第20話
今日は昼間から送別の宴がうちの屋敷で行われています。
当初七月には配置が終わるはずだった北陸平家軍の赴任ですが、遅れに遅れて八月も半ばを過ぎた頃ようやく移動が始まったのです。
もうすでに
それでもオレのためにこれだけの人間が集まってくれるのはなんとも嬉しい。
上座で
そうなのだ。オレは今、うちで一番広い大広間の中、大勢居る一門親戚を正面にして一段高い上座に清盛様と一緒に居るとこう言う状態なのです。
だ、だから、わりと緊張してカチンコチンなんです。オレの為にやってくれているから嬉しくはあるんだけど早く終わってくれないかな……。
「……じゃからして、今回わしら平家の為に遠く越後まで出発してくれる
横に居る清盛様がオレへ視線を移すと優しくお礼を言ってくれた。
うわっ、こう言うの弱いんだよね。涙が出そうになる……。って言うか、一門の皆さんはここでオレが涙でぐしゃぐしゃになるのを期待してるんでしょ? その手に乗ってやるもんですか!
「はっ、入道様や一門お歴々の方々に迷惑にならぬよう越後にても……、越後にても勤めてまいります」
越後って言った瞬間に不覚にもうるっときてしまった。都での暮らしを色々思い出してしまうから。あーあ、いつもの居酒屋の主人や小路の人達にも挨拶しておきたかったなー。
「うむ。ほかの北陸諸国へも皆がすでに出発しておる。それもこれも関東を押さえる為。涙を飲んでの采配なのじゃ。そして少納言は
「乾杯」
「乾杯」
「我らのますますの発展を祈って!」
「乾杯じゃー」
皆さん思い思いの言葉でオレに向かって盃を掲げてくれる。くそっ、またうるっときたじゃないか! 明日には出発だから都も今日明日でしばらくは見納めだから心に来るものがある。
こんなにもオレに期待してくれているのは本当に嬉しい。でもね、じつはすっごく心細いんですよ……。
心は男のまま……だと思うけど、男の頃はどうでもよかった事がこの身にはとてもつらかったり、寂しくなる事が多いんですよね。
それにここ最近は更に涙もろくなってる気がする。薬のせいなのかなー。
◇
今回の宴の主役はオレなので
だって、みんなが次から次ぎへとオレんところへ来て、『頑張れ!』だの『少納言なら出来る!』等と言いに来ては酒を注がれるので動けないんですよ。
しかもこんなに注がれたら酔っ払うってば!
あんまり注がれるから、会社の同僚の結婚式で、新郎に注ぎに行くとグラスのビールを下に置いてあるバケツに捨てるのを思い出してしまう。
あーあ、酔っ払うー。なんて思ってたら親父がこちらへ歩いてくるのが見えた。
「もう
親父が上座までやってきて激励なのか憐憫なのか、ただ女っ気が無くなるのが嫌なのか判らないけどそんな事を言う。少しやつれた感もあるその顔はひどく心配そう。まあ、娘を思っての事なんでしょう。
「そんなお気を落とさずに。私はただ入道様の言うとおり越後へ行って統治に励むだけですから。永の別れになるわけでもありませんよ」
「判っておる。だが、姉上はそれだけお前の事を買っている証拠ぞ。心して働かなくてはのう」
「はい父上。存分に働いて参ります」
親父を安心させるように会話の最後はにっこりと笑ってあげた。本当はこっちの心底もいっぱいいっぱいなんだけど、どう考えても親父の方が心が折れそうに見えたからね。
それに合わせる様に親父もぎこちなく笑う。
まあ、オレと親父は親子だもんね。そのくらいでもお互い、十分に心の栄養になるってもんです。
◇
夜。
宴が終わり自分の部屋の布団で休んでいると、さっきまでの喧騒が嘘の様にとても静かですごく不安になる。
越後へ行っても大丈夫だろうか。そもそもオレに一国を仕切るだけの器量があるんだろうか? 元々の人生なんて使われてるだけのただの作業員だったんですよ。
くそ! ダメだ不安で仕方が無い。
あまりの不安に心が押しつぶされそうになる。ひとりは寂しい……。
そんな事を考えていたら、いつの間にか梶川くんの部屋の前に来ていました。
「梶川さん起きてる? 入ってもいい?」
「? 美盛ちゃん? いいよ。入ってきな」
「失礼します」
中へ入ると部屋は真っ暗です。当然かー。寝ていたんだからね
「どうしたの?」
そんな風に質問されても困るんだけど……。不安で眠れないからとか言えないしねー。恥ずかしいから……。
「えーっと」
「?」
「えーっとですねー。寒いから……。そうです、寒いから一緒に寝て下さい!」
そんな事をがむしゃらに言い放つとそのまま梶川くんの布団へ潜り込んだ。うーんあったかい。酔ってるからいいよね
こんなんでも。いやー、いいねー。不安が無くなっていくわー。
「わわわ、またかよー!」
「えー、またとか言うと傷つきますよー」
でも、薬の効果が最大でハアハアしてた頃のオレならそんな事気にもせずにおねだりとかしてたからねー。だいぶ融合してほぼ元の人格になっているんですが、それでもやっぱりオレをなんで犯ってしまわなかったのかがわかんない。
当時は毎晩の様にわざわざ梶川くんに小さな体を密着させるように包み込ませて寝ていたというのに。本当に不能なんでしょうか? あ、それとも二次元にしか興味がないのでは!? うーむ。
「あのー。梶川さん?」
布団の中でもぞもぞと動いて、以前と同じく背中に梶川くんを感じられる様に包み込まれる体勢になると前々からの疑問を尋ねてみたくなる。いや、尋ねてみよう。
「なんだい?」
「聞きづらいんですけど、もしかしたら不能だったり、二次元にしか興味が無かったりするんですか?」
「ぶっ。何言ってるんだよ! そんな事あるか!? えーっと、ちゃんと毎日自家発電だってしてるし、二次元には興味なんて……無い事もないけど。それでも至って普通の男だよ!」
ですよねー。だからなんでこんなに密着させてるのにムラムラって来ないんでしょうか? 子供過ぎてダメ? いやいや生粋のロリコンの梶川くんにかぎってそれはないです。むしろこっちの方が得点高いでしょうに。
「じゃあ、なんでこんに密着してるのに……。まあ、いいです。って言うか私には手を出さないくせに自家発電はしていやがりますよね。男なんですし。ネタとかどうしてるんですかー?」
もう、トウヘンボク過ぎる梶川くんが困ってるのを背中に感じるとニヤニヤしてしまいます。だから意地悪な質問をしてあげるのです。
「そりゃあ……」
「そりゃあ?」
どんな娘を想像の中で犯していやがるんですか? このすけべは!
「そりゃあ美盛ちゃんに決まってるじゃん。」
「えっ!?」
「ああ、そうさ毎日頭の中でたっぷり弄ってあげてるよ。頭のてっ辺からつま先まで俺色に染まってないところなんて無いくらいに滅茶苦茶にしてるよ。」
「あ、あのですね。そんな風に言われるとなんと返していいやら……」
「フフン。そうだなー。最近じゃ、手足を優しく縛って身動き取れない美盛ちゃんの泣きそうな顔を見ながら出し入れするのを想像して自家発電をするのが夜の楽しみだよ」
聞いてるオレは、もう顔が真っ赤になって体中が火照っているのが判る。その想像はちょっと想定の外だわー。
でも興味が無いわけじゃないけど、最初からそれは困る。前世の最期を思い出すから……。最初は、最初だけはまともにお願いします。その後はそれでもいいからさ。お願い!
「でも、今はまだ想像で我慢するよ。そのうち時期が来たら絶対奪ってあげるからさ」
そう言うとオレを強く抱きしめてくれる。判ったよ。そのうちきっとですよ!
「判りました。今は多くは言いませんけど早くしないと心置きなく中で出せなくなりますよ」
「な、何を言って……」
「だって初潮とか来たら気軽に中に出せなくなるでしょ?」
「ば、バカ!? 早く寝てしまえ!」
「あはは。寝ますよ。寝ますー! 寝ればいいんでしょー」
さっきだいぶ恥ずかしい事言ってくれたから、今度はこっちが言ってやったよ! これでお会い子だね!
「じゃあ、明日は出発です。おやすみなさい」
「おやすみ。美盛ちゃん」
寝静まってからしばらくしてお尻の辺りに硬いのがあるのが判る。
けけけ。一緒だと自家発電出来んでしょ。ざまーみろです。
梶川くんが自分で決めた事とは言え、生殺しだもんなー。ご愁傷様です。けっけっけっ。