よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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さあ、ここは真打、経俊姉様の出番です!


09 『裏』 勘違いの経俊ちゃん ●経俊ちゃん視点

第9話

 

 

 

 机に肘を付いて、私は半ばだらけた調子で部屋から外を眺めている。真っ白い雪景色を何も考えずに見続けているのは我ながら面白いとも思うんだけど、傍から見ればただただボケーっとしているように見えるんだろう。

 しかし下々の者は前にこの状態の私を見た事があったらしいんだけど、その者曰く、心を奪われる程の恋に悩んでおいでなのではないか? なんて言っておりました。しかしですね。やっぱり間違いなくただボケーっと外を眺めているだけだったりするんですよ。

 だってやる事なんて無いのですから。

 

 夕餉まではまだ時間がありますわねー。誰か何か面白い事でも持ってきてくれないかしら。

 肌寒い小さな風が肩までの髪を動かしては通り抜ける。その髪が頬を撫でるのが少々邪魔くさい。でも外の景色を見ながらボケーっとしているのだから風が入るのは当然ですね。

 

 はあ、まだまだ暗くなるには早い時間帯。暇を持て余してしまいますわ。

 

 

 

「右の枝へ動きなさい……。左ではいけません。右へ動きなさい」

 

 庭の木の枝にとまっている小鳥を遠目で見ながら独り言をこぼす。まあ、どっちへ動こうがどうでもいいんですけどね。

 

 

 

 ん? 遠くから足音が聞こえてきた。そのまま聞き耳を立てているとその足音は段々と近づいてくる。枝にとまっていた小鳥はその音に驚いたのかどこかへ飛んでいってしまった。

 

 その駆け足に近い大きな足音は私の部屋の前まで来るとピタリと止まり部屋の中へ入ると、いつもの様にこちらへと話しかけてきた。

 

「姉様! 力を貸して!」

 

 我が妹が息を切らして嬉しそうに笑っている。あはっ! これで退屈する事は無くなったようです。

 

 

 

美盛(よしもり)さん、藪から棒にどうしたのです? そんなに息を切らして、もう少し乙女の恥じらいという物を持つべきではありませんか」

 

 あまりに嬉しそうなのでちょっと意地悪をしてやりたくなります。これも妹が可愛いからに他なりません。

 

「ごめんなさい姉様。で、でもこれは私にとって一生に一度と言って良いくらいの一大事なんです!」

 

 あらあら、この子ったら取り乱してしまって……。よほどの事なのでしょうね。

 

「まあ。そんなに大きな事なのですか? わかりましたお聞きしましょう」

 

 姿勢を正すと体を聞く体勢にする。どんな事でも最初から私は美盛さんの言う事は聞いてあげるつもり。姉は妹や弟を助勢するもの。ええ、聞きましょうとも美盛さんの為ですもの。

 

「じつはですね。私の気の遠くなる程前から求めていた人材を発見したのです! だから、だから! 私の家臣にする為にどうか姉様の力を貸して!」

 

 これは思いも付かない事でした。もっと別の、例えば殿方の事かと思いましたのに。

 でも、いいんですよ。私の力が欲しいと言うのであればいくらでも貸しましょう。私は妹や弟の為ならば出し惜しみなんてしませんから。

 

「はい。いいですよ。何をするのか存じ上げませんが美盛さんの為ですもの何でもしてあげますわ」

 

「あ、ありがとう姉様!」

 

「それで私は何をすればいいのですか?」

 

「はい。えーっと、そのですね。んー、その家臣にしたい者なのですが、えーっと……」

 

 はっきりしないですねー。何か言い難い事があるのかしら?

 

「美盛さん、もう少しはっきりと仰ってくださらないと私もお手伝いのしようがありませんわ」 

 

「あわわ……はい! 言います言います! そのですね。その者の好みは小さき女子(おなご)なのです!」

 

「はあ?」

 

「年端も行かぬ女子(おなご)が愛しくてたまらないと、そんな御仁なのです」

 

「うっ……、あのそれは小松様のところの侍従様みたいな人なのですか?」

 

 あまりの事に絶句してしまった私は息を飲んで身近にいる人物を当て嵌める事にする。

 資盛様は少し困ったお人だ。正月等の一門勢揃いの場で私や美盛などをいやらしい目でじろじろと眺めるまわす。私は資盛様を嫌悪する対象だったのですが、もしかすると美盛さんはああ言った殿方が好みなのでしょうか?

 いや、こうまで言うとなれば資盛様のような殿方が好みなのでしょう。わ、私とは別の嗜好を否定はしませんが、さすがに人は選んだほうがいいと思うのですよ美盛さん。

 

「あー、そうですねー。その辺が似てると言えば似てるけど、侍従様よりは爽やかで人当たりの良い好人物ですよ」

 

「そ、そうなんですか……。」

 

 まあ、私は妹が嬉しそうな顔でここへ来たときから快く手伝うと決めたのです。た、例え変な人でも妹が喜ぶなら……。

 私は呪文のように『妹が喜ぶのなら』と何度も自分に言い聞かせると、その家臣にする作戦を聞いた。

 

「はい。先程父上に言って夕餉を共にする算段と相成りましたので、その宴の途中から私と姉様で彼の左右に展開して挟み撃ちにしようと思います。それでもう彼を篭絡する事間違いありません!」

 

 自信満々に作戦を説明する美盛さん。いい作戦だとは思いますけど何か大事な物とかを失いはしないのでしょうか。例えば羞恥心とか……。

 

 それでも妹のたっての頼みです。無碍にする事など出来ません。やるのならとことんやりましょう。

 

「判りました。美盛さんの作戦に乗りましょう!」

 

「やったー。これでかつる!」

 

 うーん。かつるって何なのでしょう? たまにうちの妹は意味不明の言葉を発します。それが何なのかを聞くのも億劫なのでわざわざ聞いたりはしませんけど。

 

「ただ、これは少し羞恥心とかその辺に負荷が掛かりそうなのでお酒を多めに飲まないといけませんわね」

 

「あ、あはははー。そ、そうですね」

 

 笑ってごまかそうとする我が最愛の妹。私が良い殿方を見つけた時は是非美盛さんにも手伝って頂きましょう。ええ、是非にも。

 

 

 

 

 

 

「いやさ、もそっと囲炉裏の前までこられるがいい そこでは寒かろう」

 

「はい。じゃあお言葉に甘えまして」

 

 父上の声を聞いた噂の梶川さんが囲炉裏の側まで来る。うーん。先程の話では資盛様みたいなたっぷりとしたお方かと想像しておりましたのに、わりと精悍そうで良さそうな殿方じゃないかしら?

 

「美盛さん、美盛さん、わりとしっかりとした殿方に見えますわね?」

 

 小声で美盛さんの耳元で囁く。

 

「えっ、ええまあ」

 

 まあ可愛い。照れちゃって。

 

 

 

「さて今宵の夕餉に家族だけではなくお客人を招いたのは他でもない、美盛を助力してもらったその労いじゃ」

 

 父上がそんな事を言う。

 梶川さんがここへいらっしゃる前に美盛さんに聞いたところ、何でもうちの周辺で狼藉の限りをつくしていた禿童を梶川さんと一緒にやっつけたんだそうです。

 私の勘ですが、多分そこで梶川さんが大立ち回りの挙句、後一歩で危険な目に会いそうになった美盛さんを救ったのでしょう。それなら致し方ありません。そのような救われ方をしたのなら、その殿方に夢中になるのも道理。私も美盛さんを応援しましょう!

 一緒になるのは良いとして子供はいつ作るのでしょうか。まだ美盛さんは十歳。今からあんな事やこんな事を毎晩の様に……こ、これは是非美盛さんの部屋を見廻りに行かなければなりません! 決してよこしまな気持ちで見廻るのではありません。我が最愛の妹がよく眠っているのかどうかを確かめに行くだけです! 

 部屋の中で何か物音がしたら、少しだけ、ほんの少しだけ覗いてみるのも姉の務めです……きゃあ、私ったら何と言うはしたない事を考えているんでしょう。

 

 顔を真っ赤にしてイヤイヤをしてると隣の美盛さんがじと目でこちらを伺っている。うあ、またやってしまいました。妄想と言うのは甘美なものですのでいつもやってしまいます。いけないいけない。

 

 

 

「まずは、ここは無礼講故、すまぬが各々で酒を注いでくれぬかの」

 

 父上の言葉に私たちは各自でお酒を盃に注いでいく。横目で梶川さんを見るとおどおどしていた。酒が嫌いなんでしょうか?

 見るに見かねて父上にお茶でも持ってきてはどうかと言おうかとした矢先、美盛さんが立ち上がって梶川さんの隣まで行く。お酌などして差しあげるのでしょうか。

 

「あら、梶川さん。お酒がまだみたいですね。では私がお酌をして差し上げましょう」

 

あらあら、仲の良さそうな事で。ご馳走様。

 

 

 

「皆も酒が行き届いたようじゃの。では娘に助成してくれた客人の為に乾杯じゃ」

 

「かんぱーい」

 

 私達も父上にならいそのままキュっと盃を呷る。美味しい。今日は酒に酔わなければやってられない事をしなければならない。多少は多めに呑む事にしましょう。

 

 梶川さんの方も酒は案外いける口のようです。最初の一口は戸惑っていましたが、次からは美味しそうに何度も呑んでいます。これは早めに作戦実行しなければ酔いつぶれてしまうんじゃないかしら?

 

 

 

「今日はうちの妹が世話になったようだな。私からも礼を申すぞ」

 

「いえいえ、弱い者をいじめるような奴は許せない性質なもので、体がこう、バーって考えも無しに飛び出てしまったんです」

 

 先程までは父上と話をしていた梶川さんですが、今は経正兄上が彼の側にどかりと腰を落ち着けて一緒に呑んでいますねー。私は美盛さんを応援する立場ですけど、多分経正兄上は快くは思っていないんでしょうね。前に『妹をかっさらう男は私が全て成敗してくる』なーんて言っていましたからね。本当に実行なんてなさらないでしょうけど。

 

 私も少しお話をしてきましょうか。そう思うと敦盛さんを呼んで一緒に梶川さんのところへ。

 

「兄上、私と敦盛さんにも話させてくださいな」

 

「ん? ああ、判った。それでは私は一度戻るがまだまだ君とは話足りないのだ。その辺判っているのだろうな。だいたい君という奴は……」

 

「兄上?」

 

「ん。うーん。まったく変な男が寄ってくるからと美盛にはあれだけ注意をしておいたと言うに……」

 

 経正兄上は本当に私と美盛さんを嫁に出したくないらしいです。大事にしてくれるのはとても感謝しているのですけど、少し気を回しすぎではないでしょうか? 兄上の通りにやっていますと行き遅れになりそうです。

 

 

 

「ごめん。助かったよ。経正さんが凄い剣幕で俺にお礼(・・)を言うから、本当は感謝してるんじゃなくて追い出そうとしてるんじゃないかって思ってさー」

 

 近からず遠からずってところですね。さすがは美盛さんが見込んだだけの事はあります。

 

「いえいえ、私も梶川さんとはお話したくて敦盛さんと一緒に順番を待っていたのですよ」

 

 殊更にこにこしながら言ってみます。私よりは年上のようですが、美盛さんと一緒になると言う事は私が従姉になるのですからその辺の立場と言うものを教えなければいけません。

 

「そうなんだー。えーっと、君の名前は……」

 

「申し遅れました。私は経盛が長女、経俊と申します。以後お見知りおきを」

 

「あ、よろしく。俺は梶川勝利だよ。しょうりと書いて勝利ね」

 

「僕は次男の敦盛だよ! 梶川の兄ちゃん」

 

「うん。よろしくな!」

 

「美盛さんとは1つ違いの姉になります。彼女の事よろしくお願いしますね」

 

「僕ももう八歳だよ! 大人の仲間入りも近いんだからね」

 

 年齢の話になると敦盛さんが食いついてくる。

 そこから話題も広がり今習っている剣術の話や弓の射方等々、敦盛さんの話は梶川さんの興味を引いたらしくそんな話で埋め尽くされていく。私はその辺りは無粋者なので横でずっとその話をにこにこしながら聞いている。そんなに好きな話でもないけど、楽しそうに語り合っている二人を見ているだけで何となく楽しくなってくるのです。

 そしてそれを見ながら自分で盃にお酒を注ぐとそのままキュっと一杯。ああ、幸せです。

 

 

 

 時間は経ち私と敦盛さんも一旦元の場所へ戻ってきました。

 

「話してみましたが中々楽しい殿方ですね。これなら美盛さんを任せられそうです」

 

「そ、そうですか。良かったー。姉様に認められればもう済んだも同然です。父上も積極的に反対もしていませんし、兄上はいつもの事だと思えばそれほど気に掛かりません」

 

 美盛さんも安堵したように胸を撫で下ろす。私も美盛さんの子供は早く見たいですし。そんな事を考えながらまた一つ盃を傾ける。ああ、美味しいです。

 

「では、そろそろ作戦決行といきましょうか?」

 

 ほろ酔い気分な私は美盛さんに作戦を実行する様に促すのだった。

 

 

 

「ぷはー。いやーこのお酒は美味しいですねー」

 

 それは美味しい事でしょうね。梶川さんが求め続けていた希望の場所がここにはあるのですから。

 

「梶川さん、梶川さん、ささっもう一つどうぞ」

 

 今、美盛さんと私で梶川さんを挟み込んでお酌合戦となっています。

 それもこれも恋する乙女となった美盛さんの為、私も頑張ってお二人をくっ付けます! 大船に乗ったつもりでお姉ちゃんに任せなさい!

 

「あっ、姉様ずるい。梶川さんは私が連れてきたのですよー」

 

「あらあら、でも美盛さんは小路からずーっと梶川さんと手を繋いで来たのでしょう。私にも少しは話させてくださいな」

 

 うんうん。少しは焦らさないと恋も大きく育ちませんから、私は応援と同時にお邪魔虫にもなるのですよ。さあ、私を乗り越えて梶川さんとの一途な恋を実らすのです!

 

「まあまあ姉妹で喧嘩しないで。俺ならどこにも逃げたりしないからさ!」

 

 まあ、こんなに美盛さんが恋焦がれていると言うのに、こちらは上機嫌ですわねー。自分の事を取り合う幼い女の子の姉妹。こんな都合の良い状況なのですから梶川さんからすれば夢の様でございましょう。そんな風に毒付くとまたも私は盃を呷り始める。多分もう酔い過ぎているんだろうけど、ここまで来るともう止まったりなんて出来ません。

 あとは野となれ風となれです! あはっ。

 

 

 

 うーん。とても気持ちが悪いですわ。じつは先程からずーっと頭がくらくらしていたのです。これはもう駄目かもしれません。

 梶川さんの方もいつの間にかそこら辺で高いびきのご様子。すでに宴は終わったようですわね。

 

「姉様。姉様大丈夫ですか? お顔の色が真っ青ですよ」

 

「あはっ。ごめんなさい。少しだけ酔い過ぎたかもしれません」

 

 おどけて見せるけど、気持ち悪さで最後の一言が精一杯。

 

「……美盛さん」

 

「はい? 何ですか姉様」

 

「あとはお願いしますね……」

 

 それだけ言うと美盛さんに体を預けるように意識を失ってしまいました。

 ああ、梶川さんと美盛さんが新しいお屋敷を造ってそこで一緒に過ごしている風景が目に浮かぶようですわ……。

 

 

 

「……姉様は絶対に勘違いしてたよね……。特に色恋の方向へ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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