よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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14 上書きされちゃいました!

第14話

 

 

 

 真っ白な世界。意識だけが霧の様に漂っている感覚がある。感覚があるって言っても手の指を動かせるとかそう言う次元の話じゃなくて、全てが溶け込んでいるそんな感じ。

 表の意識では薬の為、成親(なるちか)卿の事を激しく愛している。人を好きになると言うのはこれ程までの激情だったのかと、疑似体験だけど今まさに体験中。

 そして意識の水面下では今までのバカバカしい騒ぎを全て把握しているオレがいる。当然、梶川君に羽交い絞めにされて身動きが取れないオレが本気で怒っている情報も意識下のこちらに流れてくる。自分の事ながら面白い。

 

 あーあ、あんなに敵意を剥き出しにして清盛(きよもり)様を睨むとか後の事を考えるとやめて欲しいんだけど、あちらもオレだからどうしようもないよな等と苦笑い。

 

 

 

 そのうち清盛(きよもり)様はオレに何かを飲ませようと椀を口元へ持ってくる。でも断固拒否なオレ。小さい口を力いっぱいにぐっと結び、長い黒髪を振り巻いて嫌々をする。自分の事ながらなんだか可愛いと思う。

 

 なんて思っていた時期がオレにもありました! だってさ、いつの間にか目の前には梶川くんの顔だよ! しかもキスだよ! キス! これが驚かずにいられるかって言う話だよ!

 さらに梶川くんってば気分を出してるのか知らないけど目をつぶってくれちゃってる。あまりの事に意識下のオレですらこんな状態なんだから、表のオレは錯乱&パニックだろう。

 要するに『くぁwせdrftgyふじこlp』って事ね。

 

 梶川くんの口移しのおかげで表と水面下のオレが重なってくる。ようやく戻れそうだなー。こう言うのって戻ると今までの事を忘れてくれたりするのかな……。

 

 

 

 オレの心の中を覆っていた成親(なるちか)卿への想いが時間と共に消えていく。人為的な物だから当然だろう。

 でも成親(なるちか)卿への燃える様な情熱は情報として忘れずに残っている。消えてくれてもいいのに。たださ、問題はそこじゃないんだよなー。一番の問題は目の前でいまだにオレを抱きしめながら口付けしている梶川くんだったりする。

 ヘタレだと思ってたらこんなにも大胆だったとは、呆れを通り越して驚いてしまうわー。

 ホントに。

 

 さて、それでは用意でもしますか。何の用意かって? そりゃああれですよ。梶川くんが目を開けた時用のじと目と半眼の用意ですよ。

 それまではこのままの状態でいてあげますよ。べ、別に好きでやってるわけじゃないんだからね!

 

 

 

「う、うーむ。これはどうしたのでおじゃるか?」

 

 目を回していた成親(なるちか)卿が意識を取り戻したようだ。

 

「さて大納言(だいなごん)殿、うちの姪によくも楽しい薬を盛ってくれたのじゃ」

 

 すかさず清盛(きよもり)様が自らの扇子を成親(なるちか)卿の首元へ持って行きパシッと軽く打つ。その行為に顔を青くした成親(なるちか)卿はあわあわと返事などろくに出来ない状態で、そのまま部屋から引っ立てられていった。

部屋から出て行く直前。清盛(きよもり)様がこちらへ振り向き最後にオレの方へウインクして行ったけど、あれは何だったんだろう。

 

 

 周りの声に目の前の梶川くんも目を開ける。そしてオレの呆れ半眼のじと目視線と目が合った。前髪はパッツンだから髪の毛に隠れず、目がよく見えて嬉しいだろう? そうだよね梶川くん?

 

「……」

 

「……」

 

「うわあ!」

 

 じと目効果に参ったのか、梶川くんは驚きの声をあげたと思ったら、そのまま後ろへ飛び退く様に後ずさる。

 

「どうして驚くのですか梶川さん? 私とのキスは嫌でしたか?」 

 

 その行為があまりにも滑稽だったので、オレもこんな風に強気に言ってしまう。オレってもしかしたら大胆だったりするのかな。でも本当は一杯一杯なんです。顔どころか体中が火の様な状態。もう心臓なんてバクバク言いっぱなしですよ! 

 

「そ、そんな事ないよ! 美盛(よしもり)ちゃんはいい匂いだったよ……ってそうじゃなくていつもの美盛(よしもり)ちゃんに戻った?」

 

 いい匂いとかそういう事言うのヤメレ! なんか心の中が嬉しくなるからヤメレ!

 

「そう言う風に無意識に女性を褒めるんじゃありません! 褒められると……ま、まあ、いいです。一応はあの熱病の様な恋心は無くなりましたよ。ありがとうございます梶川さん」

 

「清も……入道(にゅうどう)様のおかげだよ。俺だけだったら、ああも上手くはいかなかったはず」

 

「そうですね。入道(にゅうどう)様にもあとで礼を言っておかないと」

 

 

 

 その言葉を最後にしばらく無言の空間が……。

 すっげー気まずいんですけど! オレの暴走を止めるためとは言え、やっぱりキスは気まずいよなー。たぶん向こうの方でも同じ様な感じだろうと思い、ちらりと梶川くんを見る。

 

「!」

 

 待て待て待てー! なんでこっちをじーっと見てるんだよ! こっちはそれどころじゃないくらいに目を合わせられないんだぞ! 梶川くんもちょっとは恥ずかしがってくれよー! なんかオレばっかりが意識してるみたいじゃないかー!

 

 

 

美盛(よしもり)ちゃんちょっといい?」

 

 いきなり沈黙を破った梶川くんがオレの名を呼んでくる。

 わわっ。真剣な顔で名前を呼ばれると困る。今はとても困る。どう言う顔をすればいいのかそれが判らなくて困るんだ。

 

「な、なんでしょうか梶川さん」

 

 普通に接するのだ。平静に。動揺を隠しながら。

 

「惚れ薬の上書きの事だけど、またさっきみたいにヤンデレになるの?」

 

 ああ、その事かー。良かった。キスの続きとか言いながら迫られるのかと思ったよ。あっ…………!

 そうだ! これから上書きが始まるんだった! 忘れてたよー!

 

「そ、そうですねー。あれから大分時間が経っていますから、もうそろそろ上書きされますねー」

 

 またあんな風になるのか。自分の心がコントロールから外れるのは怖いな。さっきまでの想いを思い出すと怖くなってくる。だって、あの時は本当に成親卿のためなら何だって出来ると思ってたからね。

 縛られて蝋燭責めですら進んでやっただろう。熱いのや苦しいのが心地いいとかそのくらいのレベルのオレの出来上がり……いや、もう出来上がっていたんだから、あのままお持ち帰りされてたら本当に危なかった。

 でも……。

 

「でも梶川さんなら安心です」

 

「なんで?」

 

「なんでって。それは梶川さんの事を信頼していますし……。それに……」

 

 いや、本当に梶川くんの事は嫌いじゃない。むしろ好意の方が勝っていると言っていいだろう。でもさ、好意をお互いに持っている事と、一緒になるってのは別問題だからなー。

 オレはこんなんだけど一応は平家の一門の一人。でも梶川くんはただの家来に過ぎないんだよね。オレがどうこう言う問題じゃなくて、やっぱり身分の差って言うのが歴然と壁になって立ちはだかっているんだ。

 この壁をぶち破るか、それとも乗り越えてオレと一緒になるのはとても難しいんだよ?

 

「もう少しすると先程の状態に自分はなると思う。だから今のうちに言っておきます」

 

「うん。君の言う事ならなんでも聞くよ」

 

 嬉しい事を言ってくれるねー。まあ、先程の状態になってどうなるかはわからないけど、多分梶川くんにメロメロになるんだろうなー。

 だから、こんな薬中毒になる前に一応仁義は通しておかないとな。

 

「今だから言うけど梶川さんの事はそんなに嫌いじゃないよ。好きか嫌いかと問われれば……えーっと、好きな方かな。こ……れは惚れ薬の効果前だからね!」

 

「えっ! じゃあ俺と付き合ってくれる?」

 

 十歳児に真剣なお付き合いを求める中学二年生も凄いとは思うけど。今どきの中学生はそんなの当たり前な……あ、なんか来た! 惚れ薬の効果が来たわー。

 うはあ、変わってきた……。さっきと一緒で、何かで心が満たされていくのが判る。まあ、一応は言うだけは言ったからあとは梶川くんにお任せだわー。

 

「あはは、考えておきますよ…………」

 

 あれれ、なんだか梶川くんがとても格好良く見える。いえいえ、違いますね。元から格好いいからしかたがないのですね。

 辺りをきょろきょろと首を動かして部屋を見回す。

 

 そういえばこのへやにはオレとふたりっきりじゃないですかー。

 でも、ことをいそいでたいぎょをいっするのもいやですし、まずはかじかわくんのこのみのおんなのこにならなくては……。

 それからすこしづつ、かじかわくんにオレのいろんななにかをあげればいいのです! さきほどキスはすませましたからづぎは……えへへ。

 

 

 

 

 




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