よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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10 美盛主従誕生

第10話

 

 

 

 いやー、昨日は久しぶりに遊んだ遊んだ。ありゃ、絶対にロリコンだよね。俺が隣に行ってあげただけであの動揺の仕方と言ったら。えへへへ、あんなに嬉しそうにしてくれるとこっちも楽しくなるわー。

 梶川くんの事を思うと一夜明けた今でもニヤニヤが止まらない。たぶん中学生くらいだからくん付けでいいよね。

 

 そうなのだ。オレにも遂に家臣が出来たんだよ! たぶん平成人だとは思うけどそんなの関係ないね! 前世と合わせてもはじめての家臣! 

 家臣! 家臣! とってもいい響きだ! 経俊(つねとし)姉様には悪いけど先に家臣が出来ちゃいました!

 ひゃっほー! 嬉しい。めちゃくちゃ嬉しい! これからは色々してあげよう。ご主人様だからね。当然だね。

 読んだ事のあるラノベに間違って男の子を使い魔に召喚するヤツがあったけど、アレのヒロインな気分だわー。うひゃひゃひゃー。

 もう朝だと言うのに嬉しさを表現する様に布団の上をごろごろと転がりまわる。

 

 まあ、酔っているところに付け込んでしまったのは悪かったけど、こちらもオレの命と平家一門の運命が掛かっている。こんな人材はもう手に入らないだろうし、オレと同様に未来の知識があれば何かと役に立つはず。しかも話しながら色々議論できれば一人で考えるよりも良い結果になると思うしね。

 

 

 

 ってことで、家族で朝餉も終わってしばらく経つというのに未だに梶川くんはオレの部屋へとやってこない。身の回りを世話する下男は付けて置いた筈なのにどうしたんだろう?

 ……まさか臆病になって逃げたのでは!? いやいや、それならもう屋敷で騒ぎになってるはず。うーむなんだろう。

 

 年頃の男の子の感覚なんてものはもう忘れてしまって久しい。何十年前も前の感覚を徐々に思い出してはいるけど、人によって違うからね。一概にオレがこう(・・)だったって言うのを当て嵌めるのもなんか違う気もする。

 まあでも一番の関心事は異性の事だろうなー。これだけは間違いない。中学の頃のクラスの話題って言ったらそれが中心だったもんな。

 今まで毎回床屋さんで角刈りだった奴が次の月曜日には美容院で今時のヘアスタイルにしてきたり、学生服の裏地なんてまるっきり気にしてなかった優等生がいきなり龍の刺繍入り裏地にしてきたり……、これはみんな異性にモテたい一心だろう事は創造に難しくない。

 オレ? オレは……興味はあったけどどうせダメだろうなーって自己完結してたので……。一応好きな女の子は居たよ。すっげー小柄で化粧っ気の無い髪の長い子だった。風の噂で東京の大学へ行ったとは聞いてたけど今はどうしてるかなー。

 まあ、この世界には確実にいないね。

 

 しかし梶川くん遅いなー。主が部屋を離れて迎えに行くのは鼎の軽重(かなえのけいちょう)を問われそうだけど様子を伺いたくて仕方がない。

 うん。いっそ行ってみるか! よし決めた。梶川くんの部屋まで行ってみよう。

 

「身だしなみチェック」 

「お着物、膝上で白地に鶴の刺繍が可愛らしい……よし!」

「髪の毛、サラサラ……よし!」

「内掛け、白地に下がり松……よし!」

「顔、間違いなくロリ顔だ……よし!」

 

 某銀河の鉄道の物語の様に自分で点検していく。問題ないみたいだ。さあ、早速梶川くんの部屋へれっつらごー!

 

 

 

 で、来てみました。部屋の中へそーっと音も立てずに入ると案の定寝ていやがりました。もう朝と言っても辰の刻(午前八時)は過ぎたあたり。いい加減起きようぜ梶川くん。

 しかしただ起こすのはつまらない。やっぱここはイベントでしょう。梶川くん的にもイベントがあった方が楽しいでしょうし。

 よし! では、まずは優しく起こしてみよう。

 

「梶川さん、起きてくださいな。もう朝ですよ」

 

 寝ている梶川くんの横に座ってゆさゆさと布団越しに体をゆすってみる。当然優しくね!

 

「……うーん」

 

 何度も布団越しに肩をゆさゆさとやってみたが今のところ起きる気配がない。

 うひゃひゃひゃ、まだ起きないかこの男はー! うんうん。何かだんだん楽しくなってくるね。

 今度はどうしようか。アレいっちゃう? アレ。耳元やっちゃう?

 ニヤニヤしながら立ち上がると音も立てずに梶川くんの後頭部の方に移動して座りなおす。そして耳元へ口を近づけると小声で(ささや)いた。

 

「梶川さん朝ですよー。起きてくださーい」

 

 しかし起きない。未だに夢の中だ。これは昨日呑ませすぎたかなー? なんて思ってみてもどうしようもない。起きないものは起きないのだから。

 いやさ、これは強敵だ! 優しくゆさゆさ攻撃も耳元(ささや)き戦術も効かないとは!

 かくなる上は馬乗りお兄ちゃん起こしだけしか残されていないのか!? 仕方がないなーこれは最終手段だったのになー。……なんて、何だかんだ思っているのだけど実は楽しくてたまらないオレは、ニヤニヤしながら梶川くんの上を跨いでそのままお腹の上に座ってみた。

 そしてお腹の上でぎゃんぎゃんと騒ぎ立てた。 

 

「梶川さーん。朝だよー。起きましょう」

 

 そうするとさすがの梶川くんも目を開けて何事かと驚く。そして顔を回して今、どういう状態でどういう状況なのかを把握しようとしている。

 

「何? 何この状況? なんで美盛(よしもり)ちゃんが俺の上に乗っかってるの?」

 

「おはよう梶川さん。何度も私が起こしたのに全然起きませんでしたので最後の手段としてのしかかってみたんですよー」

 

「ああ、なーんだそう言う事かー……って、何を納得しているんだ俺は!」

 

「私に起こされるの嫌?」

 

 ロリコンの癖にオレに起こされるのが嫌なわけないだろうに、梶川くんの上に乗ったまま意地悪く聞いてみる。勿論悲しそうな顔でだ。

 

「い、嫌じゃないよ。むしろ美盛ちゃんに起こされてよかったなーって思ってたところ」

 

「じゃあ、早く起きてね!」

 

「判った。起きるからちょっとどいてね。」

 

 そう言った梶川くんは首を起こして、オレをお腹の上に乗せたまま体を少し動かしたのだけど、ピタリとその姿勢で止まってしまった。顔を見ると目はある一点に集中している。ある一点とはパンツの事。今日は膝上までのお着物だからお腹の上に乗っかっていればそりゃあ見えるわな。

 うんうん。その目。オレには判るよー。オレのパンチラに釘付けなんだよね。梶川くんもエッチだねー。

 家臣にしたばっかりで何も出せないから、最初のご褒美と言ってはなんだけどパンツくらいは見せてあげよう。

 

 数秒もすると瞬き一つせずにいた目が動く。そしてオレの視線に気がついた梶川くんは取り繕うように明後日の方向を向くけどもう遅い。

 

「見た?」

 

 両手を使ってお着物の裾でお股を隠すと、わざと蔑む様に梶川くんを見る。

 あちゃあ、見つかっちゃったーって顔だけど妙に嬉しそうだ。

 

「み、見たって何が?」

 

 おお、梶川くんってば無かった事にしようとしてるぞ! そう言う事なら望むところだ。受けて立とうじゃないか。

 

「私の下当て見たでしょ」

 

「んー、下当てって何?」

 

 頬を膨らませながら非難の声を浴びせたのだけど本当に判らないのだろうか、不思議そうな顔でこっちを見ている。

 あ、そっか下当てって言っても通じないかー。今のオレがパンツの事だよ! なんて言ったら変だもんな。んー、さて困ったなどうしよう。

 よし、これで行こう。

 

「……お股。……お股を覗いてたでしょ」

 

 さすがにこれは判るだろう。

 

「え……う、うん。ごめん見てしまった」

 

 あははは、素直に謝ったね。そう謝られたらオレも元は男だ! これ以上はもう言わないよ。まだ今は不機嫌な顔で睨んでいるけどこれは焦らしてるだけだからね。すぐに笑顔に戻ってあげる。

 

「素直でよろしい。さすが私のはじめての家臣です」

 

 笑顔で許してあげると梶川くんもほっとしたようだ。動揺していた顔も元に戻っている。

 

 

 

 オレはお股を置物の裾で隠しながら梶川くんの体から降りるとそのまま彼の横に正座する。

 布団の住人だった梶川くんも布団から体を半分起き上がらせて胡坐をかくとこちらに顔を向けた。

 

「ああ、許してくれてありがとな。でもさ、かしんって何だ?」

 

「えっ、昨日の酒の席で私の事をずっと守ってあげるって言ったじゃないですかー」

 

「ええ? そんな事言ったっけ? あれ? 言った気もする……。でもそれとかしんってヤツとどう関係があるんだよ」

 

 梶川くんも意味不明なかしんと言う語句に苛立っている。ちゃんと教えてやらなきゃ。

 

「えっとですね。私も一応は平家の一門。要するに武家の出なのです。しかしですね、恥ずかしながら実は武芸が全然ダメなのです。だから私を守ってくれる信頼できる人が必要なんですよー」

 

「ああ、もしかするとかしんって家来とか家臣ってことか?」

 

「はいそうです! あ、ちゃんと俸禄も出しますし、他には私の相談に乗ってもらったりもするんですけど……ダメでしょうか?」

 

 オレは上目遣いに相手の目を見ながら両手を合わせて祈るように懇願した。起きた時に家臣が出来たって凄く騒いだけど、よく考えたら梶川くんの意志を聞いてなかったもんね。

 だからこれで本当に家臣になってくれるって答えたなら、オレは全てを話そう。もう他に打てる手が無いのも確かだから。

 

 それを見た梶川くんは唸りながら頭を捻って考えている。

 

 ここから出て行っても小間物屋さんくらいしか行く宛ては無いし、行ったとしてもあちらさんの迷惑になるだろうから行きづらい。でもここでならそれなりの生活が出来るんじゃないのか? それにオレの存在もあるだろう。言っちゃなんだがオレの容姿はとても可愛い部類に入ると思う。ロリコンな梶川くんの事だからロリロリしたオレから家臣になってくれなんて懇願されたら……なーんて考えているんじゃないかなー。

 ラッキースケベとか狙いそうだよね。

 

 やがて決心したのかオレの方へ視線を向ける。

 頼む。家臣になってくれ! オレやみんなを救ってくれ!

 

美盛(よしもり)ちゃん、判ったよ。君の家臣になるよ。ただ衣食住は保障してくれよ」

 

 よっしゃーーー! 起き抜けの様な独りよがりではなく本当に家臣が出来ちゃったよー。ああ、とても嬉しい! 

 あまりの嬉しさにいつの間にかオレは梶川くんの手を強く本当に強く握っていた。たぶん相手から見ると目も凄く輝いてる事だろう。それほどに嬉しかったんだ。

 

 これでなんとか出来る! そんな思いがオレの中を駆け巡ったのだった。 

 

 

  

 あの後、親父から外出許可を貰ったオレ達主従はいつもの茶店の二階にいた。

 オレ達主従……いい言葉だなー。ジーンと来るわ。

 

 ここへ来たのは親睦を兼ねて昼間っから二人で酒を呑もうとこう言うわけ。言わなきゃならない事もあるしね。

 

 

 

「かんぱーい」

 

「乾杯」

 

 もう何度目の乾杯なのか忘れたけど音頭に合わせてキュっと盃を傾ける。美味いなー。機嫌が良過ぎていつになく笑顔を振りまいているオレ。あっはっはー。

 

「そうですかー。梶川さんは十四歳なんですかー。私とは四つ違いですねー」

 

 梶川くんってば中学二年生かー。わっかいなー。勿論言葉に出しては言わない。

 こんな風に世間話や身の上話をしばらく続けていたんだけど、流れの合間で遂に向こうから話を振ってきた。

 

 

 

美盛(よしもり)ちゃん。機嫌がいいところ悪いけどさ。ここへ連れて来てくれたのは何か意図があるんじゃないの? 屋敷では話せない事とかさ?」

 

 ああ、やっぱ判っちゃうかー。今が言うチャンスだね。ここは二階でしかも料理やお酒は沢山あるから店主もわざわざ上がってこないだろうしね。

 

「あはははー。判りました? 私も今回が梶川さんにお話をするいい機会だと思ってたのですよー」

 

 ケラケラ笑いながらそう茶化して話す。

 しかしその次の瞬間、さっと佇まい(たたずまい)を正してオレはまっすぐに相手を見た。真面目な話をするんだからねきちんとしないと。

 

「今回は私に仕えてくれる事、とても感謝しております。つきましては別にお話がありますがよろしいでしょうか」

 

「いいよ。でもさこっちの方が家来なんだからそんなに目下な話し方はしなくてもいいじゃないか。普通にいこうよ。普通にさ」

 

「わかりました。しかし丁寧なのは性分なのでこればかりはどうしようもありません」

 

「判ってるよ。美盛(よしもり)ちゃん」

 

「では質問です……梶川さんは平成の時代からこちらへ来ましたね?」

 

「えっ!? なんで美盛(よしもり)ちゃんがそんな言葉を知ってるの?」

 

 オレの質問に面食らったのか言葉には驚きが含まれている。だが相手の言葉はスルーしてそのままオレは続ける。

 

「はい。実を言いますと私は本当はこの世界の人間ではありません 貴方と同じく元男性で平成の時代から平安時代へやってきた転生者です。違いがあるとすれば梶川さんはそのままの体で、私はこちらで生まれ変わった体と言う事です」

 

 梶川くんは口をパクパクさせて驚きを隠せないでいる。まあ、そうだわなー。

 

「さらに言いますと私は一度源平の戦いで死んでいます」

 

「はい? 一度死んでいるってどういう事? それにやっぱりあるの源平の戦いって?」 

 

「はい。残念ながらこのまま行けば数年後には源氏が挙兵するでしょう。そして私達は都から追い出されます。その後何度か戦いを続け勝敗を重ねてようやく都に戻る拠点を築き上げたのですが……、その拠点を敵将の九郎義経(くろうよしつね)に破られ……そのまま私と姉様は……」

 

 くそっ、これは言う。言わなければならない。そうしないとどのくらい切羽詰っているかを説明できない。

 

「私と姉様は敵の手に掛かり……うっ……くっ、何人もの男達に……ひぃ……っく……」

 

 ダメだ……やっぱりアレを思い出すと体が震えて感情が表に出てしまう。くそっ! 涙が止まらない! 

 思い出すといつもこうだ。感情が高ぶって何も出来なくなってしまう。

 

 

 

「それ以上言わなくてもいいよ。俺が君を守ってあげるからさ」

 

 そう言うと彼はオレの頭を何度も優しく撫でてくれた。涙でぐしゃぐしゃな目で彼を見る。あれっ? もしかしたらオレってば今一瞬梶川くんの事を愛しいとか思わなかったか……。

 いや待て待て、まずそれは間違いだろう。まさかオレが異性にときめくはずが無い。ん? 異性ってどっちの事を言ってるんだろう。よくわからなくなってきたぞ。

 

 

 一通り泣きつくしたオレはそこらへんにある手ぬぐいで顔を拭く。涙でぐちゃぐちゃの顔も萌えるのかもしれないけどオレが嫌だ。

 涙を拭くとその後も色々話をした。清盛(きよもり)爺の事。前にいた会社の事。こっちへ来てもう三十年にもなる事等々を飽きる事無く話続けた。

 

 

 

「よし判った! 要するにだ。俺の知識と君の知識で考えてなんとかしようって事だな!」

 

 オレの話しを聞いていた梶川くんだったが、途中でいきなり立ち上がるとガッツポーズを決めてオレに向かって安心させるように叫んだ。

 本当に判っているのか怪しいところだけど、なぜか凄く彼の事が頼もしく見えた。

 

「いいぜ。やってやろうじゃないか。俺は美盛(よしもり)ちゃんの一番の家臣だぜ! 何でも言いつけてくれ」

 

「さっきも言いましたけど私は元男だけどそれでも仕えてくれますか?」

 

 オレは恐る恐る聞いてみる。元男でそのうえ前世で強姦済みの女なんてレア過ぎてどのくらいの価値なのかも判らないから彼の答えが怖いんだ。でも梶川くんはそんなのはお構いなしのように言い放った。

 

「あったりまえだろう。元は知らんけど今は超可愛いじゃないか。俺はあんまりモテなかったからさ近くにこんな俺好みの女がいたら手放すわけないじゃん。それに今から男に戻るわけじゃないんだから全然問題ないさ」

 

「あ、ありがとう……ロリコンの癖に感動させる言葉を使うじゃないですか……」

 

 そう言葉には出来たがその後はまたも泣きじゃくってしまった。でもこれは嬉し泣きだ。さっきのとはまるで違う。それにこれは苦節二十七年の涙なのだからもう少し泣かせてくれ。

 

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