第13話
これに出て、
条件としては、ちょっとだけお触りされたくらいで梶川くんが突入してくるとオレらの完全勝利だ。
えっ? 敗北条件? それは
あと最低の勝利は、つやつやした
これは流石にきっついなー。いや最中の方がもっときついか……。
「ああ、心配だ心配だ。とっても心配だ」
牛車の横窓から見ると、さっきから梶川くんがぶつぶつとオレに聞こえるようにわざわざ呟いてくる。
正直うっとおしい。
「あのですねー梶川さん、もう判りましたからそのぶつぶつ呟くのはやめて頂けませんか?」
「だってさー、仕方ないだろう。突入のタイミングとか色々と俺の責任は重大なんだ。それに君の事が心配で心配で……」
「だから、部屋に誘い込まれたら目印の
「判っているんだけど、俺はもう心配で……。
待てーい! 何か不穏な言葉が聞こえてきたぞー!
か、梶川くんお願いですから何が無くとも無理やりだけは許してください。オレからのお願いです。
いや、本当に……。
そんなこんなで牛車は
毎回思うけどさ、この乗り物すっごい遅いよねー。どうだっていいけどさ。
玄関から広い廊下に通されたオレと梶川くん。そのまま客間に向かって歩く。今日は薄い空色の涼しそうなお着物に黒の帯。それに月見なので薄い黄色の内掛けです。
お着物は当然膝上の短い丈。この十歳児の健康的な色気で真性ロリな
「おお、
んで、今はこの屋敷の二百畳はあろうかと言うくらいの客間に通されているところです。目の前の
しかしいつ来てもここは大きすぎる。
「ははっ、
小柄な
「うむ。
「ははー! 有り難き幸せ。なんとお礼を申してよいやら」
「うむうむ。
おおっと、ここで官位フラグ来たか! んー、前世よりも二年近く早いんじゃないか? 吉兆のきざしならいいんだけど……。
「ん? えーっと、そこの者、名は何と申したかのう。おお、そうじゃ梶川と申したか」
土産品をオレの後ろでどしどしと積んでいた梶川くんに見覚えがあったのか、思い出したかのように
「ああ、はい」
か、梶川くん! そんな生返事しないでもっとこう頭を下げて! ああ、もう何をやってるんですか!?
「その方、この間の有馬にて
「はい。いやー、何とも見場の悪いところを見せてしまったようです。すみません」
片手で頭をかきながら照れ笑いをする梶川くん。
ああ、もうその危機感の無い現代人なところが!! ここはいつどうなるのか判らない時代なんですよ! 権力者のちょっとした気まぐれで首を刎ねられたり牢屋にぶち込まれたりするんですから、もっと危機意識を持ってー!
「こ、こら! 梶川!
「よいよい。聞けば
正式な場で梶川さんなんて言えないからね。こちらが主なのですからこう言う場合は呼び捨てにさせて頂きますよ!
「まったく何と申していいやら、ううっ、申し訳ございません……」
は、恥ずかしい。何とも言えない気恥ずかしさで顔が真っ赤になる。梶川くんだってまだ慣れてないからね。仕方がないのは判るんだ。判るんだけど恥ずかしいものは恥ずかしいんだよ!
夜の
よし、こんな風に状況を頭に浮かべられるって事は、和歌だって完璧なはず! 情緒とかもののあはれを大いに歌いきってみせよう。
そう、これから月見の歌会のメインイベントの和歌の披露となるのだ。
「それでは梶川さん私はこれから歌壇の宴の席へ行って参ります! 武運長久を祈っていてください!」
「ああ、判った。
「じつは……全然得意じゃないんです。ものすごく下手なんです。ど、どうしましょう」
「えっ?」
心底驚いたような顔でこちらを見る。さすがにそれは失礼ではないですかー。
「たしか、
「父上は凄く上手ですよ。間違いないです。でも私まで上手だと思わない事です」
エッヘン! っと、それだけ言い残すとオレは心を決めて歌の大家達が待っている広間へと向かったのだった。
「いやー、中々に奇抜で味わいのある独創的な和歌だったね……」
メインイベントが終わって酒宴になる合間、外にいた梶川くんが駆け寄ってきてオレの歌を褒めてくれた。いや褒めているんじゃなくて慰めてくれているんだろう。
青白く輝く月を見ながら短冊に書いた歌をそれぞれで歌うんだけど、ひとつの歌を本人が歌い終わるとみんなで合唱するんだ……。他の人の歌はいい。なんか様になってるし、わりと心にも響いたりするのもあって聞く分には心が豊かになってとても心地よい。
でもさ、俺の歌は無いだろう。まず自分で歌う……。これも嫌々歌っているのに、みんなで合唱した日には死にたくなったものだ。あの合唱してる時の
ああ、鬱だ死のう……。
その後、月見の酒宴は進んで行き、オレも新参なので顔を覚えてもらうためにそれぞれ酌をして回った。この時代、やっぱり顔を覚えてもらわなきゃ何事も円滑に事が運ばないのだ。だから将来何かをするためには顔を売らなきゃならない。
平家の一門には覚えてもらってはいるが、他にも公卿や公達はたくさんいる。この辺りにも顔を利かせるのだ。
でも、今回の歌で変な評判が立つだろうな……。不名誉な二つ名だけは冠してくれるなよ。
どうせならカッコイイ二つ名がいいなー。
『ブレーキの壊れたダンプカー』とか『血に飢えた虎』なんかいいんじゃないか?
そんなどうでもいい事を考えながら次にお酌をしに向かう人物を見る。
あれが
やあ、前世以来だね。今生でもよろしく頼むよ……なんて心の中で独り言を呟くと卿の目の前に行って正面に座る。当然女の子座りだ。
そして上目遣いで卿の顔を眺めながら話を切り出す。
「
「おお、
「ささっ、おひとつどうぞ」
オレは自分の部屋で練習してきた最高の笑顔でお酌をする。そうすると卿はすっごい良い笑顔で応ずるんだ。しかも鼻の下が伸びてる伸びてる。これは傑作だ!
「これはかたじけない。あっあー、もうい、もういー」
注がれた酒をそのまま一息に呑み込む成親卿。何も驚くような事は無いが、ここは褒める。褒めまくる!
「わー、凄い飲みっぷりですね! やっぱり男の人って豪快で頼もしいです」
「うむ。麻呂はお上より
フフンと鼻息も荒く自らの権力を自慢する卿。踏ん反り返りすぎて後ろに倒れるなよ。
「それ、
よしよし、あの顔はオレの事が気になってるようだな。ここはもっと畳み掛けて行こうか。
「ありがとうございます
あれからずっと呑んだり呑ませたりで一進一退が続いている。
色々。もうそれは色々と卿の事を褒めまくり、男らしくて素敵だ等と何度も言葉に出して言いまくる。だけど褒めはするけどそれ以上はこちらからは行動しない。全て向こうからアクションを起こさせるのだ。
「
それでも少しくらいはこちらからも動いてみようか。そう考えると、そのまま女の子座りから足をM字に開く。
どうかな? 白の
いたずらっぽく笑うと、また上目遣いで下から覗き込むように卿の目を見る。当然のように卿の視線はオレの顔じゃなくてもっと下の方、お股の方に釘付けになってる。
うひひ。思った通りだ。これだから男の人の目をみるのは面白い。
「お、おう、麻呂もそろそろ酔ってきたでおじゃる」
卿の方も白々しげに酔ってきたなどと嘯く。
ふふふ、あとは酔った振りをしてどこぞの部屋に連れ込まれるのを待つだけ。ここがシビアって言えばシビアだ。
「どれ麻呂が休めるところまで送って進ぜ様ほどに」
「ありがとうございます
しばらくたどたどしい足取りで卿に支えられながら薄暗い廊下歩く。そして卿は辺りを確認すると人気の無い部屋にオレを連れてささっと入った。
よし、ここか。
「おお、この部屋には丁度敷物があるでおじゃる。で、では
ワザとらしく卿が部屋の間取りなどを説明する。
「その間に茶でも入れてあげるでな」
「はい。それでは少しだけ横になりますね」
オレを布団の上に横にすると卿は後ろを向いてどっかりと腰を下ろす。それを薄目を開けて伺っていると何やらごそごそとし始める。たぶん茶でも作っているんだろうけど、オレに背を向けてやるってのが笑わせてくれる。よっぽど作るのが下手なんだろうなー。
それでも時間をかければお茶くらいは作れるようでひとり分の椀を手渡してくれた。
「ささっ、出来たぞ
「ありがとうございます」
ん? 何かお茶にしては変な味だな。まあ、ここは演技だし、仕方がない飲んでおくか。
「とても美味しいです
なんだか変な味だったが、卿が飲んでいる最中もずっとこちらをじーっと見ているので、そんなに自分の煎れたお茶の評価が気になるんだろうかと、またもや褒めておいた。本当は美味しくなかったんだけどね。てへっ。
「大納言様のお茶のお蔭で気分も先程よりはいくらか良くなってきました。それでもまだ万全ではないので少し休ませて頂きますね」
「うむうむ。麻呂がここで見ていてあげるでな。安心して休むでおじゃる」
お前が一番安心できないんだよ! 等とは言わずに、にっこりと微笑んで布団に入る。そしてすぐに寝息を立てた。オレからの『もう寝たよー』って合図だよ!
さあ、欲望の赴くままにおさわりでも何でもするがいい。すぐに我が忠臣が駆けつけてくれるんだから、それまで十歳児の体を思う存分堪能するがいいさ!
「美盛殿、もう寝てしまわれたか? ……ぬふ。ぬふふふ。では麻呂が添い寝でもしてあげるでおじゃる」
寝たふりをしているオレの布団の中に藤原成親卿も入ってくる。うわー入ってきちゃったよ。で、でも、これくらいは想定内。想定内。
それくらいは、まあいいやなんて思ったのもつかの間。何かが胸の辺りを通り抜ける感触が。
薄目を開けてみると興奮した
うわー! 気持ち悪い! どうしよう! すっごく気持ち悪いんですけど!
そのうち服の上からじゃ飽きたのか衿の間からそのままダイレクトに手が胸に!! うわー来ちゃったよ! 手が服の中に来ちゃったー! そしてそのまま人差し指と親指が頂上の突起物を摘む。
「んくっ!」
体がびくっと動く。おおーーい! やめろって、体が動くじゃないかー! もうこの辺に至ってオレは先程まで『十歳児の体を堪能するがいいさ!』なんて心の中で大見得切った事を後悔し始めていた。後悔どころの話じゃないよ!
体を反応させたオレに気を良くした成親はハアハア言いながら今度は太ももの内側を撫で始めた。
ぞわわわ!! 太ももから感じる何とも言えない感覚に嫌悪の声が出そうになる。梶川くーん早く来てくれー! 頼むよー!
「ぬふふふ
ならんならん。いらん事はしなくていいです。
「どれ、麻呂が胸のあたりを肌蹴させてあげよう」
梶川くん……た、助けて……ん? あれれ? 今オレって
……いやいや、待て待て違うだろ?
あっ! まさかあのお茶か! アレに
うん。なにもへんなところはないよね。
このままねたふりをして、すべてをだいなごんさまにささげるチャンスじゃん!
はやくはやくー! もっといろいろさわってもらわなきゃ!
その時部屋の空気が動いた。目を開けて音のした方を向くと戸が勢いよく開く。そして軽快な足音と共に誰かが颯爽と
「悪い悪い遅くなってしまった。暗くて目印が判り辛くてさ」
「
誰かと思えば梶川くんと
「
梶川くんの問いには答えず、倒れて目を回してる大納言様を背中にしたオレは、差し伸べてくる梶川くんの手を振り払った。
「近寄らないで! 私の大事な人を傷付けるなんて家臣でもなんでもない。はやくこの場から出て行って!」
「え? なんで? 清も……
オレは必死な形相で
「うーむ。この急な態度の変わり様。もしかすると何か一服盛られたのかもしれぬのじゃ」
「そんなのがあるのですか! なんてうらやましい薬なんだろう」
「バカモノ! 今はそんな事を言っている時か。こうなっては仕方が無い。わしが大納言の懐を探す故、お主は美盛を抑えておくのじゃ」
「わっかりましたー!」
にじり寄ってくる二人から大納言様を守ろうとするんだけど、難なく梶川くんに後ろから押さえつけられるオレ……。弱すぎんだろうがオレってばよー!
「何をするのですか! 離しなさい! あっこら、どさくさに紛れて胸を掴むんじゃありません。いくら梶川さんでも許しませんよ」
ふっ。羽交い絞めにされて諦めるオレと思ったか? ここはさらに暴れて……ごめんなさい腕も足も決められていて全然動けないです。
「よし見つけたのじゃ。やはり
「煎じるのはいいんですが、その薬もう一回飲ませても同じ事じゃないのですか?」
「この丸薬はすり潰して飲ませた後に最初に見た者を無条件で惚れるのじゃ。ここまでは判ったか」
「凄い! 夢のような薬ですね!」
「……まあいい。話を続けるのじゃ。しかもな、処置が早ければ上書きが出来るのじゃ。まだ飲まされたばかりじゃろう。じゃから心配せずに今しばらく美盛を抑えておくのじゃ」
「はい! 判りました」
「よし出来たぞ。梶川、美盛をここへ座らせるのじゃ」
「あ、はい」
体は梶川くんに抑えられてるが首から上は自由なのだ。動かさないわけにはいかない。もう少し我慢すれば
何度飲ませようとしてもかたくなに口を閉じて抵抗するオレを見て
よし、かったぞ! だいなごんさま、よしもりはたびかさなるまのてから、からくもしょうりしましたよ!
ん?
そんな事をふと思い、意味が判らなくてきょとんとしていると
何がしたいのかよくわからない二人に気を取られていたら、一瞬体を抑えていた手が緩んだ。そう思ったのもつかの間、急に体を強引に梶川くんの方を向けさせられる。そしてそのままオレの唇と梶川くんの唇が……って、ええええ!!!
梶川くんの口から何か液体が流し込まれる。
あまりの事に驚いたオレは抵抗も何も出来なくてそのままごくごくと飲んでしまった。目の前には、ドアップの梶川くんの顔。そして目を大きく見開いたオレはそのままの姿勢で動く事も出来ずに彼の顔を見続けたのだった。