り出す強力なスキルだ。一部の能力は使えないものの、純粋な能力値で見ればシャルティアをもう一人相手にするのに等しい。

 

「ふむ……エインヘリヤルまで引き出せたか」

 

 その様子を感心したように眺めるモモンガ。マーキナーは彼ほどPVPの経験がある訳では無く、当然ながら勝率も低い。所謂ガチ勢でないのだから当たり前だ。

 元々マーキナーは自身のプレイスタイルと経済的事情により、ほぼ一切の課金をしていないプレイヤーだ。そうなるとユグドラシル内での強さの順位はかなり低い。

 ただ、現在のモモンガはマーキナーの事をこう評価している。「最強の無課金プレイヤー」と。まかり間違えば自身すらも殺し得ると。

 

 ―――余談だが、実の所シャルティア・ブラッドフォールンとマーキナー・ハイポセンターの戦闘においてのスキルやMPの使用法は割と似通っている。

 モモンガのように純粋な魔法詠唱者であればMP切れは戦闘力の極端な低下に繋がるが、彼女らのように継戦能力に優れたビルドであればそれを考慮した戦い方になるからだ。

 

 ……とは言え、決定的に違う部分もある。それはマーキナーがガンナーであり、機械系キャラクターであるという事だ。

 これらのクラスや種族は基本的に弾丸やパーツというアイテムを消費して攻撃を行う、アイテム依存型のクラスである。

 他に戦闘力がアイテムに大きく左右されるクラスとしてはエントマの符術師、種族はゴーレム部分のパーツを変更できるハーフゴーレムの弐式炎雷が近い。

 

 勿論、貧乏性であればアイテムを消費する実弾よりも自然回復するMPを消費する魔力弾を好む。が、もし圧倒的な物量を持っている相手だとしたら?

 ―――もし、年単位でコツコツアイテムを溜め込んでいる相手だとしたら?

 

 

「……え?」

「いやー、最初は力押しで行こうと思ったんだけどリーダーに止められてさ。俺元々PVPやるタイプじゃないし、大人しく忠告聞いたんだよね。

 ―――先にスキルを使い切らせろ、ってさ」

 

 はっはっは、と笑いながら動きの止まったシャルティアの元へと歩いていく。うーん、自分の体が動かなくなってるの見るのって超シュール。

 

「な、んで……生きて……」

「ああ、それ? いや俺も今朝気付いたんだけどさ、元々顕現体創造ってゴミスキルがあったんだよ。それがこっちの世界に来てから性能が変わったみたいなんだ」

 

 顕現体創造。

 依代、特に機械神であれば自身のパーツを消費して使い捨ての身代わりNPCを作るだけの神クラス専用スキルだ。

 この身代わりがまた弱く、他の部分が全面的に強力な神クラスの唯一の汚点にしてバランス調整の結果とまで言われていた。

 

「マジで『顕現するための体』を作るスキルに変わったみたいなんだよな。本体が触れた依代がもう一人の自分になるって言うのか?

 特定のスキルや魔法は使えない上に回数やMPは共有だけど、依代が死のうが多少痛いなーって思うだけで本体にはほぼ一切のペナルティが発生しないんだ。

 そしてここからが重要なんだけど、依代の再利用可能とか色々と仕様が変わったみたいなんだ。流石に壊れたら修理なり廃棄なりしないといけないんだけど―――」

 

「これだけ」「あれば」「関係」「ないよな?」「全く」「リーダー」「ならもっと」「スマートに」「やれるん」「だろうけど」「俺じゃ」「この程度」「だな」

 

 ざり、とクレーターの淵に「俺」が大量に現れる。どれも適当にパーツを組み合わせただけの不格好な姿だが、全て1種類以上神器級相当の攻撃方法を持った「俺」だ。ついでに機械天使を限界まで召喚してある。

 シャルティアの顔から表情が抜け落ちる。いや、これは恐怖? 畏れ? まあどっちでもいいや。

 

「名付けて一人物量作戦―――さぁ、第二ラウンドといこうぜ? こっちはまだピンピンしてんだ」

 

 宣言に合わせて「俺」の一人が転がしてきた荷車から大量のミサイルが飛び立つ。それらは空中で分解すると鋭い金属片をばら撒いた。

 中身は聖属性を付与した超高純度ミスリル。安い素材ではあるが手間暇をかける事でシャルティアクラスの防御力にも問題なくダメージを与える事が出来る。

 今日は大サービス。ありったけ、お見舞いするぜ?

 

「う……うあああああああああっ!」

 

 ミスリルの雨が降る中、二度目に姿を現した俺にシャルティアとエインヘリヤルが突っ込んでくる。しかし半分も進まない内にエインヘリヤルの姿が掻き消えた。

 その正体は後方に控えるリーダーよりも更に後ろ。アイボールコープスの隣で超巨大ライフルを構える「俺」だ。

 対人造物特化にしてあるのでシャルティア本体には大したダメージは無いが、そのキレイな顔をフッ飛ばしてやる!

 

「あーどっこいしょぉお!」

「くっ! このおっ!」

 

 俺から離れた所に立つ「俺」が腹をシャルティアに向けると、こちらに向かっている筈のシャルティアが徐々にそちらに吸い寄せられていく。

 シャルティアは移動阻害に完全耐性を持っているが、コレは移動先を自身に変更する能力なので阻害にはならないようだ。

 シャルティアも標的を変えたのか、腹を向けたままの「俺」に先程以上のスピードで突っ込んでいく。

 

「キョォテェェェェェッ!」

「なっ! しまっ!?」

 

 その「俺」の隣に立つのは竹刀のようなアイテムを持っている「俺」。タイミングを上手く合わせ、その竹刀がスポイトランスを叩くとシャルティアはスポイトランスを取り落としてしまう。

 これぞ装備解除特化型装備「底意地の悪いコーチ」である。当然攻撃力は皆無だが、背中にコードで繋がっている筈のスポイトランスですら一定確率で装備を解除させる事ができる。

 ……まあ、装備解除阻害のデータクリスタルが一つでも入ってたら無理だったんだけどね。スポイトランスに使ったデータクリスタルを全て把握して無かったらそもそも選択肢に入っていない装備だ。

 

「拾わせんわっ!」

「あぐぅっ!?」

 

 即座にスポイトランスを装備しようとするシャルティアに別の「俺」が攻撃を仕掛ける。そのポーズは腕組みをした仁王立ちだが、その腕を鞘に見立てた高速攻撃がシャルティアを吹き飛ばした。

 これぞ居合い拳装備が一つ「牡牛」! 同様の「ポケット」を装備した別の「俺」がシャルティアを吹き飛ばした「俺」を恨めしそうに見ているがそれは気にしない。

 

「ふぉ、<力の聖域>!」

「阿呆が。そうしたら大ダメージだっつったろ」

「ぐぅぅぅぅ!」

 

 体勢を立て直そうとしたのかシャルティアは強力な防御魔法を展開する。直後に響く銃声。対防御魔法特攻の銃、カウンター・コンデンターがその身を貫いていた。

 さらにそこに突き刺さる無数の銃弾。一発一発は大したダメージは無い。それどころか全くのノーダメージである事もある。

 しかし、着弾の衝撃で転がるシャルティアは次の行動に移れない。移動阻害耐性を持っているが、それが発動しても一瞬だけは動きが停まるのだ。

 ―――その一瞬が、休む間もなく訪れれば?

 

「こ、んのぉぉぉぉぉ! <内―――」

「そう来るよな? そればっかりはどうしようもない」

「――部爆――」

「だから、コレで決める」

 

 俺はシャルティアの魔法に合わせてあるスキルを発動させる。リーダーが耐性を無視して即死させるスキルを持っているように、一週間―――168時間に一度しか使えない機械神専用スキル。

 

「神踊る絡繰り舞台」

 

 世界が塗り替えられる。<天上の剣>により荒涼とした大地が広がっていた筈が、全て黄金色に染まっていく。

 

「……は? な、何!? 転移魔法!?」

「いや、一時的に別の世界に変えたのさ。ここの名前は『黄昏の機械天』、オルケストラ・ド・デオス専用フィールドだ」

 

 黄金色の空は上も下も雲に覆われ、その先は何も見えない。ただ前後左右に果てしなく空が広がっている。

 その雲間からは巨大な歯車やピストンが飛び出ており、機械天使と同様のデザインラインというのが良く解る。

 

「黄昏の……機械天?」

「おや、ペロさんとはよく使ってたんだけどな……時間制限もあるし手早く説明してやろうか」

 

 パチンと指を鳴らし、俺は機械天使を限界まで再び召喚する。先程召喚したにも関わらず、だ。

 

「温存していた? いや、これは―――」

「ああ。発動者のスキルや魔法のクーリングタイムを回復させる効果だ。まあ、流石に超位魔法は無理だけどな」

「た、確かに物量はありますがその程度ですか? 相性もありますが私には決定打にはなり得ません」

「そうだな、勿論それだけじゃない。登録した機械系キャラクター用装備を召喚可能だ。とは言え防御力が高過ぎてお前にはコレも効果が薄い訳だが……」

 

 どこからともなく手や足、胴体に頭パーツが金色の空を飛び回る。パーツの照り返しが眩しいな。

 

「発動時に上位眷属8体を召喚。これで銃腕の熾機天が全部で12体、当然俺のスキルで強化済みだ」

「……終わりですか?」

 

 訝しげにシャルティアが聞いてくる。何も考えてないと思ったが意外と成長しているようだ。

 

「いいや? 上位眷属と同時に、機竜が一体召喚される。ああ、確か六層にもドラゴンがいるけど、流石にコイツはあれよりは弱いから安心しろ。時間限定とは言え、課金したもんの方が強いんだよなー」

「な……で、ですがこの程度! 至高の御方に創造された私ならば!」

 

 大分気圧されているようだが、流石はペロさんが作った階層守護者か。でもな、お前一つ忘れてないか?

 

「武器も無しに、どうやるんだ?」

「―――え?」

 

 スポイトランスは取り落としっぱなしであり、スタッフオブアインズウールゴウンのように自動で宙に浮く機能も無い。

 そしてこの黄昏の機械天は飛行能力が無いキャラクターは落下して即死するフィールドだ。俺も最初に発動させた時に死んだ経験がある。そしてそれはアイテムも例外ではない。

 ……解除時に元の場所に戻るよな? ユグドラシルだったら元の位置に戻ってた筈だし……駄目だったら俺が責任をもって代わりの武器を作ろう。

 

「あ、ああ、ああぁぁぁぁ……!」

「さてと、改めて言おう。これぞ名付けて……一人物量作戦、だ」

 

 飛行能力の無い「俺」がパーツや他の「俺」に支えられながらシャルティアの周囲に浮かぶ。いやはや、スマートじゃないね。

 

 

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