機械仕掛けの超越者   作:巣作りBETA

8 / 11
一応オリジナル、というかドラマCD部分の話です。うわぁ。


7 発条巻き巻き

 

「アッハッハッハッハッハ」

「………。」

 

 宿屋に乾いた笑いが起こる。誰が出してるのか? 当然俺だよ。それにリーダーがじっとりとした視線を投げてきた。

 

「ごめんなさい」

「……いえ、まさか私もああなるとは思いませんでしたから」

 

 俺がスパっと土下座をしたのに対し、リーダーはフゥと溜息をつく。何が起きているかと言えば、投獄されていたクレマンティーヌが居なくなったという話だった。

 コイツはやばい。なんせ俺の秘密を一通り知っているからだ。手の内はまだ山のようにあるから良いが、俺が機械の体であると知られるのはまずい。誰しも未知は恐れるものだ。

 先日のシャルティア討伐も無事に終わり、今日も組合長に呼ばれてるのだがその矢先に伝えられたのがコレである。勘弁してくれ。

 

「とりあえず冒険者組合へ行きましょう。ついでに何か依頼も見繕っておきたいですし」

「あ、それじゃあバレアレ家の様子も見ときたいね。色々と片付ける事があるって言ってたけど、そろそろカルネ村に移住しといて欲しいし」

 

 リーダーがベッドから立ち上がり、俺も軽く膝をはたきながら土下座をやめる。

 バレアレ家にはンフィーレア君を助けた報酬としてポーション研究に没頭させるつもりだったが、流石にエ・ランテルのポーション生産の一角を担っているだけあって色々と片付けなければいけない事が多いそうだ。

 こちらとしては要塞化を進めているカルネ村に早急に移住して欲しいのだが、急かして誰かに怪しまれる訳にもいかない。可能な限りカルネ村に関しては秘匿しておきたいしね。

 

「それに関してですが、どういう手順で行わせましょうか? 一から十まで教えるというのも……」

「道具は俺のお古がありますし、素材も一応渡しておきましょう。それである程度様子を見て駄目なら教えて、上手くできたら現地の材料で何とかできないかって方向で」

「あー、まあそんなもんですかねぇ。そうだ、補給も色々と考えないといけませんね……」

「在庫はまだ有りますけど補給は大事ですからね」

 

 そして溜め込むだけ溜め込んで使わない。そんな俺達は揃って貧乏性である。いや、こないだパーツや弾薬バカみたいに使ったけどさ。そうしないと勝てなかったし。

 俺達は話し合いながら階段を下りると、すっかり見慣れたハゲ頭が目に入る。この宿屋の主人だけど、最近視線が痛いんだけど何で?

 

「……なぁ、アインズ・ウール・ゴウンさんよ」

「はいな?」

「何でしょうか?」

「……もう、ウチに泊まるのやめてくれねぇか?」

 

 えっ。

 

 

「ああ、うん。そう言えばそうだ……ならば黄金の輝き亭などどうかね? エ・ランテルでは最高級の宿屋だ」

「はぁ……」

 

 組合長にも同じ事言われたでござる。ちょっとリーダー、俺達別に誰にも迷惑かけてないよね!? そもそもあの部屋でロクに寝泊まりしてないし!

 

「確かに我々は最高位冒険者。それが安宿に泊まるとなれば鼎の軽重を問う者も居るでしょう……まあ、必要経費として諦めますか」

「あー、そういう話か……めんどくせぇなぁ」

「はは……最高級宿屋を面倒、か」

「まあ興味はありますけど、殆どの時間はエ・ランテルの外ですからね。長期間借りる場合は勿体無いと言うか」

 

 あのボロ宿だって今では素泊まり一部屋しかとっていないのだ。多少不自然でも削れる所はガンガン削ってます。

 

「そう言わないでくれ。こちらとしても確実に連絡を取れる所は必要なんだ」

「それは解りますし、稼いだ分だけ使えってのも解りますけどね……」

「ああ、それならいっそ家を買うのはどうだい? 必要なら幾つか見繕う程度はさせてもらうが」

 

 家? 家ねぇ……うーん、まあ悪くはないか。好き勝手弄ったり緊急避難所か囮ぐらいには使えるかな。

 

「俺は悪くないと思うけど、リーダーは?」

「あまり気乗りはしませんね。宿代自体は浮きますが長い目で見る必要がありますし、維持費もタダではありません。それにアダマンタイト級冒険者の家がそこらの一戸建てと言うのも、ね」

「う……ええ、まあそうですね。それなりの大きさの家、もしくは屋敷と言える規模になるかと」

「うげ……流石にそれはなぁ」

 

 それだったらまだ最高級宿屋に泊まった方が良い……のか? やれやれ、流石にゲームみたいにランニングコストがかからないって訳にはいかないか。ナザリックだって防衛設備全部切れば維持費かからないのに。

 

「確かにアダマンタイト級らしくしろ、と言われたら頷くしかありませんね。さて、早速準備に取り掛かろうと思うので我々はこれで」

「ああ、よろしく頼むよ」

 

 威厳を保ちたいのか下手に出たいのかイマイチ良く解らない組合長に頭を下げて部屋を出る。自分より実力がある部下って相当やり辛いよね……機嫌損ねちゃいけないってのがそれに輪をかけてる。

 

「それじゃあマキナさん、依頼のあった薬草採取は私がアウラと行こうと思います。マキナさんの方は適当に依頼をこなすなりしておいて下さい」

「ん、りょーかい。んじゃついでにバレアレ家の様子でも……ん?」

 

 ふと俺の感知圏内に変な動きをしている奴が引っ掛かる。組合の入口の前でウロウロしている感じだ。と言うかこの装備はアイツだよな?

 

「あ、やっぱり」

「あ……ど、どうも」

「ああ、ニニャさんでしたか。お久しぶりです」

 

 別に憚る事もないので堂々と見てみればそこに居たのは元漆黒の剣のニニャ君であった。髪も僅かに伸びたのか前以上に癖毛が跳ねている。

 

「そ、そんな! 私なんかに頭を下げないで下さい!」

「そう言われても世話になったのは事実だし……ねぇ?」

「そうですね。当たり前の事かと」

「そんな、私なんかに……」

 

 第一挨拶をしているだけなのに何故こうもビクついているのか。確かに俺達は超スピードで出世したが、そこまでへりくだる事もないだろうに。

 まあ、ついこないだパーティーが全滅して自分も死にかけたんだから仕方ないと言えば仕方ないのか。トラウマになっていてもおかしくない。

 

「んー、リーダー先行ってて。俺少し話してくわ」

「……ええ、解りました」

「そ、そんな……」

「まあまあ、少し付き合ってよ」

 

 へらへらと笑いながら組合から離れる。流石にここで話すのも何だし……喫茶店とか無いかな? 無いよな。

 しょうがないのでその辺の路地に入った所で止まる。ムードも何もあったもんじゃないが、そもそもシズとユリが無言で付いてきてる時点でそこは期待しちゃいけないか。

 

「それでどうしたんです? さっきから組合の前をウロウロしてたみたいだけど」

「え、見てたんですか!?」

「まあ建物の中から外の様子ぐらい掴めないとね。それで……怖くなった、とか?」

「うっ―――」

 

 元々覇気が薄かったのが更に萎れていく。正直めんどくさくなってきたので放り出したいが、アインズ・ウール・ゴウンは誰もが憧れる冒険者になるのだ。そうも言っていられない。

 

「まあ俺達が遅かったら本気で死んでたんだ、恥じるような事でもないさ」

「それは、その……ありがとうございます。でも、私は……姉を、探さないといけないんです」

「そういやそんな事も言ってたね。ただ、チームに入れたとして……そんな状態だとすぐ死ぬと思うよ」

「………。」

 

 それは自分でも解ってるんだろう。戦士、特に金属系の鎧を着てる人に過剰に反応している節がある。少なくとも一度落ち着くまでは無理はしない方がいいだろう。

 

「ちなみに俺としては一度静かな場所でゆっくり考えてみるのがオススメだね。こういう場合は時間が経つのを待つのが一番効く」

「それは……実家に帰れ、って事ですか?」

「それが出来れば一番だけど……ああ、適度に緊張を保ちたいなら別の村で過ごすってのも手だな」

「無理ですよ。ご存知ないかもしれませんが、村の社会は非常に閉鎖的です。ごく短期ならまだしも、長期間住み着くのは私にはとても……」

 

 微妙に余所者感を醸し出しつつスローライフで自分自身を見つめ直す良いチャンスだと思ったんだが。ん、いや待てよ?

 

「それなら村人を募集してる所があるだろ? こないだ一緒に行ったカルネ村もその筈だ。ゆっくりするのが嫌なら仕事で頭を空っぽにしても良いしな」

「ああ、確か襲われて……人手が足りないならやる事は山積みでしょうね」

「それにバレアレ家もカルネ村に移住する予定だ。実はこれから顔を見に行く所でね、何なら一緒にどうだい?」

「え……」

 

 あー、流石にこりゃ失敗か。あそこ行ったらフラッシュバックしちまうかも。いや、ショック療法としては逆にありんす?

 

「……い、いえ! 行きます! 一緒に行かせて下さい!」

「ん、そう? なら行こうか。まあ、無理だけはしないようにね」

「はい!」

 

 気合いを入れたニニャ君を伴ってバレアレ薬品店へと向かう。現在は引っ越し準備中という事で通常の業務はやっておらず、裏口から入る事にした。

 以前来た時は棚一杯にあった素材や薬が一通り片付いており、中々順調に引っ越し体勢に入っているようだ。

 

「う……」

「もっかい言うけど無理はしなさんな。ユリ、ついててやれ」

「畏まりました」

 

 裏口から入れなくなったニニャ君をユリに任せ、俺は俺で勝手知ったる他人の家。ズカズカと家の中に入ると色々とひっくり返しっぱなしな部屋に入る。

 

「うわきったね」

「あ、マキナさん! すみませんお出迎えもせずに……」

「いやそれは別に良いけどさ。準備の方はどう?」

「昨日ようやく溜まってた仕事が全部片付きまして……あ、必要最低限の準備は終わってます」

 

 正直な感想を口にすると、それに反応してメカクレボーイことンフィーレア君が現れる。ふむ、最低限終わってるならもう良いか。

 

「よし、それなら善は急げだ。今から行こうか」

「い、今からですか!? いや、でもその……」

「構わんよ。残りは弟子連中にくれてやるとするわい」

「お婆ちゃんまで!? ……まあ、そういうことなら良いか」

 

 まだ何か残っているようだが、ひょっこり現れたリィジーさんがスパっと決める。その眼は爛々と輝いており、まるで「待て」をされた犬のようだ。

 そして何だかんだでンフィーレア君もカルネ村行きを楽しみにしていたのか、特に気にする様子もなく荷物を取りに行く。まあ頑張れ少年。

 

「それでのう、マキナ殿。研究についてなんじゃが……」

「道具と材料は貸す。まずそれで試してみな。そっから先はその時の成果次第だ」

「うむ、心得た。ウヒヒヒ……楽しみじゃのう」

 

 先日使った馬車に荷物を積み、早速出かける事にする。途中で暖簾分けしたらしい薬屋に鍵を無理やり預け、逃げるようにエ・ランテルを出た。

 

「それじゃあニニャさんもカルネ村に?」

「はい……少し自分を見つめ直そうと思いまして」

「そうですか。それじゃあ向こうでもよろしくお願いしますね」

「はい」

 

 そして逆に驚かされたのがニニャ君だ。出発する時に別れたかと思うと、エ・ランテルを出る時に自分の荷物を担いで現れたのだ。

 まあ衝動的な物でも選択は選択だ。合わないと思ったらまたエ・ランテルに戻って冒険者稼業を続ければいいのだから。

 

 ……さて、そんな道中のルートだが今回は可能な限り安全性を求めるという事で前回とは違うルートになっている。

 一度東まで移動し、そこから北上するルートを取る。戦力的に見れば前と同じルートでも良いのだが、折角だから違うルートを見てみたかったので丁度いいな。

 

「とは言ったものの……こっちなんもねぇな」

「まあ、見渡す限り平原ですからねぇ……」

「このルートだと目的地に到着するまで何かある方が珍しいですからね」

 

 馬に合わせて歩いて日も暮れて。俺達は別にいいが、バレアレ家とニニャ君は流石に飯を食わないといけないのでユリに食事を用意させた。

 ユリはレベル1だがコックを取得しているので簡単な食事ぐらいならば問題なく用意できる。怪しまれずに済んだし、彼女を作ったやまいこさんに感謝である。

 

「マキナ様にボ―――私などの料理をお出しするのは恥ずかしいのですが……」

「良いって良いって。充分うめぇよ」

「……うん。ユリ姉のご飯、美味しい」

「マキナ様、シズ……ありがとうございます」

 

 そもそも以前こうやって食った食事とは材料からして違う。今回使ったのはハーゲンティの落胤というモンスターの手羽先だ。

 鶏肉のようにサッパリとした味わいと牛肉の深みのある味が絡み合い、そこに仄かなワインの香りが押し寄せる。

 料理自体はチーズを使った簡単な煮込み鍋だが、焚火に照り返す様は黄金色に輝いているようである。

 

「凄い……! こんなにおいしいお肉があるだなんて!」

「鶏肉にしては味が濃いし、でも触感は間違いなく……」

「ほっほ! まるでフランベされたステーキじゃな。風味がまるで違うわい」

 

 うん、満足してくれたようで結構。でも俺と感想被ってるからね?

 

『それでリーダー、そっちは?』

『それが妙な事になりまして……世界を滅ぼす魔樹がどうのと』

 

 いちいち大げさなリアクションで飯を食う面々を見ながら<伝言>でリーダーと連絡を取る。そして何やら不穏なワードが聞こえてきた。

 

『世界を滅ぼすねぇ……? 名前は?』

『ザイトルクワエ、でしたか。心当たりは有りますか?』

 

 んー、何かどっかで聞いたような気がしなくも無いんだけどそう簡単に忘れるような名前じゃないしでも何か喉に小骨が引っ掛かったような違和感が……。

 

『うんごめん解んないや』

『そうですか。あ、それとドライアードを1人仲間にしましたよ。明日は彼女の案内で薬草探しとついでに魔樹を調べて来ようと思います』

『了解。こっちはさっき言った通り、ニニャ君を連れてカルネ村に向かうよ』

『解りました』

 

 ぷつりと<伝言>が切れる。向こうも向こうで大変そうだな。

 

 

「まあ、こっちもこっちで大変なんだけどな……何じゃいこりゃあ」

 

 翌朝、いざ出発しようと思ったら何やら南の方角が騒がしい。そこで顕現体創造で偵察用カメラを飛ばした結果、丁度俺達の真南辺りにアンデッドの大集団がいるのが解った。

 距離はエ・ランテルから直線距離でおよそ60キロ。人間の足なら半日以上かかるだろう。そして肝心のアンデッドの個体数だが……まあ、1万ちょいって所か?

 

「あ、指揮官めっけ。こりゃ野生のリッチか?」

 

 エ・ランテルから南西に広がるカッツェ平野は毎年のように戦場になっているせいでアンデッド発生地域になっているらしく、冒険者がたまに数を減らしているらしい。

 しかし同数以下で真っ直ぐ向かって来るならともかく、一種津波のようにも見える大軍は並みの冒険者ではどうしようもないだろう。

 

「あー、こりゃ真っ直ぐエ・ランテルに向かってるな。あ、また1人やられた」

 

 カッツェ平野でアンデッド退治に従事していたらしき冒険者がスケルトンアーチャーの矢に倒れる。一発一発は大した事は無さそうだが、それも数百数千と撃たれれば充分脅威だ。

 因みに軍団の内訳はスケルトン、ゾンビ、スケルトンアーチャー、レイスの4種が殆どであり、それも後になるにつれて数が極端に減っている。

 

「でも少しだけ装備が良いのも居るな……お、赤いのもいる。精鋭って事か?」

 

 まあこないだ戦ったスケリトルドラゴンのようなデカブツは居ないが、その分だけ頭数は多い。夜か明日の朝ぐらいにはエ・ランテルにこの大軍が押し寄せるだろう。

 正直またアンデッドかよって思う所が無い訳でも無いが、そこは我慢しよう。俺は偵察に出ていた顕現体を回収して情報を本体と共有し、<伝言>を発動させた。

 

『あれぇ? お呼びですかマーキナー様ぁ?』

『ああ。プレアデス全員……と、ソリュシャンは任務で出てたな。ルプスレギナとナーベラルを連れて俺の所まで来い。ただし今は他の人間と一緒に行動してるから気付かれないようにな』

『畏まりましたぁ、少々お待ちくださぁい』

 

 カルネ村に向かって北上しながら歩くこと数分。俺のスキルに見慣れたアイテムの反応があった。それらは馬車の後ろ、誰の視界にも入らない所で<完全不可視化>が解除される。

 

「ルプスレギナ・ベータ、御身の前に」

「ナーベラル・ガンマ、御身の前に」

「エントマ・ヴァシリッサ・ゼータ、御身の前に……以上三名、略式で失礼しますぅ」

「……やっぱり皆だった」

「どうしたの、貴女達? ……ああ、マキナ様がお呼びに?」

 

 うむ、ユリは察しが良くてよろしい。不可視系魔法は音や匂いまでは消せないからね。でもどの時点で気付いてたかはちょっと気になる。

 

「よし。あー、ちょいとお三方。申し訳ないんだけど護衛交代して良いかな?」

「え? って、うわ!? いつの間に!?」

「だ、誰ですか……!?」

 

 そして名乗りは音量を下げてくれていたので気付かなかったバレアレ家とニニャ君に声をかけると盛大に驚く。いやせめてニニャ君は気付こうよ。こりゃ相当参ってるのかね。

 

「ちょっと野暮用ができてね。んー……よし、ルプスレギナ。お前はこの人達をカルネ村まで護衛しろ。到着後は適当に過ごしてて良い」

「畏まりました……って事でこれから少しの間、よろしくっす!」

「え、ええと……?」

「ちょいと野暮用ができましてね。そいつ一応神官なんで戦闘その他は安心して下さい」

 

 最低限の説明だけ済ませ、ルプスレギナを除いたメイド達と俺は立ち止まる。まあ後はルプスレギナの人当たりの良さに期待しよう。

 

「さて、状況を説明する。目標はここから数十キロ南下した所に居るアンデッドの大軍およそ1万。それをドカーンとやる、以上だ」

「はっ」

「……了解」

「畏まりましたぁ」

「お任せ下さいませ」

 

 各員から了承の返事を貰って俺は一つ頷く。まあアンデッド相手なら神官のルプスレギナが一番相性がいいのだが、アイツを連れてくと他の連中の出番がなくなりそうなので今回は護衛に回ってもらった。他の連中だとまともに護衛できそうにないし……。

 そして<全体飛行>で移動するとまた居るわ居るわ。低級アンデッドでもこれだけ揃えば壮観である。

 

「ああそうだ、各員情報系魔法の探知は使っとけよ? この大軍の原因は野生のリッチだとは思うが、誰か後ろに居たら間違いなく監視されるからな」

「はい。それじゃあエントマ、その辺りを頼める?」

「了解ですぅ。符術と蟲で複数種の監視を行いますねぇ」

「よし、それじゃあボチボチ―――掃除の時間だ」

 

 言いながらアイテムボックスから取り出したのは1つの盾。グリップよりやや大きい程度の半球を中心に、盾にしては細すぎる板が両脇に伸びている。

 タワーシールドにしては面積が狭く、バックラーにしては形が妙なソレは中心から横一文字にバックリと割れる。そこにあったのは無数の銃口。

 

「<三重最強化聖なる光線>19連装砲、発射ぁっ!」

 

 そこから伸びるのは無数の光線。聖属性の魔法を付与された弾丸はアンデッドの津波とも言える一団へと殺到し、その一角を完全に浄化してしまう。まあすぐ次のが来るのだが。

 俺は俺で魔法を吐き出した薬莢を盾―――ディバインディバイダーから排莢する。勢いよく飛び出たそれらは、シズがすかさず足元に回収用の無限の背負い袋を置く事で回収する。流石シズ、グッドだ。

 

「それでは我々も参りましょう。ユリ姉様、前衛はお願いします。<連鎖する龍雷>!」

「私もとりあえず数を減らしますねぇ。爆散符ぅー」

 

 ナーベラルの魔法とエントマの符術がドカンドカンアンデッドの山を吹き飛ばしていく。

 流石にNPCであるコイツらは所持スキルや装備に遊びが無いからこういう気楽にやれる場面でも普通に強い攻撃するんだよな。折角なんだしもっと遊ぼうぜ。

 

「……いきます」

 

 その点で言うとシズはプレアデス中で最も遊びのある性能をしている。使用可能装備量で言えば間違いなくナザリック1だろう。下手すればリーダーより装備を持っている可能性もある。

 元々NPCレベル上限を引き上げる課金アイテムがゲーム内取引で中々手に入らなかったので苦肉の策として採用した俺との装備の共有だが、これが意外なまでにハマった結果と言える。

 

 そして今も左手のガトリングアームを展開し、そこに今まで持っていた杖のお椀型になった柄をドッキングさせた。

 これぞ俺がこの世界に来て真っ先にシズの為に作った装備、魔術師の銃だ。これは一見杖に見えるが、実は脱着式の延長銃身である。ガンズオブスペルキャスターを構え、シズはガトリングアームをスナイプモードへと切り替えた。

 

「……乱れ撃つ」

 

 眼帯をシャコンと回したシズの宣言と共に杖の石突、即ち銃口から銃弾が走る。それも一つではなく無数の銃弾だ。それもそうだ、何だかんだ言って回転式機関銃がベースなのだから。

 しかし俺は伊達にマシーナリーとガンスミスのジョブレベルを15まで取得していない。シズの放った銃弾は驚異的な命中精度を以ってアンデッドを仕留めていった。

 まあ、元々アンデッドが密集していてどこに撃っても当たるという状況もあるのだが。

 

「……あれ? もしかして今回の前衛、ボクだけ?」

「大丈夫ですよぉ、必要なら蟲達を呼びますから」

「そう、なら安心ね。突破はともかく、1人で全部食い止めるのは流石に無理だから」

「そこまで無茶はさせませんよぉ。早速おいでぇ、鋼弾蟲ぅー」

 

 疑問の声をあげたユリにエントマが答える。俺も装備次第では前衛に回れるが、仕える者としてはそれはさせたくないんだろう。

 エントマが呼んだのはライフル弾によく似た蟲であり、効果もそのまま銃弾だ。とは言え流石に本職のガンナーであるシズには及ばず、何発か外れているのが見えた。

 

「ふむ、お次は……あ、これとか良いかも。ここは大砲の出番だな!」

 

 何度かディバインディバイダーをぶっ放した俺は次の装備をアイテムボックスから取り出す。取り出したのは赤い変則カイトシールドと二銃身の長銃。

 俺はカイトシールドを地面に刺し、上の方にある小窓を空ける。そこに長銃を入れて固定して……あ、片目ゴーグルないや。まあ良いか。

 

「ユリ、少し下がれ! 重装砲を撃つぞ!」

「はい!」

 

 射線上から完全にユリが離れたのを確認してトリガーを引く。途端に無数の火砲がアンデッドの大軍を貫いた。

 コイツは威力は申し分ないが精度が悪くてばら撒き用だからな。こういう時ぐらいしか使い道が無いのが困る。

 

「よいしょ……チャージは3発分、それなら内燃開始。発射」

 

 シズも俺が預けていた装備の中から一つを取り出してアンデッドを焼き払う。全長がシズどころか俺すらも超える巨大な青い銃、ハイパーマギランチャーだった。

 特殊な素材を溶かした錬金溶液と魔力を放出するタイプのアイテムをコアに使用したそれは、アイテムそのものが魔力を作れる内燃機関を備えている。これにより使用者の魔力も実弾も使わずに大火力を実現できるのだ。

 ユグドラシルでは薬莢がオーバーテクノロジーなんて事は無かったから普通にもっと効率の良い装備を使っていたが、このタイプはこっちの世界だと意外と需要が高そうだな。後でチェックしとくか。

 

「相変わらずシズは攻撃手段が多様ね……<連鎖する龍雷>」

「手札の多さでは至高の方々の中でもずば抜けて多いというマーキナー様が創造したのだし、ある意味当然では?」

「私も符術と蟲の多様さでは自信がありますけど、流石にシズちゃんには負けますねぇ。式蜘蛛符ぅ!」

 

 相変わらず淡々と魔法を飛ばすナーベラル、アンデッドの多くはこっちに来ているが接近する前に全て吹っ飛んでるので手持ち無沙汰そうなユリ、大蜘蛛を召喚してばっこんばっこん殴らせているエントマ。三者三様のリアクションである。

 いやまあ確かに手数は多いけど使えない物の方が多いし、殆どアホみたいなコンセプトの武器ばっかりだからねぇ。実際よく使うのは10種類かそこらだろう。

 と、今まで呻き声や骨同士がぶつかる音だけだったアンデッドの中から明確な声が聞こえる。

 

「何だ……何なのだお前達は!? 万を数える軍勢をそれだけの数で、一体何をしているのだ!?」

「ああ、相手方の総大将らしいリッチですね。マーキナー様、如何致しましょう」

「わざわざ逃げるでもなくこっちに来てくれたんだ、俺が直々に相手をするよ。お前らは雑魚の掃討を頼む」

「「「はっ」」」

 

 何かと思えばさっき見つけた総大将か。さっきから活躍の場がないユリには悪いが、どうせだし大将戦といこう。

 そして後ろに誰かが居るならコイツを中心に監視をしていると思ったんだが、こちらの探知には一切反応なし。こりゃマジで野生のリッチか?

 

「一体何だ、何なのだ……生きている訳では無い、しかし死人でもない。貴様は一体……」

「いやなに、最寄りの街に行こうとしたんだろうがソイツはちょっと遠慮願いたくてね。で、俺が誰か、だったか? 目の前でじっくり見せてやるよ」

 

 俺は背部アタッチメントにフライキャノンを装備し、アンデッドの大軍の上に浮かんでいるリッチのすぐ近くまで飛び上がる。

 普通は生者への恨み妬みで歪んでいる筈の表情が今では別の感情で歪んでいる。ふむ。お前さん、怖れてるな? 怯えてるな?

 

「ほれ、じっくり見な……まあ種明かしをすればゴーレムみたいな被造物だよ。この体は俺自身が作ったもんだけどね」

「作った、作っただと!? それだけの力を作れるだと!? そんな事が出来るというのか!?」

「ああ、無理じゃないさ―――やはり反応なしか。それじゃあこっちの用はもう終わりだ。消えろ」

 

 宣言と共に胸パーツを解放する。心臓があるべき部分よりやや下、鳩尾の辺りから鼓動のように明滅する光が漏れ出した。

 こんな雑魚連中に使うのは多少勿体無いが、ここまでアンデッドの軍勢を集めた事に対する称賛代わりだ。とっときな。

 

「な、何なのだ……その光は、その熱は!?」

「ただ熱いだけだよ―――熱量解放、カロリックノヴァ!」

 

 ワールドアイテム、カロリックストーン。

 こいつは無限のエネルギーを引き出す事ができるアイテムであり、恐らく最も出回っているワールドアイテムだ。なんせ無課金プレイをやっていた俺が手に入れる事ができたぐらいだからな。4年以上かかったけど。

 そしてこいつは複数手に入るという事もあり、様々な使い道がある。破壊と引き換えに『二十』のような強大な効果を得るもよし、俺やガルガンチュアのように動力源に使うもよし。

 そして―――一時的にその熱量を解放して攻撃するもよし、だ。

 

「……ああ。これは、この暖かさは―――!」

 

 解放された熱量は放射状に広がり、周囲のアンデッドを根こそぎ焼き尽くしていった。その範囲と威力は第十位階を超えて超位魔法の範疇にすら届く。

 俺のすぐ近くに居たリッチもまた例外ではなく、何か悟ったような事を言って跡形もなく消え去った。虚無ってんじゃねぇよ。

 

 

「いやー面白かったよ。特にニニャ君がンフィーレア君の引っ越しの手伝いしてる時にさ、エンリ君が首傾げながら心臓辺りを確認してるんだよね。青春だよねー」

「不意の胸の痛み、ですか。青春ですねぇ……死ねばいいのに」

 

 聞こえてるよリーダー。他の連中に聞かれたら面倒な事になるからそういうの言わんといて。

 

「で、リザードマンの村を狙うってマジ?」

「ええ。人間以外の種族からアンデッドを作った場合にどうなるのか、とか戦術指揮……は高望みし過ぎでしょうが『考える事』をさせてみようかと。

 ……やはり『慈悲と敬意』という考え的には認められませんか? 嫌ならやめますが」

「ん、いや別に良いんじゃね? 俺が慈悲を与えるのは俺に利があるか俺を仰ぐ者だけだからな。異教徒は殴っても良いって神父も良く言うだろ?」

 

 バリトンボイスが素敵な神父様である。エェイメンッ!

 

「それに俺の場合はそういうの試そうと思っても試せないし、バレない限りは戦力の拡充はやるべきだよ。っつーか、全身鎧一つ使って能機天が限界ってどういう事だだっつーの」

「あれは流石に効率が悪いですからね。では反対なしならこの件は可決という事で」

「ん。それで戦力は?」

「ゾンビが2000、スケルトン2000、アンデッドビースト300、スケルトンアーチャー150、スケルトンライダー100と指揮官って所ですか。総大将はコキュートスにやらせてみようかと思います」

 

 POPモンスターだけでこの数なら、まあ確かに大軍勢とも言えるが……倍以上を蹴散らしてきた身からすると「その程度か」って感想しか出ないな。

 それにしても総大将がコキュートス? アイツの事だから考えなしに突っ込ませて負けるんじゃないか? 軽く聞いただけだけど湿地帯だろ? 大丈夫か?

 

「負けるなら負けるで何かを得てくれれば良いですし、勝つなら勝つでこちらに損はありませんしね」

「どうせPOPモンスターだしなぁ……意識改善と実験を同時に行うとは、流石リーダー」

 

 はてさて、どうなる事やら。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。