よしもり ~平家のお姫様に転生したオッサン~   作:りじゅ

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15 美盛ちゃん始末紀

第15話

 

 

 

 はい。今日もやって参りました美盛です。今はもう夏真っ盛りの季節になってますよ。

 この前の歌会の夜にとんでもない目に合わされましたが取りあえず元気です!

 そうそう夏と言えばこの八月で元号が変わりまして安元三年から治承元年となりました。年始めや帝がおかくれになった訳でもないのに元号が変わる平安時代って……。

 

 ま、まあその辺りはどうだっていいかっ!

 

 さて、あの日の後、色々と進展がありまして成親(なるちか)卿は半ばあの一件が公になってしまった事から政治の表舞台から顔を出せなくなりずっと屋敷に閉じ籠っています。

 だから当然先日発覚した鹿ヶ谷事件(ししがたにじけん)にも出席出来るはずもありませんでした。俊寛僧都(しゅんかんそうず)鼓判官(つづみのほうがん)など(いん)の側近はそろって捕縛され喜界ヶ島へと流されてしまいましたが成親(なるちか)卿は屋敷に引きこもり状態です。よっぽど恥ずかしいんでしょうね。

 

 成親(なるちか)卿の方が公になってしまえば不名誉ながら被害者のオレも名前が出るようなものですが、そこは清盛(きよもり)様が揉み消して下さいました。流石は平家の棟梁です。

 

 前世では事件発覚後、成親(なるちか)卿が連座していた事により重盛(しげもり)様が後継者から脱落したのですが、今生ではそれが無く元気に重盛(しげもり)様が後継者筆頭です。

 この様に重盛(しげもり)様さえ健在だったら、色々と我々平家に運が向いてきます。

 

 例えば今から三年程のちの事ですが、前世では失意のうちに亡くなった重盛(しげもり)様の所領だった越前の国を後白河院(ごしらかわいん)が召し上げてしまい、そのため怒った清盛(きよもり)様が(いん)鳥羽(とば)殿へ幽閉してしまうクーデターまがいの事件が起きちゃうんですが、これが重盛(しげもり)様健在ならそんな事も起きませんし。

 他にもそんなこんなで精神的肉体的に疲労が祟った為にお倒れになるはずの大黒柱の清盛(きよもり)様も上手く行けばまだまだ元気に政務に励むかもしれない。

 更に言えば清盛(きよもり)様と重盛(しげもり)様が健在ならば、関東もうかつに兵を挙げる事も出来なくなるんじゃあないのかと、こう考えるわけですよ。

 

 これは平家政権が長期政権になるフラグだとオレなんかは思っていたりしますが、さてどうなる事になりますやら。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 歴史上では頼朝(よりとも)が鎌倉で幕府を開くのですが、織田信長(おだのぶなが)秀吉(ひでよし)家康(いえやす)の天下取りとは全く別物だとオレなんかは思います。こちらへ来た経験上ですけどね。

 

 前世の話ですが、以仁王(もちひとおう)の令旨があるじゃないですか。あれを大義名分に頼朝(よりとも)は挙兵するんですけど、じつはあの令旨(りょうじ)って鳥羽(とば)殿に幽閉された後白河院(ごしらかわいん)に代わって以仁王(もちひとおう)自身が次の(みかど)になるから、平家に流された各地の源氏に協力してくれって話ですよね。

 だから頼朝(よりとも)の挙兵は正統性があって、我々平家が都から追い出される事になる。まあ、西国周辺の大飢饉や木曽(きそ)殿、それに清盛(きよもり)様の死などが重なった事で鎌倉としてはやりやすい部分もあったんでしょうけど。

 

 頼朝(よりとも)と言えば元は我々平家と並び称された源氏の棟梁、源義朝(みなもとのよしとも)の嫡男です。それゆえ以仁王(もちひとおう)令旨(りょうじ)を受けるのにもっとも相応しい人物だったのではないでしょうか。

 えーっと、さっきから論点かぶれまくっていますね。何が言いたいかと言うと……。そうそう、源平の戦いって言うのは最初から最後まで都での権力争いや政争が中心点であって、戦国時代みたいに各地の大名が大大名になってそのうち京の都を目指そう! って話ではないんじゃないかなーって事です。

 

 だから、一度敗勢になるとちょっとやそっとでは力を盛り返すのはとても難しい。また前世の話になりますが、一の谷まで勢力を挽回する事が出来た我々は凄く稀有な存在だと思うんです。まあ、オレは一の谷以降は知らないんですけど歴史上は敗れてるのでそこから転がり落ちたんでしょう。宗盛(むねもり)様ぇ……。

 

 要するに一番言いたい事は、源平合戦ってのは都の中の政争の一部分なんだから後白河院(ごしらかわいん)やその辺とは仲良くしましょうね! って事! まだまだ平家政権は出来立てほやほやだから隙が多いはずなんですから……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「それにしても暑いですね……」

 

「暑いからここまで川遊びに来ているんだろう」

 

 梶川くんが上半身裸で元気なく答える。そうなんです。今はもう夏真っ盛り。この暑さには流石に参ったので近くの河原まで一家で遊びに来ているんです。

 本当はオレと経俊(つねとし)姉様に朝廷から官位を授かったから、そのお祝いにこんなところまで来て涼んでいるとそんなわけです。

 授かったのはオレが従五位下権少納言(じゅごいのげごんしょうなごん)経俊(つねとし)姉様は同じく従五位下若狭守(じゅごいのげわかさのかみ)。これも清盛(きよもり)様のお力添えがあっての事。六波羅(ろくはら)に足を向けて寝られませんね。

 

 それでせっかく河原まで来たのですから泳ごうと思いまして経俊(つねとし)姉様と二人で水着を新調したんです。オレは白のワンピース、そして経俊(つねとし)姉様は黒の旧スク水。平安時代になんで水着があるのかなんて、もうここまで来るとどうだっていいですよね!

 そしてそれを親父と経正(つねまさ)兄上が鼻の下を伸ばしながら見ています。娘バカ・妹バカって言うよりもバカ娘・バカ妹ですね。オレや経俊(つねとし)姉様を見ている暇があったら、早く魚を串に刺して焼きやがれって言うんです。

 末っ子の敦盛(あつもり)はいつもの様に元気に川の中でばしゃばしゃやってます。そんなにばしゃばしゃやってると魚が逃げちゃうじゃないですか!

 ふう、親父と経正(つねまさ)兄上が魚に手間取っているのでお昼御飯はまだまだ先のようですね。

 

 

 

 えっと、そうそう前回の惚れ薬ですが効果はどうなったと思います?

 

 あはははー。そんなのまだまだけいぞくちゅうにきまっているじゃないですかー。

 だからこうして……。

 

「だから人前でそう言う事するのはやめろって言ってるじゃないか!」

 

 梶川くんの背中に乗っかって首に腕を絡めてあげるのです。胸が当たって気分がいいでしょ?

 

「嘘ばっかり。私みたいな幼い子に密着されて嬉しいくせに」

 

「あーあ、妬けちゃいますね」

 

 隣で座っている経俊(つねとし)姉様もこちらを見ながらにこにこしています。

 

 

 

 それでも一応は大分理性を保つ事ができるようになりました。最初の頃なんて梶川くんに一日中ベタベタくっついていましたからねー。まるで糊みたいに。

 梶川くんってばそんな状態のオレによく耐えたと思う。本当にさ。だってわざわざ襲い掛かってくるように仕向けてたもんなオレが。夜なんかずっと一緒の布団にいたんだよ。しかも横になってオレを包み込むようにして一緒に寝てくれるように頼むくらいの凄まじさ。

 今考えてもロリコンな梶川くんがよく耐えたなーって思うよ。

 

 大分、薬の効果にも慣れて理性なんかも保てるようになったけど根本的に治ってはいないから、想像の中で梶川くんと色々と……。

  

 あっと、また妄想に耽ってしまうところでした。この妄想がとても甘美なものでして、中々やめられないのです。梶川くんもオレが妄想に浸っている時の顔を見ると『ふやけたクラゲの様だ』って褒めてくれますし。……ええ、判ってますよ。褒めてないって事くらい! でも薬のせいでその時は何でもプラスに聞こえるから不思議なものです。

 

 

 

「おーい! 魚が焼けたぞー!」

 

「はーい! 判りましたー! 今行きますから待っててくださーい!」

 

 一声帰して梶川くんの背中から離れる。ずっと乗ってたから肩がちょっと痛い。

 

「さっ、姉様行きましょう」

 

「はいはい。梶川さんも行きましょう」

 

「美盛ちゃん。ほら」

 

 照れながら梶川くんがオレの手を繋ぐ。それを感じるとまた笑顔になるオレ。オレも大概単純だなー。

 

 もう一回親父がみんなを呼ぶ。それに呼応するオレ達……。来年も再来年もこんな風に出来たらいいなーとか思いながら梶川くんと手を繋いで歩くのだった。

 

 

 

 




とりあえず区切りの良いところで第一部終了です。
お読み頂き有難う御座いました!
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