第19話
「では姉様。私は少し
「判りました。私は先に帰りますので
◇
「これはようこそいらっしゃいました」
到着して玄関に来てみたらその場で
それでもうちの屋敷よりは大きくはないけどね。
ほほう、これが行盛様の屋敷かー。
そのままオレと梶川くんは客間に通される。座布団が用意されていたのでそこへ女の子座りで座ると侍女がお茶とお菓子を持ってきた。
あー、さっすがー! 喉が渇いてたんだよ。わざとぬるめにしてあるお茶を勢いに任せて飲む。ふー、うまい。
この三人だったら無作法もアリだよね。
「本当に最近は暇でさ。誰も来ないし……。まあ、君達以外に来られても誰が誰なのかよくわからないから困るだけなんだけどね」
今日の行盛様はよく喋る。よっぽど喋り相手がいないのかな。
「あまりに暇で米粉からパスタを作ってるんだ。まだ練習途上だけど今度食べてみてよ。ミートソースとか無いから純和風な面白い味しかできないけどわりと美味しいよ。僕が保障する」
そう言えば行盛様って僕っ子でしたね。やっぱり新鮮でいいなー。僕っ子。
「はい。今度頂きに来ますね。ところで行盛様」
「何?」
「私達はもうじき越後へ赴任する事になりますがここはひとつ行盛様も播磨国主なのですからあちらで
「播磨へですか。うーん。居付くとこの都もいいものですし、このお屋敷も処分しなきゃならなくなります。それはちょっともったいないです」
「別に処分しなくても参勤交代みたいに行ったり来たりすればいいじゃないですか?」
「そうですねー。ふむ、さてどうしようか……」
「私の方で重盛様の失脚イベントを身体を張って取りやめにしたり、一応は源平合戦のフラグはわりと沢山折ったのですけど、歴史って奴は修正力が働くらしいですから備えあれば憂い無しですよ」
「修正力? どこでそんな情報を得たのですか?」
「主にラノベとかアニメです!」
「う、うん。そう言う事もある……のかな? しかし言う事はもっともです。今すぐには答えは出ませんけど考えておきますね。あー、丁度いいです。播磨の石高はどのくらいなのか教えて頂けませんか?」
あー、このメガネっ子いいわー。こんな事でも信じてくれちゃうんだもんなー。
「梶川さん、どのくらいでしたっけ?」
えーっとなんて言いながら、がさがさと懐から帳面を取り出す梶川くん。大雑把なオレはそう言った細かい事は梶川君に任せているんです。エッヘン!
「そうだねー。十万七千石くらいかな」
虎の巻のページをめくって該当する箇所を見つけたのか笑顔で数字を言う梶川くん。いい笑顔です! もう、惚れ直しそう! よし、惚れた弱みで、ここは彼を立てる為に大げさに驚いてあげましょう!
演技じゃないよ。純粋に梶川くんを応援するためですよ! 男は自分の発言や何かで女の子が大きな反応をするとすっごく気分がいいものなんです。ソースはオレね。だから間違いないです。
「凄い!! 一割をお上に差し出しても年間十万石弱は懐にくるじゃないですか!? これは雇える兵隊だけでも二五〇〇はいきますよ! うちはまだまだ介ですからその十分の一以下。国の石高の差もありますけどねー」
「お、おう。そこまで驚く事だっけ? でも新潟って米どころだから多いものだと思ってたんだけどなー」
うんうん。やっぱり何か嬉しそうです。今後も色々と大げさに驚いてあげましょう。
「それは後々の話です。平安期はこんなもんでしょう」
「はあ……もうじき十一万石ですか。我ながら凄いところの領主様をやってるんですね……。ちょっと驚きましたよ。あー、なんか心臓がドキドキ言っています」
行盛様は右手で左胸を押さえながら心臓の音を聞いてるようです。貧乳だから音もすぐに反映されるんですね。判ります。
◇
「そう言えば美盛さん、以前言ってた件ですがうってつけの人材が居ますけどどうですか?」
「前に言っていた件って強い武将の話ですよね?」
「はいそうです! しかも今その人物は父親と共に都にいるんですよ。この前、縁があってご一緒したんですよ。話してみてもとても感じのよい人でしたし、是非にでも越後に連れて行ってはいかがですか? 」
「ふむふむ。それでその人の名前は何と言うのですか?」
「源平合戦をちょっとでもかじった事がある人なら誰でも知っている人物です。その名も畠山重忠さん」
凄いドヤ顔で教えてくれたんですけど……何て言いますか、二度目の人生なんですがあんまり詳しくないんですけどその人? まさか、実は知らないと恥ずかしいくらいの大人物なんでしょうか。
「ああ、やっぱり詳しくないみたいですね。仕方ありませんねー。美盛さんの好きな水滸伝で言うと
「おおお! なんですって! それは凄い!」
「是非越後赴任までには配下にしておく事をお勧めします。って言うか、配下にして下さい。でないと今は平家方ですけどすぐにでも関東の御家人になっちゃいますよ」
えっ、そうだったのか。前世では知らなかったな 近いうちにでも伺ってみましょう
「あ、あの話は変わりますけどいいですか?」
「なんですか行盛様?」
「あの、その、夜の話について少しご相談が……。」
この人、こればっかりだなー。
でもオレも興味が無いわけじゃあない。喜んで聞きましょうとも……。
◇
行盛様の屋敷で畠山さんの事を聞いて一週間ほどが経過しました。取り敢えず、登用するための準備は整える事が出来たのでこれから畠山さんが居る在京屋敷へと向かっています。
最後の裁可が下りたのがつい先程だったので仕方ありませんけどアポ無し訪問になります。畠山親子は今日非番のはずですから居ると思うんですけどねー。
しかし、この辺りは都の中とは言え寂しいものです。人はまばらですし、小路の土壁もしっくいが剥がれ落ちてるところが何箇所も見受けられます。物盗りやスリなんかがこう言ったところに住んでいそう。
だから、華やかな黒塗りな牛車なんかがこの辺りを通ってると、こちらを周りに皆さんが見てるんです。
ああ、乞食やなんかが物欲しそうな目でこっちを見てますね。こんな事なら食べ物でも持ってくるんでした。
◇
はあ、やっと辿り着いたよ。うちの屋敷からはだいぶ遠いね。
「ようやく辿り着いたけど、何とも
「ホントに。塀垣に纏わり付いてる蔓系の植物とか、壁にまで色を付けてる黒々とした苔のバランスが絶妙ですね」
外から梶川くんが。牛車の中からオレが屋敷を同時に見る。意見は同じ様なもんだね。
とりあえず牛車からは降りましょうか。
牛車から降りてる間、梶川くんが屋敷へと訪問の意を伝えに行く。アポ無しだけど本当に大丈夫でしょうか。
外に出て牛車の横に立ちながら梶川くんの帰りを待っている。牛車を背景にしてお着物を着た美少女がモノも言わずに立っているとなんか絵になるんじゃないかかな? 我ながら風に長い黒髪が揺れるとそんな事を想像してしまう。
やっぱオレって可愛いから仕方ないねー。うひひ。
自画自賛するとなんかニヤニヤしてしまう。
お、戻ってきました。どれどれ首尾を聞いてみましょう。
「どうでした? 居ましたか?」
「ああ、伝えたらしばらく待ってくれってさ。大慌てだったよ」
「そりゃあ、平家のお姫様が突然訪問したら慌てるでしょう。悪い事をしましたね」
「自分でお姫様とか言っちゃう辺り、美盛ちゃんって凄いよな」
「えっ! もしかしたら私、褒められた!? 嬉しいな♪」
「……俺さ、これから勉強を頑張るからさ。医者になって絶対に美盛ちゃんの耳を治してあげるよ!」
うーん。バカにされてる様な気がするんですけど。
「……アメリカンジョークですか?」
「アメリカンジョークではないね。ただのユーモアだよ」
◇
やっとこさ案内の人がやってきました。これで中に入れます。玄関の前で待っているのは居たたまれない。門の内側なので周りの庶民からは見えないからいいですけど、平家の姫公達が待ちぼうけはちょっとカッコが悪すぎる。アポ無しだから仕方が無いんですけどね。
案内の途中で聞いてみたら、畠山さんちには畠山さん親子と関東から付いてきた郎党が三人。それに飯炊きのばあさんが一人の合計六人が住んでるんだって。在京赴任で六人って……。
言っちゃ悪いから言わずに思うだけですど、よっぽど貧乏なんでしょうね。
「これはこれは、この様なあばら屋にようこそおいで下さいました。平家の方に来て頂けるとは我が家の誉れで御座います。かく言うは武蔵の住人
「格別なる挨拶痛み入ります。私は
客間に通されるとすぐに上座に座る様に言われたけど堅く固辞して、お部屋の陽の当たる場所へ座る。そこへ座ると梶川くんもオレの後ろに腰を下ろした。そのあとすぐに挨拶を交わしあうのだけど、もう一人。オレの正面に座って気弱そうにこちらを伺っている女の子が居る。
年の頃は十五歳くらいだと思う。背の高さは梶川くんよりも少し低いくらいだから165cmはあるでしょうか。ふむふむ、この子もミニ浴衣ですね。強い女子はみんなミニ浴衣なんでしょうか?
ってか、もしかしたらこの子が例の……。
「そちらの御仁は?」
「ああ、申し遅れました。これなるは我が
「あ、えーと、お、お初に御目文字致します。私は
あちらが親父さんでこっちの娘さんが行盛様が言ってた人ですね。しかし、まあ全然強そうに見えませんね。まごまごしてる華奢な娘さんにしか見えませんよ。
「そう言ったわけで、
「これはしたり。平家の
うっ、そう言われると次が言い出せないじゃないか!? 向こうも意図は大体気づいているでしょうから防御してきたなー。
たぶんこう思っているに違いないです。『我らを越後へ
でもね、端金じゃなかったとしたら? 流石に一週間掛けて準備くらいはしたさー。
十一歳をなめるなよ。三回の人生を合わせると六十歳に届きそうな年齢なんだぞ。
「いえいえ、それは
「はっ」
梶川くんがオレの後ろから膝を三つ分前に出ると
重能殿はいぶかしげにそれを開いて読み始める。読み進めて行くにつれて表情が驚きに変わっていく。
「少納言様! これは……! これに書いてある事はまことに御座いますか!?」
「はい。まごう事無き本当の事ですよ」
「それがしにこれだけの石高を約束頂けるのならば否も応もありませぬ。なんなりとお申し付け頂きたい」
「ありがとうございます。そのお言葉を待っておりました。先程の話の続きになりますが越後への赴任につきまして、私の与力となって同道してもらいたいのです。いかが?」
「ははっ、謹んでお受け致します。これ次郎。そちも頭を下げぬか」
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ。今度は次郎殿にこれをお渡しします」
「ありがとうございます。えーっと、この薬袋は何で御座いますか?」
「まずは目録をご覧になって下さい。梶川。次郎殿に目録を」
「畏まりました」
目録を読み始めた重忠殿は目録の書いてある紙を両手で広げるように掴んだ状態でぶるぶると震えだした。オレから伺うと目は泳ぎ、口は半開きの状態に見えます。まさかと思いますけど、性的に達したのではないでしょうね。
様子がおかしい事に気づいた
「次郎! 次郎! よかったの。ほんによかったの!」
「父上。私は……。次郎は感激に御座います」
要するに女芯丹をプレゼントしたのです。これは値が張りますからねー。百石や二百石の地方の小さな在地豪族では手が出ないでしょう。
「神事等もこちらで行いますので吉日を選んで頂ければすぐにでも準備しますよ」
「我らには高過ぎて手のでないこの様な薬を娘に! なんとお礼を言ってよいのやら言葉にも出来ませぬ!」
「少納言様! わ、私頑張ります。きっとお役に立って見せますからよろしくお願いします!」
イッちゃった後みたいな顔をしながら重忠殿が私の手を強く握ってくる。こんなに喜んでもらえるとなんか嬉しくなるねー。
でもね、まだ終わりじゃないんだよ?
「梶川。いまひとつの目録を
「はっ」
「待って頂きたい。もうすでに我ら一生分にも及ぶご配慮を頂いておりまする。これ以上は平に、平にご容赦を……」
流石におっかなくなるよね。これだけ厚遇されると逆に恐縮してしまうかな。
でもダメ。これは
「まずは目録を読んでからにして下さい」
三枚目の目録を開き書いてある文字を読み進めると目を見開いてオレの方を見る。
「なんと! 我らに官位を授けるというのですか!?」
「か、官位……!! あうあう」
隣に居た重忠殿は官位の事を聞くと、先程よりも大きく震えてそのまま倒れそうになるが慌てて
さっきから生きていて良かったとか、もう年を取らなくていいんだとかうわ言をブツブツと言っている。
このままだと、アへ顔ダブルピースまでやりそうな勢いです。
「こほん。それでは私が代理で授けます。
「ははっ、謹んでお受けいたします」
「
「はい! が、頑張ります!」
帰り際。玄関の外どころか門の外にまでお見送りに二人は着いてきた。まあ、アレだけ進呈すればこうなるよねー。
「よかった。これで私も安心致しました。本当は身一つで越後まで行かなければならないのかと心中穏やかではなかったのです」
これは本当にそう思う。梶川くんと五、六人の郎党に侍女では道中が危険ですから。いや、到着後もまだよく判らないからね。本当にたすかってますよ。畠山さん。
「これからは我ら親子にお任せください。越後だろうが唐天竺だろうがお供仕ります!」
「何でもお申し付けください。私の武で少納言様をきっとお守り致します」
「それではまた近いうちに」
梶川くんといつもの様にどうでもいい事をおしゃべりしながらの帰り道、もうじき都ともお別れだなんて思うとなんとなく寂しく思えてくる。秋にはここら辺ともお別れかー。
寂しいけど、一応人材登用は無事終わりましたし。これからの事を考えると上々の首尾だったんじゃないかな。
平姓畠山氏が貧乏なのはうちの設定だけです。本当はそれなりに大きな一族だと思います。